015
***
高くそびえ立つビルを見上げて、私は大きく深呼吸をした。
ここの35階に、すずの父親である“柴原圭佑シバハラケイスケ”さんの会社があるらしい。
若くして会社を立ち上げ数年で上場企業にまで登りつめた成功者で、そのお陰かインターネット上でたくさんの情報を得ることができた。
こいつが姉の夫でありすずの父親。
いざ、乗り込まん。
私は拳を強く握って、臨戦態勢のままエレベーターに乗り込んだ。
綺麗なフロアには緩やかなBGMがかかり、ほのかにいい香りも漂っている。
受付と書かれたブースには、これまた絵に描いたような美人の女性が優雅に座っていた。
「すみませんが、柴原圭佑さんにお会いしたいです。橋本と申します。」
「お約束の方でしょうか?」
「あー、約束はありません。」
「少々お待ち下さい。」
受付嬢はどこかに電話をかけ確認しているようだったが、すぐにこちらに向け頭を下げる。
「申し訳ございません。本日柴原は留守にしておりまして…。」
あー、浅はかだった。
そりゃそうだ、いっぱしの社長に会おうというのに突然何の約束もない得たいの知れない人物が訪ねてきたら普通は断る。
受付嬢の対応は正しい。
だけど今の私は、はいそうですかと引き下がるほど余裕はないのだ。
「どうしても今日お会いしたいのですが何とかなりませんか。」
「申し訳ございません。」
丁寧に頭を下げる受付嬢に、私は食らいつく。
「あの、柴原有紗と柴原すずの件でお話がしたいと伝えてくれませんか?さっき電話していたたところに!」
「お客様、困ります。」
「いいから電話してください!」
カウンターに半分以上身を乗り出して必死の形相で訴える私に受付嬢は恐れをなしたのか、涙目になりながら電話を繋いだ。
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