第152話 新たなる仲間


遠い昔、ここではない遥かかなたの銀河にて、地球によく似た天体が存在していた。

しかし、その天体は現代の地球を遥かに凌駕する高度な文明を持ち、その惑星の表面を人工物で覆い尽くすほどだった。

そして、その宙域には太陽系の様な天体群も存在し、まるでSFアニメや映画の様な巨大な人工物、いくつものスペースコロニーも静かに佇んでいたのだったーーー。



「おい、聞いたか?テルース我が母星の資源が、いよいよ枯渇するかもしれないってよ。」

「どこ情報だよ、それは?そんな話、何十年、いや、何百年前から言われてると思ってんだよ・・・。」

「いやいや、今度は、どうやらマジらしいんだってっ!」


そのスペースコロニーの一つのターミナルにて、見慣れぬ格好をした男達が、、そんな会話を交わしていた。

どうやら彼らは、場所こそ無重力空間だが、運ばれてくる荷物を受け取り、仕分けする作業員の様であった。


「まぁ、確かに、エネルギーの枯渇が深刻なのは本当だろうがよ?けど、実際に今日もテルース我が母星から変わらず物質が届いている以上、それもどうせ根も葉もないガセネタだろうよ。いるんだよなぁ~、根拠のない終末論を唱えて、皆を不安にさせて、混乱させて悦に入る愉快犯みたいな連中ってのは。エネルギー問題にしても、偉い学者さんらがこぞって研究してんだから、その内解決すんじゃね~の?」

「そうかなぁ~?けど、それには結局資源が必要なんじゃね~の?エネルギー問題が解決する前に資源の方が底を尽きちまったらど~すんだよ?」

「そんな事俺が知るかよ。けどまぁ、お前がくだらねぇゴシップが好きな事は分かったぜ?」


男達は、くだんテルース惑星から続々と到着する輸送船を眺めながら、そんな益体やくたいもない言葉を交わしていたのだった。


「おーい。そろそろおっ始めるぞー!」

「「「「「うーすっ!」」」」」

「さ、無駄話はここら辺にして、そろそろ仕事を再開しましょうかね。」

「だな。」


そこに、現場監督らしい男の号令が掛かると、他の作業員達と同様に二人の男も返事を返し、再び作業に戻るのだったーーー。


それは、いつもの日常。

見慣れた光景に、手慣れた作業の中の、他愛のない会話である・・・、筈だった。


しかし後日、二人の男達は、いや惑星テルース圏に住む全人類が、ガセネタだと思い込んでいた話が半ば事実であった事を知る事となるのだったーーー。





















またこの夢か・・・。

ここ最近、僕はよく見る様になった夢の出来事を反芻しながら、ボーッとする寝起き状態でそんな事を考えていた。


傍らには、完全に油断しきった寝顔のアイシャさん、ティーネ、リサさん、エイル(寝るのか?)、それにヴィーシャさんもおり、更には以前に別れたクロとヤミの姿もあった。

そう、僕らは今、旅立った筈のシュプールに一時的に帰省中なのであったーーー。



◇◆◇



話は、王都・ヘドスへと一旦戻る。


ヘドスを襲った謎の『泥人形ゴーレム』の軍勢を退け、更にはロマリア王国のマルク王→ティオネロ新王への政権交代劇に図らずして関与した僕達は、その後滞っていたロマリア王国とトロニア共和国・エルフ族の国との外交交渉、国交回復への協議を仲介し、ようやく一段落ついていた。


そこから先は国同士の話し合いであり、なおかつやや政治色の強い話となるので、政治の世界とは一線を画している僕はここで一先ずお役御免となった。

っつか、“後はよろしく”と言って半ば逃げた形だが(笑)。

まぁ、もちろんこの先も無関係とは行かないまでも、それぞれの立場の者達を繋ぎ合わせ、ようやく肩の荷が降りた感じであったのだ。


もっとも、僕は僕でグーディメル家にお願いした『農作業用大型重機製作プロジェクト』のオブザーバーとしてや、ヒーバラエウス公国との外交交渉のオブザーバーとしての個人的な仕事などもあるので、全く暇になった訳でもないのだが・・・。


ただまぁ、以前に『リベラシオン同盟』の活動の一環として義賊的活動をしていた頃よりは、色々と落ち着いたのは間違いないのである。


そこで、このある種の緩やかな時間、言い方を変えると休暇に近い状況を利用して、アルメリア様に以前忠告されていた件を実行に移していたのであった。

つまりは、アイシャさん、ティーネ、リサさん、ついでにエイルのこれまでの労をねぎらう、と言う訳ではないが、それぞれの要望に応える感じに、彼女達との時間を過ごしていたのだった。


まぁ、そんな中でもある種の事件もあったのだが。


具体的には、ハンス、ジーク、ユストゥスと、リオネリア嬢、フィオレッタ嬢、ヴィアーナさんの恋愛関係にまつわる事だった。

まぁ、これに関しては、話の本筋とは異なるのでここでは割愛するが、いずれ機会があれば何処かで語る事としよう。


また、それとは話が異なるが、『三国同盟(仮)』、改め、『ブルーム同盟』へと(正確には少し違うのだが)、出向と言う形でヴィーシャさんが僕らに合流したのである。


『ブルーム同盟』とは、今のところロマリア王国、トロニア共和国、ヒーバラエウス公国、更にはエルフ族の国、鬼人族の部族などが参加する、国や組織の枠組みを越えた機関の事である。

イメージとしては、規模こそそれには遥かに劣るが、向こうの世界現代地球の『国際連合(国連)』に近い立場を持つ機関だ。

それぞれの国や組織から選出された代表者が、意思決定機関を構成し、それを持って国際平和と安全の維持(安全保障)、経済・社会・文化などに関する国際協力の実現を目指し、場合によっては他国への干渉、影響を与える事を主な目的としている。

まぁもっとも、その真の目的は、強国ロンベリダム帝国や強大な宗教団体であるライアド教に対しての牽制であるが。

一応、ここでは立場の上下は存在せず、それぞれが平等の立場を唱っているので、意思決定の方式は円卓会議方式を採用している様である。


もっとも、僕らは以前にも言及したが、形式的には『リベラシオン同盟』ともこの『ブルーム同盟』とも一線を画しているので、正式な構成メンバーと言う事ではなかったりする。

いくら国や組織としての枠組みを越えているとは言え、正式に何処かの組織に属していると、様々な点で自由度が制限されてしまうからね。

故に、僕らはあくまで外部組織の立場を取っており、『リベラシオン同盟』や『ブルーム同盟』への参加にしても、あくまで冒険者パーティー『アレーテイア』としてであった。

イメージとしては、『ブルーム同盟』の直属の武装組織ではなく、ある種の傭兵部隊と言えるかもしれない。


とは言え、これが『ブルーム同盟』直属の組織ならば話は別でが、そんな自由度の高い立場を取る僕らを危険視する声をあるにはあるのだろう。

そんな事もあって、ある意味牽制、それにもしかしたら保険の意味を含めてだと思うが、『アレーテイア』にヴィーシャさんが合流する事となったのである。

ある種の監視役と言ったところか。

まぁ、アイシャさんは鬼人族だし、ティーネはエルフ族、リサさんはドワーフ族だし(ついでにエイルは古代魔道文明時代の技術の結集である『魔道人形ドール』だし)、そこにトロニア共和国出身者であり、なおかつ獣人族でもあるヴィーシャさんが合流する事によって、『アレーテイア』が何処かの息の掛かったパーティーではなく、他種族混成パーティーである事を印象付けたい狙いもあるのかもしれないが。

それ故、もしかしたら、今後はヒーバラエウス公国からも誰かが僕らに合流する事となるかもしれない。


ちなみに、ブルームには、

(特に 観賞用植物の)花、(特定の植物・場所・シーズンの)花、開花(期)、花盛り、真っ盛り、(ほおの)ばら色、輝き、健康色、新鮮味、清純さ、

などの意味合いが存在する。

それぞれ別の立場を持つ者達が集い、平和な未来に向けて花を咲かせようとする意味や、清純さ、すなわち清廉潔白なイメージを抱かせる為に名付けられた様子である。

また、これはダールトンさんにこっそり教えられたのであるが、この『ブルーム同盟』の発案者でもある僕のファミリーネームであるストレリチア(極楽鳥花と言う花の名前)からも拝借したそうである。

当初、僕も遠慮したのであるが、ファミリーネームそのものを冠する案もあったと言う話を聞き、流石にそれは勘弁してくれと渋々了承した形であった。


しかし、当初は僕もヴィーシャさん合流について難色を示していた。

いや、別にヴィーシャさん個人に思うところがある訳でも、彼女が嫌な訳でもない。

むしろ、レベルの上で、元々政治家寄りの立場である彼女が僕らに着いて来れるのかと言った懸念が存在したのである。


元々、少なくとも僕らが知っているヴィーシャさんの経歴は、トロニア共和国のロマリア王国との外交交渉の代表者としての立場を持つ才媛である事だけだ。

故に、そのまま『ブルーム同盟』のトロニア共和国からの代表となるならば話は分かるのだが、あくまで実働部隊としての特色を備え、場合によっては最大の障害となる可能性の高い『異世界人地球人』達とも争うかもしれない『アレーテイア僕ら』に合流するのは、少し難しいのではないかと考えていたのである。


これは自慢でもなんでもなく、客観的事実として、僕はすでに“レベル500カンスト”を越えているし、アイシャさん、ティーネ、そして一番僕らに合流するのが遅かったリサさんですら、すでに“レベル500カンスト”に至っている(エイルにはレベルの概念が存在しないが、戦力として見た場合は似た様なモノだし)。

異世界人地球人』達も“レベル500カンスト”であるそうだから、そこを考えると、例えS級冒険者クラスの使い手であろうと、戦力的には心許ない部分が存在するのだ。

まぁ、しかし、僕もヴィーシャさん参加の裏の意味合いは理解しているので、結局は受け入れざるを得なかったが。


それに、ヴィーシャさんのポテンシャルが思いの外高かった事も、彼女を受け入れる良い判断材料となった。

以前に言及したが、ヴィーシャさんは僕と同じく『幻術使い』である。

僕も好んで使用している『幻術』だが、これは実はとてつもなく強力なチカラである。

場合によっては、チート級の性能を持っていると言っても過言ではないだろう。


実際の直接戦闘においても、それ以前の心理戦、情報戦、頭脳戦においても、『幻術』は非常に応用範囲が広い。

虚偽の情報によって、人心を混乱させる事は、戦術として考えた場合は、非常に費用対効果が高いのだ。

実際、向こうの世界現代地球においても、新聞やラジオ、テレビ、そしてインターネットの普及に伴い、情報戦が如何に大事かは改めて思い知る事となった者達も多いだろう。


情報を操作する事によって、人々の心に不安を煽り、内部から分裂、分断をさせる事が容易だ。

なおかつ、そのコストは低く済む。

最小の費用・労力に対して、最大の効果を発揮する事が可能なのだ。

高いレベルを持つとは言え、少人数の集団である僕らがこうした手法を使うのは、ある意味当然の帰結であると言えるだろう。


ただ、残念ながらそれが出来る者が現状では僕しかいなかったのである。

これは、以前にも言及したが、『幻術』の使い手が極端に少ない事に由来するモノだ。


もちろん、戦闘における駆け引きとして、脳筋気味だったアイシャさんもブラフを多様する様になったし、元々戦闘技巧者であるティーネはもちろん、純粋な戦闘職ではないリサさんも同様である。

ただ、これは直接戦闘、あるいはそれに準ずる場面だけであって、交渉や折衝においては、僕が受け持つ場面が多かった。

まぁ、僕が『アレーテイア』のリーダーだから、それも当然と言えば当然なんだが。


そこに、『幻術使い』であり、頭脳派、かつ外交においても経験の豊富なヴィーシャさんが合流する事は、僕にとってもメリットが大きい。

最悪、レベルについては『シュプール式トレーニング方法』を実践すれば良いだけだからね。

まぁ、本人が望むかはどうかは知らないが、僕らに合流するならば、これはある意味必須条件であったーーー。



そんな事もあって、ヘドスでアイシャさんらと過ごしつつ、各方面のオブザーバーとしての仕事をこなしながら、なおかつヴィーシャさんの稽古をつけていたのである。

と、言っても、僕の仲間達はすでに一通りの戦闘技術を修めているので、ヴィーシャさんの稽古の指導は、アイシャさん達がほぼメインであった。

僕は時々観察し、その時々で細かい修正や助言アドバイスをする程度であった。


そんな生活をしばらくしていた頃、ルダの街から一つの手紙が届いたのである。

差出人は僕の幼馴染みの一人・テオであり、内容は一旦は別れた筈のクロとヤミが、『白狼はくろう』のボスを引退し、シュプールに戻っているとの事だったのである。


一瞬魔獣の森に何か異変でも起こったのかと思ったのだが、よくよく考えればクロとヤミは人間換算で行くと老齢の年齢に差し掛かる年回りであり、引退は特段不思議な事ではなかった。

人間で言えば、都会で働いていた人が、定年などにより田舎に帰る事も不自然な事ではなく、クロとヤミが引退を契機にシュプールを終の棲家に定めたとしてもおかしな話ではない。

いや、もしかしたら、以前僕と交わしたを守っているのかもしれないが。


そんな連絡もあって、僕らは一旦シュプールに戻る事にしたのであった。

クロとヤミと会っておきたいと言う思いもあったのだが、新たに加わったヴィーシャさんの稽古の意味合いもある。

ヘドスでも訓練は行えるが、魔獣の森の環境は、様々な面で優れているからだ。


そうした事もあって、僕らはシュプールに一時的に帰省していた訳であったがーーー。



・・・



「ワンワンッ(いっくよぉ~!)」

「ガウガウッ(早く逃げないと捕まえちゃうぞぉ~!)」

「ひゃあぁぁぁぁっ~~~~、御手柔らかにたのんますよぉ~、クロはぁ~ん、ヤミはぁ~んっ!」

「・・・あいつら、現役を引退したんじゃなかったのか?何か、まだまだメッチャ元気なんですけど・・・。」

「まぁ、クロちゃんとヤミちゃんはアキトの弟分だからねぇ~。普通の『白狼はくろう』のは通用しないんじゃないの?」

「ハァ~、コレダカラオ父様ノ関係者ハ・・・。」(溜め息)

「「ははははっ・・・。」」

「・・・ソウデスカ・・・。」


ヴィーシャさん対クロとヤミの追いかけっこ(一応訓練)を眺めながら、そんな感想を呟く僕に、アイシャさんの無慈悲な一言が突き刺さる。

それに呆れた様子のエイルが追従し、ティーネとリサさんも渇いた笑いを浮かべるだけでフォローはしてくれず、僕は軽くうちひしがれていた。

“いや、あんた非常識の塊だし?あんたの弟分もそうなんでしょ?”って言われた様な気分である。

まぁ、そんな意図はアイシャさんにはないとは思うけどね、・・・多分、きっと、メイビー。

まぁ、エイルはよく分からんが。



皆さん、ご無沙汰しております。

アキト・ストレリチアです。


さて、そんな事があって僕らは今はアルメリア様が行方不明になった事(まぁ、実際には『管理神』の立場に戻っただけで、僕らと長年過ごしてきた『忘れられた神』としてのアルメリア様は今現在も僕の心の中に宿っているのだが、対外的にはそういう事になっているのである)を契機に旅立ったシュプールに帰省中なのですが、僕の心配を他所に、クロとヤミはまだまだ元気でした。

この分だと、後10年は軽く生きていそうな勢いです。

・・・やっぱり、僕と共に過ごしてきた事で、二匹にも何らかの影響を与えてしまったのでしょうか?


まぁ、確かに、流石に種族の違いもあって、全く同じ物ではないのですが、アルメリア様直伝の薬学を応用した料理を食べて共に育ったなどの思い当たる節はあるのですが、二匹は『白狼はくろう』の変異種である『黒狼こくろう』でもあるので、その辺りも関係してくるのかもしれません。

まぁ、何にしても、元気なのは良い事ですね。

元気過ぎるのも問題があるかもしれませんが・・・。


しかし、嬉しい誤算ではないのですが、すでに“レベル500カンスト”に至っている僕らとは違い、魔獣種の特性により、レベル250でカンストしているクロとヤミは、ヴィーシャさんにとっては良い訓練相手でもありました。

僕らではもはやレベルが違い過ぎて、稽古をつける事は出来ても、訓練相手は務まらないですからね。

もちろん、手加減などをすればその限りではありませんが。


その点、クロとヤミは、レベルの上ではヴィーシャさんよりも低いのです。

むしろ、政治家寄りの立場を持ち、なおかつ年若い女性であるヴィーシャさんが、上級冒険者クラスのレベルに至っている事の方が驚きましたが。

とは言え、僕らが知っているヴィーシャさんはトロニア共和国の外交使節団の代表としての立場のみで、それ以前の経歴については知りませんので、色々と人には言えない事情もあるのかもしれませんね。


ただ、残念ながらクロとヤミよりレベルが高くとも、それだけで彼ら二匹に勝てるほどクロとヤミは半端な使い手ではありません。

彼女の役割や立場を考慮すると、どうしても“レベル500カンスト”に至ってくれとは言えませんが(仮に『異世界人地球人』達とぶつかる事になっても、最悪、エイルを護衛につければ済む話ですしね。もちろん、彼女がそのつもりならば、最後まで面倒を見る事もやぶさかではありませんが)、最低限、S級冒険者クラスの実力はつけて欲しいところです。



「しかし、ヴィーシャさんは身軽だねぇ~。」

「そうですね。クロ殿とヤミ殿の猛攻にも決して後れを取っておりません。」

「ヴィーシャ・サンハ獣人族トノコトデスガ、私ノデータニヨレバ、エルフ族ヲ凌グ身体能力ポテンシャルヲ持ッテイル様デスネ。」(確認)

「そうなの?」

「う~ん、一概には言えないんだけど、それも間違っていないかな?」


『他種族』。

すなわち、僕ら人間族に対して、鬼人族、ドワーフ族、エルフ族、そして獣人族を指した総称の事である。

他種族の者達は、基本的に人間族よりも優れた身体能力を持ち、それぞれ種族特有の特殊技能を備えている。


鬼人族は、特徴的な角を備え、腕力や膂力りょりょくに優れ、一方で手先が器用で金細工に一家言持ち、なおかつ無意識的に魔素を操る術に長けている。

一説には、鬼人族特有のそのバカげたチカラは、無意識的に魔素による身体強化、すなわち『魔闘気』を発現している為ではないか、との見解もある。

アイシャさんや、レルフさんなどの上位者ともなると、意識的に『魔闘気』を操る事が可能となる。

まさに、近接戦闘においては無類の強さを発揮する物理アタッカータイプの種族である。


ドワーフ族は、鬼人族と同じくその腕力や膂力りょりょくに優れているものの、人間族に比べても比較的小柄な種族である。

そうしたハンデもあって、また種族の特性として比較的穏やかな性質を持っている事もあり、あまり争いを好まない様である。

もっとも、自らに牙を剥いた者達には容赦しない様だが。

金細工の分野では鬼人族に譲る様だが、それ以外の金属加工技術はドワーフ族の専売特許であり、他の追随を許さないほどの高い技術力を持つ。

また、魔素を武器に込める『魔工』と言う特殊技能を得意とし、その事から鬼人族と同様に、無意識的に魔素を操る術に長けていると推察される。

鬼人族とは異なり、やや生産職寄りではあるものの、変則的な物理アタッカータイプである事は間違いない。


エルフ族は、鬼人族、ドワーフ族に比べたら腕力や膂力りょりょくでは劣るものの、敏捷性や素早さに優れた種族である。

また、非常に武器の扱いに長けた種族でもあり、基本素手である鬼人族や、鎚などの打撃武器を好んで使用するドワーフ族とは異なり、武器を選ばない。

その中でも、弓の技術は群を抜いており、視野の良さや夜目が効く事からも、相手に察知される事なく狙撃する事を得意としている。

また、魔素との親和性も非常に高く、種族特性の精霊魔法を操る事も可能だ。

近接から遠距離、果ては放出系の魔法まで操る事が可能な、オールマイティーな種族である。

また、寿命が長い事でもよく知られている。


そして、獣人族である。

獣人族と言うのは、魔獣や野生動物に類似した一部形質や身体能力、特殊な能力を有する種族の事を指している。

具体的には、特徴的なケモノ耳に尻尾、その冠する獣が備えている身体能力、そして一番の武器としている特殊能力を兼ね備えているのである。

一説には、その特殊能力は、魔素を独自の手法で発現しているモノであって、実は魔法技術とは兄弟関係にある、なんて分析もある様だ。

まぁ、これに関しては鬼人族やドワーフ族、エルフ族も同様であるが。


しかし、一言に獣人族と言っても、実際は多数の種類が存在するらしい。

故に、身体能力や特殊技能に関しては、それぞれの種族によって微妙に差違があるのだ。


その中で、ヴィーシャさんは『妖狐族』と呼ばれる種族である。

本人が言うには、『妖狐族』は今や稀少な種族であり、他の種族に比べると身体能力は決して高くないが、高い知能を備え、『幻術』を得意とする種族なんだそうだ。


しかし、その比較的対象が魔獣種や野生動物に類似した一部形質や身体能力、特殊な能力を有する種族である獣人族である事からも、人間族に比べたら『妖狐族』も決して身体能力は低くないのだ。

いや、もしかしたら、身軽さや敏捷性、素早さにおいてはエルフ族に匹敵するかもしれない。

実際、ヴィーシャさんが僕らとの本格的な訓練を始めてからそんなに月日が経っていないにも関わらず、驚異的な瞬発力バネを持つクロとヤミにも後れを取っていない。

ヴィーシャさんのポテンシャルが、相当に高い事がその事からも窺えた。


「ナルホドナー。」(納得)

「ただ、残念ながら戦闘勘カンも悪くないけど、経験値の上ではどうしてもクロとヤミに軍配が上がるかもね~。まだ、彼ら二匹は『覇気』も奥の手として残しているし、それにどう対処するのか・・・。」

「見物だねぇ~。」


そんな事を言い合いながら、再びヴィーシャさん対クロとヤミの追いかけっこ(一応訓練)を眺めていた。


先に仕掛けたのは、意外にもヴィーシャさんの方だった。

このままだとジリ貧になる事を察したのだろう。

『幻術』を用いて撹乱し、時間稼ぎをする事にした様だ。

これは悪くない手だ。


この訓練の目的は、相手を打ち倒す事ではなく、一定時間相手から逃げる事を主な目的としている。

これは、僕らが想定している相手が『異世界人地球人』である事から、ヴィーシャさんの今現在のレベルでは反撃する事が難しいからである。

ならば、生存能力を高める方に舵を切る方が無難である。

逃げるのは一見情けない行為に見えるかもしれないが、戦術書にも記されている立派な兵法である。

究極的には、生存すれば敗北ではないからな。

しかし・・・。


「う~ん、悪くない手だけど・・・。」

「クロちゃんとヤミちゃんの感知能力は高いからねぇ~。を奪っただけだと、少し弱いかもねぇ~。」


そうなのだ。

ヴィーシャさんの選択した『幻術』は、もっとも基本的な五感に作用する『幻術』、特に視覚に特化した『幻術』であった。

これは、視覚に頼っている僕ら人間種には多大な効果を発揮するが、鋭敏な感覚を持つ魔獣種にはいまいち効果が薄い。


ヴィーシャさんの『幻術』をものともせず、正確に追従トレースするクロとヤミ。

これは、勝負あったか、と思われたのだが・・・。


「かかったっーーー!」

「「っ!!!???」」


ニヤリと妖しい笑みを浮かべると、ヴィーシャさんはここで別の術を繰り出した。


「ワンワンッ(は、っ・・・!!!)」

「ガウガウッ(な、何だっ!?っ・・・!!!???)」


・・・ほう。

嗅覚を潰したか。

これも『幻術』の応用だろうか?


確かに、魔獣種であるクロとヤミの嗅覚は人間種を凌駕する感覚器官だ。

五感の内、視覚と嗅覚の二つを奪われると、ヴィーシャさんにとっては大きなアドバンテージとなるだろう。

ヴィーシャさんは、中々の戦略家の様である。


「よっしゃ、成功したでぇ~!」

「「っ!!!」」


・・・だが、まだ甘い。

クロとヤミは、も非常に優れている。

他の魔獣種や野生動物の中には、熱源を感知する感覚器官を持つ種や超音波、振動を触覚で感知する超感覚を持つ種もいるのだ。

人間種の常識に囚われて、五感を数個潰した程度では何ら問題ない可能性も大いにあるのだ。

思わず嬉しげなを上げて、逃げの体制に移行したヴィーシャさんの位置を正確に捉え、クロとヤミも己のカードを切った。


「ワンワンッ(はい、捕まえたぁ~!)」

「ガウガウッ(ふぅ~、危なかったねぇ~!)」

「・・・・・・・・・へっ???」


油断していたヴィーシャさんに、クロとヤミお得意の、瞬発力バネと特殊な歩法、『覇気』を併用した超高速移動によって、一瞬でヴィーシャさんは捕まってしまった。


「はい、それまでぇ~!」

「ワンワンッ(わぁ~い、勝ったぁ~!)」

「ガウガウッ(ふぅ~、危なかったぁ~!)」

「あぁ~ん、負けてしもたぁ~、悔しい~!」


僕が決着の合図を行うと、ヴィーシャさんはその場に項垂れて悔しそうにイヤイヤ首を振り、クロとヤミはその周りをグルグルと回っていた。

・・・うん、別に煽ってる訳じゃないと思うが、珍しくクロとヤミは最初からヴィーシャさんに懐いているのかもしれないなぁ~。

獣人族だから、何か近しいモノを感じているのかもしれないが。


そんな事を考えながら、僕らは訓練を終了したヴィーシャさんとクロとヤミのもとに集まるのであったーーー。


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