第172話 穀物問屋、パンプキン商会1


「さて、そろそろ行くか、この時間なら朝のいそがしい時間から少しはずれているだろう」


「ここから、歩いて15分ほどの場所ですからちょうどいい時間でしょう」

 アスカは最初から店の場所を知っていたようだ。住所が分かってるんだからアスカなんだから当然か。それはそれとして、ラッテイーに仕事してもらわないとな。


「それじゃあ、ラッテイー。案内を頼むな」


「任せてくれ」




 アスカの言った通り15分ほどラッテイーの後に続いて通りを歩いて、何度かわき道に入った先に、目当てのパンプキン商会の建物があった。


「ここがパンプキン商会だ」


「ラッテイー、ご苦労さま」「ラッテイー、ありがとう」


「へへへ」。そう言って嬉しそうにラッテイーが鼻をこすって自慢げにしているのだが、いまではどうみてもお嬢さんに見えるラッテイーがそんなことをするとかなりの違和感いわかんがある。


 穀物問屋というから、なんとなく大きな建物を予想していたが、そんなに大きな建物ではなく間口は5、6メーターくらいの三階建てのお店で、ちょうど、王都のヒギンズさんの息子さんのやっていたお店によく似た建物だった。問屋さんはどこに行っても似たような形になるのかもしれない。


 ちょうど店の前を若い男の人がほうきを持って掃除していたので、


「すみません、パンプキン商会のご主人にお会いしたくて参った者で、ショウタと申します。昨日、商店街でお会いした者だとお伝えください」


「少々お待ちください」


 その若い男の人は、われわれに一礼して、すぐにほうきを持ったまま店の中に小走りに入って行った。


 しばらく店の前で待っていたら、店の中からきのうのおじさんと、さっきの若い男の人が出て来た。


「これは、これは。昨日はお世話になりました」


「いえいえ。それで、わたしたちはアデレードからある穀物を仕入れようとやって来た者なのですが、ちょうどご主人のお店が穀物を扱っていらっしゃるようでしたので、これは何かの縁かなと思い、お邪魔じゃましました」


「アデレード王国から。そうでしたか、昨日はお礼もできず申し訳ありませんでした、さ、さ、どうぞ。小さな店ですが中でおくつろぎください。そちらのお嬢さま方もどうぞ中へ」


 当然、ご主人は、お嬢さま方の片割れが、きのう自分の大切な荷物を盗んで逃げていった悪ガキだとは気付かない。


『ラッティー、だいじょうぶだったろう?』


 アスカの後ろに隠れるようにして付いて来ているラッティーに小声で言うと、


『俺がお嬢さま? びっくりした』


『おまえは十分お嬢さまだから、自信を持て』



 そんな話をしながら、ご主人のあとについて店に入ると、間口は広くないが、奥行きが相当あった。壁際に大きなおけが並んでおり、そのおけの中には穀物が入っている。入っている穀物はおけごとに違っているようだ。


 そして、ついに見つけた。まぎれもないコメだ。長ぼそいコメも横に並んでいたが、ちゃんと日本のコメのように丸く膨らんだコメがおけの中に入っていた。


 階段を一度上り、連れていかれたのは応接室のようで、テーブルの周りに六脚椅子が並んでいた。


 椅子に座るよう言われたため、俺とアスカの間にラッティーを座らせ、その向かいにご主人と店の男の人が座った。


「自己紹介が遅れて申し訳ありません。私がこの店の主人をしておりますハリー・キャラバン、これは、私の息子のチコ・キャラバンです。店の名のパンプキンは、私の父親がカボチャで一山当ててこの店を始めたことがいわれで付けた名前なんです」


「そうだったんですね。それでは、私の名前はショウタ、アデレート王国の冒険者ギルドでAランクの冒険者をしています」


「私は、アスカと言います、同じくAランクの冒険者をしています」


 俺たちが、Aランクの冒険者と初めて知ったラッティーが目をむいて俺の方を見たが一応それは無視しておいた。


「お二人ともその若さでAランクですか。この国にはAランクはもちろんBランクの冒険者もいないと思います。アデレート王国の年若い冒険者でBランクの二人組がいらっしゃるという噂を耳にしたことがありましたが、Aランクのお二人?」


「4カ月ほど前にAランクに昇進しょうしんしたばかりなものなので、きっとその噂はわれわれのことだと思います。それはさておき、われわれはこのブレゾにコメを扱っているお店があると聞いて、アデレートからやって来たのですが、先ほども申しましたようにちょうどご主人が穀物を扱っていらっしゃるようでしたので、何かのご縁と思い、きょうはこちらに伺わせていただきました」


「そうでしたか。コメでしたらうちでも扱っています。お二人のお役に立てそうで何よりです。コメは何種類かうちでも扱っていますが、どういったコメをお探しですか?」


「まず、一粒一粒が丸みを帯びていて、くと、やや粘り気の出る感じのコメと、形は似ていますが、炊いたあと、すりつぶすと、ケーキ状になるコメなんですが、分かりますでしょうか?」


「はいはい、どちらもございます。

 チコ、1号米いちごうまいとモチゴメをすこし持ってきなさい。それと、まかないのローラをこの部屋に」


「分かった」


「チコ、分かったじゃないだろ、お店では分かりましただ」


「分かりました。店長、今取ってきます」


 チコさんが、父親のハリーさんに指図されて部屋を出て行った。


「すみません、仕事を覚えさせているところなのですが、要領ようりょうの悪いせがれでして」


 すぐに、チコさんが、二つのうつわに入ったコメを持って部屋に戻って来た。


 テーブルに置かれた器の中のコメは、一つはやや透き通るような感じのコメで日本で見たことのあるコメにそっくりだった。もう一つの器の中に入ったコメは形は最初のものと同じだったが表面が真っ白なコメだった。残念ながら、もち米の実物は記憶にないので、このコメでちゃんとモチが出来るのかは分からない。


「だんなさま、お呼びでしょうか?」


 俺が、二種類のコメを手にとってよく見たり、匂いを嗅いでみたりしていたら、部屋の中に女性が入って来た。先ほど話に出ていたローラさんなのだろう。


「ローラ、おコメを炊いたものが残っていないか?」


「はい。残っております」


「そしたら、おコメを炊いたものとモチを2、3個ここに持ってきなさい」


「かしこまりました」


 そう言ってローラさんは部屋を出て行った。


「炊いたコメと、モチを見ていただきましょう」


 しばらく待っていると、二枚のお皿を乗せたお盆を両手で持ってローラさんが戻って来た。そのお盆をお皿ごと、テーブルの上に置き、部屋を出て行った。


「どうです?」


 まさに、夢にまで見たおコメとおモチだ。


「私が欲しかったコメとモチゴメです。ぜひ購入させてください」


「分かりました。それでは、いかほどご用意いたしましょうか? ちなみに、1号米がキロあたり大銅貨2枚、モチゴメは大銅貨3枚になりますが、昨日のお礼も有りますので、2割引きで1号米はキロあたり大銅貨1枚と銅貨6枚、モチゴメは大銅貨2枚と銅貨4枚でよろしゅうございます」


「ありがとうございます。多ければ多いほどいいので、どれほど購入可能ですか? ちなみに、私は収納できますので、運搬うんぱんしていただかなくてもこの場で購入できます」


「コメの方はすぐにご用意できる物が800キロ、モチゴメは500キロになります」


「それでしたら、それを全部購入させてください」


『値段は、アスカいくらだ?』


『1号米が銅貨で12800枚、モチゴメが銅貨で12000枚になります。合わせて、金貨2枚と小金貨4枚と銀貨8枚になります』


『ずいぶんと安いな』


『そうですね』



「それでは、裏の倉庫に参りましょう」


 俺たちは、ハリーさんについて倉庫に向かった。ラッテイーにとっては退屈な時間だったと思うが、良く辛抱しんぼうしてくれた。





[あとがき]

パンプキン商会の親子の名前は、どこかで聞いたことが有るような?


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