第162話 シュプール会談 2



◇◆◇



僕に促されて、多少躊躇しながらも再び『同調の指輪』を装着した彼らを見届け後、僕はしばらく蚊帳の外にしてしまったアイシャさん達に目線で謝意を伝える。

アイシャさん達は、“気にしないで”と言った風に頷いていたので、僕も頷き返し、いよいよ本題に入る事とした。


「それでは、まずあなた方の気になっている事に対して結論から申しますと、向こうの世界地球に帰還する方法は確かに存在します。」

「「「おおっ・・・!!!」」」

「ま、マジかよっ!」


僕の言葉に、ティアさんらは驚きと喜びが混じった様な表情を浮かべていた。


「じゃあ、早速その方法をっ・・・!」

「まあまあ、話は最後まで聞いて下さい。ただし、その方法は、おそらくですが、あなた方がではありません。」

「「「「・・・・・・・・・へっ???」」」」


しかし、それもつかの間の事で、続く僕の言葉に、彼らはしばらくポカーンとしていた。


「え、え~とっ・・・、それはつまり、我々が信用に足らないのでその情報は開示出来ない、という事でしょうか?それとも、情報提供の交換条件として、こちら側に某かの要求があると、いう事でしょうか?」


一番最初に気を取り直したティアさんが、これが“交渉”なのだと判断しそう確認してきた。

確かに、特にこの世界アクエラの冒険者間では、情報は高値で取引される事もあるので、彼女がこちらが情報を出し渋っていると勘違いしたとしても無理はない。


「いえいえ、そういう事ではなく、文字通りの意味です。むしろこの話は、あなた方も無関係ではありませんので、お話をするにあたってこちら側が某かの要求をする事はありませんよ。ただ、選択を迫る可能性は否定出来ませんので、いずれにせよ、話を全部聞いてから判断しても遅くはない、と言っているのです。」

「・・・チッ、もったいぶりやがって・・・。(ボソッ)」

「これ、アーロス殿っ・・・!」


ゴール目前でお預けを食らった様な状況のアーロスくんは、苛立ちを隠そうともせずにそう舌打ちをした。

それに、ティアさんは困った様な表情で彼をたしなめる。


まぁ、僕の悪い癖でもあるのだが、僕のやり方は回りくどいからねぇ~(まぁ、実際は、それも含めて一つの戦略なんだけど)。

アーロスくんの性格的には合わないのだろう。


しかし、先程の『隷属の首輪』や『同調の指輪』なんかと同様に、物事は深く知らないと損をひいてしまう事もよくあるので、面倒でも事前に色々調べたり知った上で判断した方が良いというのが僕の持論である。


「・・・詳しく教えて頂いても?」


僕を睨んだまま黙りこくったアーロスくんの説得は諦めたのか、ティアさんがそう僕の言葉の続きを促した。


「ええ、もちろんです。」



・・・



さて、と僕は一息吐く。


「まず前提条件として、おそらくあなた方ももう薄々勘付いているとは思いますが、あなた方の向こうの世界地球におけるは、もうとっくに滅んでいます。何故ならば、あなた方のこちら側の世界アクエラに存在する以上、必然的に向こうの世界地球が所謂“脳死判定”を受けてしまったからですね。そうなった場合、衛生的観点からも、速やかに処置するのが望ましい。何故ならば、生体反応のない肉体を長期保存する事は、まぁ、不可能ではありませんが、資金面から考えてもあまり現実的ではありませんからね。それ故、速やかにあなた方のが執り行われ、火葬ののち、埋葬された事でしょう。つまり、僕と同様に、あなた方の向こうの世界地球における人生は、すでにのです。」

「「「なっ・・・!!!???」」」

「・・・。」


その事実に、アーロスくん、N2さん、ドリュースさんは目を見開いて驚いていた。

ティアさんは比較的冷静に受け止めている様だが、先程僕が述べた通り、薄々勘付いていたのだろう。

あるいは、他の三人も薄々勘付いていたのだが、認めたくなかった事を改めて指摘された事で取り乱してしまったのかもしれないが。


「ですから、僕が御提案出来るのは、単純にあなた方の“魂”を向こうの世界地球に送り返す、という事だけなのです。そうなった場合、当然ですが、先程も述べた通り、あなた方のはすでに存在しませんので、帰還と同時にあなた方の人生が本当の意味で終了する事と同義になりますが。」

「・・・“魂”、ですか・・・。何だかオカルトチックなお話で、にわかには信じられないお話ですが・・・。」


まぁ、無理もない。

一応、向こうの世界地球でもこちらの世界アクエラにおいても、“死後の世界”について言及する伝承や伝説、資料なんかは多数残されているが、そうした事柄は物理的に目に見えるモノではないので、普通に生きてきた人達ならば、“霊”やら“魂”やらと言われても、眉唾な話だと思うだろう。


「お気持ちは理解出来ますが、これは純然たる事実です。実際に僕は、あなた方とは異なり、向こうの世界地球で死亡したのちに、“魂”の状態でこちらの世界アクエラに引き寄せられ、今現在の肉体、アキト・ストレリチアとしてを果たしましたからね。」

「・・・そういえば、アキト殿は、私達がどの様な経緯でこちらの世界アクエラに喚ばれてしまったのかを御存知の様ですね?私達は、朧気ながらにしか把握していないのですが、よければ詳細を教えて頂いてもよろしいですか?」


ここで、ティアさんは一旦話題を変える事にした様だ。

まぁ、いきなり“死後の世界”がどうだとか、“魂”がどうのという奴に、真面目に向き合う方がどうかしているだろうからな。

故に、一旦話題を変えて、目的を情報収集にシフトするのは、ある種冷静な判断と言えるだろう。


「もちろんです。それも当然関連する話ですからね。そもそも僕とあなた方は、で、その方法は異なりますが、我々をこちらの世界アクエラに喚び寄せたは実は同じだったりします。」

「と、申しますと、貴方もロンベリダム帝国に喚び寄せられた、と言う事でしょうか?」


うん、どうやら、彼女達は“異世界召喚”をした元凶は、ロンベリダム帝国であると勘違いしている様だ。

まぁ、少なくとも彼女達の場合、実際にそれを実行に移したのはロンベリダム帝国なので、それも間違いではないが・・・。


「いえ、違います。我々をこちらの世界アクエラに喚び寄せた元凶は、ライアド教、もっと言うと、その信仰の対象である至高神ハイドラスそのものが原因となります。」

「はっ、今度は“カミサマ”ってかっ?“魂”だ、“カミサマ”だって、アンタ頭大丈夫か?」


しばらく黙って聞いていたアーロスくんは、再びそう噛みついてきた。

うん、まぁ、それに関しては、彼の方が正常な反応だろう。

僕自身も、マンガ、アニメ、ゲームの影響により、そうした事に関する情報にはかなり触れてきているが、実際に、所謂“カミサマ”や“魂”、アストラルに関連した存在をしっかりと認識したのは、実はルドベキア様に会ってからだからなぁ~。

それまでは、僕もそうした存在は抽象的な概念であって、実在するとは露ほども信じていなかったからねぇ~。


「僕は正常ですので、どうぞ御心配なさらないで下さい。ですが、そうですね・・・。急にそんな事を言われても信じられないのは理解出来ます。」

「・・・なあ、コイツの話をマトモに聞いていても埒が明かないんじゃねぇ~の?(ボソボソ)」

「うむ・・・、あ、いや、そういう訳にもいくまい。彼が某かの事情に詳しいのは、おそらく事実。もう少し、様子を見てみたいのだ。(ボソボソ)」


うん、ティアさんにまで僕は頭のおかしな奴認定をされかけている様だな。

まぁ、気持ちは分からんでもないが。

だが、先程の述べた通り、自分達が理解している事だけが“世界”の全てではないので、早計な判断はあまりオススメしない。


「ですが、こちらは証明する事が比較的容易ですね。今から、その“カミサマ”の一柱をお呼びしますので、を見てから判断して下さい。」

「「「「・・・・・・・・・へっ???」」」」

「ルドベキア様、御越し下さい。」


僕がそう言うと、僕の心の中にいつの間にか居着いていた一柱の女神を喚び出す。


「やれやれ、久しぶりのアクエラ現世だというのに、感慨もへったくれもないの仕方じゃないかい、アキトくん?」

「いやぁ、それに関しては大変申し訳ありません。」

「しかし、アルメリアやセレウス様を差し置いて、この場に顕れるのがボクで良かったのかい?」

「ええ、まぁ・・・。僕が一番最初に出会ったのはルドベキア様ですし、貴女ならば、向こうの世界地球の事にも詳しいですからね。」

「ふむ、なるほどね。まぁ、久しぶりに出番が貰えるなら、こちらとしては問題ないけどねぇ~。」


うん、あんまりメタい事は言わんで欲しい・・・。( ̄▽ ̄;)

しかし、世俗にまみれた発言とは裏腹に、ルドベキア様がした効果は劇的であった。

僕も初めてお会いした時は、本能的な部分で彼女が人知を越えた存在、所謂“超常の存在”、“高次の存在”である事を理解していた。

それが、この場にいる者達にも即座に理解出来たのである。


突然の事態にティアさん達は固まってしまっていたが、ルドベキア様が微かに彼らを見やり微笑むと、弾かれた様に平伏した。

その光景は、まるで、マルク王我が父エリス王妃我が母が、アルメリア様と初めて邂逅した場面の再現でも見ている様だった。


「あ、アキト殿・・・、そ、そちらの御方は・・・。」

「彼女はルドベキア様。まぁ、平たく言うと、“カミサマ”ですね。」

「『異世界人地球人』達よ、そう恐縮する事はない。面を上げるが良い。」

「「「「は、はいっ・・・!!!」」」」


うん、この女神ノリノリである。

僕と初めて邂逅した時は、もっとフランクだったんだけどね。

まぁ、それ故に、初めはルドベキア様の言葉を軽くスルーしていた側面もあるが・・・。


「我が名はルドベキア。元・向こうの世界地球の『管理神』であり、現在のこちらの世界アクエラでは、『名を忘れられた女神』である。」


ほぉ~、そうなのかぁ~。

そういえば、アルメリア様も『忘れられた神』を名乗っていたな。

まぁ、ルドベキア様の場合は、実際に長らく向こうの世界地球に縛り付けられていた様だから分からなくはないが、アルメリア様(やセレウス様)は、ライアド教やハイドラスの影響によって、少なくとも今現在のこの世界アクエラに生きる住人達の記憶からはその存在を抹消されていたのかもしれない、か・・・。


などと、少しズレた事を考えていると、ルドベキア様は言葉を続ける。


「さて、キミ達が信じられないのも無理はないが、アキトくんが言っている事は全て事実だよ。むしろ、その事実があるからこそ、キミ達の処遇について困りあぐねていると言っても過言ではない。」

「と、申しますと・・・?」


と、思ったら、やっぱり威厳たっぷりの対応には無理があったのか、いつの間にかいつも通りの態度に変わるルドベキア様。

まぁ、生憎それにツッコむ者達は、この場に存在しなかったが。


「まず、もっとも基本的な事として、生がある以上死があるのはある意味必然だ。故に、キミ達が信じようと信じまいと、死後は“魂”となり、“世界”に帰化する事になる。その後、浄化などを経て新たなる生命へと転生を果たす。まぁ、所謂“輪廻転生”の概念だね。こうやって、“魂”はその“世界”にて循環しているのさ。」

「は、はぁ・・・。」

「ところが、アキトくんとキミ達は、もちろんキミ達の責任ではないけれど、そのことわりから逸脱してしまった。つまり、その“魂”の浄化サイクルとも言える事から外れてしまったんだよ。本来、別の“世界”の人物が、こちら側アクエラに来る事などありえない。故に、キミ達の“魂”はこちら側アクエラでは帰化出来ないんだ。そういう風には出来ていないんだよ。で、何事においてもそうだが、物事は一見無秩序に見えて、実際には複雑なバランス(調和)の上に成り立っているから、それが崩れればどうなるか、それは今更説明するまでもないだろう?」

「ふぅ~む・・・?」


いきなり壮大な話をされて、ティアさんらは戸惑っているが、実はそんなに難しい話じゃない。

要は、この話は生態系のバランスが崩れるのと似た様な話なのである。


例えば、単純に食物連鎖のバランスが崩れた場合を想定してみると分かりやすいかもしれない。

何らかの要因で捕食者が増えてしまった場合、当然ながら被食者はその数を極端に減らす事になる。

そうなれば、捕食者は飢える事となり、自然とその数がある程度調整される様になっているのだが、しかし、一部の者達は素直に死を待たず、食糧のある場所を目指して移動する事となる。

これが、所謂野生動物による“鳥獣被害”であり、今現在の向こうの世界現代地球でも日常的に起こっているかなり深刻な事態なのである。


ちなみに、日本における“鳥獣被害”による農作物への被害額は、年間軽く100億円を越える。

もちろん、これには様々な要因があるのだが、一つは我々人類の生活文化が大きく変化した事に起因する。

他にも、危険だという事で、猛獣を極端に狩り尽くしてしまった事も別の問題を生み出してしまったと指摘する研究者も存在する。


実際、“鳥獣被害”の大半は、我々人類が大人しいと勝手に勘違いしている草食動物によるモノだ(当然だが、草食動物とは言え、草や木などの植物から見れば、彼らも立派な捕食者となる)。

中でもシカは、想像を絶するほどの物凄い食欲と消化器官を持つ。

放っておけば、山を丸々丸裸にするほどで、そうなればその山に住む者達は棲みかを追われる事になるから、更に“鳥獣被害”が加速する、といった具合である。


その主な要因として、先程も述べた通り、天敵となる猛獣を人類が狩り尽くしてしまった事や、ハンターの高齢化・後継者不足、動物愛護法による野生動物の保護など、様々な要因が複雑に絡み合っているのである。


他にも、外来生物が人類の手によって持ち込まれてしまい、それが異常繁殖し、既存の生態系を破壊するなど、人類が直接的・間接的に起因となっている事も多い。

どちらかというと、こちらの話の方が、“魂”のバランス云々を理解する上では近しい話かもしれない。

所謂“バタフライエフェクト”ではないが、ちょっとした選択肢が、その後の“世界”に与える影響は非常に大きいのである。

しかも、僕らの“魂”、霊的エネルギーは、ルドベキア様ら所謂“カミサマ”を除けばこの世界アクエラ最上位に近いエネルギー量を持つ。

その強大な霊的エネルギーがもたらす影響力を鑑みれば、それを楽観視し、放っておく事など出来よう筈もないのである。


そもそも、我々人類は、高度な文明を築き上げた事で忘れてしまっている様だが、我々人類も自然の一部なのである。

我々が引き起こす事が、自然にも影響を与える事は、ある意味当たり前の話であり、“世界”と自分が無関係である事などありえない話なのである。


「それ故、この世界アクエラからすれば、キミ達は大きな厄災を招く要因となる恐れがある。故に、速やかにキミ達はこの世界アクエラから排除しなければならない。」

「そんな勝手なっ!勝手に俺らを喚んでおいて、勝手に排除するってかっ!?随分、“カミサマ”ってのは身勝手な存在なんだなっ!!!」


ルドベキア様の言葉にアーロスくんが激昂する。


「そうだね。“カミサマ”ってのは身勝手なモンさ。そもそも“カミサマ”ってのは、別に人間族の味方でもなければ、何処かの種族の味方でもない。“世界の管理者”。それが、“カミサマ”の役割さ。故に、時には人々にとって災厄となる事、まぁ、所謂、地震や洪水なんかの自然現象だね、も引き起こすし、そもそも、人間族や何処かの種族に干渉する事はないんだよ。」

「・・・しかし、今回は違う・・・?」


“カミサマ”って存在を、僕らの尺度で推し量るのがそもそも間違っているのである。

だが、激昂したアーロスくんとは裏腹に、冷静に話を聞いていたティアさんは、その事に思い当たった様だ。


「その通り。アキトくんやキミ達の現状を引き起こしてしまったのが、残念ながら“カミサマ”の一柱だからね。故に、今回は特別にアキトくんを介して干渉してるって訳さ。」

「何だって、ソイツがそんなに特別扱いされんだよ・・・。」


“俺らは誰も助けてくれなかったのに・・・。”と、ブツブツと呟くアーロスくん。


「それはもちろん、アキトくんがだからだよ。アキトくんは、彼自身には自覚がなかったんだけれど、元々向こうの世界地球に生きていた時から、ある特殊な因子を持っていたんだよ。それが、『英雄の因子』というモノで、歴史上の偉人や英雄と呼ばれる者達が備えていたモノだね。もちろん、全てのそうした人々が持っていた訳じゃない。己の才覚や努力によってそう成った者達もいるからね。ただ、この『英雄の因子』と呼ばれるモノを持った者達は、軒並み不可思議な能力を持っていたんだ。例えば、人並み外れた『超人的肉体能力』とか、何故かやる事成す事全て上手い方向に転がる『確率変動の偏り』とか、どれだけピンチな場面でも何故か生き残ってしまう『運命力』なんかがそうだね。もちろん、今現在の向こうの世界地球で名を馳せている者達の中には、もちろん、まだ世には出ていない者達も含むけれど、アキトくんと同じ様にこの『英雄の因子』を備えている者達がそれなりにいるんだ。」

「そ、そんなモノが・・・。」


そのルドベキア様の発言に、チラリと僕を見やるティアさん達。

・・・何か、照れるな。///


「もちろん、こちらの世界アクエラにもその『英雄の因子』を持った者達は過去に存在したんだけれど、ここ50年ほどはそれがパッタリと途絶えてしまっていたんだ。で、そうした存在を利用して勢力を拡大していたライアド教やハイドラスは、それがすっかり出来なくなっていたのさ。それ故、その『英雄の因子』所持者を異世界地球から喚び寄せようと画策した。その末で、たまたま喚ばれてしまったのが、このアキトくんって訳さ。そうした意味では、むしろキミ達の方がイレギュラー中のイレギュラーだね。キミ達は(中には特別なチカラを持つ者もいるけど)ただの一般人だ。本来ならば、こちらの世界アクエラに来る筈がない。」


・・・うん、今だから分かるけど、僕がこの世界アクエラに来たのは偶然じゃないと思う。

その根拠は、僕に宿っていた『英雄の因子』の正体が、この世界アクエラと深い関わりを持つセレウス様だったからである。

まぁ、ここでは関係のない話だし、どうした意図があってある意味ハイドラスにとって因縁のあるセレウス様相手を喚び戻したのかは分からないが、いずれその謎も解けるんだろうかね?


などと考えていると、ルドベキア様が僕の方をチラリと見やる。

・・・すっかり説明役をルドベキア様に丸投げ出来たと思っていたけれど、そうは問屋が卸さない様である。


「ところが、そこに不幸な偶然が重なってしまいました。それが、向こうの世界地球にて、フルダイブ技術が確立してしまった事です。あなた方を喚んだ古代魔道文明の遺産である『失われし神器ロストテクノロジー』・『召喚者の軍勢』は、本来はただ向こうの世界地球の神話や伝承、また、広義の意味では新たなる神話や伝承とも言えるマンガやアニメ、ゲームなんかのこちらの世界アクエラに喚び出すに過ぎないモノだったのです。ですが、先程述べた通り、向こうの世界地球でフルダイブ技術が確立してしまった事により、たまたまそれにしていたあなた方が、アバターと共にこちらの世界アクエラに飛ばされてしまう、といった事故が起こってしまったのです。」

「それがキミ達がイレギュラー中のイレギュラーである要因だね。本来ならば、アバターだけがこちらの世界アクエラに来るところを、キミ達の意識、言わば“魂”もアバターに引っ付いてこちらの世界アクエラに来てしまった。ハイドラスとしても、これは大きな誤算だったに違いないよ。そもそも、古代魔道文明時代の技術力ならば、実在の人間を、もちろん本物ではないにしても、をコピーしてこちらアクエラに喚び出す事は、おそらく可能だ。しかし、それをあえてしていないのは、安全性を考慮してだよ。大きなチカラを持つを持つ存在。実在の人間をコピーする以上、自由意思もコピーする事となる可能性が高い。それはすなわち、自分達が喚んだ存在が、場合によっては自分達に牙を剥きかねない危険性がある。当たり前の話として、自分達をした相手に敵愾心を持つ可能性があるからね。『召喚者の軍勢』のコンセプトは、自分達の戦力を増強する事にある。しかし、召喚した存在が自分達に反目してしまったら、それは本末転倒だろう?」

「・・・なるほど。」


確かに、その可能性はある、か。

向こうの世界地球の機械類も、スペック的には可能であっても、あえてリミッターを課す事も多い。

それは安全性を考慮してである。

『召喚者の軍勢』は、ある意味兵器に近い訳だから、安全性に対してより一層慎重になったとしてもおかしな話じゃない。


「さて、少し話は逸れてしまったけれど、そうした経緯でキミ達はこちらの世界アクエラに来てしまった訳だね。で、先程の話から、本来ならばこちらの世界アクエラの事情を考慮すれば、キミ達を強制的に送還するのが望ましいんだけれど・・・。」

「そ、それだったら、ソイツも送還しなきゃいけないんじゃねぇ~のかよっ!?」


おや、一応話は理解していたようだね、アーロスくん。


「確かにその通りだけど、アキトくんの場合は、すでに対策が取れているんだ。ただ、キミ達の場合はイレギュラー過ぎて、対策を打つ事が出来なかった。しかも、キミ達に自覚はないかもしれないけれど、ロンベリダム帝国を介して、間接的ではあるが、キミ達とハイドラスとの間に“縁”が出来てしまっている。“縁”ってのは中々厄介なモノでね。キミ達がこちらの世界アクエラとの“縁”で結ばれる前ならば、ある種の裏技として対策を打つ事も出来たけれど、ハイドラスと“縁”で出来てしまった後だと、“カミサマ”もそれに直接干渉する事が困難なんだよ。まぁ、それも、アキトくんがいれば解決するんだけどね?」

「「「「・・・・・・・・・へっ???」」」」

「今現在の僕は、人間族でありながら人間族の領域を突破して、所謂“カミサマ”の領域にまで到達しつつあります。それ故に、あなた方を強制的に送還する事も、ただ単にあなた方とハイドラスの“縁”を切るに留める事も可能なのです。まぁ、ウルカさんの場合は、ハイドラスに傾倒していた事で、ハイドラスが原因であると言った瞬間にこちらの話に耳を貸さなくなりましたので、詳しい事はお話出来ませんでしたので、彼女は知らない事なのですがね。」

「「「あぁ~・・・。」」」

「・・・。」


その僕の言葉には、ティアさん達も納得していた。

どうやら、彼らの間でも、ウルカさんがライアド教、ハイドラスにのめり込んでいるのは、周知の事実であった様だ。


「それ故に、ここからはあなた方の選択次第となります。僕のチカラによって、少なくともあなた方の死後、こちらの世界アクエラに悪影響を与える事態は回避出来ますので、第二の人生をこちらの世界アクエラで過ごすのか、こちらの世界アクエラの事情に関わりたくないから、全てを忘れて人生を終わらせるのか地球に帰るのか、のね?」

「「「「っ・・・!」」」」

「一つ、伝え忘れた事があるけど、いくらボク達“カミサマ”でも時間を巻き戻す事は不可能だからね?故に、元の生活に戻りたいと思っていても、それは叶わぬ夢さ。そもそも、キミ達の場合はかなり特殊だけれど、こういった事はどんな者達にも起こり得る事さ。例えば、交通事故とか、例えば、自然災害なんかだね。そうした事態に遭遇した者達がそれ以前の生活に戻りたいと願っても、それは叶わない事はキミ達も理解出来るだろう?だから、そうした者達は選択しなければならない。その後も、それを乗り越えて苦難の中で生きていくのか、するか、をね。」

「わ、私達はっ・・・。」


厳しいルドベキア様の御言葉に、ティアさん達は苦悩の表情を浮かべていた。

まぁ、それはそうだろう。

何となく、この世界アクエラがファンタジー色の強い“世界”である事から、もしかしたら心の何処かでゲームの延長線上で物事を考えていたところに、その希望を簡単に打ち砕かれてな話を突き付けられたのだから。

だが、本来はこれが当たり前の話なのである。


ある日突然、世界が終わる、なんて事は現実的にはなかなか起こり得ない事象だろうが、だが、ある日突然世界が事は、意外と身近に存在する事なのだ。

例えば、先程ルドベキア様が述べた様な、交通事故や自然災害などである。


僕らの身に起きてしまった事は不幸な事ではあるが、だからと言って、それを元に戻す事も叶わないのである。

ならば、(論理的には)この先の事を前向きに考える方が建設的である。


もちろん、これはかなり酷な事を言っている事は僕も理解出来る。

頭では分かっていても、それを感情が認めたくない事は多々あるからね。

僕自身は、そのを受け止めた上で、この世界アクエラで生きる事を選択した訳であるが(まぁ、長くはなかったが、それなりに向こうの世界地球で生きてきたし、父親の事もあり、あまり向こうの世界地球に未練が薄かった事もある。それと、自分が興味を持てる様な事がこちらの世界アクエラにあった事もある)、それは人それぞれである。


さて、あなた方は、受け入れがたいを受け入れて、それでもこの世界アクエラで生きていきますか?


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