第221話 ペラ


 ペラの変身せいけい作業がアスカによって行われた結果、いい線でき上がったようだ。


「マスター、ペラの髪の毛はどうしましょう?」


「そうだな、ペラの場合、アスカのような髪の毛で斬撃ざんげきなんかできないんだろうから、ストレートのショートヘアーでいいんじゃないか」


「分かりました。髪の色は、黒でいいですか?」


「そうだな。それでいい」


 ……


「マスター、いかがです?」


 マッパのペラは黒いショートカットの髪をわずかに横になびかせてなかなか精悍せいかんな顔になった。


「なかなかいいんじゃないか」


「それでは、先日取り揃えた予備の女性用下着をお願いします」


 アスカのいう女性用下着は、うちのみんなを連れ歩いた際、雨が急に降ったりしたときなどに備えて、予備があった方がいいというアスカが、傘と一緒に買いそろえたものだ。それを今はおれが収納庫の中に預かっている。


 適当に選んだ下着をアスカに渡したのだが、


「マスター、これはおそらくラッティー用に選んだものです。先日買った下着を、いちおう全部出していただけますか?」


 適当ではダメだったようだ。風呂敷ふろしきの形にしていつも便利に使っている布をゆかの上に敷いてその上にアスカのそろえた下着を全部出してやった。


 その中を、物色ぶっしょくしたアスカが、


「マスター、これなんかどうでしょう? いま王都で流行りはやりの下着だそうです」


 アスカが手に持って広げたのは、妙に薄手の紫色の生地でできた、パンティーだった。しかも小さい。


「アスカ、別にどうでもいいけど、さっきのラッティーのパンツよりそのパンツの方が小さくないか?」


「これはこういったデザインですから仕方しかたありません」


「まあ、ペラが何をいていようが俺にはどうでもいいけど、本人が履きにくくなければいいんじゃないか」


「履きにくい、履きにくくないといった認識はおそらくペラには生まれないと思いますので大丈夫だと思います。これにそろいのこのブラジャーを組み合わせてみます。なんでも、このシリーズの下着は王宮発のものらしいです」


 次にアスカが手にしたのは、おかしなくらいに透けたブラだった。もうどうとでもしてくれ。


 立ち上がって下着を着けたペラは、マッパの時よりもエッチな感じに仕上がってしまった。最近の王宮は、こういった方面で進んでいるのかと感心してしまった。まさか、こういった下着をリリアナ殿下やマリア殿下が着けているのか?


「マスターの想像しているようなことは可能性としてはそんなに高くはないと思います」


 だよな。俺でもその方がいいと思うくらいだもの。


「マスター、ペラ用の普段着は今はありませんから、あの『大魔導士だいまどうしのローブ』を上に着せましょう。それと、何か適当なブーツがあればお願いします」


 収納庫の中を探すとちょうど真っ赤な『灼熱しゃくねつのブーツ』と同じく真っ赤な『灼熱のマント』があったので、『大魔導士のローブ』と一緒にペラに渡しておいた。赤い帽子もあったが、これはアスカが受け取らないだろうと思って遠慮えんりょしておいた。


 ローブの下がすぐにハデハデの下着というのはいささか問題があるような気もするが、べつに誰に見せる訳でもないから平気だろう。せっかくの『灼熱のマント』はアスカによって返されてしまった。


 柿染かきぞめのような渋い色の『大魔導士のローブ』を上から羽織はおり真っ赤な『灼熱のブーツ』を履いたペラはどこかちぐはぐに感じたが、見慣れてくるとこんなものかという感じになってきた。何でも慣れだな。


「よし、こんなところか。アスカ、何かあるか?」


「特にありません」


「それじゃあ、帰るとするか。一度外に出て、女王アリのところに行かなくちゃな」


「了解です」


「ペラも一緒に行くぞ」


「はい、マスター」




「コア、俺たちをダンジョンの出口に送ってくれるか?」


「了解しました。6秒後に第1層に転移します。3、2、1、転移!」




 転移した先は、最初にこのダンジョンに入った時の場所だった。


 そこにあった黒い渦の中に入り、出た先は調査坑道の坑口から10メートルほどの場所だった。そこでカンテラを点灯して、黒い渦の脇を通り、また調査坑道ちょうさこうどうの斜面を下りていってあの空洞まで進み、そこからさらにくだっていく。


 今度は斜面の底から、女王アリのいた大空洞まで三人揃って進んでいく。


 今回は最初訪れた時と異なり、大空洞の中のアリはそこまで多くなく、通路は広く空いていたのでカンテラを消してそのまま女王アリのいるステージまで進んで行った。


 俺たちを前にした女王アリがまたアゴを動かして何か言っている。


「マスター、ダンジョンの出入り口が無くなったことで、礼を言っているようです。お礼に、何かくれるそうです」


 見ていると、女王アリの周りでかしずいていた働きアリのうち数匹が、奥の方に一度引っ込み、すぐに器用に荷物を口でくわえて出てきた。


 働きアリが運んできた荷物は、大きな石のようで、その石が俺の前にゴロゴロと並べて置かれた。


「マスター、宝石の原石のようです。ルビー、サファイヤ、エメラルドですね。どれも非常に大きな結晶を含んでいますから、どれほどの価値があるかはわかりません。それでは石をいただいて帰りましょう」


 収納してみて確認したところ、確かにルビー、サファイヤ、エメラルドだった。そのうちお金が必要になることがあれば、役立ってもらおう。いや、お金で苦労することはこれから先そうそうなさそうだから、きれいに磨いて宝石として持っておけば贈答ぞうとう用に良さそうだ。そうしよう。アスカならきれいに磨けそうだものな。



 俺たちは、そこでアリたちと別れを告げ、鉱山跡地の監視所に一度あいさつをして、王都に戻った。


 ペラは、俺とアスカの走りになんなくついてこれたので、その気になって街中を走ったのがいけなかったらしく、『大魔導士のローブ』がひるがえってしまい、通行人にいろいろ見られてしまったようだ。


 二人組が三人組になって、迷惑度が50%増量されたわけだが一部の者には喜ばれたのかもしれない。






[あとがき]

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なろうからの加筆転載です。よろしくお願いします。

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