a10 湯船の幼馴染み(take2)
小学校時代の同級生、南栞は私立の有名中学校を受験していた……。
「なんで……?」
そんな疑問しか思い浮かばない。七紀百色は知らなかった。知らなかったのも当然だ。なぜなら……。
(似合ってるよ。七紀くん)
あの時のあの声。中学校の制服と新しくなる体操着を買いに行った時に聞いた少女の声はいつだったか。あれは……、そう。確かあれは一月の中頃の出来事だった。もうそろそろ制服を用意しておかなくてはならないと親から言われ、
隣のクラスの生徒だった南栞とその母親から一緒に選びに行かないかと誘われたのだ。
「……中学受験って……いつだ?」
七紀百色にはわからない。中学受験なんて考えた事もなかった。南栞なら分かる。南栞は優秀だった。百色の通っていた小学校では生徒を代表する児童会長まで務めていたのだから優秀ではないわけがない。
百色と同じ男子たちだって私立に進学していった優秀な児童はいる。ならば栞も当然、私立を受験していて不思議ではないし、むしろ受験していて然るべきだった。それでも一月ぐらいでは間違いなく受験なんて始まっていないだろうし終わってもいない。それは早くても二月、遅くても三月までにしか開始されないだろう。
なのに……、南栞は一月に百色たちと同じ公立の八ヶ丘中学校の制服を購入したのだ。有名な私立の中学受験を控えていながら……。
「なんでそんな無駄なことを……」
百色は浴室の天井を仰いだ。肩までつかる湯温の温かさに救われている自分がいる。脱力する身体と共に、もみあげから浸み出る汗が頬へと伝った。
「なんで……受けたのに落ちたんだ?」
それは何度、考えてみてもわからなかった。今度会って直接、聞くことでも出来るだろうか? しかし栞は惚けるような気がする。百色には今まで黙っていたのだから。ならば尚更、その可能性が高いようにも思われた。なぜ、自分には黙っているのか?
百色にはそれがいまでも分からない……。
「入っていい?」
いつもの声が聞こえた。いつも七紀が風呂で油断している時に、決まって掛かってくる少女の声だ。
「……いいよ」
脱衣所で服を脱ぐ音がする。いつもの光景だ。もう慣れてしまった。決まった手順、決まった音。今日の部屋着は桃色の服だったから脱ぎ終わる時間としてはもうすぐだろう。
そんな慣れた事を考えていたら、浴室の折り戸が開いた。いつもの裸が入り込んでくるのかと思っていたら、体のラインが違っている。
「…………は…………?」
百色は目を丸くした。
細い腕と細い脚。入ってくると思い込んでいた身長よりスラリと高い肌色の裸。そして身体の前面を隠す白いタオル。それらは完全に、分かりきっていた泉詩織の裸姿では全くなかった。
「……は? …………は?…………、はぁぁっぁぁっぁっぁぁぁっぁぁっ?!!?」
驚いて大浴槽の角まで身を寄せる。入ってきたのはこの家の長女である泉詩織ではなく。斜め向かいの家に住む三番目の幼馴染みである
「さ、さっちゃんっ?! なんでサッちゃんが入ってっ?」
「なんでもさっても、今日はわたしの番だからです」
「さ、さっちゃんの番てなんだよっ!?」
詩織よりもスラリと高く、詩織よりもバストもウェストもはっきりとして好く。さらに詩織よりも落ち着きのある動作で掴んだ手桶から湯船のお湯を汲み取って肩に流す。
「……ん……百ちゃんの、
脂がする、とはいったいどんな日本語だろうか? それは分からないが、百色が呆然としていると紗穂璃は美しい腕を伸ばして蛇口の栓を捻った。
「男の子が入ってるおフロっていいね。シオリって、いつもこんなおフロ入ってたんだ。肌のツヤがいいわけだよね」
活きのいい男が浸かっているお
「い、や、いやいやいやいや。なに言ってるの? ねえ、なに言ってるの? さっきの声、シオリの声だったじゃないかっ。それなのに、なんでサッちゃんがッ」
「しーーーーーっ」
「……へ?」
「シオリ……そこでわたしたちの会話聞いてるから」
「は? はぁぁぁッぁッぁッぁっぁぁッっ?!!」
愕然となった百色は、紗穂璃が指差す廊下側のドアの方角を見る。
「どうする? ここでシちゃう? シオちゃんの家でするのも燃えていいかな?」
「ばッ、バ、ッフ、さッ……、って、な、なに言ってんのッ。ねぇ、ちょっと本気で何言ってんの? 正気じゃないッ。これホント正気じゃないからッ! 女の子ってみんなこうなのっ? ハーレムされたいの? ハーレムにされたいワケなのっ? おい、ちょっと違うでしょっ? ハーレム駄目でしょッ? 女の子はハーレムされるのがイヤなんでしょッ? おい、ちょっとマジ、ふざけんなッ。お前ら女は、絶対に好きな男の一番になりたいんじゃないのかッ? あれだけ、男の浮気はどうの男の不倫はどうのとかブチクサ言ってたじゃないかッ! 女の誇りを少しは思い出してくれよッ!」
思わずガミガミ言って立ち上がると「男のブツ」を曝け出してしまったまま百色は叫ぶのだが。
「…………どうでもいいんだけど。二学期からは一人増えて毎日三人でお風呂に入る事になるからよろしくね? お父さん」
はい、ここテストに出ますんでよろしくお願いします。
「……は、はい? ……ハイ? ……ハイぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッ?!」
「……だから? 中学一年生の男子の凶暴なおチンチンが……中一の女子にマル見えなんだけどそれはいいの?」
だがしかしッ! そんな心配など、心配ご無用ッ!
「……だ、大丈夫だ。女の胸とかが湯気で隠れてるように。全年齢対象の
そうヒカって。
ぺかーーーーーーーーーーーーーッ。と女子には丸見えになっていた、風呂場で立ち上がった百色の股間は、虹色に光り輝く五光となって見えなくなっていたのでした。(ジャンジャン!)
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