a5 朝の通学路
ピンポンと玄関のインターホンが軽快に鳴った。
「ねぇ、まだ用意できてないの?」
「おれ、いつも朝は出るの遅いんだよ。小学校もそうだったろ?」
「おかげでわたしたちの班はいつも遅刻しっぱなし。なんで今日の時間割りを昨日の内に用意しておかないの? バカっくんは」
いつまでも小学生気分が抜けない同居人の態度に煮え切らない幼馴染みの少女、泉詩織は腰に手を当てた。
「シオリー、まだ?」
外からの声に、詩織は玄関の扉を開けて一足先に出ていった。
「……ぁれ……百ちゃんはどうしたの?」
「まだ玄関。くつ履いてる」
「もー、なんでアイツはいつも遅いのっ」
「じゃあ、先に行く?」
色とりどりの少女たち四人の声が、そこで黙った事が答えだった。
玄関の中で新しい通学用の靴を履いて踵を慣らす。教科書と用具と昼の弁当が入った白い学生カバンを肩に掛けて立ち上がった。
「い、いってきます」
「あ、いってきまーす」
朝の
「やっと来た」
「ったく、遅い!」
「じゃ早くいこ」
呆れられ、悪態をつかれ、せっつかれた。三色と一色と一色。
同じ学校の制服なのに、着ている個性でここまで違う。特に黒い学ランの少年制服は、白と紺の四人のセーラー服たちを振り切るように足を早めて先を歩き出した。
「ちょっと! ヒャッくん早い!」
「……もう少し遅くてもいいんじゃない」
「恥ずかしいんでしょ。下は
「……え、朝からそんな……?」
「……あのなぁっ! おまえら!」
後ろからついてくる幼馴染み四人の声に、立ち止まって振り返った。
「……それで? シオリ。お腹にはもう入ってるの?」
四人の中では背の高いスラリとした少女が七紀百色を無視して、詩織の下腹部のスカートを見つめながら歩いて訊く。
「……それがね。またダメだったの。あの意気地なしッ」
自分の下腹部を優しく
「それは残念ね。これで二日目なのに。誘惑が足りないんじゃない?」
「誘惑……? 裸になってお風呂に入って、ベッドも一緒に入って。これで一体何が足りないの?」
「……」
「……」
「……」
「「「……胸……?」」」
中学一年生の女子にしては、屈めば揺れるぐらいはある胸を疑問に見られて、詩織は天を仰ぐ。
「わたしだって、他の子よりはあるんですからねッ」
「例えば、こんな感じに?」
〝ぅあんッ! うぁんっ! うぁ……ンッ! ゥあんッ!〟
上に掲げられたスマートホンから流れる詩織の今朝の痴態。
「それともこっち?」
〝ぅあっ、やぁっ、ぁやァっ、やぁなのっ! だめっ、ぉ願ぃっ、っそ、ッふ、ン!……ッん! ……ゥそぉッこ? んンっ? ンんッ! んんッ! ぃンンッ! ゥンんッ!〟
通学路に響き渡る、あられもない少女の声に、その場が凍り付く。
「「「…………」」」
「……もう一回、聞く?」
にこやかに言って笑ってきたのは四人の幼馴染みの一人、メガネと三つ編みをした
「……シオリの二つ名は「喘ぎの詩織」でいい?」
「い、いいわけないでしょ! この盗撮魔!」
「なに言ってんの? わたしは盗撮魔なんかじゃない!」
「盗撮魔じゃなかったら、なんだっていうのよ!」
「わたしは『ハメ撮り』のミドリッ!」
声を大々的にして言うッ!
「忘れたの? シオリ? わたしたちは約束したでしょ? たった一人のモモをわたしたちで分け合うんだって? 美味しい美味しい男一人を、わたしたち四人で味わうんだって……」
美酒に酔いしれるように恍惚と、頬に両手を添えて、叫びのように蕩ける。
「だから譲ったんだけど? モモの最初はシオリにあげるって……。でもその代わりに、その瞬間は記録させて見せてもらうって……。あの子たち……ちゃんと仕事をしてくれて助かってるよ? シオリの妹のあの子たち……。わたしももっと応えてあげないと。モモの最初はシオリの最初。でもその瞬間は、わたしたちも知りたいんだ。モモの最初にありつけなかった可哀そうな
でもね? 知ってるでしょ? モモ以外の男と関係した女は……、この
不穏な女の空気が風雲を呼ぶ。……登校中に。しかも中学校の。
「……永遠に……記録される。わたしたち五人はそれを信じている。だからわたしは
断言するメガネ三つ編みの少女の言葉を聞きながら、呆然となる百色の背後で、別の女子の声がした。
「な、なにやってるの……みんな?」
「……げっ……」
それは七紀百色たちの小学校時代のクラスメート。
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