第54話 人は生きる
【怠惰シンクレア】が治めるスフィーリアには人間の住む街がいくつか存在する。
例え、それがシンクレアの愛玩動物である黒竜の為に設けられた物だとしても、人々は日々の営みを忙しなく送っていた。
市場には物が溢れ、大通りに面した場所では行商達が商魂逞しく商いを行い、大道芸人が自らの芸を競い合う様が見て取れた。
「へぇ……これが、魔人の治めるスフィーリアねえ……」
街の喧騒を目の当りにしたレティシアが馬車の中から呟いた。
【怠惰シンクレア】の治めるスフィーリアの街に対して抱いていたイメージを根本から覆された彼女は馬車から顔を出しては物珍しそうにしている。
「所詮は偽りの繁栄に過ぎんよ。こいつらは【怠惰】の
レティシアの言葉にロックウェルが仏頂面で答える。彼には忌み嫌う魔人の治める領土が繁栄していることが許せないらしい。
「あらっ、【無双】様はこの街がお嫌いなのかしらねえ?」
レティシアはロックウェルの憮然とした態度を茶化す様に話し掛けた。
確かにこの街に生きる者達は
「こいつらは飼われている事を受け入れている。人間の誇りを捨てた家畜共だ。偽りの
ロックウェルの吐き捨てるかの様な言動にレティシアは眉を顰(ひそ)めて、反論した。
「あのさぁ……誰もがアンタや私みたいに強い訳じゃ無いんだよ。今を一生懸命生きている人達を馬鹿にする権利なんて私達にあるとでも思ってんのかい? そいつは傲慢ってやつさ。彼らは日々、命の危険に
「何をそんなに怒る? 奴らのことを馬鹿にしたことが気に障るようなことか?」
強い口調で怒りを
「アンタは強いからさあ……弱者の気持ちが分からないってのは理解できる。でもさ、少なくともあの人達を家畜なんて呼ばないでおくれよ。そんなのアンタの大嫌いな魔人と
レティシアの言葉がロックウェルの心に雷鳴を与える。ロックウェルは息を飲み、落ち着かせるようにして肺から空気をゆっくりと吐き出した。
(そうだ……レティシアの言う通り俺の考えは忌むべき魔人共と何ら変わることが無い……)
ロックウェルの動悸が激しくなり、顔が見る見る赤面していく。
「済まない、レティシア……貴女と彼らに心より謝罪する。この剣に誓う
彼は父親より譲り受けた剣を目前に
「親父さんに誓うなんて
彼の誓いが父に対して行われた事にレティシアが軽く笑って彼を許す。
ロックウェルはレティシアに対して教わることが
「さてと、もうそろそろ着くみたいだよ。お目当ての【
レティシアが後ろを振り返り、一人の奴隷を見て呟いた。
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