第52話 勇者一行王都へ


 ショウタが黒龍をたおしたころ、訓練もおろそかにしたままの勇者だったが、王都では召喚された勇者一行の国民へのお披露目ひろめが政治的理由で決定された。


 いわく、刻々と近づく『魔界ゲート』の解放におびえる人々にできるだけ早く、希望のひかりを見せること。有形・無形の援助をしてくれている同盟各国を安心させるため、どうしてもこの時期に勇者一行のお披露目ひろめを行う必要があったのだ。


 お披露目ひろめは国王からの祝福の後、天蓋てんがいを取り払われた馬車による王宮から王都西門まで大通りでのパレードを予定している。




「トリスタン騎士団長、ご苦労さま。それで勇者さまたちの訓練は相変わらずですか?」


 テンペラ宮の一室、例のごとくマリア王女がトリスタン騎士団長と勇者たちの今後について話し合っている。


「申し訳ございません」


 トリスタン騎士団長のその言葉にあきらめ顔でうなずくマリア王女。


「王都より勇者さま一行をなるべく早いうちにお連れするようにと催促さいそくが来ています。今のところリーシュ宰相からの催促さいそくですから少しは引き延ばせますが、引き延ばしてもあまり意味はなさそうですね」


「残念ですが、これ以上訓練の成果は期待できません」


陛下へいかに何と説明すればよいやら。誰かに代わってもらいたい」


「……」(早くに王都に戻ってこんな苦労を知らないマーロン魔術師団長がうらめしい)


「しかし、先日冗談じょうだんで言っていた影武者かげむしゃについて真剣に検討する必要がありますね。実行するにせよ、しないにせよ影武者かげむしゃはあらかじめ用意しておきましょう。いかがですかトリスタン騎士団長?」


賢明けんめいなご判断かと」


「トリスタン騎士団長、誰か心当たりはありませんか? 見た目が立派で礼儀をわきまえた人物を」


うわさに聞いたのですが、リーシュ宰相の身内の青年が田舎いなかから出てきてキルンで冒険者を始めたそうです。聞いた話では、少なくとも見た目だけは立派な青年のようです。宰相の身内でしたら礼儀作法れいぎさほうについては全く問題ないかと思います」


「それは好都合だわ。トリスタン騎士団長の第2騎士団から適当に見繕みつくろってもいいかと思っていたのですけど、騎士では王都で身バレする可能性がありますから、田舎いなかから出て来た青年というのは好都合です。さっそくその方に接触して、影武者かげむしゃを引き受けてもらってください」


「かしこまりました。すぐに手配いたします。それで勇者さまは良いとして、ほかのお二方はいかが致しましょう?」


「賢者さまと聖女さまは比較的まともなのでしょう? ただお召し物が奇抜きばつなだけで」


「そうといえばそうなんですが、ここは思い切って影武者の準備だけでもしておきませんか?」


「そうですね。見た目が良いに越したことありませんからね。それではそちらの準備もお願いします」


 こうして、勇者影武者作戦『見た目が良ければいいじゃないか』が発動したのだった。




◇◇◇◇◇◇◇


「……というわけで、勇者さま、賢者さま、聖女さま、明後日には王都に出発しますので、よろしくお願いします」


「いいんじゃねーかー。ちょうどここの生活に飽きてきたことだし。新必殺技も行き詰ってるから気分転換きぶんてんかんになるっしょ」


『青き稲妻の大剣』をいじりながら興味なさそうに返答する勇者ヒカル。


「王都って大きな街なんでしょ。そしたらあたしの小道具売ってるかなー」


 ミニスカート姿で、相変わらず爪を気にしている賢者サヤカ。


「サヤカの欲しいものくらい、王都っていうくらいなんだから売ってるんじゃない? 私はちゃんとした甘いものが食べたい。スウィーツ欲しい」


 そして、こちらもミニスカート姿だが、比較対象があれなので比較的常識?を持ち合わせた聖女モエ。


(こんな連中でも勇者さまご一行。マリア、アデレード王国のため。世界のため。ここは我慢がまんだ。だけど、果たしてこんな連中を陛下に拝謁はいえつさせて良いのだろうか? そもそも、陛下にちゃんと拝謁はいえつできるのだろうか? やはり影武者は必要だ。彼らは『魔界ゲート』だけ閉じてくれさえすればいいのだから。そうよ、これこそ分業ぶんぎょう適材適所てきざいてきしょだわ)


「賢者さまの小道具は私には分かりかねますが、王都にはたくさんのお店がありますから、その小道具や甘味かんみもきっとあると思います」


 引きつりながらもにっこり笑うという、高難度こうなんどの技を駆使するマリア王女。

 

 彼女は、勇者たちを自分たちの都合で強引に召喚した手前、かなり下手したてに出ているのだが、さすがにもう我慢がまんの限界に近い。ここに長居ながいしていては、なにかとんでもないことを自分がしでかしてしまうのではないかと思い、早々にその場から立ち去った。



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