炎上アイドル殺人事件簿

関口 ジュリエッタ

第1話 炎上アイドル殺人事件

 人が混み合う夜の街で今夜、熱く激しいライブがこの都会の街で開かれていた。

 ライブでは人気アイドルグループ『ミックス』という五人の男性ユニット達だ。

 このグループのメンバーでリーダーのリュウが最後の曲が終わり、盛り上がっているファン達の声援に応えた。


「最後まで応援してくれてありがとう! 今夜は最高のライブだったよ」


 さらにファン達は物凄い歓声を上げて賑わう。

 だが、リュウが率いるミックスはステージの舞台裏に帰ろうとしたとき、事件は起きた。

 会場から響き渡る物凄い爆発音と共にステージが激しい炎で燃えさかる。

 観客達は何が起こったのかと一瞬ピタリと静寂したが、燃え上がるステージから炎をまとった人物五人が藻掻もがき暴れ出している姿を見たファン達は一斉に甲高い奇声きせいを上げて場内が大パニックとなった。

 直ちに会場のスタッフ達が急いで観客達を外に出し、消化器を使って燃えさかるステージ上を鎮火ちんかさせようと作業に徹した。


「任務完了」


 観客に紛れていた黒ずくめの人物が、薄気味悪い笑顔をしながらライブドームから去って行った。



 翌朝。清々すがすがしい天気の中、この俺与沢拓実よざわたくみはキッチンで朝食の準備を始めていた。

 今日の朝食はハムエッグに白米と野菜たっぷりの味噌汁。

 手際よく料理を作り、それを食卓に並べ終える。


 (まだ未来みらいの奴、寝ているのか……)


 ため息をついてリビングのドアを開け、二階に上がり恵のドアをノックする。


「未来、起きているか? 朝だぞ起きろ!」


 するとガチャリとドアを開けてグシャグシャの寝癖ねぐせだらけでピンクの雨模様柄あめもようがらをした寝間着姿の未来がまぶたを重そうにして俺を見る。


「……おはよう……お兄ちゃん……寝る」

「おいおい! ダメだ!」


 扉を閉めようとする未来の腕を掴む。


「今日は日曜日だよ。学校は休みなんだから寝かせてよ」

「ダメだ、顔を洗ってこい!」

「ぶぅぅぅ、わかったわよ」


 ハリセンボンのように頬を膨らませて嫌々洗面所に向かって行った。


 未来は一応、高校三年生で大学を受験するって時にあんなだらしなくて大丈夫なのだろうかと俺は嘆息たんそくを漏らした。

 俺が二階から降り、リビングに戻ると、リスのように頬を膨らませながらむしゃむしゃと俺の作った料理をたいあげる黒髪ポニーテールの美女がいた。

 女性の名は桐島南きりしまみなみ。二十四歳で俺の二つ年上のOLだ。性格は俺の妹並みに子供っぽいが、会社では役職をもっているバリバリのカリスマ。普段も会社のようにきっちりした姿でいてくれたらいいのにと、つくづく思ってしまう。


「どうして人が作った料理を食べているんだ?」

「いいじゃない。それに三人分の食事が置いてあるということは、私の分もあるって事でしょ? もう素直じゃないんだから」


 少し怒りを感じたが、グッと耐えた。


「ていうか仕事はどうしたんだよ?」

「ああ。今日は有給休暇を取った」

「働けよ……」


 俺は自分の席に腰を下ろして食事を始めた。続いてリビングにやってきた未来も食事も始める。

 南がテレビを付けると昨日起きた男性アイドルの殺害事件が大々的に取り上げられていた。


「物騒な世の中になったわね……しかもこの事件の犯人が同一人物って言われているじゃない」

「そうだな。まあ、アイドルなんて皆死ねばいいんだ」

「ちょっと! 未来ちゃんのいる前でそんな事言わないで!」

「ちっ、わかったよ。食べ終わったら流し台に置いておけよ」


 イライラしながら俺はリビングから出て行く。

 何故アイドルが嫌いかというと二年前、俺には頼りになる姉がいた。

 両親を若くして無くした俺たち三人は姉が母親代わりに育ててくれた。そんな姉がSNSで知り合ったナイトというアイドルグループのリーダにもてあそばれ自殺したのだ。

 そのリーダーはいつもSNSで炎上がつきない最低な野郎だった。

 俺はフリーライターでいつも自宅で仕事をしている。

 部屋に閉じこもるが、今回はライターの仕事よりも、憎きアイドルグループのリーダー、テルのSNSに書き込みをする。

 俺は自分の姉を殺した憎きアイドルグループリーダーのSNSで姉についての事を書き続けていた。

 そのかいもあってか、俺の書いた内容がSNSでナイトのファンに拡散されて全国に知れ渡り、グループは解散、ここしばらくの間はアメリカで活動を余儀なくしたのだ。

 憎しみ込めてSNS書き込もうとしたとき一通のメールが届いた。

 メールを開き内容を見ると、何とナイトのリーダーであるテルから今夜、日本に訪れるので直接会いたいと言ってきたのだ。

 急いで返信して今夜近くの公園で会うことにした。



 それから夜になり、晩御飯を済ませて身支度をし、近くの公園に足を運んだ。

 五分くらいして公園に着くと帽子とサングラスにマスクを付けたジャケット姿の男が立っていた。

 俺が来たこと気付いたマスク男は俺の元へ寄ってくる。


「君はアルマジロくんかい?」


 SNSで俺はアルマジロとなっているのだ。

 帽子とマスクをサングラスを外し俺に顔を見せた。

 金髪のイガイガ頭に吊り目の強面系の美男性。間違いなく元アイドルグールプのリーダーテルだった。


「ああ、そうだ。お前のことはずっと憎んでいた。今こうして目の前に現れると殺したくなる気分だ!」

真美まみには辛い思いをさせてしまった事は反省している。だからアメリカから日本に帰国して弟の君に謝罪しに来たわけだ」


 テルは深々と頭を下げて謝罪していたが、俺は憎悪で爆発寸前だった。


「別に謝らなくていい、過ぎたことだ。だけどお前には罪を償ってもらう」


 そう言いテルにゆっくりと歩み寄ったその時、

「動かないで連続アイドル殺人鬼!」

「その声……まさか南!?」


 スーツ姿の南が俺に向かってリボルバーを向けてきた。


「あなたを拘束する!」

「ちょっと待て! 一体どういうことだ! 俺は殺人鬼じゃないぞ! それと南。おまえ!?」

「それは嘘よ。私は刑事けいじで毎日あなたを監視してたの」

「どうしてそんな事を!?」


 すると、後ろから見覚えのある少女が顔を出した。


「お兄ちゃん。いくら、お姉ちゃんのかたきだとはいえ、殺すのはやり過ぎだよ。それに炎上してるSNSのアイドル達も大量に殺して……私、そうやって人殺しをしているお兄ちゃんは見たくない……」


 顔を両手で押さえて泣く妹に、俺は近寄る。


「動かないで! あなたのしてきた事は包み隠さず未来ちゃんから聞いていたわよ。お願いだから投降して」

「俺は別に悪いことはしていない。誤解だ」

「お兄ちゃんのジャケットの裏を見ればわかります。爆弾を所持しているはず」


 俺はジャケットの裏から小型の爆弾らしき物を取り出す。

 周りの刑事やテルは慌てて後ずさりする。


「どうやら未来ちゃんの言う通りね。危ないから下がって――っ!?」


 後ろに視線を向けると未来の姿はなかった。


「未来ちゃん?」


「バイバイ。南お姉ちゃん、お兄ちゃん」


 突如、公園から物凄い爆発音と爆煙ばくえんが巻き起こる。

 公園の辺り一面が炎に包まれた。そんな中、二人だけ爆発から逃れられた人物がいた。テルと未来だ。


「ななななっなんで、どうなっているんだ!?」


 ガタガタ歯ぎしりさせながら恐怖で腰が抜けて震えるテルの前に、未来が近寄ってきた。


「これでテルは私の物になった」

「もしかして……君がやったのか?」

「そうだよ。炎上していたアイドル達も、ここにいた刑事や南お姉ちゃんとお兄ちゃんも、私が殺したの。それと


 そう今まで数々のアイドル達を殺してきた真犯人は未来だったのだ。


「どうしてこんな事を!?」


 未来は薄気味笑い、口を開いた。


「私は元々、あなたのファンだったの。それなのに真美の奴が私のテルを奪い取って……許せなくて首を絞めて殺したのよ! それから自殺だと思わせるために、部屋にロープを括り付けて真美の首をロープに掛けたの。後日、警察の鑑識の結果、失恋での自殺だと認められたの」

「ふざけるな! お前のせいで俺はグループが解散して一人アメリカで活動することになったんだぞ!!」

「あなたをアメリカへ行かせるはめになったのは、私じゃなくてバカ兄貴がSNSで拡散させるような内容を聞き込んだのが原因だったからじゃない。それに私もあなたと同じ被害者なのよ」


 この女の言っていることは事は、かなり危ないと感じたテルは、逃げるチャンスを探る。


「俺がアメリカに行ったせいで兄を殺したというのか?」


 すると満面に笑みで未来は口を開く。


「大正解。だけどただ殺すのもつまらないからある作戦を思いついたのよ。それが、炎。バカ兄貴は複数の炎上アイドルのアンチだったから、そいつらを殺したことにさせて真美の親友だった南に相談したってわけよ。こうも上手くいくとは思わなかった」


 けたたましい笑い声を上げるサイコパスの未来に、テルは恐怖で気を失いかけた。


「おまえ……自分の肉親を……」


 テルは這いずりながらこの場を逃走を計ろうとすると、

「だ~め。これからは仲良く私と暮らすの。逃がさないわよ」

「たっ、助け――ッ」


 テルの口をグッと手で掴み声を塞ぐ。


「次喋ったら……許さないよ。さあ早く私の家で暮らそう。テル」


 未来はボストンバッグからスタンガンを取り出し、テルの首に向け高圧の電撃を流し込んだ。

 


 黒いボストンバッグに気を失ったテルを入れて、爆煙が巻き起こる公園を歩きながら未来は闇へと消えて行くのだった。

 

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