人気俳優はモブを演じる

蒼@連載休止中

第1話


モブ。

それは誰にも邪魔されない者のことを言う。

俺はその言葉が好きだったし憧れだった。

妹は踊り手。

幼なじみも踊り手。

自分は子役。

身体を動かす事は好きだし得意だった。

その為だろう。俺は嫌でも目立ってしまう事が多かった。

だからこそ憧れた。モブは誰にも邪魔されない。干渉されない。常に誰かに見られ、見られることを仕事とする自分たちとは正反対の立場だった。

単純に俺もこれになれれば、と思った。

だから俺は中学受験をし、その学校では理想のモブになれるよう極めた。幸い俺は子役だったし演技は出来る。体も動かせるから中の上をキープし続けた。

モブであり続けるために。


それは高校になっても続いた。


で、その結果がこれだ。

「マジやばーい。村山めっちゃ見てくんじゃん。」

「それはやばいね。こわい。」

「絶対ヲタクだよねー」

「ねー」

同じ方向に視線を向けるだけでこうだ。

なんならヲタクという印象もイメージ付けられた。俺はヲタクでは無いのに、である。


でも、ぼっちではない。

何故ならモブ友の颯がいるから。

颯は俺と同じくモブを極めてきていた踊り手だ。

颯とは物心ついたら仲良くしていた。中学も同じ所を受験したしそのための勉強も頑張った。こいつのおかげで中学生からぼっちなんて最悪な状況を免れる事ができ、俺にとっての一番の親友だ。


でも、モブを極めたかったという理由で子役をやめた訳じゃないし、颯だって踊り手はやめてない。ただただ目立って俺ら自身を見てくれる人がいなくなったから、そういう人達のせいで自分たちが好きなことが出来なくなったから、モブを極めただけ。


モブにも欠点はある。

というかめちゃくちゃある。

悪口だって言われるし変な固定概念持たれるし話し合いとか班づくりとか面倒だし。

結構、色々、大変である。



でも俺はこの立場に満足していた。

だから別に変わろうと思わないしむしろ変わらないで欲しい、と思っていた。




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