第470話 温水ボイラー
帰りの『スカイ・レイ』の副操縦士席で目を閉じ、収納庫の中の
いろいろな種類の油分が混ざり合って原油になっているわけで、これを分離するとなると、どうすればいい?
重さで分ければいいとか簡単に考えていたが、そもそも収納庫の中に重力はあるのだろうか? 収納庫自体を意識した時、上下の感覚はあるがそれは俺が
収納庫の中では時間が経過しないため、物理法則は最初から通用しないと思った方がいい。すべては概念。『俺の思いが実現するのだ』と断じておこなえばなんとかなるに違いない。
収納庫に入れたものに対する操作がうまくいかないということは、俺の思いが不正確だったということだろう。
まずは、いつものように心を落ち着かせるため、深呼吸。
フー、ハー、スー。
フー、ハー、スー。
……、
フッフッハー、フッフッハー。
おっと、気付けば知らぬ間に『フッフッハー』になっていた。
深呼吸しているうちに、自分が何をしているのかも頭の中から消えてしまった。
「マスター、あと三十分ほどで、屋敷に到着します」
いったい俺はどれだけ深呼吸していたんだ? 何だか酸素の取り入れすぎで頭がくらくらしてきた。
あと三十分でものにしてやる。
『断じて行えば
意気込みこそが大事だ!
まずは、ガソリンや灯油は透明でほぼ無色だったはずだから、濁りの元を取ってやろう。そう思ったのだが、そもそも今回の原油は最初から薄黄色で透明だ。普通の真っ黒な原油には、想像だが、微細な炭素の
あれ? 待てよ。
今回俺は、原油の溜まった地層から油分を収納したのだが、そういった不純物は油分とは明らかに違うので、収納していなかった可能性が高い。期せずして、不純物を分離してしまったようだ。こんなところでも俺の爆運が火を噴いたようだ。
「アスカ、今回油層から原油を収納する際、油分を収納したんだが、どうも原油の中の炭素なんかの不純物は油層に残したまま、結果的に不純物を分離していたみたいだ。いわゆる、結果オーラーイってことのようだ」
「さすがはマスター、おめでとうございます」
なんだか、ここで『おめでたい』といわれると、頭のできがおめでたいみたいに聞こえるな。
原油から不純物の分離は偶然できていたようなので、あと問題なのは、今の石油にはガソリンなどの常温でガスとなるものが多く含まれていそうなことだ。そういった石油ガスが漏れ出てガス中毒や爆発事故などが起こると大変だ。
「アスカ、今回の石油をタンクに貯めたとして、石油ガスが発生すると思うけれど、どうすればいいかな?」
「ややもったいないですが、貯蔵タンクに高めの煙突を付けて大気中に逃がしてやりましょう」
「そう言えば、元の世界の石油コンビナートで煙突の上で炎が
「おそらくそうでしょう。燃焼させれば、臭いや有害成分を抑えることができそうですので、大気中に石油の揮発したガスをただ放出するのではなく、そういった形にしましょう。さすがはマスターです」
俺の知識を俺以上に正確に持っているアスカにおだてられてもな。いや、実際はそれなりに嬉しいです。
今回の偶然の結果、不純物の混入した液体中から不純物を残して液体そのものを抽出できるようになった。
水の中に溶解した物質の直接抽出することは相当難しそうだが、溶液中から純水、
それができれば、海水から純水を作ったついでに食塩も作れるはずだ。この場合、食塩に不純物がかなり含まれるだろうから、その辺はまた工夫が必要になるのだろう。
そうしたことができるということは、まさに化学工場になったようなものだ。この前アスカに超人類とまで言われてしまったが、今度は、人間化学工場にレベルアップしてしまった。
原油採取から帰宅した翌日。
午前中の講義を終えたアスカは、午後から石油機器の製作を始めた。
制御用のほとんどの部分と屋敷内の温水の循環、上水からの給水は新しく購入した魔導給湯器を転用するので、石油タンクと、温水ボイラーの二つを作って、購入した給湯器につなげることになる。あとは、制御用魔法陣からの配線と配管作業かな。
ということで、まずは石油タンクの製作。
スチールゴーレムを一度輪切りにして、それを
次にアイアンゴーレムを
タンクの大きさは、奥行き二メートル、横四メートル、高さで二メートル強、容量は十六立方メートル、一万六千リットル。鋼材で別途に高さ五十センチで作った据え付け台の上に乗せている。近くで見ると、思った以上にデカい。一年間でどれほどの油を消費するのか分からないが、これだけで十年くらいもちそうだ。
でき上がったタンクの上部に高さ十メートルほどの細めの鋼管で作った煙突を据え付けたが、タンクからの揮発した石油ガスがどの程度発生するのか分からないが、そこまで大量ではないだろうということで、煙突の先端の開口部分はかなり絞っている。また、煙突自体がかなり細長いものなので、基部をタンク上面にくっ付けただけの自立では安定性も悪いため、鋼材で組んだ櫓を建てて風などで傾いたり折れないよう補強している。排出口には着火器を複数取り付けて石油ガスへの点火が確実に行えるよう
その後は、ボイラー部分。
鋼材と鉄板で箱を作り、その中に水を通す太めの鋼管などを組み合わせて、ボイラーの燃焼室ができ上った。
燃焼室の下部には魔導ポンプで圧送された石油をノズルから霧状に吹き出して点火するバーナーを複数設けている。
魔導給湯器の場合は、発熱部分に流れ込む魔素の量を水温を検知して水温が一定範囲内になるよう調整しているそうだが、その仕組みをバーナーに流れ込む石油の量の調整に使うのだそうだ。
俺の収納庫の中で分離した石油には不純物は入っていないので、タンク内の清掃も不要だそうだ。それに、タンクへの石油の供給は、俺が直接収納庫から直接送り込むので、タンクそのものに人の入れるような大きな蓋などはない。
その後アスカは、鋼管を器用に何本も作っていき、後はL字管、T字管などのパイプの継ぎ手もたくさん作っていた。給水管、給油管、屋敷内の温水循環用配管などを行えば完成である。後日、室内の加熱用として、ラジエターを作るとか言っていた。
ラジエターの構造は、鋼板製の薄い箱を間隔を空けて横に連ねたもので、箱の下から温水が流れ込み、箱の上から流れ出た温水が次の箱の下から入るようにパイプで繋げたものだ。
今回のボイラーを温水式にしているのは、スチーム式にすると鋼材程度の金属材料しか使っていないため、全体の寿命が短くなるらしい。
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