戦に至る経緯
第168話 風雲急を告げる
さて、地球によく似た天体である惑星テルースでも、地球と似た様なエネルギーの変革があった。
もっとも、惑星テルースは、今現在の地球を軽く凌駕するほどの高度な文明を持っている。
これはつまり、惑星テルースは今現在地球が抱えている問題をクリアしている・・・、と言う訳でもない。
むしろ逆だ。
テルース人は高い技術力を持ち、環境保全にも全力で努めていたのだが失敗し、惑星テルース自体は深刻な環境汚染にさらされる結果となってしまったのである。
そこでテルース人達は、新たなる生活圏を求めて宇宙へと進出していったのである。
惑星テルースや、その衛星や小惑星などを資源地として利用し、スペースコロニーを建造していった。
だが、宇宙は想像以上に過酷な環境だった。
当然だが、惑星テルースや地球の様な天体には、大気圏と言う天然のバリアがデフォルトで備わっている。
これによって我々が知らないところで、日夜小惑星などの衝突を未然に防いでいるのだ。
しかし、“月”などの衛星や小惑星、スペースコロニーにはそんな都合の良いモノは存在しない。
故に、常に死と隣り合わせな過酷な生活を強いられる事となる。
もちろん、テルース人達の技術力ならば、彼らの新たなる生活圏である衛星や小惑星、スペースコロニーに大気圏の代わりとなりバリアを発生させる事も出来る。
しかし、ここで先程の話に戻るのであるが、それには結局膨大なエネルギーを必要とするのである。
既存のエネルギー技術では、何をどうしても、資源が必要となる。
故に、テルース人達にとっては、惑星テルースの資源は一種の生命線だった訳である。
しかし、そこへ来て、惑星テルースの資源が枯渇するという事態に見舞われる。
それはもう、パニックとなるのは必然であろう。
いや、極論を言うと、そうなる前に対策を打てなかったのが全ての敗因であるが、えてして人というのは、いざその場面に立たなければ、本腰を入れて物事に取り組まないモノかもしれない。
その末で、テルース人達はお互いに争う様になったのである。
こんな時に何をしているのだと思われるかもしれないが、えてして人というのは、極限状況に立たされると、助け合うのではなく、自分達の生き残りを懸けて、他者から物を奪う様になるモノなのである。
だが、それも必ずしも無駄ではなかった。
追い詰められると、人は本気を出すモノだ。
そうした極限状況を打開する為に、様々な研究者達が必死に研究を重ねていった。
それは、時として、科学の倫理観をも超越した研究ではあったが。
その結果、テルース人達は遂に禁断の領域へと到達したのであった。
それが、理論上は資源を必要としない、更には無限のエネルギーを確保する事が可能であった『霊子力エネルギー』だったのであるーーー。
◇◆◇
元・『LOL』のメンバーで、現・『LOA』の外部協力者の立場を取るアラニグラは、
もっとも、実際にはライアド教(ハイドラス派)やロンベリダム帝国(ルキウス)、ティア達とのしがらみも全くない訳ではないのだが、それでも、様々な“自由”に制限をかけられていた
さて、これは以前にも言及したが、アラニグラは所謂“ダークヒーロー”に憧れを抱いているクチである。
これは、彼の“何者にも縛られない”という理想を、“ダークヒーロー”が体現している存在だからでもある。
とは言っても、別にアラニグラは悪人に成りたい訳ではない。
もちろん、法に縛られる事は嫌う傾向にはあるが、それも彼の美学に沿う形によるモノである。
もっとも、これに関しては、ある意味独善的であるとも断じられるだろうが、彼にはそれを出来るだけの
ここら辺が、ティア達とアラニグラの違いだろう。
とは言え、元々のアラニグラは善良な人間である。
これは、
そんな事もあり、『
まぁ、彼自身は、その呼び名で呼ばれる事を嫌うので、その名で呼ぶ者は、少なくとも彼のパーティーメンバーにはいなかったが、それは別にしても、強大な
しかし、そんな彼ではあるが、アーロス達より遥かに冒険者としての経験値があるとは言え、それなりに失敗する事もあった。
いや、先程も述べた通り、彼自身は強大な
いくらとんでもない強さを持ってはいても、それで全て上手くいく訳じゃないし、彼もカバー出来ない事態などいくらでもある。
だが、その事をキッカケとして、アラニグラは“
◇◆◇
ロンベリダム帝国周辺を
もちろん、ロンベリダム帝国の住人とこの“
もっとも、上記の事も踏まえ、上級冒険者でなければ滅多に足を踏み入れる事はない。
当然ではあるが、そんなエリアであれば、命がいくつあっても足りないからである。
基本的に冒険者は、リスク管理に優れた者達である。
自分の実力とクエストの難易度を冷静に吟味して、安全が確保出来ないならば断念する事もしばしばである。
当たり前の話ではあるが、彼らの商売は命あっての物種だからである。
自分達に出来る事と出来ない事をしっかりと把握している者達ほど、良い冒険者と言えるだろう。
まぁ、もっとも、それでも毎年の様に、命知らずや実力を過信してしまった者達がこのエリアに突入して、帰らぬ人になる事も多いのであるが。
また、言わば国と国同士が仲が悪くとも、個人と個人ではそんな事はなかったりする事も往々にしてある。
実際、上級者冒険者の中には、個人的に『獣人族』と友誼を結んでいる者もいる。
『獣人族』は、『鬼人族』に近しい性質として、強者に対して一定の敬意を払う風習があるからである。
あるいは、獣的な性質なのかもしれないが。
もちろん、これは自身に攻撃を加えないという前提条件がつくが。
こうした者の中には、『
もっとも、自然破壊をしない範囲ではあるが、これによって大成功を納めた者もいるので、一攫千金を狙う者達にとっては、“
さて、そんな“
だが、アラニグラはともかく、彼のパーティーメンバーは、このエリアに挑戦するにはまだまだ
いや、彼らもそれなりに名の通った冒険者達であった。
故に、所謂“レベル”的には規定ラインを越えてはいるのであるが、アラニグラとそのパーティーメンバー達は、一番単純な落とし穴に陥ってしまったのである。
それが、所謂『パワーレベリング』の落とし穴であったーーー。
・・・
『パワーレベリング』とは、主に複数プレイヤーが参加するオンラインゲームにおいて、第三者(レベルの高い他のプレイヤー)の助けを得て経験値を稼ぎ、レベル上げ(レベリング)をする事である。
複数のプレイヤーが協力して戦闘に挑むタイプのMMORPGでは、自分はまだレベルが低い状態であっても、強いプレイヤーが味方につけば強大な敵との戦いに勝利でき、現在のレベルに不相応といえる大量の経験値を獲得できる場合がある。
こうした戦闘を続ける事で一気にレベルが上がる。
パワーレベリングは、レベリングを目的として仲間を選びレベルだけを上げるという点でゲームの本意から外れており、一般的には邪道なチート行為と見なされている。
また、ゲームによっては利用規約でパワーレベリング行為を禁じている場合もある。(某用語辞典から抜粋)
もっとも、これは通常はゲームに関する話である。
いや、場合によっては、経歴詐称などといった詐欺行為としてこうした事は起こり得るかもしれないが。
しかし、『レベル制』のある
ただ、このしばしば、特に貴族の常套手段となるこのパワーレベリングであるが、実際には落とし穴も多い。
ゲームにおいても、パワーレベリングでキャラクターを育てたプレイヤーはゲームシステムに習熟出来ていない事が多く、キャラレベルは高くともプレイヤーの腕が追いついていない事が往々にしてあるのだ。
パワーレベリングは、成長の苦労をショートカットした分、別の苦労を背負う育成方法なのである。
いくらレベルを上げても、基本的なステイタスの向上と共に頑強な肉体を持つ事は出来るが、死から逃れられる訳ではない。
故に、それを回避する上で必要不可欠な戦闘
ここら辺は、ある意味ではアラニグラら『
だが、先程も述べた通り、アラニグラのパーティーメンバーは、それなりに名の通った冒険者である。
故に、普通に冒険者としての心得や戦闘
何せアラニグラが強すぎて、彼らが何かする前に、アラニグラが全て終わらせてしまうからである。
もっとも、彼らとしては楽が出来るならばそれに越した事はなかった。
それに、戦闘面ではアラニグラが大活躍してしまうが、事冒険者としての仕事においては、彼らの方がアラニグラよりも遥かに先輩だったからである。
ある意味、適材適所、持ちつ持たれつの関係であり、アラニグラと彼らの関係は極めて良好だったのである。
しかし、そんな感じに彼らがアラニグラとクエストをこなしていると、彼らは知らず知らずの内に大幅なレベルアップを果たす事となってしまったのである。
何せ、アラニグラはすでに“
故に、アラニグラが稼いだ経験値分も彼らに加算されて、彼らの想像以上の成長を果たしてしまっていたのであった。
楽して稼げるのならば、それに越した事はない様に思えるが、先程も述べた通り、パワーレベリングには彼らの努力や経験が伴っていない。
故に、いきなり戦闘をしてしまうと、極めて危険な状況に陥ってしまう事があるのだ。
以前に、アキトも言及していたかもしれないが、彼はレベル400以降は面倒がってステイタスの更新をサボッていたのだが、実はこれは極めて危険な行為なのである。
まぁ、アキトの場合は、常日頃からトレーニングを欠かした事がないので、そこら辺のすり合わせを感覚で何とかしてしまったのだが、これは一般的な冒険者には通用しない。
何故、それが危険かというと、自分の想像以上のパワーが出てしまうからである。
例えば、自分のステイタスを車などのスペックとして置き換えてみたら分かりやすいだろうか?
一般的には分かりにくい表現かもしれないが、ドライバーは自分の腕に見合った車を選ぶ必要がある。
例えば、ズブの素人がF1レベルのハイパワーの車をコントロールする事など不可能である。
これは、車のスペックに自身の腕が追い付いていないからである。
その末で、ちょっとアクセルを踏んだだけでメチャクチャスピードが出てしまって、慌ててハンドルを切りすぎてしまって事故が起こる、という事態になりかねない。
もちろん、これは極端な例だし、実際にはそんな事になる前に断られるので実際には起こり得ないのであるが、一般的に販売されている車種の中にも、かなりピーキーな車も存在する。
それを普通の車の様に操作して、先程の例の様な末路を迎えるドライバーの話も存在するのである。
まぁ、それはともかく。
アラニグラのパーティーメンバー達も、そうした事態に見舞われてしまった訳である。
最近は戦闘はほとんどアラニグラ任せになってしまい、事務面で忙しくしていて、トレーニングも怠ってしまっていたのである。
それが、いざ戦闘となると、想像以上のレベルアップに、実際の身体能力と自身の認識にズレが生じてしまっていた為、上手く身体を操作する事が出来なくなっていたのである。
本来は、ステイタス更新をする事によって、数値上で自身の成長を確認し、トレーニングなどによって、その認識のズレを修正していくのであるが、クエスト中の遠征などでは、そうした対処法を一々やっていられない状況なども往々にしてある。
それに、アラニグラの強さがあれば、彼らが戦うまでもなく終わる事が多かったので、彼らが自身の急激な成長を実感する事もほとんどなかったのである。
だが、先程も述べた通り、アラニグラがいくら強くとも、それだけでは対処出来ない事態などいくらでもある。
例えば、彼らが森の中で多数の魔獣やモンスターに囲まれてしまった場合などがそれに当たる。
もちろん、アラニグラの持つ魔法であれば、それらを一網打尽にする事も可能ではあるが、その場合、当然ながら森へも多かれ少なかれ影響を与えてしまう。
自然環境に対する配慮はともかくとして、そうした閉塞した場所においては、下手な魔法を放つと自身と仲間達をも巻き込んでしまう恐れがあるのだ。
そして、アラニグラもそれが分からないほど愚かではないし、
故に、魔法を放つ事はせず、地道に目の前の脅威に対処して、アラニグラの手が回らない分は、仲間達に任せる判断をしたのである。
しかし、そこで先程の問題が最悪の形で表面化してしまったのである。
意気揚々と久しぶりの実戦に、仲間達も若干興奮していたのかもしれない。
何時もの様に、敵に攻撃を仕掛けようとして、見事に
魔獣やモンスターにとっては、相手が自爆しようと何をしようと、手心を加える事などありえない。
故に、彼らは実力がありながらも、それに認識が追い付いていなかった事で、これまでとは異なる意味合いで絶賛大ピンチだった訳であるーーー。
◇◆◇
「トロール、ですか・・・?」
ロンベリダム帝国の東側の地方、ソラルド領のカランの街。
“
これは、先程も述べた事情によるもので、“
ただし、非常に危険なエリアである事も先程述べた通りだ。
何故ならば、“
故に、カランの街には、常時ロンベリダム帝国の駐留軍がニラミを効かせており、何時なんどき、非常事態となるかも分からない土地でもあったからである。
故に、駆け出しの冒険者は近寄りもしない土地であり、仮に訪れたとしたら、それは所謂“モグリ”なのである。
しかし、商魂たくましい商人は頻繁に出入りしているし、精強な駐留軍の存在により、比較的発展している土地でもあった。
故に、それなりの規模の街もあるし、冒険者ギルドなどの機関も拠点を置いていたりする。
で、そんなカランの街の冒険者ギルド支部にて、アラニグラとそのパーティーメンバー、パーティー名『ウェントゥス』はギルド長と会談していた訳である。
「ええ、そうなんですよ、アラニグラさん。“
「それを、私達に討伐して欲しいと?」
「ええ。・・・ここだけの話、実はこれは獣人族側からも密かに依頼されておりましてな。いえ、基本的にトロール単体であった場合は、獣人族側はもちろん、ベテラン勢の多く集まる
「は、はぁ・・・。」
興奮した様に詰め寄るギルド長に、アラニグラは戸惑った様に曖昧に頷いた。
アラニグラとこのギルド長は、今が初めての顔合わせである。
何故ならば、アラニグラはカランの街には初めて訪れたからである。
しかし、アラニグラと『ウェントゥス』の活躍は、この辺境の土地にも伝わっている。
何せ、アラニグラは、かつての仲間であるティア達と共に『テポルヴァ事変』を早期に解決し、『
情報に敏感な者達であるならば、アラニグラの存在を(一方的に)知っていたとしても何ら不思議な話ではなかったのである。
「いやぁ~、俺らも指名のクエストを任せられるまでになったんすねぇ~。」
「いいんじゃないですか、アラニグラさん。元々アラニグラさんも、獣人族には興味を持っていたでしょう?このクエストを受ければ、大手を降るって
「おおっ!そうなのですかっ!?でしたら話は早い。」
「お、おいっ、カルッ、ルークッ!」
さてどうしたものか、とアラニグラが考えていると、彼のパーティーメンバーである20歳そこそこの青年、カルとルークが横から口を挟んできた。
「まあまあ、アラニグラさん。どちらにせよ、“
「レヴァン・・・。ま、まぁ、そうなのだが・・・。」
反射的に叱りつけようとしたアラニグラは、しかし更にそこに割って入ってきたカルとルークよりかは少し年上の青年であるレヴァンのとりなしで、どうにかその言葉は飲み込んだ。
「おい、カル、ルーク。俺らのパーティーのリーダーはアラニグラさんだぞ?交渉中に話の腰をおるんじゃない。」
「そうですよ。・・・それに、わざわざこちらの手の内を明かしてどうするんですか?アラニグラさんも困っているでしょう?(ヒソヒソ)」
「お、おう、悪い。(ヒソヒソ)」
「そ、そうだね。考えが足りなかったよ。(ヒソヒソ)」
次いで、レヴァンと同じぐらいの年回り、20代前半らしき青年であるレイとジョージが、さりげなくカルとルークを注意しながら、ギルド長とアラニグラの間から遠ざけた。
・・・期待させておいて、今更断る事も出来ないか・・・。
アラニグラの様子を窺う様な表情のギルド長を眺めながらアラニグラはそう考え、ポリポリと頭をかいた。
そして、ややあって、
「んじゃまぁ、引き受ける方向で話を進めましょうかね?」
「おお、ありがとうございますっ!!!」
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