第124話 計略の好きな方々



◇◆◇



信賞必罰しんしょうひつばつは、国家や社会、組織にとって重要な措置である。

信賞必罰しんしょうひつばつとは賞罰を厳格に行う事。

賞すべき功績のある者には必ず賞を与え、罪を犯し、罰すべき者は必ず罰するという意味。


国家や組織にとって利益のある行いをした者にはこれを賞し、国家や組織に対して害を及ぼした者には罰を与える。

それによって、秩序を一定に保とうとしているのである。


当然であるが、人は人から認められた方が嬉しいと思うだろう。

例えば、組織、企業なんかにおいては、優秀な成績を納めた者に、賞状を与えたり、役職を与えたり、特別ボーナスを与えたり、これが信賞しんしょうに当たる。

それらを与えられた者は、自分の行いを認められた事を嬉しく思い、より一層の職務に邁進していく事が期待出来る。

と、同時に、それを羨ましく思った周囲の者達も、その者に続けと奮起して、全体的な業績アップが期待出来る様になる、という狙いもあるのだ。

もっとも、最近の傾向だと、特に役職などは逆に敬遠される傾向にあるのだが。

ここら辺は、個人の考え方や時代によっても多少の違いがあるのだろう。


その一方で、必罰ひつばつに当たる部分が、厳重注意、減給、解雇などである。

例えば、無断欠勤や無断退勤を頻繁に繰り返すとか、業務上、求められる能力に達していないとか、中には明らかな社会的犯罪行為、会社の金を着服するとか、ひき逃げ、飲酒運転、殺人などによって処罰されるケースも存在する。

これは、当然ながら罰せられた本人はもちろんの事、ルールに違反した者にはそうした措置が取られるという事の、周囲に対する一種の見せしめや牽制にもなるのである。


ある種の“飴と鞭”。

集団で生活する事を基本としている人間社会では、こうしたものが様々な形で存在しているのである。


さて、当然それは、『異世界』であるこの世界アクエラにおいても存在する。

もちろん、その形は様々であるし、法整備の観点からも捨て置かれているものも存在するが、基本的な考え方は向こうの世界地球と同じである。

国家にとって利益のある行いをした者には、それ相応の扱いをしなければならない。

これは、内外に対する国の面子にも関わる話でもあった。

そうした観点から、国家の危機を救い、国民の生命や財産を守る事に尽力した『リベラシオン同盟』に、信賞しんしょう、すなわち、褒賞を与えようとするのは当然の流れなのであったーーー。



・・・



「では、『リベラシオン同盟』に対して褒賞を与える事でよろしいかな?」

「もちろんですとも。異論は御座いません。」

「・・・彼の者達の尽力なくしては、この程度の損害では済まなかった可能性が高い。国民達も、それには納得する事でしょう。いや、むしろ新たなる『英雄』の誕生に歓喜して、いやらしい話、一時でも被害の事を忘れるかもしれません・・・。『リベラシオン同盟彼ら』には申し訳ないが、国民の希望の象徴として国民の発奮材料に利用すべきでしょうな。」

「ふむ・・・。」


以前にも言及したと思うが、『ロマリア王国』の政治体制は少々複雑である。

もちろん、『国王』が存在する以上、『君主制』が採用されている事は当然なのであるが、今現在ではマルク王が全権を掌握しているとは言い難いからである。

マルク王がトップである事には変わりないが、全てを彼一人で決定する独裁的な政治は不可能となっていた。


むしろ、今現在の『ロマリア王国』の政治体制は、向こうの世界現代日本に近いところがあるかもしれない。


マルク王=首相

マルク王に近い有力貴族=内閣(政府)

有力貴族で構成された元老院=国会


といった感じである。

まぁ、その中でも様々な役職や派閥などが存在するのだが、それはここでは割愛しておこう。


で、今現在、宮殿のとある一室にて『リベラシオン同盟』の事について協議をしている者達は、この中の内閣(上層部)に当たるマルク王と彼に近い有力貴族達であった。

国家の重要な政策、あるいは憲法の創設、改訂などには、当然ながら国会にて議論をし、承認、可決される必要があるが、それ以外の部分では、マルク王や政府首脳陣が独自の裁量で決定する事も出来るのである。

『リベラシオン同盟』に対する褒賞の話もそれに該当していた。


「しかし、いずれにしても、『リベラシオン同盟彼ら』を招集する必要がありますな。褒賞の件はもちろんなのですが、『リベラシオン同盟彼ら』から上がってきた『報告書』だけではどうも要領を得ない・・・。」

「あの『泥人形ゴーレム』共がどの様にしたのか、また、どの様にして消し去ったのか。更には、そのには誰が存在しているのか、ですな?」

「然り。また、『リベラシオン同盟』自体の“有り様”も不透明な部分が多い。聞けば彼らは、『奴隷解放』を謳う『人権保護団体』なる組織との事だが、それを逸脱した『武力』や『権力』を手にしているとの噂もある。まぁ、今回の件で半ば事実である事が分かったが、それも含めて改めての確認作業も急務だと思われるが?」

「ふむ・・・。」


そして、議論はそのまま『リベラシオン同盟』を招集する話に流れが変わっていった。

これは、今まで(意図的に)捨て置かれていた『リベラシオン同盟』の存在や活動内容を危惧しての事である。

今回の件で、『リベラシオン同盟』が民衆からの厚い支持を受ける事は確定的である。

何せ、正規の『防衛軍』ですら手を焼いた事態をアッサリ解決してみせたからだ。

となれば、その存在感は、『ロマリア王国この国』のトップの者達にも最早無視出来ないレベルに達するだろう。


だからと言って、今回の件を無かった事にする事も出来ない。

それは、国民感情を逆撫でする行為となる訳で、最悪、国の機能に悪影響を及ぼすかもしれない。

故に、褒賞を与えて諸々に対してのとしつつ、その一方で『リベラシオン同盟』の今後どうするかを見極めようと言うのだ。

ぶっちゃけて言うと、『リベラシオン同盟彼ら』を利用するべきか、排除するべきかの選択肢を、マルク王達は迫られている訳である。


「それに関しては、一つ提案があるのですが、発言、よろしいかな?」

「何かね、マイレン卿?」


ちなみに、この議論を進行しているのは、元老院議長でもある、マルセルム公爵であった。

今現在の彼の立場は、マルク王に次ぐ実質的に国のNo.2であった。

故に、様々な議題を取り仕切るのは彼の役目となっている。

もちろん、最終的な判断は静かに聞き耳を立てているマルク王に委ねられる形にはなるのだが。


「では・・・。いっその事、彼の『英雄』殿に『爵位』を与えてはどうかと愚考致します。」

「「「「「な、なんだと・・・!?」」」」」

「ふむ・・・。」


ザワッとその場が騒然となる。

いや、それはその場の者達も考えなかった訳ではないだろう。

しかし、今だ『リベラシオン同盟』や『英雄アキト』に関する事は不透明な部分が多い。

故に、諸々の確認をする前にそうした結論を下すのは、まだ時期尚早ではないかとの戸惑いの声が上がったのである。


「皆さん、静粛に!・・・して、マイレン卿。その心は如何いかに?」

「はい。もちろん、私も、『リベラシオン同盟』や彼の『英雄』殿の事に関しては詳しくありませんが、そこは今は重要ではありません。一番の懸念材料は、それほどの人材を有する『リベラシオン同盟彼ら』が他に流出する事ではないでしょうか?それ故の、褒賞の話ではありますが、もう一歩踏み込んで、彼の『英雄』殿に『爵位』を与え、ある種の“”を打ち込んではどうかと考えた訳ですよ。そうすれば、国民もこちら側の味方となりますから、『リベラシオン同盟向こう』も否とは言えますまい?ゆくゆくは、『リベラシオン同盟彼ら』自体を国に取り込んでしまえば良い。その末で、是正すべきところは、是正なり何なりすればよろしいかと。」

「た、確かに一理あるが・・・。」

「時期尚早ではないかね・・・?」


慎重な者達からは、マイレンからの提案に消極的な意見が出る。

しかし、それも強弁なモノではなく、徐々に鳴りを潜めていった。

それに追い討ちを掛ける様に、マイレンは再度力説する。


「皆さん、前提条件を間違わないで下さい。今現在の『リベラシオン同盟彼ら』は、国の正式な認可を受けた団体ではありません。逆に言うと、この後何処につくかも不透明であると言う事です。極端な話、『リベラシオン同盟彼ら』が彼の『ロンベリダム帝国』に引き込まれる可能性もゼロではない。ならば我らはそれに先んじて、行動を起こすべきではないでしょうか?」

「「「「「っ!!!」」」」」


最近、特に活動が活発な『ロンベリダム帝国』の名を出されては、その場の者達も否とは言えなかった。

もちろん、“”を知っている者達ならば、アキトや『リベラシオン同盟』が『ロンベリダム帝国』につく事など事だったが、生憎、その場には“”をある程度でも把握していたのはマルセルム公爵だけだった。


もっとも、マルセルム公爵とて、独断で“”を明かす訳にはいかない。

故に、最終的な判断をマルク王に仰ぐ形となった。


「王よ・・・。」

「うむ、話は分かった・・・。では、その方向で調整するとしよう。」


再びザワッとするが、流石に国のトップの決定に、その内心は別としても、表向き異論を挟む者はこの場にはいなかった。


「ただ・・・。」

「ん?何だ、マイレン卿?まだ何かあるのかね?」


しかし、ポツリとマイレンは再び呟く。

それを聞き付け、マルクも再びマイレンに水を向けた。


「いえ、大した事ではないのですが、懸念の話で御座います。彼の『英雄』殿が、いくら『救国の英雄』とは言え、元はで御座いましょう?となれば、『爵位』を与える事に、少なからず『貴族』の方々から反対意見が出るのはある種必然です。故に、今回の招集は表向きは『リベラシオン同盟』に対する褒賞であるとするに留め、『英雄』殿の件は内密に推し進めるべきではないかと愚考します。それに、先程“”云々と言った様に、これは『リベラシオン同盟彼ら』に対するある種の牽制でもありますから、こちらに対しても、表向きの理由で押し通す必要があると考えます。言い方は悪いですが、これは『リベラシオン同盟』、ひいては彼の『英雄』殿の逃げ道を塞ぐ意味合いもありますが・・・。」

「ふっ・・・。」


マイレンの言葉に、マルクは軽く笑いを漏らしてしまった。

と、言うのも、マルクはすでに彼の『英雄アキト』が自身の血縁である事を知っているからだ。

もっとも、表向きはそんな事は明かせないのだが、故に、マイレンの“”発言を皮肉めいて聞いてしまったのである。


「何か・・・?」

「いや、何でもない。では、その方向で改めて調整する事としよう。他に異論はないかね?」


故に、マイレンを少し泳がせてみようと考えた。

マルクとて、政界に長く携わる者だ。

マイレンに某かの“思惑”がある事は理解していた。


しかし、それをどの様にアキト我が息子が切り抜けるのか、それを見てみたいという、ある種の子供の成長を見届けてみたいという親の心境になっていたのかもしれない。


「「「「「・・・。」」」」」

「・・・結構。」

「では、本日の議題は以上です。解散。」



◇◆◇



「・・・首尾は如何いかがでしたか?」

「ふむ・・・。概ね上手くいったと思うが・・・。」



マイレン侯爵は、所謂『大臣』相当の有力貴族だ。

故に、いくら宮殿内とは言え、彼を警護する者達が常について回る。

それに、それほどの者であれば、取り巻きの連中も多いのだが、今はフィーエル伯爵と二人きりで廊下を歩いていた。


一言に貴族と言っても、その立場はマチマチだ。

侯爵と伯爵ならば、まだ分かりやすい階級差があるのだが、同じ階級内でも立場の上下がある。

例えるならば、同じ『国会議員』でも、無役の者と重要ポストを担う者とでは、その立場や権限、影響力は全く異なる。

フィーエルは、以前は『貴族派閥』に属し、宮殿内の役こそなかったものの、フロレンツが順調に権力を掌握していけば、ゆくゆくは『大臣』相当のポスト、内閣(上層部)に属する事も夢物語ではなかった。


ここら辺は人の心理と言うものだろう。

普通の感性の持ち主であれば、自分を支持する者達を自分の周囲に置こうとする。

フロレンツ、つまり『貴族派閥』側に属していた大半の者達は、そうした将来的な『損得勘定』を計算した上で、フロレンツを支持していた訳である。


もっとも、フロレンツの失脚と共に、その目論見は消え失せてしまった。

もちろん、『対立政党』的な立場としての『貴族派閥』は今現在でも存続しているが、それも半ば形骸化している。

『ロマリア王国』は、今現在『王派閥』の天下であった。


フィーエルは、その中でも、上手く立ち回った方だろう。

『貴族派閥』の不利をいち早く察知すると、『王派閥』にアッサリと鞍替えしたからだ。

こうした者を嫌悪する者達も中にはいるが、生物学的にはぶっちゃけると生き残った方が勝者だ。

裏切り者だと後ろ指を指されようと、寝返った者・信念のない者だと蔑まれて見られ様と、結果は結果である。

そうして、フィーエルは無事に粛清を乗り切ったのである。


しかし、そうした侮蔑に耐えられない者も存在する。

フィーエル自身が自分を“外様”と表現した様に、彼、あるいは彼の一派は、『貴族派閥』から途中で『王派閥』に鞍替えした者達である。

つまりは、元よりマルク王、あるいはマルセルムを支持していた古参の『王派閥』の者達からしたら、裏切り者かつ『新参者』でしかない。

故に、重要なポストを任される筈もなく、ただ数の上で優位であるとする理由だけで、何とか存在を黙認されている状況であった。

フィーエルの一派の者達は、その状況に我慢がならなかったのである。


貴族にとっては、名誉とはかなり重要な要素である。

ここら辺は、所謂『思想教育』の賜物かもしれないが、貴族達彼らは、所謂『エリート』なのである。

もちろん、生まれた『家』によって、その将来の進路は様々だが、将来的には『ロマリア王国この国』を担う存在となる事を半ば義務付けられているのである。

そうした一種の『選民意識』と『思想教育』の末に、貴族としての『自尊心プライド』を持つに至る。


内情を知らない者からしたら、貴族は逆行に弱く、挫折を知らない者達であると思われるかもしれないが、実はそんな事はない。

貴族彼らは、非常に貪欲なのである。

特に、階級が下であればあるほど尚更に。


どうにかより高みへ、一個でも上へと虎視眈々と狙っている訳である。

これが、名誉に対する執着となり、その果てに生じたのがフロレンツの様な存在なのである。


ただ、貴族彼らの欠点は、そこに“”、つまりは“”がない事であろう。

いや、実際は表面的な“”も“”も存在する。

ただ、それは国民や市民が求めているものとは解離しているだけなのである。


貴族彼らのそれは、自身や『家』の威光を増す事。

地位や名誉、権力に集中している。

しかし、国民や市民が求めているのは、自分達の生活を豊かにする事だ。

そこに温度差が生じ、場合によっては“革命”に至る事も多いが、とりあえずここではその話は一先ず置いておこう。


フィーエルの一派の者達は、言わば天国から地獄に落とされた訳である。

輝かしい未来から一転、腫れ物でも扱う様にスルーされる事が増えてしまったのだから。

フィーエル自身は、それでも生き残れただけでも御の字だと考えていたが(ここら辺は彼自身の性格に由来するところが大きい。彼は、慎重な性格故に、長いスパンで成功すれば良いと考えていたからだ。)、フィーエルの一派はそうはいかなかった。


その末で、フィーエルの一派が思い付いたのが、『リベラシオン同盟アキト達』をどうにか利用出来ないか?と言う事だった。

もちろん、フィーエル一派彼らとてバカではない。

『リベラシオン同盟』のに様々な貴族家がすでに食い込んでいる事は知っていた。

故に、では、フィーエル一派彼らが『リベラシオン同盟』に横やりを入れる事は出来ないだろう事を理解していた。

もし仮に、そんな事をしようものなら、今度こそ自分達は終わりである。

有力な貴族家を多数敵に回す事となる訳だから、危うい立場となったフィーエル一派彼らは、人知れず静かに潰される事となるからである。

貴族達は、己の敵となるものに容赦はしない。

その事を、同じ貴族であるフィーエル一派彼らは痛いほど理解していたのだった。


しかし、これが『ロマリア王家』が関与すれば話は別である。

先程も述べていたが、『リベラシオン同盟』の立場・“在り方”はまだまだ不透明なものだった。

これは、以前にも言及したが、アキトの考え方の影響を受けている事もあるのだが、『リベラシオン同盟彼ら』の活動内容がかなりグレーゾーンである事も影響している。

悪徳貴族達から、『奴隷』となった『他種族』を含めた人々を解放する過程で、合法・非合法問わずの実力行使も厭わなかったからである。

もっとも、これも以前に言及したが、それらも不問となる事が確定しているが。

非があるのは、明らかに悪徳貴族側であるから、諸々の事情を考慮した結果、どうするのが得か。

それは、考えるまでもない事だろう。

この様に、『リベラシオン同盟』の過去の行動は、ある種黙認されていた訳である。

この世の中、特に、政治に関わる事は綺麗事だけではやっていけないのである。


それは、元・オッサンであるアキトも計算の上での事であった。

ここら辺が、潔癖なまでの自分なりの『正義感』を持つ者達とは違う、ある意味老獪な『精神性メンタリティ』を持つアキトならではの特徴と言える。


だが、それもある程度の“自由”を得ているからこそ出来た事だ。

奴隷解放が一段落した後の『リベラシオン同盟』の活動内容と、今回の件は十分に評価に値する。

その末で、『ロマリア王家』が『リベラシオン同盟』を褒賞し、更には国の組織として重用する、と言われてしまえば、『リベラシオン同盟彼ら』に関わっている貴族家の者達も否とは言えない。

いや、むしろ計算高い者達ならば、そこに新たなる“旨味”を見出だす事も出来よう。

これは、間接的に『ロマリア王家』に近付く布石にもなるのだから。

それも含めての、フィーエル一派の一手であった。


では、フィーエル一派彼らには何の“旨味”もないではないかと言われれば、実はそんな事はない。

ここで、マイレンとの繋がりが活きてくるのだ。


ロマリア王国この国』では、特に、軍事関係の役職への選定条件ははかなり曖昧だったりする。

これは、当初からある名門貴族家は、元々『ロマリア王家』に与したであった事に由来する。

国を建国する課程で、争いが起こる事はある種必然だ。

ならば、そこには当然ながら武力が必要となる。

その担い手となったのが、古参の名門貴族家の者達であり、国が成立した後にその功績が認められ、『爵位』や『領地』を賜ったのである。

これが、『ロマリア王国』の名門貴族家の始まりであった。


故に、貴族家は私兵を持つのは当たり前であるし、大きな『領地』を持つ貴族家ほど、強大な軍団を持っていたりする。

表向きは、これは『ロマリア王家』の兵となるので、戦時中における軍の最高司令官の役職はマルク王が担う事となる。


しかしながら、当然マルク王が全てを把握・掌握する事など出来よう筈もないので、その代わりを務める『防衛大臣』や『国防長官』の様な存在は必要不可欠である。


ところが、この役割は、先程の述べた通りの過程から、ぶっちゃけ貴族ならば誰でも(能力の優劣の事はこの際無視するとしても)出来てしまうのだ。


とは言え、その中でも軍事関係に顔の効く家はかなり限定されてくる。

これは、その貴族家がどの様な分野に人材を輩出しているかによって変わってくるからだ。


先程述べた通り、名門貴族家は、設立当初は武力を持つ家としての存在感を色濃く残していたが、ある程度の平和が続き時代の変化と共に、輩出する人材も変化を見せ始める。

これも、一種の『損得勘定』だ。

軍事関係よりも、政治方面や経済方面の方が、より利があると分かれば、貴族家達は一斉にそちらに舵を切り始める。

故に、大半の名門貴族家は、軍事関係から一線を引く事となった。


とは言え、『防衛』や『抑止力』の観点からも、『軍隊』は必要不可欠だ。

その事からも、軍人を輩出する事を誉れとする貴族家も残っていた訳である。

マイレンの家も、正にそれに当たった。

この様に、軍事関係に関わりの深い家で、なおかつマルク王に近い有力貴族の中から、何となく『防衛大臣』や『国防長官』の様な存在が選定されているのであった。

で、マイレンは今正にその役割を担っている有力貴族だった訳である。


『リベラシオン同盟』が仮に『ロマリア王国』の組織の一部となれば、やはりその武力が注目される事になるだろう。

故に、『リベラシオン同盟』がどういう立場や役割を与えられるかは分からないが、まず間違いなくマイレンの影響力を反映させる事が出来る公算が高い。

場合によっては、言い出しっぺとして『リベラシオン同盟』がマイレンの預かりとなる事すら想定出来る。

そうなれば、マイレンとしては十分過ぎるほどのおこぼれにあずかれる可能性が高いのだ。

故に、マイレンとしては動かない理由がないのであった。


そして、その策を与えてくれたフィーエル一派に、マイレンは恩義(借り)を感じる事となる。

信賞必罰しんしょうひつばつは、国家や社会、組織にとって重要な措置であるが、人と人との繋がりにおいても重要な要素となってくるのである。



「何か気になる事でも?」

「うむ、いや、これは私の気にし過ぎかもしれないが、マルク王の態度が少し気になったものでな・・・。」

「ふむ・・・。もしかしたら、マルク王はこちらの思惑を看破しておるのかもしれませんな・・・。しかし、それでもそれを咎められない言う事は、我々の思惑を黙認されたのではないでしょうか?いずれにせよ、すでにさいは投げられたのです。最早我々には、進むしか道は残されておりません。」


慎重なフィーエルには珍しく、ある種強気な態度であったが、これは自分自身に言い聞かせている部分が大半を占めていた。


「うむ・・・。まぁ、特に、問題ないだろう。流れは我々に有利に働いている。事ここに至れば、後は『英雄』殿との謁見を待つばかりであろうな。」


などと語らいながら、二人は見慣れた宮殿を歩いて行くのだったーーー。


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