第423話 フー=ナイト・ストーカー


 初日の試合を見終わり、屋敷への帰り道。雰囲気ふんいきの良さそうな軽食屋さんがあったので、そこにみんなで入り、軽くお茶とお菓子などを頼んでゆっくりした。


「ショウタさん、やっぱりすごかったー」


「全然緊張してなかったものね」


「だけど、あっさり過ぎて見ごたえはなかった。そもそも、ショウタさんの突きがみえなかったもの」


 ……。


 などなどお菓子を食べながらみんなに褒められ、ちやほやされるのだが、実に気分がいい。


 だが、ここでおごることなく次の試合に臨まなくてはいけない。あれだけ訓練をする必要があったのかと疑問に思うほど簡単に勝ってしまったが、訓練自体は俺の血となり肉になったはずだ。多分だけど。



古人こじんいわく、勝ってかぶとめよ』とは昔の偉い人のいった言葉だそうだが、俺も次回はさすがに兜ならぬヘルメットでも被った方がいいかな。今回は防具もいつもの普段着以下半そで半ズボンのサファリだものな。



 屋敷に帰って、サファリルックから普段着に着替え、部屋の椅子に座ってぼーと今日の対戦を思い浮かべていたら、ラッティーが、ヨシュアとヨシュアの助手をしているマリアの錬金コンビを連れて部屋の中に入ってきた。


「失礼しまーす」「失礼します」「失礼します」


 これって、またあれなのか?


 三人はラッティーを先頭にしてフーの前に行き、始めてしまった。


 パン、パンと拍手の音が部屋の中に二回響いた。


「失礼しましたー」「失礼しました」「失礼しました」


 三人揃って部屋を出ていってしまった。


 急いで俺はフーのところに行って額を確認したら、今まで確か8の字に見える模様もようが見えていたのだが今はその模様が見えなくなった。そのかわり額の真ん中あたりが丸く浮き出てそこがやや青みがかっているように見える。


 信者が増えてしまったかと思ったが、数字がなくなったことで、やや安心。しかし、これはこれでやや不安だ。


 額の薄く青くなった個所が何なのか触ろうと手を伸ばしたところ、いきなりフーがバラバラになって床に散乱してしまった。


「あらららら、なんだー?」


 俺が素っ頓狂すっとんきょうな大声を出したものだから、隣の部屋にいたらしいアスカが急いでやってきてくれた。


「マスター、どうしました?」


「フーの額の数字が変化して青っぽいふくらみができたので、そこを触ろうとしたらバラバラになってしまった」


 床に広がった鎧の部品。


「アスカ、これ何とかできるか?」


 一つ部品を手に取ったアスカが、


「各部を繋げていた革具や金具は傷んでいませんから何とかなると思いますが、不思議ですね」


「急にバラバラになったからな。どうしちゃったんだろう」


 そういって、転がっていたヘルメットを持ち上げて、どんなものかと試しにかぶってみた。


『シュウノウ、ソウチャク、シュウノウ、ソウチャク、シュウノウ、ソウチャク、……』


 どこからともなく言葉が聞こえてきた。


「アスカ、なんだかヘルメットをかぶったら変な声が聞こえてきたんだけど」


「なんと聞こえていますか?」


「シュウノウ、ソウチャク、って、……!!!」


 俺が『シュウノウ』と言ったとたんヘルメットを含め散らばった鎧の部品が一瞬でどこかに消えてしまい。『ソウチャク』と言ったとたん、俺は全身鎧を着ていた。


「な、なんだ?! フーを着てしまった! 今言った言葉はシュウノウとソウチャクだった?」


 今、口に出したシュウノウとソウチャクでも鎧が一度消えて、また俺が着ていた。


「呪いのたぐいではないでしょうから、マスター、試しに普段使っている『収納』ではなく口だけでシュウノウと言ってみてください」


「シュウノウ」


 着ていた全身鎧が消えてしまった。もちろん俺の収納庫の中に入っているわけではない。


「消えましたね」


「そうだな。どうしよう」


「今度は、試しにソウチャクと言ってみては」


「ソウチャク!」


「うおっ!」


 俺は一瞬のうちに全身鎧をまた着ていた。フルフェイスのヘルメットをかぶっているのだがバイザーからは意外なことにあまりさえぎられることなく周囲を見ることができる。体を動かしてみたところ、こんな重そうな鎧を着ていても全く動きが阻害そがいされないし、そもそも重さを感じない。


 いままで、こいつは変な鎧だとは思っていたせいで、ちゃんと鑑定していなかったけれど、やっぱりちゃんと鑑定しといたほうがいいよな。なになに?


「フー=ナイト・ストーカー」

生きた全身鎧。謎金属の装甲板製、着用者の気力・体力を常に回復。自己修復。不壊。



「うーん、どうみてもアーティファクトだな。しかも俺のつけた名前がちゃんとついてる。本来はナイト・ストーカーっていったのか」


「やはり、生きてるんですね」


「なんだか怖いな。といって、着ていないときどこにいるのか分からないし。こうやって着ているときに脱げばいいのかな? あれ? ヘルメットとガントレットこては簡単に取れるけど、後はどうすればいいんだろ?」


「私が手伝います」


「ありがとう」


 二人して、革具や金具を外していき、何とか鎧の上下を脱ぐことができたが、だいぶ時間がかかってしまった。


 脱いだものは床に並べておいたのだが、鎧用のマネキンもないので元に戻せない。これだと、フー信者のラッティーが騒ぎそうなので何とかしないと。


 そうだ、二体のアスカ人形の間に置いてあるフー人形をどっかの台の上に置いて代わりにすればいいか。


 いったん廊下に出て、花瓶が置いてあった台を部屋の中にもって入って、花瓶の代わりにフー人形を置いてみた。


「ちょっとショボいな」


「そうですね。あとで、鎧用のマネキンを作っておきましょう」


「済まないな。そろそろ風呂にでも入ろうか」


「はい」



 鎧の部品は仕方がないので、いったん収納したのだが、またどこに行ったのか消えてしまった。これで、またソウチャクとか口に出して言ったら鎧を着てしまい堂々巡りになるのだろう。


「アスカ、ここはもうあきらめよう。食事時にみんなに説明すればいいだろ」


「そうすると、信者たちがマスターに礼拝を始めそうですね」


「やめてくれよ」





[あとがき]

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