26.理紗なのかリリシェラなのか(Side:リリシェラ)
私はリリシェラ。
私はもう理紗ではない。
そう自分に言い聞かせる。
今日も取り乱してユーキアに迷惑をかけてしまった。
見た目は子供でも、中身は違うのは向こうも分かっている。最後に抱き付いたのだって、嬉しくて無邪気にやった子供の行動なんて思ってくれるはずもない。
前世は理紗の兄であったけれども、今の彼はリリシェラの兄ではない。
それが頭では分かっていても、感情に流されて甘えてしまっている自分がいる。
「あーあ……」
ベッドに転がり天井を見ると、自然にため息が出て、私は自己嫌悪に駆られた。
兄であった彼に執着しているけど、それは『理紗』の魂に引きずられているのか。じゃあ、リリシェラとして実際の感情ははどうなのか。いや、そもそも別人格とか、どこで線引きするんだろう。
頭の中がもやもやしてくる。
いや、もうどう考えたって、好きなものは好きなんだ。
お兄ちゃんだからとか、どう好きだとか、もう関係ない! 好きなんだもんしょうがないじゃん!
『お兄ちゃん……』
さっき抱き付いた時の感触がまだ残っている。その余韻を引きずりたくて、思わず枕を手に取ってぎゅーっと抱きしめた。
『ダメだ……足んない……。もう少しお兄ちゃん成分を取り込んで来れば良かったなぁ……。はぁ……』
ため息をつくと、私は悶えるように左右に転がった。……そしてハッとする。これじゃただの怪しい子じゃないか。
そもそも今日あれほど取り乱したのには理由がある。
それは王都に私一人で行ったら「ユーキアを誰かに取られるに違いない」と思ったから。
誰か、とは。
まずはミューリナちゃん。一番の危険人物だ。
今はお互いに牽制しているから大丈夫……だと思うけど、監視の目が無くなったら
彼女はどう動くかわからない。
そしてエミララ。精神年齢も高めで、どこか大人びた彼女。表だって行動しないけど、絶対にユーキアを狙っている。それに幼馴染設定に飢えているお兄ちゃんには最適な人物でもある。
いつの間にか仲良くなっているし、時折見せる肉食系の視線はヤバい。
裁縫店のフォルティや肉屋のミッチェも、言葉の端々からユーキア好き好き狙っている感を出している。そう考えたら、知ってる女の子全員が怪しく思えてきた。
「婚約者ポジション」の私が居なくなったら奪い合いが起きるに違いない。私のブラコンレンズを通さなくても、ユーキアは結構イケメンなんだから……。
……と、頭を悩ませていて思い出した。そういや私、高校の時にもお兄ちゃん狙いの友達を牽制しまくってたっけ。
なんだ、いつまで経っても私の行動パターン変わらないじゃん。
理紗とリリシェラの境界線なんて無いんだな。兄妹じゃなくなったけど、中身は同じ。好きな人が変わらないと思えばいいだけの話じゃないか。
向こうも理紗だと思っている部分もあるだろうし……ってか、その分大事にしてくれるのは有難いんだけど、実はそこが一番厄介なんだよなぁ。どうにか「妹」という壁をブチ壊さないと、いつまでも攻略できない……。
少しでも「妹」から脱却して「幼馴染」として意識させないと。その為には、今日抱き付いたのも間違いじゃない。いや、正解だよ。やるじゃん私!
「王都も一緒に来てくれるって言ってたけど、何とかなるかなぁ……」
一緒に来てくれるという気持ちが嬉しかったけど、向こうの親御さんを説得する必要もあるし、ミューリナちゃんがいる分どうなるか。
ユーキアの様子が気になったので、窓を覗いてみる。もしかしたら向こうもこっちを見てくれているかな、という期待を込めて。
と思ったら……、見えたのはミューリナちゃん。
そして彼女と視線が合った。
直後、彼女は何か勝ち誇ったようにニヤリと笑った。
「何! その笑顔!!」
しかも何か喋っている。口の動きを読むと……。
【兄様……。俺の心……顔する……冗談ではないです、分かる……でしょう?】
(※注:ちょっと間違っています)
「警戒している先から、何を意味深な会話しとるんじゃー!」
私は思わず叫んでいた。
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