生きた化石の使命

@ie_kaze

第1話

 太陽が大地に沈むのが早くなり、それと同時にあたりが暗くなるのも早くなってきた。吹きすさぶ北風は容赦なく私の髪を揺らしていく。

 この時期になると私も子孫を残さなければいけないという使命にかられ、髪の毛の先の割れた部分まで黄色く染めるのだ。

 するとどこからともなく風に乗って、その為に必要なものが私の元へとやってくるようになっている。

 大昔よりその命を継ぎながら私たちは種を長らえてきた。それは前の世代が次の子孫を残すために種を残したからだ。

 その甲斐もあってか、人間が生まれるよりも前から私たちは生きている。

 だけどここ最近はそんな仲間たちの姿が減っていると風の噂で聞いた。

 ここに来た人間の中には私たちの事を生きた化石なんて呼ぶ人もいたくらいだ、私たちはまだ生きているというのに。

 そんな事情も相まって、私はやっぱり次の世代を残さなければいけないという、もはや使命を感じ取り励んでいるのだった。

 もっと水分を、もっと栄養を、仲間たちを増やすためにできる限りのことをやっていく。

 そんなことをしていると私たちを見物に来る人間も少なくはなかった。

 別に人間たちに魅せるために髪を染めているわけではなかったのだが、それでも髪の色が綺麗だと言っていく人がいるとやっぱり嬉しくなるものだ。

 人間たちが埋めてくれた場所は、栄養は十分にあるのだけれど、水分だけは何故かあまりくれない。それがどうしてかは分からないけれど、どうにか生きていけるくらいの量だった。

 本当はもっと水が欲しい、そうすればもっとたくさんの子孫を残せるのだ、だけど何故か決まった量しかくれない。

 それでも十分子孫を残せるのだから、あまり文句も言ってはいけないのかもしれない。

 まだ仲間が近くにいたころ私は仲間たちに聞いた、私たちは人間を見守るように建てられているのだと。

 私の目の前を、ものすごい勢いで動く何かでかいものが良く通っていく。

 この場所に不満があるとすれば、それは空気が良いものと思えなかったからだった。

 その空気はなんだか雑味を感じるが、人間というのはそういう空気を好む生き物なのかもしれないと思っている。

 

 そんな人間たちを観察しながらも、頑張った甲斐もあってか次の世代を残す準備は完了した。これが地面に埋まることで、私たちはまた増えていくのだと。

 もしかすると他の仲間はあまりこういう努力をしていないのかもしれない。数を減らしているという話を人間が話しているのを聞いたし、実際私の周りには仲間はあまり見当たらないから。

 私は違うと考えた、だけど使命を果たしたことで力を使い果たした感覚もある。

 力が抜けて、ついうっかりとその髪に付けていたものを地面へと落としそうになったが、それもこらえた。

 すぐ近くに芽を出してしまうと私たちは共倒れをしてしまう、だから強い風が吹いて、もっと遠くへ、もっと遠くへと飛ばせる時を待っているのだ。

 そしてその時は来た、ひときわ強い風が吹きすさび、髪を跳ね上げ、そこについてた種を、今だと遠くへと飛ばした。

 コツンコツンという音と共に、種が落ちたのを確認すると私は少しだけ眠くなってきた。

 次世代を残すのはそう簡単な事ではなかった、今はその義務を果たした安堵からか、張り詰めていた緊張の糸が切れたようで、私は眠くなっていった。

 すると急に歓声が上がり、人間たちが押し寄せてきた。

 まるで私の仕事ぶりをほめたたえるかのようで少しうれしかった、気の周りに群がる人間たちが、私が使命を果たしたことを証明してくれているようにも見えた。

 何故か私の周りでしゃがみ込む人間たちだったが、それをもう見守っているような余裕もなさそうだった、ちょっとだけ寝ることにするわ。

 ふふ、あの人間たちはしゃがみ込んで何をしているのかしらね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

生きた化石の使命 @ie_kaze

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ