第167話 国際的異種間結婚への道 2



□■□



王都・ヘドスにある『リベラシオン同盟』の本拠地はかなりの広さを誇っている。

これは、以前にも言及した通り、エルフ族の国やトロニア共和国の臨時の大使館も兼任しているからである。

もっとも、ロマリア王国と完全に国交が回復した現在であれば、それぞれの国の正式な大使館が置かれるのも時間の問題であろう。


とは言え、『泥人形ゴーレム』騒動時に受けたダメージにより、市街地はそれなりの被害を受けている。

故に、とにもかくにもその復興に人手や資材を取られており、エルフ族の国、トロニア共和国単独の大使館を建てるのは後回しになってしまっていたのであった。

まぁ、これは、とりあえず今のところ『リベラシオン同盟』に間借りしている臨時大使館で十分に間に合っている事もあり、グレンさんやオリバーさん(ヴィーシャさんの元・部下であり、現在はトロニア共和国の外交使節団団長兼『ブルーム同盟』の“大使”に就任した獣人族の男性)のご厚意から、大使館建設は後回しで良いと言われていたからでもあるらしいが。


さて、そんな事もあって、『リベラシオン同盟』の本拠地はかなりの広さを誇っている訳であるが、エルフ族の国の人々やトロニア共和国の人々を滞在している中で、僕らまで押し掛けてきたら、流石に余剰スペースがあまりないのもまた事実なのである。

だからではないが、僕らは、と言うか主に僕は、『リベラシオン同盟』の本拠地にある広場(主に訓練などに利用する為、向こうの世界日本でいうところの学校施設の校庭の様なスペースが本拠地には併設されている)の一画に簡易的な掘っ立て小屋を作り、自分の場所を(勝手に)確保していたりした。

まぁ、そこに資料などを持ち込んで読み耽っていたり、色々な(趣味の)研究をする関係上、他の人の迷惑にならない様にした、と言うもあるのだが・・・。( ̄▽ ̄;)


まぁ、そんなほとんど僕専用と化した掘っ立て小屋に、その日は珍しく来客があったのであるーーー。



・・・



「おぉ~い、あるじさぁ~ん。いるかぁ~い?」


ドンドンッ、と軽くノックの音が聞こえてきたので、僕は掘っ立て小屋のドアを開ける。


「ん~?ああ、ユストゥスか・・・。それと・・・。」

「こ、こんにちは、アキト様。」

「ヴィアーナさんも一緒か。・・・ふむ。・・・。」フゥー

「あん?どうかしたかい、あるじさん?」

「いや、まぁ、入れば分かるよ。それとユストゥス。もう僕はお前あるじじゃないだろ?」

「あぁ~、まぁ、そうなんですけどね?もうこれが呼び慣れちまってるモンで・・・。」

「まぁ、あんまりうるさくは言わないけど、一応お前はグレンさんの預かりなんだ。プライベートならばともかく、公式の場では、名前で呼んでくれないと、色々とややこしい事になるぞ?」

「うっす、了解っす!」


・・・ホンマに分かっとるんだろうか?

軽いノリでそう返事したユストゥスに呆れながら、ややあって僕はユストゥスとヴィアーナさんを部屋の中に招き入れた。


「うん。・・・で、用事があるんだろ?とりあえず、中に入りなさい。」

「うっすっ!」

「お、お邪魔しますわ・・・。」



「あれっ!?ジークにハンスじゃねぇ~かっ!?それに、フィオレッタさんにリオネリアさんも・・・。」

「よお・・・。」

「何だ、お前もか、ユストゥス・・・。」

「「こ、こんにちは。」」


色々ととっ散らかっている部屋の中には、ユストゥスとヴィアーナさんの前に先客がいた。

そう、ジークとハンス、フィオレッタさんとリオネリアさんである。


「まぁ、察するにお前達の用事は同じだろう?とりあえず、二人も適当に座って座って。」

「う、うっす。」

「は、はい。」


そう二人を促しながら、テキパキと部屋を片付ける僕。

いや、普段から掃除しとけよ、って話なんだが。


で、彼らの話を聞いたのは、それから数分後の事であったーーー。



・・・



「・・・なるほどね。状況的に落ち着いた事もあって、いよいよ一緒になるつもりなんだな?」

「・・・やはり、お気付きでしたか、主様あるじさま。」

「まぁ、そりゃ、ね。鈍感な僕でも分かってるくらいだから、君らがお付き合いしてる事は、少なくとも『リベラシオン同盟』の人達は知ってたと思うよ?」


ジークとフィオレッタさん、ハンスとリオネリアさん、ユストゥスとヴィアーナさんは、例の『掃除人ワーカー』襲撃事件のおりに知り合っており、その後、フィオレッタさんとリオネリアさんは、ジークとハンスを慕って『リベラシオン同盟』入りを果たしているし、ヴィアーナさんはあくまでロマリア王国の魔術師ギルドの一員ではあるが、『リベラシオン同盟』、と言うか主に僕との魔法技術提携の窓口として、頻繁に『リベラシオン同盟』には出入りしていた。

で、なんやかんやあって彼らが付き合っている事は、これは『リベラシオン同盟』では周知の事実だった訳である。

しかし・・・。


「しかし、お付き合いならばともかく、婚姻となると難しいだろうねぇ~。」

「まさにその事なのです、主様あるじさまっ!!!」


・・・何か、ジークもハンスも、いまだに僕の事をあるじと呼んでいるだが・・・。( ̄▽ ̄;)

いや、慕って貰えるのは嬉しいし、コイツらも分別はしっかり出来るから、公式の場面ではそう呼ぶ事もないと思うので、ここではスルーしておくか。


僕がそう感想を漏らすと、ハンスは勢い良く乗り出してそう叫んだ。

確かに、今現在のこの世界アクエラでは、異種間の婚姻はある意味禁忌タブー視されている。

それに、ロマリア王国この国では、つい最近までエルフ族が奴隷として囚われていた事実もある。

そこへ来ての、今やエルフ族の英雄とも呼ばれるほどの活躍を果たしたジーク達がと結婚したいと言い出したら、まず間違いなくエルフ族の国の世論からは激しい反発が予測されるだろう。


「そこで、主様あるじさまのお知恵を拝借したいと思った次第なのです。」

「ふぅ~む・・・。」


僕はしばし考え込みながら、ポリポリと頭をかいた。

いや、僕個人としては、仲間であり元・部下でもあるジーク達や、色々とお世話になったフィオレッタさん達には、是非とも幸せになって貰いたい。

しかし、今現在の状況がそれを許さないだろうし、仮に駆け落ち同然で一緒になったとしても、様々な問題が出る事はもはや確定的な訳である。

故に、僕がいくら知恵を絞ったとしても、結局最後は当事者であるジーク達やフィオレッタさん達の次第なのである。


そこで僕は、少々意地悪ではあるが、彼らののほどを確かめる事とした。


「話は分かったし、君達の為に一肌脱ぐのもやぶさかではないが、その前に、君達のを見せて貰おうかな?」

「は・・・?」

「それはどういう・・・?」


その僕の言葉に、ジークとハンスはそう返事を返す。

他の者達も、声こそ出さなかったけれど、二人と同じ気持ちだった事だろう。

しかし、僕はその言葉には返事を返さず、その代わり、強烈なを彼らに向けて放つ。

・・・もちろん、ある程度は手加減しているけれどね。


「「「ひっ!!!!!!」」」

「なっ!?」

「あ、主様あるじさまっ!?」

「くっ・・・!!!」


流石に、“レベル500カンスト”に到達したジーク達は、その程度の圧力では大した影響はない様だ。

咄嗟に、自身の恋人を背にする行動は、我が仲間ながら男として立派な事である。

しかし、今の僕の思惑的には、それは少々邪魔でしかない。

故に、ジーク達には、更に一段階上ので動きを封じた。


「“動くな、ジーク、ハンス、ユストゥス。”」

「「「くっ・・・!!!」」」


確かに彼らは“レベル500カンスト”に至った、もはやこの世界アクエラの有史以来の並み居る英雄達とも肩を並べる、どころかそれらを越えた存在だろう。

だが、一方の僕は、人間としての限界を突破し、今や神性の仲間入りを果たしている。

故に、いくらジーク達でも、本気の僕の言葉による圧力には耐えられなかった様だ。


金縛りにでもあった様にジーク達が動かなくなったのを確認し、僕はフィオレッタさん、リオネリアさん、ヴィアーナさんの前に静かに歩み寄った。

彼女達は、まるで蛇にらまれた蛙の如く、ガクガクと震えて、しかし身体がピクリとも動かせない様子だった。


「さて、フィオレッタさん、リオネリアさん、ヴィアーナさん。僕の質問に答えて下さい。貴女方は、本当に彼らと共に生きる道を望んでいるのですか?」

「「「っ・・・!!!」」」


まぁ、ジーク達すら封じた僕のプレッシャーは、彼女達にとってはとてつもない恐怖だろう。

だが、それ故に意味がある。

言ってはなんだが、この程度の事で揺らぐ覚悟ならば、ここでスッパリと諦めた方が身の為である。

何故ならば、その先はどう転んでも茨の道であるからだ。


「どうなんですか?答えて下さい。」

「あっ・・・、当たり前ですっ・・・!」

「も、もちろんですわっ・・・!」

「わ、私は、ユストゥス様と添い遂げる覚悟ですわっ・・・!」


ガクガクと震える口で、しかし、その目には強い覚悟を宿しながら、動けもしない状況なのに、僕に対してハッキリと彼女達はそう言い切った。


「フッ、結構ですよ。」

「あっ、動ける。フィオ、大丈夫かい?」

「だ、大丈夫か、リオネリア?」

「ヴィアーナ、無事だな?」

「はあはあ・・・、だ、大丈夫です、ジーク様。」

「え、ええ、平気ですわ、ハンスさん。」

「もちろんですわ、ユストゥス様。」


期待通りの言葉を聞いた僕は、スッととプレッシャーを収める。

すると、金縛りが解けた様に、ジーク、ハンス、ユストゥスはフィオレッタさん、リオネリアさん、ヴィアーナさんを気遣いながら、お互いの無事を確めあっていた。


「失礼。少し貴女方の覚悟を確めさせて頂きました。ですが、合格ですよ。少なくとも、僕は貴女方に協力致しましょう。」

「「「ほ、本当ですかっ!!!」」」

「ええ。まぁ、もっとも、僕は当事者ではありませんから、結局は貴女方とジーク達次第ですけどね。」

「そ、それにしたって、いきなりを向けなくなっていいじゃないっすか、あるじさん。」

「悪い悪い。けど、この程度で折れる覚悟ならば、最初から諦めた方が賢明だよ?何せ、これから君達には、が待っている訳だからね。」

「そ、それは・・・、もちろん、覚悟の上さっ!!!」


そう、ユストゥスは断言し、ジークとハンスも力強く頷いた。

うんうん、お前らの覚悟は分かった。

・・・しかし。


「いや、お前らの覚悟は正直どうでもいい。大変なのは、どっちかと言うとフィオレッタさん達の方だからな。」

「「「「「「・・・・・・・・・へっ???」」」」」」



その後、僕の提案を受けたフィオレッタさん達が軽く後悔したのは、彼女達の名誉の為にもここでは割愛しておこうーーー。



◇◆◇



「そもそも僕は、異種間の婚姻にはむしろ賛成の立場なのですよ、グレンさん。」


そんな回想から戻り、場面は再びグレンさんらへの説明シーンに戻る。

そんな僕の意見に、グレンさんは怪訝な表情を浮かべて疑問を口にする。


「いや、しかしアキト殿も先程、この婚姻はかなり複雑である事は認めていたではありませんか?」

「ええ、もちろん、それが難しいのは理解しています。しかし、逆にここで良い前例を示しておかないと、のちの世の人々に、多大な悪影響を与えかねないのですよ。」

「・・・・・・・・・は?」


僕の発言に、グレンさんは訳が分からないと言った表情を浮かべていた。

まぁ、それも致し方ないだろう。

グレンさんの考え方は、ある意味今現在のこの世界アクエラに則ったモノだからである。


しかし、これは向こうの世界地球でも同様ではあるが、実際にはその時代によっては形を変える。

もちろん、それは新しい発想や発見があったからこそ訪れるモノでもあるが、僕にはその新しい知識の用意があった。


「まず、前提条件として、エルフ族の国は、ロマリア王国との関係が進展し、これから多くの交流をする事となるでしょう。この点には、もちろん異論はありませんよね?」

「そ、それはもちろんです。と、言うか、私はその為にロマリア王国を訪れている訳ですからな。」


唐突に話題を変えた僕にグレンさんは若干戸惑っていたが、短い付き合いながら、僕のやり方をしっかり理解していたグレンさんは、それに文句も言わずに付き合ってくれた。


「ええ、それは存じております。ならば、当然、将来的に今現在のジーク達の様なケースが現れるのは、これはある意味必然でしょう。今までは、歴史的、政治的観点から国交が断絶していた訳ですが、それが改善し、交流が活発になる事は、これは確定事項ですからね。ならば、そうした中で、種族の壁を越えて惹かれ合う人々も出てくるのは当然の流れです。」

「そ、それはっ・・・、もちろん否定しませんよ?けれど、それも先程の問題点がっ・・・!」

「ええ、ですから、その前に良い前例を作っておきたいのです。人の心を思い通りに操る事は不可能です。だから、異種間との恋愛や婚姻が禁忌タブーであるといくら説いたとしても、それを乗り越えようとしてしまう人々も出てくる。その末で、そうした人々を無理矢理引き離したとしても、それは不満となってのちの世に大きな禍根を残してしまう事でしょう。それが嫌ならば、そもそも他国との交流を一切断てば良い事ですが、それはただの時代の逆行でしかなく、すでに国交が回復している中では、それも今更感がありますよね?」

「う、うぅむ・・・。」

「それに、他種族の血を受け入れる事は、実は非常に意義のある事なのです。ドワーフ族はともかく、鬼人族、エルフ族、獣人族の人口は、人間族に比べたらそう多くはない。もちろん、エルフ族と獣人族はそれなりの人口を持っているからあまり表面化していませんが、少数種族である鬼人族は、すでにその問題に直面しております。」

「あっ・・・!!!」


アイシャさんは、僕の指摘に何かを思い当たったかの様な表情を浮かべていた。


「・・・どういう事ですか?」

「少々複雑な話なんですが、同族だけで婚姻を繰り返すと、“血が濃くなってしまう”。つまり、生まれてくる子供達が、何らかの障害を抱えてしまうといった事態になってしまうのですよ。実際、鬼人族では過去にそうした事態に直面し、これについては他部族との交流を持った事でとりあえずは回避しましたが、特に少数種族である鬼人族にとっては、これは決して終わった話ではなく、現在進行形で抱えている問題点なのです。で、まぁ、アイシャさんは、そうした事態を何とかする為に鬼人族から派遣されているのですが、ね。では、そうした障害を抱えてしまう事態。何処かで聞いた事はありませんか?」

「・・・なぁ、旦那はん。もしかして、エルフ族の出生率云々って、それに関連した現象やないやろな?」

「あっ・・・!!!」


グレンさんも、ようやくその点に思い至った様だ。


そうなのだ。

もちろん、元々少数種族である鬼人族とは単純に比較出来ないし、長命かつ優れた能力を有するエルフ族の種族特性として、元々他種族に比べたら出生率が低いのは事実なのだが、それも踏まえた上でも、昨今のエルフ族の出生率低下は、少なくともその“血の濃さ”が関係していると考えられる。

そもそも、今現在のエルフ族の国の建国事由は、元々別の森に暮らしていた部族が、ロマリア王国によるエルフ族への迫害から逃れて、エルギア列島にて合流した事が発端となっている。

つまり、“血の濃さ”に関するとりあえずの問題を、自然発生的に、鬼人族と同様の解決策をいつの間にか実行していた訳である。


ただ、これはエルフ族特有の長命さが裏目に出て、鬼人族に比べても早いスピードで、再びその問題に直面する事となってしまったのである。

何故ならば、つまりエルフ族が長命過ぎるが故に、知らず知らずの内に“親等が近付く”といった現象が起こってしまったからである。


近親相姦が禁忌とされる理由、それは、世間体や倫理的観点もさる事ながら、遺伝的に問題があるからである。

実際、過去の向こうの世界地球にはおいては、他家に財産が配分される事を嫌がって、近親相姦にて同一の血族内による財産管理を行っていた事例もある。

だが、少し生物学をかじった者達ならば理解出来るだろうが、これは大変危険な行為なのである。

何故ならば、それによって生まれてくる子供は、かなり高い確率で、先天的な障害を抱えているケースが多いからである。


具体的には、所謂兄弟姉妹関係もしくは親子関係と第一度の近親者間で生まれた子の約半数が、何からの先天的な異常や障害を持って生まれてくるというデータもある。

もちろん、これはあくまで説の一つであって、それが絶対に正しいという事はないのだが、少なくともこの世界アクエラにおいては、何らかの不具合が、特に他種族を中心に起こっている事は、これは間違いない事実なのである。

また、おそらく、一般市民の域を出ない人間族と他種族との子が、虚弱体質であったり短命であるというデータも、これに関連した話ではないかと僕は考えている。


そもそも『レベル』という概念があるのは、まぁ、分からなくはないが、それが数値上で明確に確認出来るシステムは、これは僕が元・『異世界人地球人』だからこそ感じる違和感だろうが、おかしいのである。

そんなモノがなくとも、少なくとも向こうの世界地球では、何らかの技能・技術の向上を実感する事が出来る。


だと言うのに、わざわざそれがされているという事は、それに何らかの意図や意味があるのだと推察されるのである。

まぁ、ここら辺は、僕の独自の理論であるが。

何せ、その答えを知っているだろう、アルメリア様達は答えてくれないからね。


「なるほど・・・。それ故にアキト殿は、異種間の婚姻を推奨されているのですな?しかし、アキト殿自らが示された問題点はどうするのですか?」

「そちらについても問題ありません。僕の研究によって、その問題点の一部は解決策がありますから。」

「な、なんとっ!?」


僕の趣味、かつ実益も兼ねたライフワークは、この世界アクエラの過去から現代にかけた歴史を調べる事である。

具体的には、様々な場所に残された『失われし神器ロストテクノロジー』などの遺産やその資料を調べているのだが、その成果として、『通信球つうしんきゅう』を模倣した『通信石つうしんせき』の開発や、『農作業用大型重機』に用いた『魔素結界炉』に搭載した『古代語魔法ハイエイシェント』などを復活させている。

これは出来たのは、もちろんアルメリア様に教えて頂いた現代魔法に関する知識もあるのだが、やはり一番大きいのは、僕の能力である『言語理解』のチカラなのである。


基本的に今現在の、少なくともハレシオン大陸この大陸では統一言語が話されているが、当然ながら過去には様々な言語が存在していた。

古代魔道文明時代も、現在とは異なる言語を扱っていた為に、『失われし神器ロストテクノロジー』などの遺産や資料というのが上手く発掘出来たとしても、その解析や解読に非常に時間を取られてしまうのである。

しかも、場合によっては、その解読が間違いである事もしばしばある(これは、例えば向こうの世界現代地球の既存の言語でも起こり得る現象ではあるが、翻訳が一部間違っているだけでも、意味が180度変わってしまう事がよくある)。

向こうの世界地球における考古学においても、その古代の言語を解析・解読するのが一番難しいとされている。


ところが僕は、この『言語理解』というチート能力によって、もちろんそれなりに時間は要するのだが、どんなに文字も言語も、ある時を境に急に理解する事が出来てしまうのである。

これは、特に歴史的資料なんかを解読する為には、大きなアドバンテージとなる。


どんな文字も言語も、まるで自分の母国語の様に扱える様になるので、現代では完全な解読がほぼ不可能に近いとも言われている古代魔道文明時代の言語も、現代魔法とは全く別体系の『古代語魔法ハイエイシェント』さえも、僕なら楽々理解してしまえるのである。

まぁ、もっとも、グー○ル検索の様な便利機能などある筈もないので、基本的には現存する膨大な資料をしらみつぶしに調べるしかない、といった問題点もあるのだが。

それ故に、結局はとてつもなく時間を取られるし、僕もまだ読めていない、知らない情報も多くあるのである。

(もちろん、すでに神性の仲間入りを果たしている僕は、アルメリア様達と同様に『世界の記憶アカシックレコード』にアクセスする事が可能であるから、その方向から情報を得る方法もあるのだが、こちらについては現存している人々の記憶であるらしいので、過去の事に関して調べる情報源ソースとは成り得ない。その一段上である『アクエラの記憶アカシックレコード』であれば、この世界アクエラの過去から現在にかけての全記憶を内包しているらしいので、こちらにアクセスすれば、様々な情報を引き出す事は可能であるらしいが、残念ながら、今の僕ではその域に達する事は出来ていない。まぁ、もっとも、後者の『アクエラの記憶アカシックレコード』に関しては、神々というとんでもない次元の存在の中でも、情報に特化したアルメリア様やルドベキア様の様な『一級管理神』でなければ扱えない様なのだが。まぁ、どちらにせよ、知りたい情報があれば、自ら地道に調べる必要があるって訳である。)


そして、この能力と膨大な資料を調べた結果、幸いな事に、異種間による交配に関する情報を僕は入手していたのである。


「もっとも、今回のケースだとエルフ族の血を受け継いだが誕生してしまう点や、種族差による寿命の問題については、依然として問題があるのもまた事実ですがね。」

「ふむ、まぁ、そう何もかも上手くはいきますまい・・・。して、その解決策とは?」

「それは、具体的なレベルの数値ですよ。先程も申し上げた通り、歴史的な偉人や英雄と呼ばれた者達の中には、他種族との間に子を成した者達もいました。もちろん、様々な疾患や寿命の問題点もクリアした、健常な状態の、ね。しかし、一言に偉人や英雄とは言っていますが、これまでは具体的にそれらの人物がどれほどのレベルであったかは知られていませんでした。ですが、僕は、その具体的な数値を発見する事に成功したのですよ。」

「な、なんとっ!?」


まぁ、これに関しては当たり前なんだけどね。

そうした人物の英雄譚や偉人伝というのは、“盛る”のが当たり前だからである。

とんでもなく強かった、とか、これこれこういう偉業を成し遂げた、とかは記されていても、その正確なデータ、顔立ちから身長、体重、レベルなどは、意図的にぼかす方が、返って人々の想像力を掻き立てる事だろうからね。

それに、例えそうした具体的なデータがあったとしても、それも書き手によってバラバラである事も珍しくない。

実際、僕もそれらの整理に非常に手間取ったくらいだ。

まぁ、その手間あって、僕はその答えに辿り着けた訳であるが。


「もちろん、個々にバラつきはあるのですが、そうした偉人や英雄と呼ばれる者達は、概ねレベル300以上の者達であった事が分かっています。つまり、他種族との間に子を成す場合、人間族は最低でもレベル300以上あればその問題点をクリア出来るのです。」

「レベル300、ですか?その程度で本当に・・・???」

「そうです。長命なエルフ族、とりわけ武人としても優秀なグレンさんにはあまりピンと来ていない様ですが、レベル300以上と言えば、人間族の冒険者で換算すると、上級冒険者に該当する人物達です。軍人や冒険者はそれなりの数いますが、それでも全体で見ると人間族の人口の一割にも満たない数に過ぎません。その中で、更に上位、上級やS級と呼ばれる実力者は、更に数が限られてきます。実際、この場にいる人間族の中でも、その条件をクリアしているのは、僕とドロテオさんしかいません。ダールトンさんやジュリアンさんが優秀なのは、グレンさん達もすでに御承知の通りでしょうが、それほどの人物でもレベル300を越えてはいないのです。その事から、レベル300以上というのが、いかに高いハードルかが窺い知れると思います。」

「な、なるほど・・・。」


まぁ、僕の周りでは、僕も含めてぶっとんだレベルの者達が多いからあまり実感が湧かないかもしれないが、上級冒険者相当、S級冒険者相当の実力者など、本来は非常に稀なのである。

これは、以前にも言及したかもしれないが、レベリングという方法が非常に不安定だからである。


僕らは、僕とアルメリア様が考案した『シュプール式トレーニング方法』によって、効率的かつ驚異的な速度での成長が可能であるが(もっとも、これはかなりの過酷なトレーニング方法だ。実際、今現在ではかなりの実力者となったレイナード達でさえ、このトレーニング方法を簡略した方法でしかない。“レベル500カンスト”に至った僕やアイシャさん達が実践したトレーニングは、もはや苦行とも呼ばれるほどの修行を乗り越える必要がある)、一般的にはそうはいかないのである。


そもそも、世間一般ではいまだに勘違いされているのだが、レベルを上げる方法は、何もモンスターや魔獣を倒す事だけではない。

向こうの世界地球と同様に、地味なトレーニングによっても、更には肉体的な事だけじゃなく、知識や技能などを習得する事によっても向上させる事が可能なのである。

もちろん、これについてはある程度認知されている。

実際、戦うすべも分からずにモンスターや魔獣などといった脅威に突っ込んで行く者達はいないだろうからね。


だが、これは生活や仕事も絡んでくる話でもあるから、ずっとそれを続ける事は困難なのである。

実際、冒険者は初級、中級相当の者達が大半であるのは、これらの理由によるモノなのである。

それ以上を目指すのであれば、地道にストイックに、生活や仕事の合間を縫って勉強やトレーニングを続ける必要があるからだ。

これは誰にでも出来る事ではない為、どうしても上級、S級相当の実力者は数が限られた来てしまうのである。


ちなみに、エルフ族は、その長命な寿命故に、それらのハードルが他種族に比べて緩いのである。

じっくりのんびりレベルを伸ばしていっても、100年もあれば相当なレベルまで伸ばす事が出来るだろう。

他種族にとっては、もはや生まれて死ぬほどの年月であっても、エルフ族にとっては、それは生まれて成人するくらいの年月だ。

故に、グレンさんもその点を勘違いしていたのである。


「で、すでにお察しかもしれませんが、僕らの指導によってフィオレッタさん達には、このレベル300の壁を越えて頂きました。」

「な、なんとっ!?」

「ほう、そりゃすげぇなっ!」

「い、いつの間に・・・。」

「・・・なんだが、アキト殿が関わると、何とも簡単な事の様にも聞こえるのは気のせいでしょうか・・・?」


完全に気のせいですよ、ジュリアンさん。

実際、魔術師であり、すでにレイナード達と共に簡易的とは言え『シュプール式トレーニング方法』を実際に体験していたヴィナーナさんはともかく、フィオレッタさんやリオネリアさんは優秀だがあくまで一般人の域での話であった。

故に、彼女達がレベル300その域に到達するまで、ひたすらを繰り返したのである。

まぁ、よくぞ乗り越えたモノである。


「しかし、そのおかげで、安全に子孫を残せる条件をすでにクリアしている訳ですね。もっとも、これはあくまで仮説にしか過ぎませんので、結果が出てからでないと、その真偽については不明のままですがね。もちろん、それがかなり酷な話である事は僕も承知しておりますが、ジーク達とフィオレッタさん達はそれも覚悟の上での話となります。更には、これは副次効果となりますが、レベルを上げれば上げるほど、平均寿命が伸びる事が、これはデータとしてハッキリと証明されているのです。もっとも、エルフ族の寿命に比べたらそれも微々たるモノですが、少しでも長く共に生きる事が出来るでしょう。ただ、純粋にエルフ族を増やす事については、今回のケースでは対象外となります。故に、ジーク達とエルフ族の方との間に子を成すか、あるいは条件をクリアした人間族の男性とエルフ族の女性との間に子を成す必要があるのですが、それも彼らは承知しております。まぁ、それだと所謂重婚になってしまいますが、ここら辺の制度は曖昧ですから、これも何とでもなるでしょう。むしろ重要なのは、ジーク達とフィオレッタさん達の婚姻が成功する事です。そうすれば、様々な問題に解決策を示す事が出来ますので、先程も述べた通り、良い前例として、言い方は悪いですが、ある種の実験台としてのちの世の人間族や他種族との婚姻の礎となる事になります。」

「な、なるほど・・・。」


長々と説明してきたが、僕の説得が通じたのか、グレンさんは目を閉じて熟考していた。

後は、グレンさんの決定次第である。

グレンさんを説得すると共に、十賢者であり、エルフ族の国に大きな発言力を持つ彼をこちら側の味方とすれば、少なくとも僕が言うよりかは、エルフ族の国の世論を動かす事が可能だろう。


「さっすが旦那はんやな。すでにそこまで見越して一手を打っておるとは・・・。なあ、グレンはん。ウチはエルフ族やないけど、同じ他種族である獣人族としては意見や。ここは旦那はんの案に乗るのがええと思うけどな?仮にこの件が上手く運べば、当人達だけやのうて、エルフ族全体、ひいては他種族全体の利となる。それに、政治的なあれこれになってまうけど、人間族との関係も更に強固なモノに出来るやろ?」

「う、うむ・・・。」


そこに、しばらく黙っていたヴィーシャさんから援護があり、グレンさんも揺れ動いていた。

皆がジッと見詰める中、グレンさんの重苦しい口が動いた。


「わ、私は・・・。」





















その後、紆余曲折を経て、ジーク達とフィオレッタさん達の婚姻が正式に行われた事を、ここに記しておこうーーー。


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