第28話 全然信じてない


 ここは、キルンの冒険者ギルドのギルマスの執務室しつむしつ


 部屋にいるのは、この部屋の主人、元Aランク冒険者、『はがねの肉体を持つ男』『鉄腕てつわんギリガン』ことサイモン・ギリガン。本人の前でこの二つ名を言う勇気のある者は、この迷宮都市にはいない。


 先ほどから黙って報告を聞いていたギルマスの機嫌きげんが明らかに悪くなってきているのを、報告を続けながらもひしひしと感じているBランク冒険者のゴラン。


 ゴランは、ショウタ達と別れてしばらくして再起動し、先ほどギルドに帰還し休む間もなくギルマスの執務室にやって来て報告をしているところである。



「するってえと、ゴランの旦那だんなの話を要約すると、どちらもEランクの二人組の冒険者が、ゴブリンの中規模集落を殲滅せんめつしたってことか? ええ? ゴランさんよ。

 俺は、おまえのことを前々から高く買ってたんだぜ、もう一、二年もすりゃAランクに手が届くだろうって思うぐらいにはな。それが、何だー、Eランクの二人組? ゴブリンがジェネラル含めて消えたー? ゴブリンの小屋が全部吹っ飛んだだとー」


「ギリガンさん、ほんとにこの目で見たんです。うそなんかくわけないじゃないですか。斥候せっこうの仕事をまだ続けたいんですよ」


「分かった。嘘はついてないんだろう。おまえは、ゴブリンシャーマンかなんかに幻を見せられたんだ。もういい。別のやつを斥候せっこうにやるしかないな」


「待ってください。全然信じてないじゃないですか。ゴブリンを消したEランクの二人組は、一人は坊主頭で確かショウター、もう一人はアスカとか言ってました。アスカてのはフードをかぶってましたが女です。そいつらが、このギルドに登録しているかどうか調べてください。もし、ここの冒険者だったら、ゴブリンシャーマンが名前を知ってるわけありませんから」


「そうだな。まあいい。おーい。ローザいるか?」



「はい、何でしょう」


「うちのギルドにショウターとアスカとかいう二人組が登録してるか調べてもらいたいんだが」


「それでしたら、調べるまでもありません。そのお二人は、先日当ギルドに登録しています。名前は、ショウターではなくショウタですね。結構優秀だそうで、受付あたりでは評判ですよ。何でも、魔狼まろうたおしたそうで、登録したその日にEランクに昇格してます。

 そうそう、ショウタさんは登録前に、Cランクの男に絡まれたのを返り討ちにしてたそうです。それを間近に見ていた受付の女の子も、とんでもない男が登録に来たというんで、ビビってたところ、結構礼儀れいぎ正しくて驚いたって言ってました」


「そいつらが、今どこにいるか分かんねーか?」


「今どこにいるかは、一般依頼を遂行中なら分かるかもしれませんが、Eランクですと大抵は、違約金の発生しない、常設依頼をこなしていますので居所いどころを探すのは難しいかと。確か宿屋を探しているとかで『森の泉亭いずみてい』を紹介したと受付の女の子が言ってましたから、普段はそこに泊まってるんじゃないでしょうか」


「何でもいいが、おまえ、よくそんなどうでもいいこと覚えてんな。感心するよ。それはそうと、誰かをその宿屋にやって二人を連れてこい。いないようなら、こっちに来るように言伝ことづけてくれ」


「はい。うけたまわりました。二人を登録したジェーンさんに行ってもらいましょう」


「そっちは任せた。

 で、ゴラン。その連中は相当できるヤツらには違いないようだが、そいつら、お前が見てて、はっきりしてやってたことは、駆け足してただけなんだろ?」


「まあ、そうなんですけど。信じてくださいよ」


「二人組が来れば、はっきりするさ。お前は休憩室で少し休んでろ。ご苦労くろうさん。何かあったら呼ぶから、ギルドの外には出るなよ」


「分かりました」





『なかなか使いが戻ってこない。あの宿屋はすぐ先だろ。しかし、ゴランだって伊達だて斥候せっこうを長くやってたわけじゃないしな。

 全く、話が見えん。勝手に消えてなくなるゴブリンに吹っ飛ぶ小屋? 挙句あげくは駆け足二人組? うーん。

 ゴブリンの集落が無くなったっていうのが本当なら、一安心なんだがなー。

 いかんな、独り言が多くなった。茶でも飲むか』


「おーい。ローザいるか? お茶を一杯頼む」


「少々、お待ちください」


 ……


「お茶をお持ちしました」


「あんがとよ。それで、ジェーンはまだか?」


「まだのようですね。あせっても仕方しかたがありませんから。どっしり構えて、まった書類を片付けててください」


「そこは、どっしり構えて、座っててくださいだろうが」


「立って書類を片付けろとは言ってませんよ」


「わーったよ」





[あとがき]

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