第147話 回想
基本的に、ロンベリダム帝国、と言うかルキウスとライアド教、特にハイドラス派は協力関係・蜜月関係にあるが、これは何も相手を全面的に信頼しての事ではない。
むしろ、お互いがお互いを
これは、お互いに相手を利用する事に、当然ながら各々メリットが存在するからである。
昨今の
これは、国を
また、宗教団体側としても、国側から公式的に認められている事もあり、下手な迫害や妨害を受ける恐れもなく、ライアド教の教えを広く布教する事が可能だ。
この様に、宗教団体と国が協力関係を結ぶ事はお互いにとってメリットがある訳で、ルキウスとライアド教が協力関係を構築しているのも、そうした観点からである。
まさに、Win-Winの関係なのである。
ただし、先程も述べた通り、ロンベリダム帝国とライアド教では、やはり別々の組織であるから、その根本的な考え方には大きな違いが存在する。
今のところはその協力関係を崩すつもりはお互いにないが、いざと言う時はお互いに相手を切り捨てる事も出し抜く事も厭わないだろうーーー。
□■□
元・『LOL』、現・『LOA』のメンバー達(一部例外有り)は、今現在は各々がバラバラに活動する事となっていた。
これはむしろ当たり前の話で、いくら仲の良い友人同士であろうと、仲の良い家族であろうと、常に四六時中一緒に行動する訳ではないのと似通った事情でもある。
そもそも、『LOL』は、
それ故、レイドボス攻略時に協力する事やクエストの情報を共有する事はあっても、ソロで活動する時やストーリークエストなどを進める上では、独自に動く事はままあった。
そもそも、『TLW』はあくまでゲームであって、リアルでは各々が仕事や立場がある訳だから、当然ながら生活リズムも各々違いが存在するのだ。
もっとも、『
しかし、『テポルヴァ事変』の折に邂逅したヴァニタスの話から、
もちろん、その真偽は定かではないが、少なくともヴァニタスがアラグニラやドリュースのリアルネームなどの情報を知っていた事は疑い様のない事実であり、その事からアラグニラはそれがおそらく事実なのだと結論付けた。
もっとも、他のメンバー達の中にはその情報に懐疑的な目を向ける者達もいたのだが。
しかし、ここで重要なのは、ある意味では『
そうなれば、アラグニラの発言にもあった通り、また、先程の例からも分かる通り、『LOL』で固まって動く必要性が薄くなってしまうのもまた事実なのである。
そもそも、同じ『
その末で、アラグニラの独断専行、タリスマンの贖罪などを受けて、これ以上『
これは、言わば他の勢力に対する牽制であると同時に、仲間達に対する牽制でもあった。
アラグニラの発言の通り、目的の共有、すなわち
何故ならば、その先は各々の
何をしようと、何処へ行こうと、それは他人に束縛されるべき事ではない。
しかしながら、ティアとしては、その末で仲間達が何処か組織に利用されてしまう事を懸念したのである。
それも、極論を言えばその人の自由ではあるが、
これは、『
優れた
その末で、結果として仲間同士で争う事となってしまった場合を想定し、彼女は仲間達との最低限の繋がりを維持しようとしたのである。
『LOL』、改め、『LOA』の発足意義は、自分達の権利と人権を他の勢力から守る意味合いが強い。
それ故、そこに属している事によって、他の勢力への牽制ともなるし、ある意味では、仲間同士でお互いを監視し合う意味合いもあるのである。
その裏の意味をしっかりと理解していたアラグニラ、キドオカ、ククルカンらは『LOA』本体とは距離を置いた独自に動ける立場を主張しながらも、『
ただ、ウルカとアーロス、そしてタリスマンは各々の事情から立場を明確にする事が出来ないでいた。
そんな訳で、『
・・・
『LOA』の『
と、言っても、ククルカンはウルカと違い、ハイドラスの
何故ならば、ククルカンは、別にライアド教を信仰している訳ではないからである。
むしろククルカンの思惑的には、ライアド教が独占している『回復魔法』の技術を、他に公開する事を目標に掲げていた。
これは、アラグニラと同様にある種の『不治の病』、“厨二病”を患っているククルカンなりの美学に基づくモノであった。
アラグニラとククルカンに共通するのが、所謂“ダークヒーロー”に魅力を感じている点である。
例えば、明らかに重い罪を犯したのに、人権の問題、法体系の問題から、それに対して罰が軽すぎるなどといった現象がしばしば見られる。
もっとも、これは個人によって解釈はそれぞれ異なるので、何を持って正しいとは一概には言えないのであるが。
“ダークヒーロー”とは、フィクション作品における主人公または準主人公の分類の一つである。
常識的なヒーロー像である「優れた人格を持ち、社会が求める問題の解決にあたる」という部分から大きく逸脱していることが多い。
典型的なヒーローの型とは異なるが、ヒーローとして扱われるものも多い。
大まかな区分として以下の9つ、およびこれらの複合に当てはまると“ダークヒーロー”、あるいは“アンチヒーロー”に該当すると言われている。
1、自分自身の目的を達成するためには、手段を選ばない。
2、復讐を目的とし、自身の行為が悪行であると理解しながら、非合法な手段を採る。
3、社会から求められている正義を成すために、非合法な手段を採る。
4、性格が人格者とは言い難い。行動様式に人格者とは考え難いものがある。
5、法律や社会のルールよりも、自分自身で定めた「掟」を優先し、「掟」に従う。
6、外観や能力が本来的には「悪」に属するものを源とする。
7、行為も目的も悪であるが、一部の生き方などが読者や視聴者の共感を呼ぶ。
8、ストーリーの主たる部分で称賛される行動を採るが、普段は侮蔑されるような行動をしている。
9、現状の体制が良い物だとは考えておらず、反体制の姿勢を選択する。
いや、キドオカの様に特殊な事情を抱えている者もいたが、どちらにせよ、大きな
もちろん、それはそれで特に不満もなかった。
少なくとも、『
それに、何かを変えたいと思う様な明確な強い意思も能力も持っている訳ではなかったし。
しかし、期せずして
何物にも縛られない物語の主人公やキャラクターの様な生き様を体現出来るのではないか、と。
まぁ、『
アラグニラ、ククルカンは、そこら辺の願望が特に強かったのである。
で、アラグニラが己自身の信念や美学の基、例え法的には悪と言われ様と、弱きを助け強きを挫く、まさしく典型的な“ダークヒーロー”的・義賊的活動を開始したのに対し、ククルカンはその中でも、ライアド教がある種の医療の要である『回復魔法』を独占している現状を打開しようとしていた訳である。
もちろん、
つまり、確かに正式な医療行為をするならば、それなりに知識や経験を要する事は理解しているが、仮に『回復魔法』を一般の者達も使える様になれば、もっと救える命が増えるのではないかとククルカンは感じていたのである。
もっとも、ククルカンとて頭の回らない男ではない。
ライアド教がそれをしている背景も、しっかりと理解していた。
つまり、『回復魔法』の権利や知識を独占する事により、ライアド教の対外的な立場や価値を高めている事をしっかりと認識していたのである。
心情的にはともかく、これは上手い手であるとククルカンは考えていた。
人は生まれ出づれば、いつか必ず老い、死ぬ。
その過程で、確実に怪我や病気に苛まれる事になる。
そうした心の救済を求めて、宗教に救いを求める事がままある事は歴史的にも明らかであるが、それプラス『回復魔法』を独占していれば、その価値は更に高まる事となるだろう。
つまり、身体と精神の両方の観点から、ライアド教へと
なるほど、ライアド教が世界的宗教と呼ばれるのも無理からぬ話であろう。
しかし、それはククルカンからしたら、やはりおかしいのである。
真に人々の事を思うのであれば、『回復魔法』を広く公開するべきではないのかと考える様になった訳である。
もっとも、先程述べた通り、ククルカンとて頭の回らない男ではない。
それをするのは、かなり困難な事は承知していた。
まず何と言っても、ライアド教から激しい反発がある事は間違いないだろう。
当たり前である。
これまで自分達が独占していた既得権益を、無償で公開せよと言っている様なモノなのだから。
場合によっては(ククルカンはウルカと違い『
しかし、当たり前の話であるが、ライアド教も一枚岩ではない。
中には、ククルカンと同様に、人々の真の救済を理想とし、『回復魔法』を広く世間一般にも公開する事を夢見ていた者達もいた訳である。
ライアド教は、大きく分けて二つの派閥が存在する。
一つは、『至高神ハイドラス』を信仰する『ハイドラス派』である。
ハイドラスは、ライアド教内に置いては、所謂『創造神』であるから、ハイドラスを信仰する者達が多いのも納得の話である。
もう一つが、こちらは『神』と言う立場ではないものの、ライアド教内に置いては重要な役割を担う人間、『慈愛の乙女セレスティア』を信仰するセレスティア派であった。
もっとも、これは以前にも述べたのだが、ハイドラス派は広く
それでなくとも、ロンベリダム帝国は、ハイドラス派の天下だった訳であるし。
とは言え、それでもロンベリダム帝国内に置いても、セレスティア派も少ないがいるにはいるし、ハイドラス派と言う立場にあっても、ククルカンに賛同する者達もいた。
この様に、ククルカンはライアド教に協力しつつ、裏ではハイドラス派に対抗すべく、徐々にその足場を固めていた訳であるーーー。
・・・
「ククルカンさん・・・。」
「おや、これはウルカさん・・・。珍しいですね。ウルカさんの方から声を掛けて頂けるなんて。」
見慣れた、しかし些か不気味な雰囲気を漂わせるウルカの突然の訪問に、ククルカンは朗らかに対応しながらも、内心はバクバク状態であった。
ロンベリダム帝国内のライアド教本部は非常に広い。
下手をすれば、ルキウスの居城であるイグレッド城に匹敵する程の広さを誇っているかもしれない。
しかし、考えてみれば当たり前の話で、ここはハイドラス派の本拠地であるから、ある意味ライアド教の総本部と言っても差し支えない場所なのだ。
ハイドラス派とかセレスティア派とか言った難しい事はともかくとして、ライアド教の信者であれば、そうでなくともある種の観光地として、
そうした観点から、人々を受け入れやすい様にそれなりの広さを確保しつつ、宗教画や調度品などを贅沢にあしらう事で豪華絢爛ながらも神秘的な空間を演出し、ライアド教、引いては『至高神ハイドラス』の威光を表現しているのであった。
で、ライアド教の協力者であるが、ぶっちゃけライアド教内では部外者に過ぎないウルカとククルカンであるが、しかし彼らは、類い稀な『回復魔法』の使い手であり、そして何より『テポルヴァ事変』の折に『
ライアド教から正式に位階を与えられている訳ではないが、立ち位置的には、教皇に次ぐ扱いや尊敬を集めていると言っても過言ではなかった。
(ちなみに、ライアド教の聖職者の位階は、
教皇
枢機卿
総大司教
首座大司教
大司教……司教の中の有力者で他の司教を監督する。
司教 ……司教区を受け持つ。
司祭 ……日本では「神父」とも。「教区」を担当。
助祭
となっている。
その下にも色々な役割が存在するが、この様な管理体制の下、ライアド教は運営されている。)
そうした訳で、ウルカとククルカンは特別に専用の部屋を与えられており、そこで先程述べた通り、各々が独自の活動に従事していた訳である。
もっとも、ウルカがハイドラス派と懇意にしている事はククルカンも承知しており、また、『テポルヴァ事変』以降はウルカも仲間達との接触を拒む様になっていたので、彼女と話す機会も減っていた。
このタイミングでウルカが訪問する事は、秘密裏に『回復魔法』の一般への流出を画策していたククルカンにとっては、後ろ暗い事がある故に内心慌てていたのであった。
「いえ、
「・・・ふむ、何の事かは分かりませんが、御忠告は胸に刻んでおきましょう。・・・して、御報告とは何の事ですかな?『LOA』への参加の件であれば、私が仲立ちする事も
お互いに牽制し合いながらも、表面的には穏やかに言葉を交わすウルカとククルカン。
元々仲間同士ではあるが、今はお互いに思惑が存在し、なおかつ同じ“
「いえ、それには及びません。私はもう『LOA』に合流するつもりはありませんから。アラグニラさんも仰っていた通り、ここからは私の
「それについては、否定するつもりはありませんが・・・。」
ククルカンとしても、ウルカの主張は分からなくはなかったので曖昧に頷く。
自分の人生に置いては、個人の意思や考え方は尊重されるべきである。
実際、ククルカンも『LOA』本体とは合流せずに、あくまで『
これは、ある意味ではウルカに近い立ち位置であろう。
「まぁ、それについてはもはや私の中では結論が出ているので、これ以上議論するだけ無駄ですよ?別に私も、あなた方に牙を剥くつもりはありませんから、お互いに不可侵・不干渉を貫いた方が軋轢もなくて済むでしょう?」
「・・・確かに。」
それが本当であれば、だがな。
ククルカンは、内心そう考えていた。
「まぁ、それはともかくとして、御報告と言うのは、実は私達以外の『
「・・・えっ!?い、今、何とっ・・・!!??」
突然の重要な情報に、ククルカンも一瞬耳を疑い、思わず聞き返していた。
「ですから、私達以外の『
「そ、それは確かな情報なのですかっ!?」
「ええ、おそらく間違いはないかと・・・。
「そうですかっ・・・!!!」
ククルカンは、そのもたらされた情報に、大きな進展を感じていた。
自分達が
しかし、この広い世界で、なおかつ情報分野ではひどく劣っている
まさしく、干し草の中から針を探すかの様な、ほとんど不可能に近い事だと考えていた。
それでなくとも、その人物も、自身の正体を隠しているかもしれないし。
いや、自分なら間違いなくそうするだろう。
ククルカンはそう考えていた。
しかし、そのほとんど諦めていた情報が、今、ウルカの口から語られたのである。
「私としては、まぁ、どうでも良いのですけれど、元・仲間のよしみで、その情報は共有しておこうかと思いましてね。もっとも、先程述べた通り、私は皆さんとは疎遠になっていますから、ククルカンさんから皆さんにお伝え頂けると幸いなのですが・・・。」
「は、はぁ・・・?」
しかしククルカンは、その冷めた様子のウルカに違和感を感じていた。
ククルカンやアラグニラは、ある意味では空虚な日々を過ごしていた
しかし、今の口振りから行くと、その『
「・・・やはり、その人物も
「いえ、本人は送還の方法を知っている様な口振りでしたよ?」
「そ、それならっ・・・!」
「けれど、私には
「・・・なるほど。」
確かに、同じ『
少なくともウルカは、その人物を警戒し、一時撤退したのだと考察出来た。
「ですが、何を信じるかは人それぞれですから、私は
「なるほど、事の経緯は分かりました。して、その人物の名前は・・・?」
「かなりの有名人ですよ。少なくとも、
「アキト・ストレリチア、ですか・・・。」
ウルカの言葉を反芻し、そのまま深く考え込むククルカン。
その様子を見ながら、微かに、本当に微かにウルカは微笑を浮かべていたのだったーーー。
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