第148話 甘い罠



・・・



ーそれは本当ですかっ!?ー

ーっ!!!???ー



その後、ウルカからもたらされた情報は、ククルカンを介して他の仲間達に共有される事となった。

とは言え、以前にも言及した通り、今現在のタリスマン達は、各々バラバラに行動している。

それ故、即座にひとつところに集まる事は、以前に比べれば難しい状況にあった。


そこで、特に『TLW』を共に過ごした元・『LOL』のメンバーだけが持つ特殊な通信スキル・『DMダイレクトメッセージ』を使って、情報を共有する事にした。

もっともこれに関しては、タリスマン達が確認したこちらの世界アクエラの魔法や技術、スキルなどには類似したモノがなかったので、万が一の事態の時にこれが生命線・切り札となる可能性を考慮して、これまではあまり大っぴらに使用する事を避けていたが。

とは言え、地球に関する情報は、彼らにしてみれば重要性や優先度にはかなり上の方である事から、今回は解禁する事としたのであった。



自分達以外の『異世界人地球人』の存在を示唆されて、第一声が先程のアラグニラのセリフであった。

他の者達も、半信半疑と言った様子だが、困惑した様な興奮した様な感じが音声越しに伝わってくる。


ーいや、事の真偽については不明だ。しかし、ウルカ殿の情報からは、かなり信憑性が高いと推察される。少なくとも、そのアキト・ストレリチアと言う人物が、儂らの事情に詳しい事は間違いない様じゃしな。ー

ー僕も、その点を指摘したのですが、ウルカさんはまず間違いないと言っていました。ウルカさんによれば、その人物は自分が『異世界人地球人』である事を認めていましたそうですし、あまりにも向こうの世界地球の事情に詳しかった様ですからね。ー

ーふむ、なるほどな・・・。つまり、その『異世界人地球人』発言が本当かどうかはともかくとして、あの例のヴァニタスと名乗った謎の少年の様に、その人物が何らかの情報に詳しい可能性は否定出来ない訳か・・・。ー

ーうむ。儂もアラグニラ殿と同様の見解を持っている。本当に『異世界人地球人』であるかどうかはともかく、かなり様々な事情に詳しいのはまず間違いないだろう。それともう一点。そのアキト・ストレリチアは、そのヴァニタスとやらとは違い、向こうの世界地球への帰還方法が存在する事を示唆していたそうじゃ。ー

ーな、何だってっ!!!???ー

ーっ!!!???ー


更に続く衝撃発言に、アラグニラは驚愕の声を上げ、他の者達も息を飲む様子が伝わってくる。

その時ふいに、アラグニラはヴァニタスと邂逅した時のセリフを思い出していた。


~そうそう、ついでに一つ良い事を教えてあげよう。君達が『地球日本』に帰れる方法なんてないからね?まぁ、正確には、帰る方法自体はあるんだけど、君達の『』はもう存在しないから、帰るだけ無意味って事なんだけどさ。~


これは、アラグニラ達が所謂『アバター仮の姿』でこちらの世界アクエラに来ている事から、『』である向こうの世界地球へと置き忘れてきた身体が脳死判定されて、言い方は悪いが処分、火葬されて埋葬された可能性が高い事を示唆した発言だと解釈していた。

そもそも、向こうの世界地球こちらの世界アクエラの時間軸がどの様な関係にあるかは分からないが、当時のアラグニラ達は、体感的にはこちらの世界アクエラに来てから半年以上が経過していた訳で、現実問題として意識がこちらの世界アクエラにあり、おそらく脳波も反応を示さないと思われる『』がどの様な処置を受けるかはあまり想像したくはないが、それを考えた場合、少なくともアラグニラはヴァニタスの発言を半ば事実として受け入れていた訳だ。

もっとも、他の者達はその意見には懐疑的であったが(むしろ、信じたくないと言った方が適切かもしれないが)、いずれにせよ、帰還方法を探す事は困難を極める事である事はまず間違いないと理解しただろう。


その末で、アラグニラ達は各々バラバラに活動する事にした訳であるが、今回のこの情報は、その前提を覆すかもしれないのだ。


ーもちろん、こちらも真偽は不明だ。ー

ーそれに、ウルカさんはその事については否定的な意見を持っていた様ですね。その人物の発言を信用出来ずに、とりあえずその場で別れた様子です。ー

ーふむ、なるほどな・・・。ー


それはそうだろう。

アラグニラは納得していた。

アラグニラの知るウルカは、そこまで頭の回る印象はなかったが、こちらの世界アクエラで過ごす内に、それなりに危機意識や危機管理能力が高まったとしても不思議はない。

もちろん、ウルカがライアド教に傾倒している事も周知の事実であったから、その観点から否定的な意見を持ったのかもしれないが、いずれにせよ、その場の雰囲気に呑み込まれる事なく、情報を持ち帰って仲間達と共有しようとした点は評価に値するだろう。


ーみ、みんな、何でそんな落ち着いてるんだよっ!?それが本当なら、さっさとその人に会いに行って、向こうの世界地球に帰る方法を聞くべきなんじゃないのかっ!!??ー


と、そこへ、それまで黙って事の経緯を聞いていたアーロスが、至極もっともな意見を述べた。


ーうむ、アーロス殿の意見はもっともであろう。・・・しかし、残念ながら、今は各々がそれぞれ別々に活動している。故に、その人物を訪ねるにしても、その人選をどうするか、抱えている案件をどうするかと言った問題もあるのじゃ。ー


それはそうだ。

言うなれば、今現在のアラグニラ達は、こちらの世界アクエラで生きる糧を得る為に、それぞれが某かの仕事に就いている状況だ。

それを放り出し、即座に旅立つ事など出来よう筈もない。

万が一、その情報が虚偽であった場合は、無駄足に終わる上に、仕事を無断で放り出した事実が残る訳で、少なくとも今現在の仕事関係に携わる者達からの信用は失墜する。

それは、なるべく避けたい事態だろう。


ー俺は今、こっちアクエラの仲間達とパーティーを組んで冒険者活動をしているからなぁ~。すぐには動けそうもないぜ?他の人達はどうだい?ー


まず、アラグニラが端的に自分の置かれた状況を伝える。

次いで、他の者達も次々と自身の都合を述べ始める。


ー私は、今現在はルキウス皇帝付きの近衛騎士ですからね。同じく好き勝手に動く事は叶わない身分ですよ。ー

ー僕も、今はライアド教内にてそれなりの案件を抱えております。同じく好きに動く事は叶わないでしょう。その点は、ウルカさんも同様ですね。ー

ー私もだな。アラグニラさんと同様の、私もこちらアクエラとの案件を抱えている。ー


タリスマン、ククルカン、キドオカの発言だ。

これで、すでに半数が動けない事が確認出来た。


ーとなると、後は儂、エイボン殿、アーロス殿、ドリュース殿、N2殿だけとなる訳じゃが・・・。ー


この五人は、正式な『LOA』のメンバーだ。

もっとも、アーロスだけは、当初は立場を明確にする事が出来ないでいたが、ドリュースとエイボンの説得によって、籍だけは『LOA』に置いていたのである。


ーんじゃ、向こうの出方も分からないんだし、やっぱ交渉や折衝を考慮すると、ティアさんが行くのがベストなんじゃないか?ー

ーそうじゃのう・・・。ー


ティア達は、ある意味もっとも動き易い立場だった。

そして、アキトがどの様な思惑を持っているかも分からない状況の中では、この条件の中で一番頭が回り、かつ交渉や折衝において信頼性の高いティアをアラグニラが推した。

もっとも、もう一人の頭脳派であるエイボンでも良かったのだが、ティアとエイボンでは、アラグニラの中の評価はティアの方が上だったからそう言っただけで他に他意はない。

他の者達も、それが順当だと無言で同意の意思を示していた。


ーティアの姐さんっ!俺も連れてってくれないかっ!?ー

ーアーロス・・・。ー

ーふむ・・・、しかしのう・・・。ー


と、そこへ、アーロスが突如として名乗りを上げた。

最近は諸々の事情から後ろ向きな傾向にあったアーロスのこの前向きな発言は、なるべくティアとしても尊重したかったが、あまり大勢で動くのは得策ではない。

少なくとも、ルキウスやライアド教への牽制、更には、表には出さないが、仲間達への牽制もあるのだ。

しかし、アーロスはその無言の否定的な雰囲気を、自分が行く事の必要性を論理的に訴える事で打開しようとした。


ー確かに、俺にはティアの姐さんや他のみんなみたいな上手い立ち回りは出来ないかもしれねぇけど、事戦闘なら俺もそれなりに自信がある。その人とり合うつもりはないけど、この世界アクエラには魔獣やモンスター、盗賊団なんかもいるし、どっかの勢力が姐さんを狙わないとも限らないだろ?もちろん、俺達のチカラこっちアクエラではチート染みてんのは理解しているが、それでも、やっぱ一人は危険だと思うんだよ。そもそも、姐さんは純粋な『戦闘職』じゃないしさ。ー

ーふむ・・・。ー


確かに、アーロスの意見ももっともだ。

少なくとも、自分達のチカラを過信して、単独で動くよりかは、チームで動いた方が安全である事は間違いないだろう。

アーロスの意見にしばしの熟考を重ねていたティアに、今度は別の方向からアーロスを擁護する意見が上がった。


ーそう言う事なら、僕も同行させて下さい。確かに、アーロスは戦闘では役に立つでしょうが、索敵に関しては僕の能力の方が向いていると思います。ティアさんは交渉や折衝に関して、アーロスは万が一の場合の戦闘の要として、そして僕の能力によって様々な危険を事前に把握出来れば、より安全に旅する事が可能だと思います。ー

ードリュース・・・。ー

ードリュース殿・・・。ー


ドリュースの発言だ。

確かに、『召喚士サモナー』の『職業クラス』を持つドリュースは、こちらの世界アクエラでは、テイム使役した魔獣やモンスター、召喚した精霊などと感覚を“同調シンクロ”させて、その“目”を通して広範囲の情報収集が可能だった。

これは、すでに冒険者活動、『テポルヴァ事変』の折にも実証済みであり、そこに反対意見は出なかった。


ー決まり、ですね。では、ティアさん、アーロス、ドリュースは、そのアキト・ストレリチアなる人物に会って詳しい情報の収集を、僕とN2さんは引き続きロンベリダム帝国この国に留まり、皇帝陛下に協力、他の皆さんも各々各自で動いて下さい。何か進捗があり次第、その都度情報の共有を心掛けましょう。ー

ー了解した。ー

ー異議なぁ~し。ー

ー了解です。ー

ー分かりました。ー

ー・・・。ー

ーN2さんも、それでよろしいですか?ー

ーえっ・・・?あ、ああ・・・。ー


エイボンに水を向けられて、N2は曖昧に返事を返した。

その何か言いたげな様子のN2に、内心エイボンは複雑な心境を抱えながらも、努めてそれを無視する事にした。

N2の気持ちは分からないではないが、少なくとも、彼は他の国にと考えたからである。

ティアも、そして他の者達も、それは分かっていたのであえて突っ込む事もなかった。


ーし、しかし、行くのは良いのじゃが、いかにして探し出せば良いかのぅ。分かっておるのは、アキト・ストレリチアと言う名前だけじゃし・・・。ー

ーあれ、情報通のティアさんが御存知ではないのですか?ウルカさんの話では、そのアキト・ストレリチアはロマリア王国の英雄と呼ばれるほどの有名人だそうですけど・・・。ー

ーああっ!聞いた事あるぜ!冒険者界隈ではかなり有名な人物だ。けど、確か“ルダ村の英雄”って通り名はあったけど、ロマリア王国の英雄とは聞いた事がないなぁ・・・。ウルカさんが、少し勘違いしてたんじゃないのか?確かに、ルダ村はロマリア王国の一地方らしいからな。ー

ーそうかっ!儂も“ルダ村の英雄”の噂話は聞いておったが、その人物の名前までは分からなかったわ。しかしなるほど。それならば、まだ探し様もありそうじゃな。ー


アラグニラの情報から、本格的な方針が固まった。

とりあえずロマリア王国へと向かえば、何かしらの情報を掴む事が出来るかもしれないからだ。


こうして、ティア、アーロス、ドリュースの三人はロマリア王国へと旅立つ根回しに奔走し、エイボンとN2はティア達の留守を守る形に、他の者達は各々で動く事が決まったのだったーーー。



・・・



「くそっ・・・!」


仲間達との協議が終わり、『DMダイレクトメッセージ』が切れた途端、N2は思わず舌打ちをしていた。

と、言うのも、N2は内心ではティア達と同行したかったのである。

いや、頭では皆のはN2も分かっていた。

しかし、これは感情の問題であって、とりあえず現状を打開したい、気分転換をしたい、と言う期待を邪魔された形となり、それに対する苛立ちをN2は隠せないでいたのだったーーー。



N2は現状に不満を持っていた。

いや、表面上はルキウスの待遇には不満を持っていない。

また、『LOA』に在籍しているのも、N2が自分の意思で決めた事だ。

そこに関する不満はなかった。


むしろN2が不満を持っていたのは、一般の者達が自分に向ける態度や好奇や嫌悪の目の方だったのである。


N2は、いや、これはむしろN2達全員に言える事だが、所謂“オタク”であった。

とは言え、“オタク”の定義は幅広く、例えばファッションに心血を注ぐ者達もある意味では“オタク”であるし、何らかのスポーツ競技に傾倒している者達、プレイする側も、応援する側もある意味“オタク”である。

また、アイドルオタクや電車などの乗り物を愛するオタクもいるし、アニメ・マンガ・ゲームなどの二次元をこよなく愛するオタクも存在する。

で、N2達は、狭義の上ではゲームオタクだった訳である。


さて、では何故“オタク”の定義を述べたかと言うと、つまり旧来の極端な“オタク”のイメージで言うと、“オタク”とは粘着質で暗い性格の人物を指した場合がままあるのだが、実際には当然だが様々な性格を持っているのが本当のところだからだ。

先程の例にもある通り、爽やかなスポーツマンタイプの人々だってある意味ではオタクであるし、その中には逆に内向的な性格の人物も存在するだろう。

逆に言うと、アニメ・マンガ・ゲームをこよなく愛する一般的に暗い性格を持つイメージがある者達の中にも、社交的な者達もいれば内向的な者達もいるのである。

まぁ、本来は当たり前の話なのだが、こうした認識が浸透したのも、かなり最近の事だったりする。

それはともかく。


さて、話を元に戻そう。

で、N2達は、『TLW』にハマっていたゲームオタクだった訳だが、N2はオタクはオタクでも、所謂“陽の者”、周りを明るい気持ちにさせるムードメーカー的な存在であり、ややお調子者みたいな側面もあったのである。

それがまず一点。


さて、ではここで話は少し変わるが、以前にも言及したが、フルダイブ用『VRMMORPG』・“The Lost World~虚ろなる神々~”では、プレイヤーの分身であるアバター仮の姿は、自由にカスタム、キャラメイクする事が可能であった。

一応、このタイトルのコンセプト的に、プレイヤーの所属は『人間』に限定されている訳であるが(つまり、他の種族に成る事は出来ないが)、しかし、その見た目スキンを他種族に寄せる事は可能なのである。


(ここで少し話は逸れるが、人間には誰しもが変身願望を持っているモノである。

特にこうしたファンタジー色が強く、なおかつ世界初のフルダイブ用『VRMMORPG』と言う事もあり、プレイヤーはアバター仮の姿のキャラメイクにかなりこだわる者達も多かった。

中には、ネタに走る者達もいたが、またある者達は、ベースを本来の自分に則した形にする者達もいたが、やはり全く別の存在、あるいは理想の自分をイメージしてキャラメイクをする者達もいたのである。)


で、その結果、N2とアラグニラ、ククルカンとアーロスは『人間』とは異なる外見上の見た目スキンを持つ事となった。

N2は“”、アラグニラとククルカンは“魔族”、アーロスは“竜人族”、と言った感じである。

とは言え、アラグニラとククルカンの場合は、その“厨二病”全開のこだわりから、人間離れした耽美でダークなイメージを“魔族”と定義しただけに過ぎず、客観的に見た場合の見た目は普通の『人間』とそう大差はなく、アーロスの“竜人族”に至っては『TLWゲーム』内の特殊なクエストをクリアした結果追加させたに過ぎず、その外見は完全に普通の『人間』と変わりなかった。

ただ、『異邦人地球人』達は、先程の心理的要素からか、全体的に美形であると言う特徴はあったのだが。


さて、しかしこれは本来はあくまで『TLWゲーム』内だけの事であった、筈だった。

それ故、まさか異世界アクエラに飛ばされる事があるなどと想定していない訳で、その結果異世界アクエラの事情によって、不幸な事にその見た目スキンが差別の対象になるなどと、『異邦人地球人』達は誰も想定していなかったのである。

差別。

そう、N2は、その特徴的な『』を携えていた為に、この世界アクエラでは差別を受けていたのであるーーー。



これまで何度となく言及しているが、この世界アクエラでは、少なくともハレシオン大陸この大陸では、ライアド教の影響もあってか『ドワーフ族』以外の他種族は忌避される傾向にある。

その結果として、人間族からエルフ族、獣人族、鬼人族などは差別の対象となり、恐れられる様になっていた。

以前のロマリア王国の例にもある通り、エルフ族などを奴隷として迫害していた過去もある。

他の国々も似通った状況であり、そんな環境の中で、『異邦人地球人』の中で唯一特徴的な『』を持っていたN2は、以前から肩身の狭い思いをしてきたのである。


もっとも、この世界アクエラに来た当初は、未知の世界や未知の現象故にそんな事を気にする余裕もなく、また、アラグニラ達と共にこの世界アクエラの情報を収集する為に冒険者活動をしていた時も、自分達の正体をおおやけにしない様にフードを被る事も多かったので、そうそう嫌な思いをする事もなかったのだが。

むしろ、他の者達と同様に、夢にまで見た“ファンタジーの世界”に興奮すらしていた。


だが、『テポルヴァ事変』を経て、仲間達との関係性も変わり、更にはその時の活躍の末に『異邦人地球人』達の評判が高まってしまっていた。

これは、ルキウスやライアド教、その他勢力が簡単には彼らに手出し出来なくなると言うメリットもあったのだが、ある種の有名人となってしまったと言うデメリットも存在した。


有名人のメリットとデメリットとは、


メリット→・周囲がチヤホヤしてくれる、結果どこに行っても人気者になれる。

・友達がいきなり増える。

・人脈が増えることにより仕事の幅や量・質が上がる。

・異性がたくさんよって来る。

・金と名声とチャンスをつかみやすくなる。

などが挙げられ、


デメリット→・どこに行ってもプライベートやプライバシーがなくなる。

・常に他人の目にさらされる為気が抜けなくなる。

・ストーカーや熱狂的なファンが出現する可能性が出る。

・恋人や家族も世間の好奇の目にさらされる可能性も出る。

・自分の言動による周囲への影響がもの凄く、軽率な事は出来なくなる。

などが挙げられる。


で、N2の場合は、その外見的特徴の為に、メリットよりもデメリットの方を多く抱える事となってしまったのである。

もちろん、ルキウスが客分として認めている事や『テポルヴァ事変』時の活躍と言う事実はあるのだが、これはこちらの世界アクエラの住人達の幼い事より教えられてきた常識や感情の問題である。

結果としてN2は、帝国民から大々的にチヤホヤされる事もなく、かと言って直接的な差別意識を向けられる事もなく、何処か腫れ物に触れる様な扱いを受ける事となったのであった。

これが、N2のストレスの要因となっていたのだった。


むしろ、ルキウスの影響や『テポルヴァ事変』時の活躍があるからこそ、その程度で済んでいる側面もある。

もし仮に、N2がルキウスの影響力も『テポルヴァ事変』時の名声も届かぬ他国へ赴いたとしたら、ある意味ではフィルターを通して見られない可能性もあるが、むしろ普通に差別され、場合によっては攻撃される可能性の方が高い、とエイボンらは考えた訳である。

故に、N2には申し訳ないが、彼が他の国にと考えて、彼の意思をあえて見ないフリをした訳である。

要らぬトラブルは出来れば避けたいからである。


N2とて、それが分からないほど子供ではないし、空気が読めない訳でもなかった。

先程も言及したが、本来のN2はオタクではあるが、社交的で少々お調子者の面も存在する。

だが一般的な男性としての精神や欲求も同時に存在する訳で、他の者達がチヤホヤされている(モテている)状況の中で、自分だけは腫れ物に触れる様な扱いを受けていれば、それは多少なりにも不満も出てくるだろう。

“なんで俺だけ・・・!”と、言った感じである。

場合によっては、『カルマシステム』とは別の要因で、本来の性格が大きく歪んでしまう可能性もあった。


そんな状況の中で、更にはアキト・ストレリチアと言う切っ掛けを経て他国へと赴く為の絶好のチャンスすら黙殺されたN2は、半ば荒れ気味であった訳である。

しかし、それは幸か不幸か、他の者達が察知する事は出来なかった。

何故ならば、アキトと言う重要情報に注意を逸らされていた事に加え、N2はウルカと急接近をする事となったからであるーーー。



・・・



「荒れていますね、N2さん・・・。」

「こ、これは、ウルカさんっ!な、何故この様なところへっ!?」


前述の事情もあって、N2は仲間達との協議後、『異邦人地球人』が滞在する為に用意されたルキウスの居城の一室にて、やや引きこもり気味の生活を送っていた。

外に出れば彼の特徴的な外見から、好奇の目や嫌悪の目で見られる事は間違いない。

と、言うか、そうした事もあって引きこもりの様になったのだが。


もっとも、この場所は世間一般とはやはり待遇が違う。

望めば食べきれないほどの食糧は出てくるし、浴びる程の酒も用意される。

そんな環境もあって、N2はある種の代償行為として、引きこもりながら酒浸りの生活を送っていた訳であった。


そこに、今ではかつての仲間達とは距離を置いていたウルカが、突然訪問してきたのである。


「いえ、私もN2さんの話を聞きまして・・・。お隣、よろしいですか?」

「え、ええ、どうぞっ!」

「お互い、とんだ災難ですわね・・・。」

「え、ええ、まったくですよ・・・。」


おもむろにN2のベッドに腰掛け、上目遣いでN2を見やるウルカに、N2は内心ドキッとしながら、そう返事を返していた。

しばしの沈黙の後、“少し飲みましょうか?”と言うウルカの言葉を皮切りに、二人は静かに酒を酌み交わすのであった。



この二人は、ある意味では今現在は似通った境遇にあるかもしれない。

自分で望んだ訳ではないのだが、周囲の状況によって自分の生活が一変してしまった点では共通点があった。


こうした似通った境遇の者達が、お互いの愚痴や不満を共有したり慰め合う事で、言い方はあれだがお互いの傷をなめ合う事はよくある事だ。

その末で、恋仲に発展する事もよくある事であろう。


ウルカとN2もそうした事から、この世界アクエラやルキウス、世間や仲間達への不満をお互い語りながら、徐々に接近していった訳である。

気が付いた時には、二人はベッドにもつれ合い、熱い一夜を共にするのであったーーー。





















少し気が晴れた様子で満足気に寝息をたてるN2を横目に、ウルカは一糸纏わぬ妖艶な姿で静かに微笑しながら、おもむろにN2が脱いだ装備を漁るのだったーーー。


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