第483話 パレード
帝宮前での戴冠式が終わり、次はパレードだ。
大通りの両脇の建物に水平に取り付けられた
予定では南門をいったん出たあと、Uターンして帝宮まで同じ道を戻ることになっている。アリシア殿下の乗った馬車は
俺とアスカはリリアナ殿下と三人で同じ馬車に乗り、アリシア陛下の乗った馬車のすぐ後ろを進んでいる。俺とアスカは、殿下には悪いが、進行方向向きに座っている。殿下は後ろ向きだ。少し寒いが外の状況を目で確認できるよう窓は開けている。
ここからでは前を行く馬車の様子は見えないが、窓は開け放して沿道の群衆に手で振っているのだろう。
今のところ、ミニマップ上では、危険が迫ってはいないようなので、安心して馬車に乗っていられる。
「新皇帝の人気は、すごいものですね」
「クーデター政権のおかげで、帝都民の生活はかなり苦しくなっていたようですから、それを駆逐して帝都を解放した新皇帝は大人気でしょう。聞いたところでは、アデレート王国から贈った例のお酒が大評判だったそうで、アデレートからの酒類の輸入を増やそうという話も出ているそうです」
相変わらずアスカは詳しいな。アデレートからみても、輸出が増えることは結構なことなのだろうが、砂漠を越えての輸送では相当高額のお酒になりそうだ。
ということで、いずれここでも、鉄道機運が高まるだろうな。
とにかく資源としての鉄と石炭がこの世界では極端に乏しいため、レールなどの鋼製品は俺が供給するしかないと思っている。ラッティーのアトレアまで敷くのに何年もかかるが、その後まで待ってくれそうもないな。面倒なことは先送りせず早く済ませてしまいたいから、ラッティーのアトレア線とパルゴール線は同時着工のつもりで準備しておくか。
などなど、考えていたらついミニマップの方がおろそかになっていたようだ。
「マスター」
アスカの声でハッとして、ミニマップ上の赤い点に気がついた。
進行方向右手に二点、左手にも二点。さらにその先、右手に一点。
アスカの声に急に俺が緊張したので、リリアナ殿下が驚いた顔をして俺を見ている。
「殿下、襲撃者が現れたようです。殿下とアリシア陛下は何があってもお守りしますから安心してください」
「そこは信頼しています。頑張ってください」
「手前の左右、どちらも建物の三階あたりに潜んでいます。その先の一名は群衆の中に
「ということは、建物に潜んだ四名がダメ元で目立つ動きをしてそのすきを狙おうという作戦だな?」
「そう思います。事後的な対応の場合、建物に潜んだ襲撃者が魔術を撃ってくるか、飛び道具でくるかで対応が異なるため、お二人を無傷で警護する難易度がやや上がります。安全策を取って事前に
「処理というのは、そういうことだよな?」
「はい。警護対象が警護対象ですから安全策を取った方が無難と判断します」
アスカの顔を見ると銀色の髪の毛が数本光の中で揺れている。すでに髪の毛の先端は襲撃者を捉えているのだろう。武器による攻撃なら武器を取り上げることで未然に防げるが、魔術で来られると種類によるが、俺では対応できないものの方が多い。
襲撃者が潜んでいる右側の建物を窓から少し顔を出して、道端の群衆に手を振る振りをして横目で見ると、魔力の揺らぎ見えた。こいつは魔術師だ!
「アスカ、やってくれ!」
「はい。処理終わりました」
一瞬の遅滞もなく、処理が終わったようだ。
「済まないな」
「いえ。残りの一人は騒ぎが起きないためいずれ逃げ去るでしょう」
俺たちの乗る馬車が襲撃者の潜んでいた左右の建物を過ぎても騒ぎが起きなかったせいか、群衆の中に潜んでいた五人目は襲撃を断念したようでそのうちミニマップ上からいなくなっていた。
「ショウタさん、大丈夫だったのですか?」
「はい、われわれで処理しました」
「分かりました」
砂色大トカゲの時、俺が相手を見ただけで
このことは、警備関係者に確実に伝えておかないといけない。そうしないと殺人事件になるからな。
俺とアスカで襲撃者たちを撃退したが、パレードは何事もなく南門を出てそこでぐるっと一回りして、来た道を引き返していく。
ぐるっと一回りしているとき、馬車が停まったので、いったん馬車から降りて沿道で警備していた人の中で少し偉そうな人に、先ほどの『処理』について話しておいた。場所はアスカが正確に描写できたので、その人にもちゃんと伝わったようだ。
結果的に襲撃犯は新皇帝を狙ったのか、われわれを狙ったのかは分からないが、俺たちのパレードへの飛び入りは少し前に決めたことなので、今回の襲撃は計画性の高い二段式だったを考えるとアリシア陛下に対してのものだったのだろう。まだ、政府が安定していない段階で、求心力の中心がいなくなればこの国は
Uターン後は何事もなく、無事パレードは帝宮に戻った。
祝賀パーティーがそれから少し時間をおいて始まったが、俺たち来賓は、新皇帝の
帝都内では、昨夜から、いたるところで酒などがすでにふるまわれているそうだ。
祝賀パーティーでのアリシア陛下の挨拶も短いもので、すぐに乾杯でパーティーは始まった。
乾杯の後、リリアナ殿下は挨拶にやってくる帝国の要人や、近隣国の外交官などとやり取りしている。そのあいだ、俺とアスカはそういった連中と親しくなりたいわけでもないので、口と手を休めることなくテーブルの上に並べられていた料理を食べていた。
しばらくその状態が続いたのだが、さすがにリリアナ殿下もお疲れの様子だ。
ある程度殿下の前の人がはけたところで、
「殿下、そろそろ、お
ということで、帝宮から馬車を出してもらって宿屋に帰った。道すがらいたるところで笑い声と万歳の声が聞こえてきた。アリシアさんが正式に帝位に就き、帝都民、帝国民にとっていい治世が始まることへの期待なのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます