14.外の雷と内の火花
ミューリナの前世が明らかになったところで、それ以上の話は後回しにしようと決め、リリシェラも協力して何とか夕食を作り上げた。
食卓に運ぶ皿とフォークを手に、少々心が弾む。久々のパスタ料理だ!
……と、先程までは浮かれていた。
だが、いざ食卓についてみると、何かギスギスした雰囲気に感じるのは気のせいだろうか。何というか、二人の「妹」の間に火花が散っているような気がするのだが……。
「久々に食べたけど、やっぱり美味いね!」
雰囲気を和ませようと、何気ない言葉を発してみる。
「……良かったです兄様!」
ミューリナが答えるまでに、一瞬の間があった。気のせいか、その僅かな間にリリシェラを見た……いや、睨んだ気がする。
あれ、
俺が見て無い間に何かあったのだろうか。
「うん、よく出来てるね、これ。よく有り物だけで出来たね」
リリシェラが笑った……ように見えるが、何となく引きつっているな。元妹だけに反応は分かりやすい。
俺は無言でうなずいておく。その方が厄介な事にならない気がしたからだ。そしてまた沈黙の時間が訪れ、目の前の食事がはかどるようになった。
皿の上のものが半分程度に減ったところで、何かを思い出したようにリリシェラが口を開いた。
「ああ、そうそう。ユーキア、今晩私はどこで寝ればいい? ユーキアと一緒?」
リリシェラの言葉に、思わず口の中の物を吹き出しそうになった。
「……な、なんでだよ。今まで通りミューリナと寝ればいいだろ?」
「別に元実妹なんだから、大丈夫でしょ。前世でも今世でも、小さい頃は一緒に寝てたじゃない。それともぉ……今はただの幼馴染だから狼になっちゃう?」
さすがは元高校生。言っている内容が十歳とは思えない。それに何故かいつもと纏っているオーラが違う気がする。
とはいえ、素直に女二人で一緒に寝ろ、という雰囲気ではない気もする。下手に二人にさせたら、一触即発状態になるんじゃないだろうか。
「この年で、何をアホなことを言ってるんだ。べ……別に構わないけど、ベッドは狭いぞ」
「いいよ。でも、一緒に寝てた頃から比べれば大分身体も大きくなったから、狭く感じるかもね!」
何となく嬉しそうな表情をするリリシェラに、少しだけほっとする。安心して小さく吐息が出そうになった瞬間だった。
ガツッ! ガツッ!
そこそこ大きな音が室内に響き、俺とリリシェラはビクッとした。
「……すみません」
ミューリナがフォークを皿に激しくぶつける音だった。
(何か物凄く険悪な気がするが、なんなんだ?)
食器に向けていた視線を上げると、ミューリナは俺を睨んだ。
「兄様……私も一緒に寝ても良いでしょうか? 雷が怖いのです」
いやまて、ミューリナ今まで雷を怖がった事無かったよな。なんだ、その取ってつけたような理由は。
それよりも、俺はミューリナが怖い。断るに断れない雰囲気を醸し出している。圧がすごいのだ。
……負けるな、俺。
「広いベッドで寝ればいいじゃないか」
「兄様は、可愛い妹に雷に怯えながら寝ろと、そう仰るのですか?」
漫画だったら今、ゴゴゴゴという音とともに、ミューリナから黒いオーラが出ているんじゃないかな。
(マズイ……断ったらあのフォークが飛んでくるのかな?)
やっぱり女二人で寝て貰った方がいいんじゃないか。そう思いなおして、リリシェラの顔をチラリと見る。彼女は視線に気付いたのかニコリと笑い返し……いや、目は笑ってない。
……うん、許してくれそうにないな。どうやら俺の考えは読まれているようだ。流石は元妹、良く分かってらっしゃる。
俺はあきらめて、大きくため息をつき、腹をくくった。
「分かった、今日は三人で寝よう。狭いとか文句言うなよ」
「分かりました!」
ミューリナの顔が晴れ、リリシェラの視線がやや不満げに変わった。俺にどうしろというんだ。
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