第244話 トンネル


「ショウタさん、アスカさん、今日は本当に楽しい時間をすごごさせていただき、ありがとう」


「ショウタさん、アスカさん、今は私は王宮まいですが近いうちに王都内に屋敷を用意するので、その時は遊びに来てくださいね。それじゃあ」


「それでは、お二人とも失礼します。王宮の皆さんもさようなら」


 両殿下をはじめ、王宮からのお付きの人たちも満足して下船し、午後から港で待機していたらしい王宮からの迎えの馬車に乗って帰って行った。




 俺たちは、殿下たちを見送った後『シャーリン』を収納し、サージェントさんの御すあやつる馬車が来るのを待っている。


「シャーリー、ラッティー、今日はホステス役ありがとう。ミラもソフィアもご苦労さま」


「私は、お二人の殿下があんなに気さくな方たちとは思ってもいませんでした。それに、お二人のお付きの方々もみんないい人ばかりで楽しい時間でした」


「ショウタさん、アスカさん、私のような子供を、両殿下に引き合わせていただいてありがとうございました」


 ラッティーは、相変わらずの優等生だな。アトレアで最初に出会った時のころと比べるとほんの数カ月しか経っていないのにもかかわらず、まさに隔世かくせいの感がある。


 自分が王女になって、俺たちへの接し方を含めて手探りてさぐりの中、幼いなりにガンバってるってのことだろう。まあ、頑張りすぎは良くないとも言うし、そこらへんはラッティーの勉強を見ているアスカは把握はあくできているだろうから心配ないと思う。


 そんなことを話していると、うちの馬車がちょうどやって来たのでみんなで乗り込み屋敷に戻った。


 さて、『シャーリン』への両殿下を招待するイベントも無事にこなしたことだし、明日あしたは、冒険者学校の建屋の進捗しんちょくでも確認してくるとするか。





 さて、その翌日の朝食後。


「ラッティーの勉強の方はいいのか?」


「もはや、ラッティーに受験勉強として新しく教えることはありませんから、これまで教えたことを自習していけば十分でしょう」


 そういうことなので、またアスカとペラと三人で冒険者学校の建築現場に向かうことにした。



 王都の大通りを通って西門から街道を南に下り、農村地帯を抜けてその先の草原地帯。そこから鉱山に向かう小道を進む。作業用の資材はだいたい運び終わったのか今日は途中で荷馬車には出会わなかった。


 小道を上り切って、露天掘り跡のすり鉢の底を見ると、先日まで、赤水あかみずの溜まっていた池の水が赤水の浄水器の試験運転でもしたのか、今は透明になっていた。あとで聞いた話だが、赤水が井戸の近くにあると、井戸水の浄化の効果が不安定になるため、あらかじめ赤水を処置したのだそうだ。


 山の上から見た冒険者学校は、もう屋根も壁もでき上がっていて外観は整っているようだ。黒い板張りの屋根に真新しい無垢むくの板壁が鉱山の跡地にそぐわないでもないが、そのうち板壁も日に焼けてくるだろうし見慣れてくるだろう。窓にはすでに板ガラスがはまっている。


 見かけた作業員たちにあいさつしながら、学校の近くまで坂道をくだっていき、作業中の建屋たてやを外から邪魔じゃまにならないようにガラス窓からのぞくと、仕切りの壁や廊下、階段なども出来上がっているようだ。完工予定まで、あと10日。建屋そのものはもう数日で完成しそうだ。周辺設備などや配管などでだいぶ手間と時間を取るのだろう。


「マスター、順調のようですね」


「そうだな、明日にでも冒険者ギルドに行って生徒を集めてもらうように正式に依頼してこよう」


「三カ月無償むしょうで訓練するといっても、今のところ海のものとも山のものともつかない冒険者学校ですから、ある程度の募集期間ぼしゅうきかんが必要かもしれませんので、それでいいんじゃないでしょうか」


「この工事の調子なら、二週間くらい先を開校日にして問題なさそうだな。そういえば、試験坑道の坑口をもう少ししっかり作って、周辺をちゃんと舗装しようと思っていたから、今日の帰りにでもフォレスタルさんのところによって追加の工事を依頼しておこうか」


「それもそうですが、重たい荷物をせた荷馬車で先ほどのとうげをここから超えていくのはきびしくはありませんか?」


「厳しいとは思うけれど、むかし露天掘りしていた時はそうしてたんだろうから何とかなるんじゃないか。アスカにいい案があるなら教えてくれ」


「そこの斜面にすり鉢の外に通じるようトンネルを掘ってしまいませんか?」


「トンネルなんて、そんなに簡単にできるものかな?」


支保材しほざいの用意さえあればそれほど難しくはないと思います。現に、ハムネアでは外壁にトンネルを作ったこともありますし」


「そういえばそうか。少しずつ俺がトンネルの断面を収納していって、後からトンネルを補強していけばいいのか」


「いまはペラがいますから、マスターが作るトンネルの空洞を私とペラで支保材しほざいを使い補強していけますので、かなりのスピードでトンネルを掘削くっさくできると思います」


「できそうに思えてきたが、その支保しほだか補強材をそれこそ大量に仕入れてこないといけないな」


「ここで、試験坑道を掘ったくらいですから、商業ギルド辺りで手に入るのではないでしょうか?」


「それじゃあ、商業ギルドにも顔を出しておくか。待てよ、こうなったらそのトンネルの長さはどれくらいあるのか分からないけれど、レールでも敷いてやるか?」


「レールですと、鋼鉄で作らなければ弱くなります。1メートルあたり37キロの規格で作りますと、スチール・ゴーレム一体で12メートルのレールが二本作れます。トンネル長を1200メートルとすると、スチール・ゴーレム100体相当になります。あとは硬質の木材で作った枕木がそれなりに必要になります」


枕木まくらぎ用の木は商業ギルドで手に入るとは思うし、スチール・ゴーレムはそれくらいの数は収納庫に収納していると思うけど、アスカでレールなんか作れるのか?」


「問題なく作れますが、はがねですから少々時間がかかります」


「そうだ、いつかキルンの迷宮でコアにダンジョンガラスを作ってもらった時のように、ここのコアでもレールを作れるんじゃないか?」


「可能だと思います」


「今日は一気にやることが増えてきたな。ダンジョンポイントが足りないようだったら、俺がまた送ればいいしな。それなら、すぐに『鉄の迷宮』に入ってみよう。

 ペラは今日はおとなしいけど何かあるか?」


「いえ、何もありません」




 俺たちは、とりあえずレールをコアに作らせようと、『鉄のダンジョン』に入るため、ダンジョンの出入り口の黒い渦に入って行った。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る