異世界転生してんならゾンビくらい倒せるでしょ?

ちびまるフォイ

力があっても解決できないこと

トラック事故で死んだ俺は異世界に転生した。


「勇者様……ああ、伝説は本当だったんですね。

 世界が混沌に包まれるとき、空から世界を救う勇者が現れるという伝説は!」


「ええ、俺が来たからにはもう大丈夫。

 神より授かりしなんでもありな能力で悪いやつをやっつけてあげますとも!」


「では、この世界のゾンビウイルスをなんとかしてください!!」




「……え?」


勇者は思わずすっとんきょうな声を出した。


「いや、そういうのじゃなくて。この世界を苦しめている悪の親玉とか

 悪政を強いる悪い王とか、止まない戦争とか、強力なドラゴンとか……」


「あ、そういうのはすでにゾンビによって全部死んじゃったんですわ」

「はい!?」


「最初はゾンビさまさまだと喜んでいた私らでしたが、

 繁栄を極めていたモンスターの駆逐が終わるとその矛先は我々人間に……」


「しかし……ゾンビというのは……」


「あなたの力があればきっと倒し切ることができます!

 私はそう信じています!! そのためにお呼びしたんです」


「……そうだった! 俺は勇者だった! この世界に転生したのもなにかの縁!

 見せてやりますよ。獄炎のドラゴンから授かりしこの力を!!」


「神じゃなくて?」

「長期連載に設定のブレはよくあることです」


勇者はさっそくゾンビがとくに多い地域にワープすると、

なんのためらいもなくゾンビたちを炎で焼き尽くした。

転生の際に人らしい感情は削ぎ落とされたらしい。


「ふう、これでゾンビは片付いたな。やってみると余裕じゃないか。

 モンスターと違って動きも遅いし」


お礼を言われると思って近くの町に戻ると、待っていたのは罵詈雑言だった。


「おい! なんてことをしてくれたんだ!」

「ゾンビをまとめて殺すなんて!!」


「え、ええ!? なんで!? ゾンビでしょ!?

 ちゃんと跡形もなく殺すのがなんでそんなに悪いんです!」


「単に殺して解決するんだったら困ってないわ!

 ゾンビは死んでしまうと、周囲に菌をばらまくんだ!

 大量に殺せば一気に大量の菌が風にのって……のって……」


村長の顔がどんどん青白くなっていく。


「のって……ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛~~」


「ゾンビだーー!!」


町はハッピーセットをもらった子供のように大騒ぎとなった。

勇者はとっさに安全な場所にワープしたものの、

ゾンビの大量発生を招いたことで町のひとつが壊滅した。


「勇者様、なんてことをしでかしてくれたんじゃ!!」


「ゾンビを倒すと菌が飛び散るなんてwikiにのってなかったんだよぉ!!」


「やったのはお前じゃろ!」


「で、でも安心してください。最初は失敗しましたけど今度は大丈夫。

 俺に作戦があるんです」


「本当に大丈夫なんかい?」

「任せてください」


勇者は世界のあちこちにいる人にテレパシーを伝えた。

ゾンビになっていない普通の人間を集めるようにし、

逆にゾンビはその場所より離れた離れ小島へと運び込んだ。


「世界のみなさん聞いてください。私は勇者。絶対無敵の使者です。

 ゾンビを消滅させるために島に誘導します。けして近づかないでください!」


勇者の力はもう誰もが知っていたのでゾンビごと島を滅するのは誰もが想像できた。

島を惜しむ人も一定数はいたが、ゾンビから救われるならと納得した。


「もう島にはゾンビしかいません。行きますよ!!!」


勇者は極大魔法を唱えた。

放たれた隕石は島を跡形もなく粉砕し、ゾンビが撒き散らす菌はなだれ込んだ海水で流された。


「海にゾンビがいないのはウイルスが海水に弱いからだったんです。

 だから島ごとすべてのゾンビを消してしまえばもう大丈夫」


「ああ勇者さま! 感謝いたします!!!」


「フッ、俺はこの世界を平和にするために来ただけです」


勇者はにこりと笑った。

その数日後、勇者のもとに使者がやってきた。


「伝令! 伝令! 勇者様大変です! ゾンビが! ゾンビが!!」


「ははは。これは夢オチかな? ゾンビは消したはずだろう」


「いえ、避難していた人の中にゾンビが混じっていたんです!!」

「なんだって!?」


ゾンビ騒動は収束するどころかさらに拡大していた。

避難のために一定区画に集めた結果にゾンビ伝染。


勇者は残留思念を読み取り、感染拡大させた犯人をつきとめた。


「おい! お前のせいで俺の作戦が台無しじゃないか!!

 なんでゾンビが紛れていることを黙ってたんだ!!」


「だって、だって……言えばお前が殺しただろう!?」


「当たり前だ! ゾンビを殺してなにが悪い!」


「たとえゾンビになっても娘は私の子供なんだ!!

 我が子を殺させるために差し出す親がどこにいる!?」


「勝手なことを! それじゃ他の子供がゾンビになってもいいってのか!」


追い詰められた勇者は頭を抱えてこもりがちになった。


「……勇者さま、どうですか? なにか思いつきましたか?」


「仮にまた同じように島単位で消滅させても同じことが起きるだろう」


「それじゃやっぱり勇者さまでも収拾できないんですか」


「いや、方法はまだある。最後の方法が」


「なんですと? それじゃこんなところで悩んでないでさっさと実行すればいいじゃないですか」


「この魔法を使うと自分のすべての脳力が失われてしまい

 俺は勇者からただの一般人になってしまうんだ」


「なにをおっしゃいますか。世界を救ったのなら能力がなくとも勇者です」


「……やるしかないな」


勇者は覚悟を決めた。

空に向けて手をのばすと究極呪文を唱えた。


「セマヒカトーーーーーッ!!!!」


勇者のすべての魔力が奪われ

空に浮かんだ魔法陣からまばゆい光の柱が現れる。


光の中からは新しい人間が降りてきた。


「こ、ここは……」



力を失った勇者は若者に声をかけた。



「あなたの力があればきっとゾンビを倒し切ることができます!

 私はそう信じています!! そのためにお呼びしたんです」

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