第37話 サスアス説明回


 初日は、途中、軽く串焼きを食べながら水を飲んだだけで十時間駆け続けた。あたりが暗くなり始め、ようやく街道のわきにあった空き地で、一晩すごすことにした。


「アスカさん。このテント組み立てられる?」


 野営やえい用に購入した二人用テントを収納庫から取り出し、アスカに見せる。


「多分、大丈夫だと思います」


 そう言ったアスカは、テントを持ち上げ、ひっぱったり伸ばしたりして珍しく苦戦しているように見えたが、気が付いたら立派にテントが組みあがっていた。


「マスター、四隅をロープで固定するようですが、何か固定具のようなものがありませんでしたか?」


 すまん、テントの部品がまだ残ってた。


 収納庫の中にまだテント用の杭が四本残ってたので、アスカに渡すと、それを地面にブスリと突き刺し、器用にロープを結んでテントを固定した。サスアス、ロープの結び方まで知ってるのか。


 次は、俺の収納庫から有り余る丸石を二十個ほど取り出し、ぐるっと円く並べて、どこかで買って忘れていたまきをその中で適当に組んだ。そのあと、そこらに落ちてた枯れ葉をまきの下に突っ込み、たった一つ俺の使える魔術、指先ライターで火をつけた。意外と指先ライター便利。ハズイ呪文は小声でね。


 最初、煙が立ってむせたが、すぐに火がおこり、煙も薄くなった。 


 視界の隅のミニマップによると、近くに何らかのモンスターか、けものがいるのが分かるが、動きは緩慢かんまんで俺たちに気付いているわけではなさそうだ。いずれにしても、アスカを突破して俺に危害を加えるような外敵がいるとは思えない。ラノベなんかでよくある、範囲攻撃はんいこうげき?そんなのを撃たれたらまずいかも知らないが、それすらアスカなら何とかしてくれそうだ。


 昨日きのう買った、でき合いの料理の皿を何個か取り出し、アスカと分け合って食べた。こんなのも、新鮮でいいな。


 アスカは寝る必要がないので、たき火の火の番と見張りをしてもらう。俺はテントの中で毛布を広げ、横になる。構図的には、俺だけ楽をしているように見えるが実際そうなので、そうなのだ。


 横にはなってみたものの、すぐには寝付けないので、たき火の前に座るアスカのところに行って眠くなるまで話をすることにした。


「アスカ、おまえの攻撃方法、基本刺突しとつ斬撃ざんげきじゃん。どうしても、血がかよってる相手だと血が飛び散って周りも汚れるし、でき上がりがあんまりきれいじゃないだろ。何か格闘術かくとうじゅつ? 殴ったり、蹴ったりして、相手を倒す方ができ上がりがきれいなんじゃないか?」


こぶしによる打撃や脚部による攻撃は可能です。例えば、拳による打撃をある程度手加減したうえで中級程度のドラゴンに行なったとします。ある程度の手加減では、拳が相手を貫通し、しかも攻撃は音速をどうしても超えてしまいますので、発生した衝撃波で、相手方は爆散してしまいます。ですから、マスターのおっしゃるでき上がりのきれいな攻撃方法というとやはり、指先と髪の毛を使った刺突しとつ斬撃ざんげきということになります。もう少し、手加減てかげんができればいいのですが、いったん相手を敵と認識してしまいますと、どうしても手加減が難しくなりまして」


 わかりました。


「戦闘で手加減なんかする必要ないから今のは気にしないで。それじゃあ、逆に一番強い攻撃は何になるの?」


「それは、全力で突進したうえでの打撃です。しかし、地上では、よほどの硬度こうどと強度のある路面の上でないと、路面自体が私の全力の突進の反動に耐えられません。要するに、路面に足がはまり、全力での突進が出来なくなるのです。その代り、ダンジョンの中のボス部屋などの、足元がしっかりしている場所ですと、全力での突進が可能になります。今まで、全力で戦わなくてはならないような相手に出会ったことがないので残念です。そのうち出会いたいのですが」


 うちのアスカさんは実は戦闘狂でした。


「そういや、アスカのその髪の毛って何本くらいあるの?」


「私の髪の毛は人の髪の毛と比べるとやや太めですので、約八万本としています。増減は可能ですがこれ以上増やしますと見た目が不自然になります。現在の設定では、内一万本を攻撃用。残りをマスターの防御用に割り振っています」


「そうなんだ。ちなみに、俺に向けられた火の玉や矢なんかは防いでもらってたけど、強力な魔法攻撃なんかも防げるの?」


「防御用に割り振った髪の毛でマスターの周囲に球形の繭のようなものを作成します。ほぼ一瞬で展開できますので、物理系魔法攻撃はほぼ百パーセント防げます。精神系の魔法についてもある程度は防げると思います。ただ、気体系の攻撃の防御はできません」


「気体系?」


「はい。致死性ちしせいのガスや、窒息系ちっそくけいの攻撃です。ですが、マスターのPAはそれなりに大きいので、そのPAが削りきられる前に、私がマスターをかかえて、安全な場所に逃走することは可能です。その前後で、必ず私が相手方を撃破げきはしていますから、マスターが死ぬようなことは決してありません」


「そうか。やっぱりアスカは頼りになるな。俺の守り神だ」


 サスアス、思った通り魔法攻撃からも俺を守ってくれるんだ。しっかりヨイショしとこ。


「あと、不思議に思ってたんだけど、切り取った薬草を髪の毛で運ぶよね。そん時、薬草が髪の毛で切れてちぎれないのがどうしてかなあって」


「この髪の毛の断面は、円形ではなく、楕円形をしています。斬撃するときは、細い方の面を相手に向けて斬撃します。物をつかむようなときは、平たい方の面を向けます。その時、若干ですが、物を掴んでいる部分をさらに横に広げ、かかる圧力を軽減します。刺突する場合は普段丸みを帯びた先端を少し尖らせています」


 サスアスが更に深まった。そして俺の小さな疑問も解けました。


「そろそろ眠くなったから寝るな。後はよろしく頼む」


「了解しました。私がマスターのそばにいる限り決してマスターが危険にさらされることは有りませんから安心して就寝してください」



[あとがき]

『ASUCAの物語』(42話、11万字)アスカ誕生前後を描くSF。よろしくお願いします。https://kakuyomu.jp/works/1177354054916821848

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