第97話 勇者親善使節団


 ローゼン隊長が、『魔界ゲート』の前で頭を抱えていた日の夜。



 北方諸王国の中の一国、ルマーニ王国の王宮内、アデレード王国からの使節団しせつだんに与えられた一室で、ルマーニ王国での日程にっていを終えてくつろぐマリア王女以下勇者親善使節団しんぜんしせつだん一行。



「皆さんのおかげで、今回の親善訪問も大成功でした。ありがとうございます」


 マリア王女が使節団のみんなに対し礼を述べた。


 王女のねぎらいに対し、使節団の副団長を務めるネイピアが顔をほころばせながら、勇者たちをめたたえる。


「マリア王女殿下、いえ、マリア使節団長さまのお言葉のように、ルマーニの王都の皆さまも勇者さまたちの凛々りりしい姿に感動し、歓声かんせい拍手はくしゅの渦で、王宮前のメインストリートが埋め尽くされました。ルマーニ王家の方々や貴族の方々への評判も上々。これでわがアデレード王国への対魔族、対『魔界ゲート』戦でのこれまで以上の援助が期待できそうです」


 偽勇者のアトス・リーシュ、


「われわれは、笑顔で握手あくしゅしたり、手を振ったりしてただけですから」


「さすがは、リーシュ宰相閣下の甥御おいごさんですな。他国の王家の方々や貴族の方々を前にしての堂々としたい。実に見事なものです。

 それに、お嬢さん方も素晴らしい。お二人がにっこり笑って手を振るだけで多くの若者から歓声が上がるほどですからな。今日のパーティーでも貴族の御曹司おんぞうしが競ってお二方を会話やダンスに誘っていましたな。

 いやあ、私も若かったら貴族の方々の中に混ざってましたよ。ハハハハ」


 ネイピアはその物腰の柔らかさと言葉の巧みさから今回の使節団の副団長に抜擢ばってきされた若手のエリートだ。すがにヨイショがうまい。


 偽賢者のアンヌ・ドーリッシュが顔をやや赤らめ、


「アトスのためにこれからも、頑張ります」


『アンヌ!』


『えっ? ミレディ?』


 ミレディーが首を横に小さく振る。


「すいません、王女殿下とアデレード王国のためにこれからも頑張ります」


 ミレディーに袖を引かれたアンヌが慌てて言い直した。


 偽聖女のミレディー・スプリングは落ち着いて、


「私も、王女殿下とアデレード王国のためにこれからも頑張ります」


「いいんですのよ。皆さんホントに仲がよろしくてほほえましいですわ」

 

 マリアはこの三人が本物の勇者と賢者、聖女だったらどんなに良かったのかと思う。


 あの勇者たちと接していた時は一時期はだつやも悪くなり、胃のあたりが傷んだものだがこうも違うものだろうか。あの勇者たちを呼び出したのが自分でなければ、我慢がまんの限界は超えていただろう。


 勇者の面倒めんどうを押し付けたトリスタン騎士団長には悪いことをした。こうして勇者たちの影武者かげむしゃを使い一時しのぎをしているが、これはきっといいことなのだろう。そう思い込むしかない。


 とにかく本物の勇者が再来年さらいねんまでに『魔界ゲート』を閉じる実力を持ってくれさえすれば、何とでもなる。それまで、この対『魔界ゲート』連合が維持できていればいいのだ。


「勇者さまたちは、今日のパレードと祝賀パーティーでお疲れでしょうから、お休みください。明日は、ルマーニ王家の方々にご挨拶あいさつをすればすぐに次の国に出発ですから」


「「「ありがとうございます。先に休ませていただきます」」」




 勇者たちが部屋を出て行ったあと、マリア王女とネイピアが部屋に残って雑談をしている。


「殿下、そういえば北の砦ですが、砂虫のせいでいよいよ補給がとどこおって、もうしばらくすれば、食料も底をつく可能性があるそうです。何とかできないものでしょうかね」


「やはり、第1騎士団に出てもらわなければならないでしょうね。王都の方で早めに決断してくれれば良いのですが」


「さすがに、騎士団総長が出張でばってくれば、砂虫も何とかなるんじゃないですか? 何せ王国一、いや大陸一の剣士『絶剣ぜつけん』のギリガン総長ですからね」


「それでだめなら、砦の建設は中止せざるを得ませんね。北方各国への挨拶あいさつ回りも、アトスさんたちのおかげで順調ですのに、なかなかうまくいきません。それにこの旅に出る前リリアナの容態ようたいが思わしくなかったことも心配ですし。セントラルへはいつ頃戻れそうですか?」


「この後の訪問予定国は二カ国です。順調にいけば十二月までには王都に戻れるでしょう。移動を速めれば、十一月中旬までには」


「あと三カ月ですね、おたが頑張がんばりましょう。ネイピアさんよろしくお願いします」


「お言葉ありがとうございます。王国と殿下のため頑張らせていただきます」




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