毎回俺が凶悪犯にされる件について〜俺のかわいい妹が優秀で無能〜

シャトラ

一章「あなたが、犯人です!!!」

第1話 俺は犯人だけど犯人じゃない

「この街は何も変わってないなぁ……。ユイはどんな生活してっかなぁ、俺の顔覚えてねぇだろうなぁ……」


 俺は街の喧騒の中、妹ユイが待つトーマスの家に向かっている。

 トーマスとは古い仲で、信用できるやつだ。

 ユイは俺と9つ離れた妹。

 両親が死んでから俺は出稼ぎに傭兵をして、街で生活している妹に約8年間仕送りをしていた。

 つまり俺は今25歳で妹は16歳になる。

 8歳の頃のユイはめちゃくちゃ可愛かった。出稼ぎに行く日は「置いてかないで! 一緒に行く!」とボロボロ泣いて俺にしがみついていた。

 俺はユイを愛していると言っても過言ではない。

 ユイと結婚したい。早く同居してスローライフ送りたい。ほっぺをムニムニしたい。ぎゅーっと抱きしめてあげたい。俺の脱いだシャツの匂いをかいでる妹を発見して、バレて恥ずかしがってるところを見て興奮したい。変態か俺は。

 しかし、8年も開けていて男ができていたらどうしよう……。今のユイに会えると思うと期待と不安で俺の胸が張り裂けそう!

 などと考えるだけで足早になるのだ。

 俺はまさに今日の為に働いて来たのだから。


「きゃぁあああああああああああ!!!」


 突然路地裏の方から叫び声が聞こえた。


 急いで駆けつけると、そこには少女一人と倒れた大柄な男が二人。

 いや「もう一体」何かがいるッ!!

 闘気を爆発させ気配に向かって渾身の斬撃を放つ――


 極技きょくぎ一刀流――心眼一閃しんがんいっせん!!!


 肉を斬る手応えを感じた。激しい切断音に遅れてドサリと見えない何かが落ちる音がする。

 それと同時に気配はなくなった。

 心眼一閃とは暗闇で射程内の敵に斬撃を浴びせるスキルだ。


 敵はスキル、隠れ身の術ハイディングを使っているのかと思ったが……。

 斬った対象の気配が消えた事を考えると、見えない魔物の類だったのか?

 とにかく危険は去ったようだ。少女へと声をかける。


「大丈夫か?!」

「あ……あなたが犯人です!!!」

「……え?」


 少女から信じられない言葉が出た。

 俺が犯人? いや、確かに今何かを斬ったけど!

 ってなんか倒れていた男二人が「真っ二つに両断」されてるぅううう?!


「ちょ、ちょっとまってくれ、一旦落ち着こう」


 真正面には黒髪美少女。

 フリルの装飾がされたワインレッドのワンピース、それなりに裕福な暮らしをしていそうな格好の、目がぱっちりとした美少女がいる。

 いやほんとつぶらな瞳でそんなに睨みつけないで、俺は悪くないよ。

 で、俺がスキルを放つ前まで血が出てなかったはずの大柄な男二人が、なぜか両断されて血を流して死んでる。

 と分析している途中、後ろから声をかけられる。


「よぉ、あんちゃん何があったんだ? うほ、死体が二つ……本官が見るに、これは事件だな」


 誰がどう見たって事件ですよこれは。

 風貌からしてこの中年男は街の警備兵だ。

 これはまずい。助けに入ったはずの俺が犯人に仕立て上げられてしまう。


「えぇとですね、俺は叫び声が聞こえ――」

「この人がやりました!」

「今俺が話してたよね?!……どう見ても犯人は俺……っぽいけど俺じゃねーよ!!!」

「っぽいじゃなくてその通りなんです! あなたは剣を振りました! その直後二人の方が血を流して切断されました!」

「そうは言うが、俺は剣を振ったっていうか、空気を斬ったっていうか、ね?」


 気配は確かにあったし、手応えだってあった。

 だけど俺の心眼一閃しんがんいっせんは倒れてる人を斬る為のスキルじゃない。

 ましてや狙っていない。

 誰かにスキルを捻じ曲げられた?

 そもそもあの死体は本当に俺が斬ったものなのか?


 警備兵が問いかけてくるも勝手に黒髪の少女が答える。


「あんちゃんがスキルを使った?」

「あの人使っていました! なんかこう、体から気みたいなのがぶわって出て、光っていましたよ!」

「ぐぬぬ……使いましたよ! 使いましたけどもね、そうだ! そういえば! もともと二人倒れてたよね?!」

「何言ってるんですか? あなたが二人を倒したんでしょ?!」

「ファッ?!」


 俺が二人倒した? 俺が駆けつけた時には既に倒れてたはずだ。

 何かを隠しているのか? この女の子は嘘をついているのか?


「んん? まぁ、なんだ。よくわからんが、剣を持っているのはあんちゃん、斬られた死体が二つ。ということで逮捕する。いいね?」


 やばい、このままじゃ適当に俺が逮捕される。

 まだ何かないか、考えられる方法は……そうだ!


「スキル! 切断されていたのは間違いないが、風魔法や水魔法だったらどうだろう?!」

「おいおい……苦し紛れな言い分はよしときなあんちゃん」

「いいや、魔法でも切断できるはずだ。実際俺は戦場で見てきたし! つまり、犯人は彼女のほうだ」

「ふっふっふ……あなたは詰みました。このギルドカードを拝むといいのです」


 俺を窮地へ追い込もうと自信満々に少女はギルドカードを見せつける。

 犯人にされない抜け道を探す為に俺はカードを凝視した。


 ……。


 名前 ユイ

 年齢 16歳

 Lv 3

 HP 35/35

 MP 0/0

 スキル 無し


 ギルドカードは冒険者ギルドや商人ギルドなど各ギルドで発行してもらえる。

 自分のステータスの開示したい部分のみ相手に見せる事ができる便利アイテムだ。

 このギルドカードを見せられて俺は「絶句」する。


「この嬢ちゃんは、この街で有名な無能力者なんだよあんちゃん、いや、殺人犯さんよ」


 それは「知っている」。無能力者。生まれてから技も魔法も一切習得できなかった子。

 俺はしてしまった後悔で頭の中が真っ白になった。


 ユイと警備兵の視線が俺に集中する。


「俺は……」


 ユイ、この美少女は俺の妹だ。

 俺はとんでもないことを、ユイに殺人の罪をなすりつけようとしていた。

 この二人が死んだ原因を見つけなければ、俺かユイが殺人犯として法で裁かれてしまう。

 ユイは俺の事を俺だと気づいていない。

 ならばするべきことは一つしかない……!!!


「俺は犯人だ……だけどッ……!!!」


 犯人じゃないんだって言いてえよ、くそっ!!!!


「俺が犯人だぁああああああッ!!!!!!!」


 俺は満身の力でユイの横を駆け抜けた。

 ユイを犯人にしない為に。

 俺が捕まらない為に。

 元凶を見つける為に。

「嘘の自白」をして「逃げる」しかなかったんだ。


「……逃げた?」

「はっ? ……ま、まてぇええええええ!!!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る