第63話 エリクシール1


「ハハハ!」「ハハハ!」「ハハハ!」「ハハハ!」


 四人の商人たちの笑い声が食堂に響く。


 そんなにおかしいか?


「それはさておき、先ほどのポーションで思い出したんですが、ご存じですか?」


「何です?」


「ここだけの話なんですがね」


 声を落としたくらいでは、俺のダンボは防げんよ。ステータスが一気に上がって、意識さえすればかなり遠くの小さな音も拾えるようになった。もちろん、意識しなければ聞こえない。そうでないとうるさくて何もできなくなるからね。


「第3王女殿下がお悪いそうです」


「以前から、体調がすぐれないというお噂がありましたが、まだお若いんですよね」


「確かうちのせがれと同じですから十二、三でしょう」


御労おいたわしいことです。王室と言えども、エリクシールは手に入らないようですね」


「何せ、エリクシールを作るにはドラゴンの生血いきちが必要だそうですからね。ここ何十年ドラゴンが討伐とうばつされてませんから尚更なおさら難しいでしょう。噂ですが、エリクシール一本大金貨五千枚は下らないと言われてますからね」


「……」


  商人さんたちは食事が終わったらしく、席をっていった。




「アンジェラさん、ドラゴンの生血いきちなら持ってるんですけど、それでエリクシールできますかね?」


「ドラゴンの生血いきちなら可能性はあるわよ。可能性だけだけど」


『あのドラゴンから血が抜ければ、大量にドラゴンの血が手に入るはずだ。それを使って何度も試してみたらなんとかエリクシールに近いものができないものかな』


「どうしたの、ショウタ?」


「いえ、シャーリーとおんなじくらいの年の子が苦しんでるのを見捨てるの寂しいでしょ。まあ、エリクシールが手に入れば大儲けですし、いざという時にも役立つ。それにエリクシールって名前にロマンがあるんですよ。私的には」


 これって明らかにイベントフラグでしょ。回収、回収。


「王都でエリクシールに挑戦するんなら、私の知り合いに頼んで場所を貸してもらうから、その時は遠慮えんりょせず言ってね」


「ありがとうございます。アンジェラさん。その時はよろしくお願いします」


「気にしないで。お安いものよ」




「シャーリーどうした?」


 悩める年頃の少女に声をかける。食べてる手が止まってるぞ。


「皆さんが、ドラゴンの生血いきちとかエリクシールがどうとかお話しているもので、びっくりしちゃって」


「気にしないでいいぞ。ドラゴンの血があれば大儲おおもうけできるかもって話だからな。それよりシャーリーお代りはいいのか? いつも言ってるけど、遠慮はするなよ」


「ご主人さま、ありがとうございます。もうお腹いっぱいになりました」



「それじゃあ、そろそろ部屋に戻りましょう」


 半分寝ていたヒギンスさんを起こしてそれぞれの部屋に戻ることにした。




 部屋に戻って、寝間着ねまきに着替えベッドに横になってぼーとエリクシールのことを考える。


 アスカは自分のベッドに腰を掛けてじっとしている。アスカはいつもこんな感じで、横になることはめったにない。どういう時に横になるのかはわからない。アスカ的に横になるには何か理由があることなのだろう。


『ドラゴンがなー。デカいだけのドラゴンだったからなー。まあ、それは仕方ない。そうそうエンシャントドラゴンなんぞいるわけないもんな。それよりどうやって血を採るかだよ。問題は』


 収納庫の中に意識を向ける。


『これがあのドラゴンか。【黒龍ソーンダイク】名前だけは大層たいそうだよな。それで、こいつはどれくらい血があるんだ? でっかいから、本体を二百トンとすると、血が五パーセントとしても十トンぐらいになりそうだな』


『何とかなーれ、何とかなーれ。こうドラッグアンドドロップみたいにできんかなー』


「この世界は、剣と魔法のファンタジー世界なんだ。イメージ力さえあれば何でもできる!」


「マスター、夜中に独り言は良くないですよ」。注意されちゃった。


「すみません。以後気を付けます」


『こー、こんな感じでドラゴンの血を意識、意識。意識! それを動かすイメージ、うーと。うーと!』


 おお! 手ごたえ感じてきたぞ!


『ドラゴンの血を意識、意識。意識! イメージ、イメージ。うーと!』


 集中して掴むんだ。血を1つの物として掴むんだ!


『ドラゴンの血を意識、意識。意識! うーと、うーと。』


 掴むんだ!


『うーーと! そこだー!! うおおお!』


「で、でけたー!!」


 血の塊が収納されてる。名前は「黒龍ソーンダイクの血」二十四立方メートル。比重1で血の量を五パーセントとして逆算するとやつの体重は五百トン弱! あいつデカかったけどこんなにか。


 取り敢えず、「鑑定」いっとくか。


「黒龍ソーンダイクの血」二十四立方メートル。

 あらゆるものをいやすエリクシールの素材となるエンシャントドラゴンの血。

 そのまま飲んでも、ある程度の効能はあるが、エリクシールと比べかなり劣る。


 なにー?! あのドラゴン、エンシャントドラゴンだったー!!


 エンシャントドラゴンの血二十四立方メートルでどれだけ出来るのエリクシール? 確かポーション瓶三本分の血で、エリクシール一本だったから、全部エリクシールに使っちゃたらどうなるの? 暗算はむずいから、アスカお願い。


「アスカ、起きてるか?」


「はいマスター。マスターの寝言ねごとで起きてます」


 すみません。最初から寝ないくせに一言多いやつだ。


「今から言う計算してくれる? 二十四立方メートルをポーション瓶三本分の百五十ccで割るといくら?」


「十六万になります」。エリクシール十六万本!


「十六万に五千掛けたらいくら?」


「八億です」


 大金貨八億枚!


 この国の国家予算はいくらかわからないけど、きっとそれを軽く超えてると思うぞ。とんでもない金額だ。


「サンキュー、アスカ。ありがとう」


 おったまげたなー。今夜、もう寝れないんじゃないか? 黒龍ソーンダイク、彼は実にいいヤツだった。


 今度は、この血の塊を小分けしたいな。せめて瓶に入れないと。


 空の大瓶が六本、六十リットル分あるからこれにはいればいいんだが。だけど、瓶は一度、水で洗った方がいいよな。全部使っちゃったから他にきれいな瓶がないしな。しかたない、小分けは後にして、一度水で練習しておくか。


 収納庫の中で水の入った樽から、大瓶へ水を移動。おお、うまくいったようだ。フー。多目に移すと残りは、新しく小さな水の塊になるようだ。


 この小さな水の塊を元の樽へ、樽へ、うーと移動。


 よし。


 繰り返し、練習だ。1、水を掴む 2、水を瓶まで移動 3、余った水を樽にもどす。


1、水を掴む 2、水を瓶まで移動 3、余った水を樽にもどす。


1、水を掴む 2、水を瓶まで移動 3、余った水を樽にもどす。


1、2、3。 1、2、3。 1、2、3。 1、2、3。 だいぶ慣れて来た。


1、2、3。 1、2、3。 1、2、3。 1、2、3。


 今度は逆に、瓶から樽へ


1、水を掴む 2、水を樽まで移動


1、水を掴む 2、水を樽まで移動


1、2。1、2。1、2。1、2。


 調子出て来たー


1、2、3。 1、2、3。 1、2、3。 1、2、3。1、2、3。 1、2、3。


1、2。1、2。1、2。1、2。1、2。1、2。


 ……


 十分慣れたんじゃないか?


 次は、純水を入れた樽から大瓶に水を移す。そして、空の樽にその水を移す。全部の大瓶で繰り返し、最後に、エンシャントドラゴンの血の塊から血を大瓶に移して出来上がりだ。


 ……。


「マスター、寝ないんですか?」


「そろそろ寝ます」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る