第361話 ハムネア再脱出
カンテラは収納して指先ファイヤーで来た道を引き返していく。この暗く弱々しい光が今となっては
「マスター、今の時刻は4時20分ですから、そろそろ外は明るくなってきているはずです。相手方に見つかった場合はどう対処しますか?」
今まで
「強行突破でかまわない。俺たちの仕事は、ソニアさんに手紙と荷物を渡すことだからあまり騒ぎを大きくしたくはないし、人を相手に闘うのは正直怖い。しかも相手はただ命令されたことを忠実にこなしている善良な人間かもしれない。だが、かまわない」
「分かりました。それなら、脱出の難易度はかなり下がります。敵を殺すのも簡単ですが、負傷者を増やす方が敵の無傷の戦力を
俺同様にアスカも怒りを感じているようだ。このまま怒りに任せてここを壊滅させてやることも俺たち二人なら簡単だが、それではその後この国が混乱するだけだ。このクーデター政府だか新政府を倒すのはアリシアさんたちの仕事だろう。
ミニマップを見ながら階段を上っていくと、地上階への階段出口近くを二名ほどが連れだって歩いているようだ。おそらくその二人は見回りの兵士なのだろう。その他にもホールの中には何人もの人が動き回っている。侵入時はこの建物内で移動している点も黄色い点だったが、ソニアさんを助けたあたりで赤くなってしまった。相手は俺たちを見つければ殺意を持って攻撃してくるということだろう。俺たちにとっては明確な敵だ。
「階段を
あと数段で上りきるというところで、一気に階段を駆けあがり、アスカによる切り込みなしで、俺は建物の外部とを隔てる近くの壁を適当に収納してやった。
壁にでき上った孔は、歪んだアーチ形をしていたが、もとより壁を塞いでやるつもりなどないのでこれで十分だ。
アスカの方は、ソニアさんをお姫様抱っこしたまま、すでに近くにいた二人の見回りの兵士を無力化している。その二人がどのような状態になっているのかは確認していないが、叫び声の代わりにうめき声が聞こえてきている。相当痛い思いをしているのだろう。
叫び声でなくとも、そのうめき声は静かなホールに響いているため、異変に気付いた他の兵士のような連中が大声を上げながらこっちに向かってきた。
もちろん、すぐにアスカが処理してしまったようで、ホールのいたるところからうめき声が聞こえ始めた。
「マスター、私はマスターの前で初めて人に対して有効な攻撃を加えましたが、マスターはショックを受けるようなこともなく、何ともないようですね?」
「まあな。そういったことについては以前から考えてはいたが、ソニアさんのあの姿を見た以上腹を
「それでこそ私のマスターです。その気迫があれば、この大陸全てを望むことも容易です」
アスカのヤツ、どこぞの悪魔のような語り口だな。確かに俺とアスカならそういったことも簡単なのだろう。ただ、大陸全てを望んで手に入れたとしてそれで何が残るわけでもなく、未練だけが残るんじゃないだろうか。
バカなことを考えていても仕方がない。いくら敵といってもこれ以上傷つける必要はないので、今は脱出することに注力しよう。
壁を
来た時と同じように、堀に木の橋を渡して素早く渡り終え、その木は収納しておいた。
中央庁舎内からのうめき声はここまで来ると聞こえなくなった。ミニマップを見ても俺たちを追うような動きはまだないようだ。
これから逃走するのだが、どこに行けばいいのか悩みどころだ。
とりあえず、大きな道から外れて、裏通りに入って外壁に向かっていくことにした。夜も明け始め、通りにちらほら見回りではない一般人も出歩き始めている。女性をお姫さま抱っこして通りを歩いていると、それはそれで不審者そのものなので何とかしたいが、ここでソニアさんを起こしても自力ではまだ歩行はできないだろうから、通行人に対しては知らぬ顔をして、歩き続けるほかはない。
さて、これからどうしようか?
このままソニアさんをセントラルまで連れ帰ってしまうと、手紙や荷物を渡す意味がなくなるので、ソニアさんをどこに連れて行くのかが問題だ。ソニアさんの住んでいた場所はマズそうだしな。
ある意味救出後の今の方が難易度が高いな。
水洗いしただけなのでソニアさんからは正直なところまだ臭いが漂ってきている。お世辞にも清潔ではない。ちゃんと風呂のある宿屋に部屋をとることができればいいが。
「なんとか宿屋を見つけて、部屋を取りたいところだな」
「おそらく中央庁舎前の大通りにはそれなりの宿屋はあると思います。行ってみますか?」
「もうしばらくすれば、ホールの惨状で大騒ぎになるだろうし、ソニアさんがいなくなったことも気づかれるだろうからやはりやめておこう」
「それではどうします?」
道行く人が
「いったん、街の外に出て、隣の街にでも行ってみるか? この街の近くに小都市ぐらいあるだろう?」
「そのくらいなら、いっそのことセントラルまで一度戻りましょうか?」
脱出時『スカイ・レイ』を見られたくはなかったため当初の作戦では夜になってから帰還しようと思っていたが、今は緊急事態だ。
「それじゃあ、そうするか。少なくとも『スカイ・レイ』の中の方がソニアさんも落ち着くからな」
「急ぎましょう」
いくら通行人を無視するといっても、余り多くの人に出会うのもよろしくなさそうだ。なるべく人気の少なそうな道を急いで、何とか外壁のある街の外れまでたどり着けた。
周囲に人気のないことを確認し、例の方法でトンネルを作って街の外に脱出。トンネルを元通りにして、目の前の空き地に『スカイ・レイ』を排出してすぐに乗り込んだ。ソニアさんを座席に座らせ。俺が体を抑えておく。
「『スカイ・レイ』発進します!」
街のすぐそばで発進したため、多くの人に目撃されただろう。飛空艇を持っているのは個人では俺。国ならばアデレート王国ということはもはや周知だろうから相当ややこしいことになる可能性もあるが、今さらだ。後は野となれ山となれ。今回のミッションはおかしなことになってしまったが、仕方がない。
昇ってきた朝日に向かって『スカイ・レイ』は飛行を続け、アデレート王国王都、セントラルを目指した。
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