猫な彼女と卒業アルバム

@山氏

猫な彼女と卒業アルバム

「啓人、これ見てもいい?」

 咲弥は、俺が中学の時の卒業アルバムを持ってきた。

「いいけど、あんまり面白くないよ?」

「別にいい」

 楽しそうにベッドに腰かける咲弥の横に俺は腰かけた。

 咲弥がアルバムを捲っていく。

「あ、啓人いた」

 当時のクラスメートが一人一人映っている写真の中から、咲弥は俺の顔写真を指さして笑った。

「可愛い」

 あまり顔は変わっていないと思うのだが、可愛いと言われると気恥ずかしい。

 咲弥は写真と俺の顔を交互に見て、また笑う。

「なんか恥ずかしいんだけど……」

「いいじゃん」

 意地悪く咲弥が笑ってページをめくる。修学旅行や体育祭の時の写真が出てきた。

「懐かしいな」

「あんまり啓人写ってない」

「俺はあんまり目立ってなかったからね」

「ふーん」

 興味なさそうに咲弥はページをめくっていく。そして、文集のページに辿り着いた。

 この時何を書いたかあまり覚えていない。見られて恥ずかしいことを書いていないだろうか、少し心配になってきた。

「あ、啓人いた」

 俺のページに入ったようだ。何を書いたのか俺も気になって卒業アルバムを覗き込む。

 書いてあったのは、友達のことと、その時の彼女のことだった。恥ずかしいと言えば恥ずかしいのだが、見られても大丈夫なレベルのものだったことに、俺はほっと胸を撫でおろす。

 咲弥はパタンとアルバムを閉じると、俺の方を睨んだ。

「……彼女いたの?」

「え、うん」

「なんで別れたの?」

「進路が違ったし、家も遠くなっちゃうからって……咲弥、怒ってる?」

「怒ってない」

 別に話す必要もないと、昔彼女がいたことは咲弥に言っていなかったが、何やら怒らせてしまったようだ。

「……私は」

 少しの沈黙のあと、咲弥が口を開く。

「私はずっと啓人といるよ」

 咲弥はそう言って、優しく俺を抱きしめた。俺も咲弥を抱きしめ、頭を撫でる。

「ん。ありがと、咲弥」

「だから、啓人もずっと一緒にいてね」

「うん」

 俺は咲弥を抱きしめる力を少し強めた。


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