第2話 明星のスルド
【明星のスルド】と隆之に名乗った女性は意識の無い彼を軽々と抱き上げ、彼
彼女とその下僕のみが使える【転移魔法】で
激しい音と光を
スルドは
六時間程経過した頃に隆之が目を覚ます。
「ようやくのお目覚めだね、【
睡眠が足りなかったのか、隆之は何度か目を
「あんた、誰だよ……」
寝台から身を起こし、目の前にいる少女に隆之が問い掛けた。
どこかで出会ったことがあるのか、彼の記憶の片隅に残る少女に対しての質問に少女は不思議そうに顔を
「あれえ? さっき、自己紹介は済ませたはずだけどな。そっか、あの時はこの姿では無かったから気付かないのも無理はないのかもしれないね」
そう言ったスルドの姿が少女から音も無く、一瞬で大人の女性へと姿を変えた。
そこにいたのは先程、隆之が助けた足を挫いて動けなくなっていた女性だった。
黒光りするストレートの長い黒髪と、切れ長の目が特徴的で、右目の下にある泣き
「どう、納得したかい、【
隆之が
彼は眼を閉じて、軽く指で
今の言葉でどのようにして理解が得られると言うのだろう。彼には見当もつかない。しかも、少女の言葉に出てくる【
「君が眠る前にも言ったけど、僕の名前はスルド。【明星のスルド】と呼ばれている者だよ……」
理解の及ばない言葉の連続に彼の混乱する頭では対応しきれなかったが、隆之は必死に今の状況を少しでも把握することに努める。
どれだけ考えても理解出来ないであるならば、状況に流されることも悪くは無いと彼は考えた。
「うーん、一方的に話すのはあまり好きでは無いのだけれど、君は自分の置かれた状況を良く理解していないみたい。
スルドの提案は隆之にとっても望むところであり、特に反対は無い。彼はゆっくりと頷き、同意を示した。
「結論から言うと、
隆之はこんな
「理解してくれて嬉しいよ、【
長々と言葉続けるスルドを見つめる隆之の視線は冷たかった。
(近頃の子供には妄想と現実の区別がつかなくなる症状を持つ子がいるって聞いていたけど、実際に目の前にしたら結構な社会問題としか思えないよな)
隆之は沈黙したままだが、少女の
隆之が小さくフンと鼻を鳴らすと、スルドはゆっくりと右腕を挙げて、
突然、隆之は額に強い衝撃を受けてベッドに倒れこむ。
鈍器で思い切り殴られたかのような痛みに耐え切れず、彼は
額が割れ、血が
「警告だよ、【
スルドは自分よりも年下の子どもを諭すかのように優しく話しかける。
「良い子なら大人しくしているのが賢明だよ。僕の言うことを聞いていれば、必要な情報を手に入れることが出来るんだから。君の魔力は感情に左右されて、とても分かりやすいんだ。君の考えていることも手に取るように分かるよ」
隆之は額から流れて来る血が眼に入り込み、目を開けることが出来ない。
「
スルドが先程と同様に隆之の前に手をかざすと、彼はまた危害を加えられるのではないかと怯え、身を
彼の身体が青白い光に包まれると、額から伝わる痛みが消え、傷は跡形も無く消えていった。そして、寝具に飛び散っていた彼の血が
その異様な光景に隆之の脳は混乱を極めた。
彼の血の塊がスルドの
ビー玉くらいの大きさの球体となった隆之の血をスルドが右手の親指と人差し指で
「素晴らしい……まさに【
スルドは
(吸血鬼? 俺の血を飲む? 旨いのか? 魔力って……何だよ?)
隆之が理解するには
「貴女は……俺をどうするつもりなんですか……」
隆之は彼のあるだけの勇気を振り絞って、少女の姿をした化物に質問を行う。その声は弱々しく、震えている。
どれほど理性で否定しようが、生物としての本能が彼にスルドに逆らうことの愚かしさを告げていた。
何の武器も持たない二足歩行の猿に過ぎない彼には絶対的な捕食者にしか彼女は見えなかった。
「必要以上に恐れる必要はないよ、【
スルドは隆之が震えているのを見て、優しく答えた。それにも関らず、隆之の焦点が落ち着かないことに対して苦笑しながらも彼女は続けた。
「あのね、僕は仲間に【宝探し】をさせて遊びたいだけなんだよ。【
「宝探しですか? 」
「そう、【宝探し】。君を着の身着のままで放り出す気も無いから安心してよ。お金もある程度出してあげるから生活に困ることも無いし、人間の領土で好きに過ごしていたら良いよ。頑張って、見つからないようにするんだね。僕は此処(ここ)で君がどうなるかを見せて貰うよ。至極の娯楽としてね」
隆之に饒舌(じょうぜつ)に語るスルドはあどけなさを残すも子供特有の残酷さを秘めている。その彼女の無邪気な笑みは昆虫の脚や触覚を一本ずつむしって喜んでいるあの残酷なものだった。
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