妹ふたり
10.ユーキアと二人の妹
ミューリナが可愛いのは分かっている。
いや、身内だという事を差し引いても、外見は間違いなく可愛いと思う。性格に若干問題があるという点を除けば、優良物件である。
しかも実の妹ではなく、血縁上は従兄妹だ。将来嫁にしても問題は無い。
だが、俺としては妹なのだ。手を出すことにためらいがある。
リリシェラにいたっては、全く血縁関係は無い。しかも外見は文句無し。
が、中身は元妹。それこそが一番のネックと言っていい。その一点が無ければ、俺の「美人の幼馴染恋人化計画」ど真ん中ストライクだったはずなのだ。
妹だったという事実があるから、どうしても思考にブレーキがかかる。
毎日、その二人に挟まれて通学しているわけだ。
時折すれ違う人や、同級生達から睨まれる。傍から見れば、そりゃぁ「美少女を二人もはべらしやがって、この野郎が」という所だろう。
実際は違うんだぞ、男子諸君。彼女達こそが俺の悩みの種だ。
まず、問題点その一。
クラスにはそれなりに可愛い子も居て「お~友達になりたいわぁ~」という所なのだが、何せリリシェラのマークがきつい。
近寄ろうものなら、割って入ってくる。俺に女の子を寄せ付けたくないのか、女の子を守っているのか良く分からない。
ともあれ、リリシェラさん、元兄の恋路を邪魔しないで頂きたい。
問題点その二。
通学時に女の子に話しかけられた時など、ミューリナの負のオーラが凄い。
気付かない振りをしようと思ったものの、俺か女の子どちらかに危害を加えられそうな気配を察し、話を無理矢理切り上げた事が何度かある。
ミューリナさん、ドス黒いオーラ出すのやめようね。
「にー!」
二人の「妹」について自宅で解決策を模索していたところ、横で転がっていたシエスに呼ばれた。一歳になったばかりの、我が家の天使だ。
マイナスイオンでも出ているんじゃないかと思うほど、癒し要素に満ち溢れている。将来、あの姉達のようにならない事を祈るばかりである。
現在は、ちょっとした玩具を転がして、ハイハイで取りに行くという遊びが、彼女のマイブームのようだ。まるで犬みたいだなと思いつつ、催促されるまま遊んでやっていると、外で遊んでいたリリシェラとミューリナが何やら話しながら家の中に入ってきた。
「あら、ユーキアいたの?」
「いや、自宅に居て何が悪い?」
シエスの頭を撫でながら、リリシェラの顔を見る。
「ちょうど良かった。明日、ウチの両親と、ここのご両親が不在になるらしいよ」
「あん? 聞いてねぇよ、そんなの」
何を冗談を言っているんだ、とばかりにリリシェラを睨む。
「いえ、何かさっき決まったとか聞きました。仕事の都合だとかで……」
ミューリナが困惑したような表情を浮かべているので、本当の話のようだ。
「ということで、私も明日この家に泊まる事になったから。よろしく」
「よろしくも何も、いつも泊まってるじゃないか」
「ご両親が居ない時なんて無かったでしょ?」
そう言うリリシェラの表情は意外に落ち着いている。特に不安を抱えているという様子も無い。
そういやこの位の年頃で、理紗と一緒に留守番した事あったっけ。兄妹だっただけに、何となく分かる。あいつもそんな事思い出しているな、と。
「シエスはどうするんだ?」
「私達が学舎に行っている間、誰も居なくなるから、シエスちゃんは連れて行くんじゃない?」
「そりゃそうか」
つまりは、明日は三人だけということになる。
一気に不安になった。色々な意味で……。
「にー」
会話で手が止まっていたので、シエスに催促された。
「ああ、ミューリナ、遊んでやって」
「はい」
木工細工の玩具をミューリナに手渡し、考える。
「重要な事なんだが……。俺、メシ作れないぞ」
「うん、知ってる」
何を当たり前の事を言っているんだ、という目で俺を見るリリシェラ。
確かに前世でも両親が居ない時、俺が料理ができないため、理紗が作ってくれていた。それだけにリリシェラの料理に特に心配はしていないが。
「ミューリナちゃんも作るの手伝ってくれるってさ」
「え、ミューリナ料理できるの?」
シエスを抱えてあやしている義妹を見ると、自信満々な顔をしていた。
「時々手伝ってますから」
「……じゃあ、安心してお任せします」
と、この時俺は、翌日に起こる大変な出来事など、全く想定すらせずにいた。
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