第163話 年末、またも新人。おコメが食べたい


 ヨシュアの錬金術もさまになったようで、安定して高品質のPAポーションを作れるようになった。まだ中級錬金セットでのポーション作成のためあまり作業効率は良くない。俺とアスカが付きっ切りでついていてやるわけにはいかないので、錬金釜れんきんがまを使っての大量生産には、最低でも一人、ヨシュアの助手が必要だ。


 ということで、アスカと俺で、ヨシュアを連れて、ハットン商会本店のハットンさんのところに訪れている。


「ショウタさま、アスカさま、それに、ヨシュアさまでしたか、おはようございます。先日私どもからお買い上げになられた、四人はいかがですか? ちゃんとご要望に応えていれば安心ですが」


 ハットンさんはすでにヨシュアの名前を知っていたようだ。いつもこの人の情報収集能力には驚かされる。


「はい、リディアを始めよくやってくれています」


「そうですか、そうですか。あの子たちをお売りしたかいがありました。それで、きょうはどういった奴隷をお探しでしょう?」


端的たんてきに言って、錬金術の素養そようのある子を二名ほどお願いしたいのですが、錬金術の素養と言っても漠然ばくぜんとして分かりにくいでしょうから、物覚ものおぼえのいい子がいればそういった子をお願いします。性別はどうかな? ヨシュアどうだ?」


「男性よりも女性の方が私としてはやりやすいので、できればそのようにお願いします」


「それじゃあ、ハットンさん、女性で年齢は18歳くらいまでということでお願いします」


「了解しました。申し上げにくいのですが、あいにく当店におります奴隷で、ショウタさまのご要望に沿った奴隷は一名だけです。とりあえずその者を連れてまいります」


 ハットンさんが後ろに控えていた店の人に一言二言ひとことふたこと何か言うと、その人が一度店の奥に引っ込んで、しばらくして、いつもの貫頭衣かんとういを着た一人の女の子を連れて来た。


「彼女の名前はマリア、年齢は16歳で、値段は金貨9枚になります。


 それではマリア、お客さまに自己紹介をお願いします」


 その女の子は一礼して、簡単な自己紹介をしてくれた。


「はい。私の名前はマリア、16歳です。得意なことは読み書き計算です。それに手先が器用なので物を作ることも得意です」


 やはりハットンさん。ちゃんとつぼを押さえている。アスカとヨシュアの方を向くと二人とも俺を見てうなずいた。


「マリアさんありがとう。ご苦労さま」


 俺がそう言うと、彼女はうれしそうに、にっこり笑ったあと店の人に連れられて店の奥の方に戻って行った。


「ショウタさまいかがでしたでしょうか?」


 ハットンさんがいつものにこにこ顔で俺に聞いて来た。


「もちろん購入します」


かしこまりました。それでは、マリアにはこれから支度したくをさせますのでしばらくお待ちください」


 代金の金貨9枚を大金貨1枚で支払い、金貨1枚をお釣りでもらった。契約書にサインをして今回も取引は無事終了した。


 例の奴隷ぬしの心得をハットンさんから聞きマリアが支度して出てくるのを待っていると、彼女が小さな布袋を持って戻って来た。



「ご主人さま。これから、よろしくお願いします」


「はい。こちらこそよろしく」「よろしく」「よろしくお願いします」


「それじゃあ、これからマリアの日用品や着替えを買いに行こうか。

 それじゃ、ハットンさん。今回もありがとうございました。さようなら」


「ショウタさま、アスカさま、ヨシュアさま。本日もまたありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」 


 そういって頭を下げているハットンさんを残し、マリアの必要品をそろえようと商店街のある通りへ向かった。


 商店街で、マリアの衣類や消耗品などを買いながら歩いていると、ふと今日の日付を思い出した。


「アスカ、もうすぐ年末だよな?」


「はい、再来週さらいしゅうになれば年が明けます」


もちが食べたいなー。いや、その前に、そろそろコメのごはんが食べたい。パンにあきたわけじゃないが、正月くらい何かそれらしいものが食べたいな」


 俺の知識を持つアスカだけは俺の言っていることの意味がわかるが、ヨシュアとマリアは俺のボヤキの意味が分からないようでキョトンとしている。


「マスター、コメについては何とかなるかもしれません」


「ほんとうか?」


「商業ギルドに行って、そういった穀物を扱っていないか確認してみましょう」


「そうだった。可能性は高そうだな」


「モチゴメについても、取り扱っているかもしれませんし、取り扱っていなくても何か情報があるかもしれません」


「ほうほう、アスカ、きょうもえてるな」


 相変わらずの、無表情のドヤ顔。しかし、そこまで俺も気が回らなかったな。俺自身は、あまり日本食的なものに対して特に思い入れはなかったのだが、気になり始めるともうダメだ。何とかして日本食が食べたい。せめて、コメの飯だけでもいいから食べたくなった。


「買い物が終わって屋敷に帰ったらみんなにマリアを紹介して、そのあとで、商業ギルドに顔を出してみよう」


「はい。マスター」




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