序章② 処刑

頭が割れるように痛む。


『バンパイアの始祖ブラム レベル98を斃した』

『バンパイア・ロード、カミラ レベル88を斃した』

『バンパイア・ナイト、スペル レベル65を斃した』


『インフォーム』の声は途切れることなく続いている。

魔王城ごと消し去っているので、魔王城に詰めていた魔物も魔族も一気に消し去ってしまったらしい。もう何をどれくらい斃したのか、さっぱりわからない。


転移したクロゥインは、顔を顰めて前を向く。

転移先は国王の謁見の間だった。


きらびやかな玉座に太った男が、小さい王冠を被ってふんぞり返っている。豚だ。

間違えた、国王だ。

でも、やっぱり豚だと思う。


「な、クロゥイン?! 王国の精鋭騎士100人を魔王の元に置き去りにして自分だけおめおめと帰ってきたのかっ、この恥知らずめ!」


豚が何かを喚いているがインフォームの魔法が継続中であるので、イマイチ聞き取れない。そもそも豚語など理解できない。


謁見の間は先ほど転移させられた場所だ。

すでに『空間魔法士』たちはいないが、見送った貴族や国王の側近はまだ残っていた。


「勝手に戻ってきたなど、処罰されても文句は言えんぞ?」


国王の横に控えていた大臣が重々しく口を開けば、控えていた側近どもが大きく首肯する。


「さっさと戻って魔王討伐を再開しろ」

「冒険者ふぜいが身のほど知らずにも大きな顔をするからそのような目にあうのだ。できないならばできないと最初から言えば許してやらないこともなかったが、もう遅い」

「その通りだ。早く戻って騎士どもの手助けをしてこんか」


好き勝手な言葉を並べる彼らだが、クロゥインの耳にはほとんど雑音としてしか聞こえない。


『デスクロウ1547匹、ゾンビソルジャー5689匹、ネクロマンサー256人、ダウンシープ3640匹倒した』


『インフォーム』が読み上げる数字にうんざりする。あの魔王城にどれだけのモンスターを詰め込んでいたんだ。しかもネクロマンサーって一部、人間も交ざってないか?


「あーもう、うるさい」

「何?!」


思わずあげた一言に場の空気が変わる。気色ばんだ国王が玉座から腰を浮かすほどに青筋を立てているが知るものか。


「『インタイア』『シャット・アップ』『フリーズ』」


全体に沈黙と静止の魔法をかける。『インフォーム』に重ねがけできれば、自分の頭の中も静かになるだろうが、そんなわけにもいかない。

ついでに謁見の間に防音魔法も施す。これで中の声が外に漏れることはない。


ああ、頭が痛いな。


まとまらない思考で、国王を見上げる。


口を開けたまま固まっている。静止させれば、静かになるので沈黙の魔法はいらなかったと気づく。やはり、混乱しているようだ。

ますます頭は痛くなるばかりで、思わず呻き声を洩らす。

急激な経験値の獲得によるレベル酔いだ。

1レベルほどの上昇であれば軽い頭痛や体がだるく思うくらいで済むものだが、あまりの膨大な数に強化された肉体にも多大な負荷がかかっているのだろう。

けれど、ここで気を失うわけにもいかない。


「『コール』テッド・タンクの剣」


召喚魔法を使うと、カランと空間から剣が現れた。彼が身に着けていた剣は消し去ってしまったからこの剣は彼の家にあった予備のものだろうか。

手に取ると、古くそれほど質も良くない。量産品でも格安の部類だろう。彼が、日々の訓練で使っている剣だと思い至った。


誰かが、訓練にしてもひどい剣だとぼやいていたのを覚えている。

国王が経費をケチって支給される装備品はほぼガラクタ並だ。


クロゥインは転移魔法で国王の目の前、数段高くなった玉座の前に立つと無言のまま剣を構え、玉座に座ったままの国王の立派な体躯にためらいなく突き刺した。


静止と沈黙の魔法のおかげで、怒鳴ったままの苦々しげな表情の国王は、ぼってりした腹で静かに剣を受け止める。


ズブリと肉に剣が沈む。骨にも当たったがさほどの抵抗もなく貫通した。そのまま椅子に縫い止める。


切れ味は悪いのだろうが、武闘家の職業があり体力を上げているので力は成人男性の何十倍も強い。力を軽くこめるだけで、果物を切るように簡単に切れた。


魔法の解除を唱えた途端、絶叫がこだました。国王だけ、かけた魔法を解いたのだ。


「があああああっ、痛いいいぃ」

「『コール』オーエン・ハイムの剣」


また空間から現れた剣を床に落ちる前に受け取る。

そのまま、テッドの剣の横に刺した。腹から二本の剣が突き出た醜悪な魔物のようだ。


さらに、絶叫が大きくなる。壮絶な声に、存外人間の声量も馬鹿にできないものだと変なところで感心してしまった。


「貴様あ…ああ、こん、なことが、許されるか…」

「大きな身体で助かった。なんせ、百本あるからな。刺せなかったら、アイツらに申し訳ないだろう。ああ、死なないように途中で回復魔法をかけてやるから安心してくれ」


最後には死んでも許してやるが、途中退場されるのは困る。

自身の頭痛をこらえながら、なんとか笑ってやる。


はぁ、一思いに殺すほうが楽だなんて、どうでもいいことを知ってしまった。

彼らの無念がこれで晴れるとも思えないが、少しでも慰めになればいいと願う。


何本まで刺せると思う?


賭け好きなアイツらが騒ぎそうな話題を心の中に呟いて、再度、召喚魔法を唱えるのだった。

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