第55話 冒険者ギルドにて、勇者一行の噂


 八角棒を使った実戦訓練は、でき上がりが好ましくないという理由で熊を仕留しとめただけで中止した。結局のところいつもの狩りを終え、久しぶりに冒険者ギルドに顔を出すことにした。ギルドに入る前、カッコ付けのため『神撃の八角棒』を手に持つのを忘れない。


 ジェーンさんの窓口が空いたのを見計みはからい、そちらに向かう。


「こんにちは、ジェーンさん」


「おや、珍しい。ショタアスのお二人。どうしましたか? あれ、手ぶらで武器を持たないショウタさんが今日はゴツイの持ってますね」


「ちょっと考えがありまして」


 考えも何も、カッコ付けに持っているだけなのだが、意味ありげに八角棒をでてみる。


「で、お尋ねの答えですが、ジェーンさんも暇そうなので、何か面白いお話をしていただけるかなと」


 相変わらず失礼なことを平気で言うショウタである。


「私は、暇ではありません! そんなことないでしょうって顔をしないでください。まあ、正直なところ暇なんですけどね」


「どうかしましたか?」


「ここ一、二か月ほどで、キルン周辺の薬草が減って来て、みんなダンジョンの方に行ってるんですよ。浅いところなら危険も少ないし今の地上よりいくらか稼げるとかで。おかげでこちらは閑古鳥かんこどりです」


 薬草が減ってる心当たりがあるよ。マッチは俺かも知れんが、ほっかむりしてたら、セーフだよね。今さらどうしようもないし。大量に集めた薬草は自家消費じかしょうひでどこにもおろしてないし。


「そんな状況が続いたら、ジェーンさんもダンジョン前に異動じゃないですか?」


 ここは、第三者にてっするべき場面だ。


「嫌なこと言わないでください。私はここがいいんです!」


「それはそうですよね。それじゃあ、そのことは忘れて何かいい話でもありますか?」


「そうですねー。そういえば、勇者さまが召喚されたって話知ってます?」


「いえ、ぜひ教えてください」


 こっちの話も覚えあるよー。


再来年さらいねんは、『魔界ゲート』が開くと言われている年なんですが、それに備えて第2王女のマリア殿下が勇者召喚を行なったんですよ。その時一緒に、勇者さまを支える賢者さま、聖女さまも召喚されたそうなんです」


「それで?」


「王都からキルンにやって来た商人さんからの話らしいんですけどね。先日、そのことを国民に知らせる国王陛下のお言葉と、勇者さま方をお披露目ひろめするパレードが王都で行われたそうなんです。

 それはもう勇者さまの凛々りりしいお姿ときりりとしたお顔が素敵すてきで、パレードを間近まぢかで見ていた女性はみんなうっとりしていたそうですよ。

 それに付き従う、賢者さまと聖女さま。賢者さまは女性の方なんですけどね、お二人ともおしとやかでお美しい方だったとか」


「?????」


 クエスチョンマーク五つだよ。何それ? 俺の知ってる連中とは完全に別人じゃん。


「そうだったんですか」


「これからしばらく、勇者さま方は同盟国や協力国に挨拶回あいさつまわりするんですって。キルンへも立ち寄ってくれないかなー」


 うっとりしたような顔で、無駄話むだばなしを続けるジェーンさんを隣の受付の女性があきれた顔で見てるよ。あっ、違った、話に入りたいんだ。仲の良いようで何より。


 しかし、あの勇者が凛々りりしい? きりりとしたお顔? ないない。


 賢者と聖女の二人とも、おしとやか? 美人は認めてもいいが、おしとやかはないだろ。


 何がどうすればそう見える? 本当に勇者たちが生まれ変わったように真っ当になったのならこの世界にとってすごくいいことなのだと思うが、果たしてどうなっているのか。噂話うわさばなしは伝言ゲームみたいなものだけど、ここまで話がひずむのか?


 ちょっとは気になるし、俺も観光がてら王都に行って連中の様子ようすを見てくるかな。


「いやー、面白いお話ありがとうジェーンさん。ジェーンさんが、ダンジョン支部に飛ばされたら寂しくなるんで、ジェーンさんが仕事してるようにまわりから見えるよう。これからはしょっちゅう顔を出しますよ」


「もう、せっかくいい話を教えてあげたのに。もう来なくていいわよ」


「ハハハハ」


 笑いながら、俺たちはジェーンさんの一般窓口から、今度は買い取りのオスカーさんの方にまわった。


「アスカ、今の話どう思う?」


「私は、その勇者なる人物も、賢者、聖女も会ったことが有りませんので何とも言えません。ですが、マスターが違和感を持つというなら、確かめればよいのでは」


「どうやって?」


「行き違いになるかもしれませんが、王都に行ってみればよいのではないですか? 私も、王都見物が楽しみですので」


 結局、そっちかよ。




「オスカーさん、いますー?」


「なんだ、お前らか」


「オスカーさんも、暇してたんでしょ。最近めっきり冒険者が減ったって。そこで、われわれがオスカーさんが仕事ができるよういろいろ持ってきましたよ」


「ありがたいんだろうが、どうもな。それで今日は何を持ってきたんだ?」


「色々ありすぎて困ってるんですが、逆にどんなのがいいですか?」


「言ってることが良くわかんないが、そうだな、レベル2ぐらいのモンスターかな」


「レベル2というと?」


「それも知んねえのかい。ここらだと、オーク、ポイズンスライム、ジャイアントワスプそんなとこか」


「残念、そいつらは、持ち合わせがありませんね」


「持ち合わせ?」


「いえ、私はご存じの通り非常に性能の良いアイテムバッグを持ってますから、いつもかなりの在庫を持ち歩いてるんですよ。代わりに、ヒュージスパーダー、カメレオンバイパー、虹ガエルなんてのはどうですか?」


 この際キモそうなのを全部放出しよう。


「そいつらは全部、レベル3のモンスターだ。Bランクの連中がパーティーでたおすようなモンスターだぞ! そういやお前らもBランクのパーティーだったな」


「それじゃあ、どこに出せばいいですか?」


「ん、そこに出していいぞ」


「いいんですか? 大きいし、多いですよ」


「またか。そんじゃ裏の解体所かいたいしょに頼む」




 解体所の作業台の上はとぐろを巻いたカメレオンバイパー一匹でいっぱいになり、ゆかにも二匹ほどカメレオンバイパーが並んでいる。


「まだあるのか?」


「それなりに」


 長いものは生理的に受け付けないので、早めに処分したい。まだ十匹以上残っている。


「一匹一匹が思ってたよりかなり大きい。こいつら、どこで仕留しとめたんだ? 言いたくなきゃいいけど」


「そいつらは、たしかちょっと前に大森林に調査に行った時の物です」


「そうか、大森林のまん中までいけば、こんなヤツらがいるんだな。これ以上出されると今日中に作業が終わらない。素材がいたんじまうから、今日はこれくらいで勘弁かんべんしてくれ。

 いや待て、ちょっと前って、お前らが調査に行ったのは、かなり前じゃねえか! こいつらさっき死んだくらい新鮮だぞ」


「間違えました。それは、今朝けさって来たものです。そういうことなんで、そのうちまたお願いします」


 あぶねー。ここまでしてると、いまさらだけど、また俺の収納庫の秘密に気付かれるとこだった。


「ほんとかよ。まあ、お前さんらのことで、いまさら驚かねーよ。魔石はいつも通り無いんだろ。そんじゃ、今日の受け取り料は手間賃を引いてこれくらいだ。この伝票持って行ってくれ」


 オスカーさん、いまさら驚かないって言っててもドラゴン出したら驚くでしょ。出さんけど。


「ありがとうございます。あっ、そういえばオスカーさん、熊いりません? ちょっと傷んじゃったんで、引き取ってくれれば、無料で進呈しんていしますよ」


「ちょっと傷んだって、見せてみろ」


「これなんですが、足と頭を吹っ飛ばしちゃって、血みどろで自分じゃ要らないんでもらってください」


「これくらいは、傷んだうちに入らねーが。こりゃ灰色グマじゃねーか。この大きさなら、レベル2のモンスターより硬いし強いぞ。それをどうやったら頭が吹っ飛ぶんだ? まあいいや。ほんとに貰っていいんだな? こいつなら肉もうまいしかなりの値がするぞ」


「どうぞ。それではまた」


「わっかんねーやつらだなー」


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