私が私でいるために必要な5つの価値のある旅

阿賀沢 隼尾

第1話 1つ目の価値 『魅惑的な眼球』

『自分探し』をする旅に私は出た。


 ひたすらに世界の根源――――中心へとひたすらに歩き続ける旅を。


「ほわあ。疲れる」

 もう、村を出てどのくらい経つだろう。


 強化保護外骨格パワードスーツを着て、リュックの中に固形保存食、液状保存食、水分を入れて地の底を目指す。


 淡い金色のキノコが岩石の所々に散在して生えている。

 鍾乳洞のように突起や陥没が激しい。

 心無しか肌寒い気もする。


 誰にも、何も言わずに出てきた。

 きっと、楽しい旅ではないだろう。

 けれど、この旅の先にあるものを私は見てみたい。


 取り敢えず、下へ下へ。

 放浪の旅だ。


 行くあてのない、途方のない旅へ。


「でも、お腹すいたなぁ」

 もう6時間くらいなにも

 そろそろ村を出て6時間くらいに何も食べていない気がする。こんなので私大丈夫?


 洞窟の中にいるが、光キノコが発光しておるおかげでそんなに暗くない。

 寧ろ、少し眩しいくらいだ。


 右側は絶壁になっていて、何処からか滝の流れる音がする。

 とりあえず、そっちの方に行ってみるかなぁ。


 光キノコを頼りに。

 いくつかの雑草も葉の先が蛍光のようにぼぅっと、発光している。


 空気は澄んでいてとても美味しい。

 傾斜自体は緩いし、強化保護外骨格パワードスーツを着ているからそんなにきつくは無いけれど……。


 ここら辺はそんなに凶暴な生物も生息していない感じだし。

 しばらく進むと、滝が見えてきた。


 ————拓けた場所に出たようだ。

 滝の流れる轟音と透き通った水が美麗な波紋を描いている。

 豊かな緑と光、水に満たされた世界。


 神話かお伽噺の世界にいるような気持ちになる。

「ほわあ、綺麗。……て、あれ?」


 滝のすぐ側に小さな家が建っていた。

 そのすぐ側でからるからると水車が回っている。


 家から簡易な梯子が架けられていて、登ることが出来るようだ。

 もしかしたら、そこで食事が出来るかもしれない。


 梯子を登って、家の玄関をノックする。

「はぁい」


 家主が直ぐに出て来てくれた。


「なに? あんた誰?」

 中からは綺麗な女の人が出て来た。

 背中まで垂れた墨色の髪に美人系の顔の女の人。


 結構背が高くて、細身の女性。

 身に纏う黒い色のワンピースは彼女の細身である体を最大限美しさを引き立たせている。

 まるで、モデルみたい。


「あ、あの。私、ルシアって言います。実は旅をしてて。それで、朝から何も食べていなくて。何か食べさせてくれませんか」

「ふぅん」


 美人な女の人は訝しげに私の体をジロジロ見て、

「ん。入りな」

「あ、ありがとうございます」


 中に入ると、ありとあらゆる『目』が————『眼球』が私の体を視姦した。


 ミトミトミトミトミトミト。


 瓶に詰められた眼の数々。

 天井にもありとあらゆる『眼』が瓶に詰めて展示されていて、中には発光する眼もあった。


「凄いだろ。その眼」

 女の人はケタケタ笑いながら話しかけてきた。

「それな、ツキミヨガっていうガの眼球なんだけれどよ、勝手に光るんだぜ。かなりのレア物でなぁ。他では中々手に入らないぜ」


「あ、あの。これって……」


「良いもんだろ。これ全部、私が集めた眼球なんだ。なぁ、お嬢ちゃん。あんたのその綺麗な蒼色の瞳くれよ。それで今夜止めさせてやるぜ」

「え、で、でも、眼が見えないと私……」

「ああ。旅をしてるんだっけ。大丈夫大丈夫。眼をくれる代わりっちゃ何だが、これをやるからよ」


 そう言って、美人なお姉さんが渡してきたのはごついゴーグルだった。

「それな、『超音波式赤外線センサー設置ゴーグル』って言ってな。昔、私のとこに来た冒険家が置いてったものだ。あんたが背負ってるそれ、第五世代強化保護外骨格パワードスーツだろ」


「あ、は、はい」


「なら、大丈夫だ。第五世代の機能は身体疲労軽減、肉体強化、保護具取り付け等々、多機能に渡っている。こいつを付ければ眼の代わりの役割はしてくれるだろ。こいつは周囲に音波を発生させて、周囲の物を視覚化させる道具なんだ。ほらさ」


 彼女は超音波式赤外線センサー設置ゴーグルを私に無理矢理押し付けてきた。


「なんで、なんで私の眼なんですか?」

「んあ? そんなの、あんたの眼球が綺麗だからに決まってんだろ。あんた、知らないわけじゃ無いだろう。このユグドラスの世界じゃ、『等価交換』が基本だろうよ」


「はい。知ってます。私の住んでいた村もそうでしたから。お互いの『価値』を擦り合わせて交渉していく。それがこの世界のルール」


「その通り。アンタはガキだが、子供だからって油断しない事だね。私にとっての『価値』は見ての通り『眼』だ。それ以外はあたしゃ何も要らないよ」


「つまり、『眼』があなたにとっての最高の『価値』なんですね」


「ああ。そういうこった。お嬢ちゃん。あんたは可愛い。体だけなら、全て一級品さ。この世界では『価値』=『武器』だからねぇ。まぁ、動物相手にこれは効かないけれど。あんたみたいな綺麗な目を見るのは私は初めてさ」

 彼女は、恍惚とした表情をで口を歪ませる。

 夢見る少女のような表情。


「ああ。欲しい。私はあんたみたいな美少女の瞳を探してたんだ。まぁ、美少女なだけじゃいけないんだけれどねえ。綺麗な眼をしていないと。ルシアって言ったっけねぇ。あんた、それに相応しいよ。私のコレクションに収めるのに相応しい最高級の瞳の持ち主だよ。何でも言いな。私に出来ることならなんでもするさね」


 このままでは私はいずれ尽きてしまう。

 私の旅をここで終わらせるわけにはいかない。


「分かりました。それではありったけの食料と水を用意して欲しいです」

「ほいさ。これ程綺麗な目をした女の子は今まで見たことがないからさね。何か旅に役に立つものがあれば言うよ」

「あ、ありがとうございます」

「それじゃ、夕食の準備をするから少し待っているんだね」

「なにか手伝えることを……」

「いいさいいさ。アンタはお客様だ。座ってな」


 仕方が無いので、椅子に座ってボケェーっとして待つことにした。

 見渡す限りの眼、眼、眼。


「良いもんだろ」

 お姉さんが台所から話しかけてきた。

「こう、『見られている』って感じがさ。ゾクゾクしないかい。視姦されている感じがさ。中にはさ、魔眼もあるんだ。透視能力の魔眼、千里眼、石化の魔眼、蘇生の魔眼、転移の魔眼。数え上げたらキリがないさ」


「本当に、あるんですか? 魔眼って」


「あるさ。まぁ、神経を繋げないと能力を発揮させることは出来ないんだけれどね。そのための道具もあるのさ。ほら、玄関の近くにデカい円柱の入れ物があるだろ」


 言われたところを見ると、確かに円柱の置物があった。

 爬虫類の鱗のようなものに覆われている。


「下の方にボタンがあるだろう。青いやつ。それを押してみな」


 確かに、青いボタンがあった。

 ボタンを押すと、中央が凹んで中が露わな姿を見せた。


 丁度、一つの眼球の大きさくらいの空洞。

 そこに、無数の青い管が、筋が張り巡らされていた。

 よく見ると、鱗の一枚一枚の隙間の間に同じ物が何重にも通っていることが確認できた。


「凄いだろ。それはな、魔眼の遺物の力を引き出すためだけの装置なんだ。一度だけ、使ったことがある」

「ど、どうだったんですか?」

「そいつはな、使用者の生命力を削る代わりに、魔眼の真の力を引き出すんだ。恐ろしいものさ。触るんじゃないよ」

「はーい」


 そんなこんなして話していると、ご飯が出て来た。

「お、美味しそうですね」


 何かの肉(恐らく、鳥類)のハーブ乗せに、パン、白身の魚。


 魚や肉の芳香さが鼻を刺激し、口の中に唾液が分泌する。


 木製のスプーンを摘み上げる。

 ———一口、魚を口の中に入れる。

 重厚な油が口の中で広がり、糸のように肉が解けていく。


「お、美味しいです! こ、こんなに美味しいものを食べるの初めてです!」

「ああ。そうかい。そりゃ、何よりだね」


 まぁ、周りに眼球が無かったら最高だったのだけれど。

 視線を感じてどうも落ち着く事が出来ない。


 皿を抱え込んで食べた。

 食べる度に肉の油が口の中で弾ける。

「っ〜〜〜〜」

「そんなに美味しそうに食べてくれるのは嬉しいねぇ。それ食ったら、さっさと寝るんだね」


 お陰で腹一杯食べさせてもらって、隣の部屋のベッドを貸してもらった。

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