そして彼は神になる

藤川ウメ

 太陽が沈む地に、ひとつの墓所がある。

 石造りの墓標の裾には二匹の犬がいて、彼らはその場を守るように度々辺りを徘徊しては喉を鳴らしている。どちらも毛色は真っ黒で、一匹は金色の、もう一匹は深い赤色の目を持つ者。

 何度目かの、一通りの巡回を終えて二匹は石碑を挟むように左右に別れて身体を休めていた。少しだけ背を丸めて、けれどすぐに立ち上がれるように、異常を知らせる耳と鼻のセンサーはピンと立てたままで。

 風の音と砂の匂いはいつもと変わらぬ日常であることを二匹に報せてくれる。これは地上に棲む二柱の神が争っている印だ。いつもと同じ、変わらぬ毎日。


 変わらぬものは、それだけではない。

 暫くすると地底から黒い靄が湧き出るように現れれば、それは石碑と互いの姿を霞ませていく。ぴくり、と鼻先を震えさせたのは同時だった。二匹の間――石碑の前に〝彼〟は姿を見せる。

 一目だけ見れば人間と同じ姿をしているが、圧倒的に違うのは、彼が煌びやかな装飾を身に着けていること。首と手足、それから髪を彩る金色は、陽光を浴びて輝く大地の砂の色であり、この世界を象徴する輝きの色だ。

 この色を纏うことを許されているのは神のみである。

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