第94話 タルブ政変~三つ巴の攻防~ 2



・・・



さて、ではのエネアが『』した経緯であるが、これも『異邦人』・ウルカの『異能力』によるモノだった。



「酷いものね・・・。」

「そうデスね・・・。」


『ハイドラス派』の『協力者』・『支援者』からの『情報』をもとに、ウルカとトリアは、エネアが“消息不明”になった、くだんの焼失した『組織』の跡地を訪れていた。


当然ながら、この場所がいくら『ヒーバラエウス公国この国』の『裏社会』の『組織』だったとは言え、火災が起こった以上、『ヒーバラエウス公国この国』の『治安当局』の『調査』のメスが入る事となった訳である。

その結果、この場所から出た『焼死体』は3を越え、しかしその一方で、不自然な事に金目の物が一切無くなっていた事が判明したのである。

その事から、『ヒーバラエウス公国この国』の『治安当局』は、『組織』同士の抗争の末の放火と結論付け、この件は、ある種『迷宮入り』する事となったのである。

(もちろん、『物盗り』の線も考えられたが、わざわざ『裏社会』の『組織』に盗みに入るヤツもいないだろうと、早々にその可能性は排除された。)

なぜなら、これは何処の世界でも、あるいは国でも似た様な話がある訳だが、そうした『裏社会』の『組織』が、『政財界』の『大物』と繋がっている可能性があるだけに、『ヒーバラエウス公国この国』の『治安当局』も、迂闊には深入りは出来ない“事情”があったからだ。

事実、『治安当局』の『上層部』にはおおやけには知られる事はなかったが、が働いた様である。

そんな事も手伝って、この件は曖昧なまま『調査』が打ち切られる事となったのであった。


もちろん、『事実』は違う。

ニコラウスが、自身の死を偽装する為、またエネアの件を隠蔽する為に、『自作自演』で放火を指示し『組織』ごと闇に葬り去ったのである。

ヒーバラエウス公国この国』の『治安当局』に圧力をかけたのも、当然彼である。

また、その『副産物』として、『魔道人形ドール』・エイルの『力』もあり、エネアを介して『』いたハイドラスの干渉を妨害し、エネア自身も絶命した事で、『ハイドラス派』側としては、ニコラウスとエイルの消息が分からなくなったのであった。

トリアも、ここにはすでに手掛かりはないと結論付けていた。


しかし、ウルカはこの場所を訪れる事を強く希望した。

ウルカには、何か考えがあるのだろう。

トリアはそう思い、特に反対する事なく素直に付き従ったのであった。


「それで、ウルカ様。ここで何をなさるおつもデスか?」


山間の洞窟を拡張した様な、ある意味要塞染みた造りになっていたその『組織』の跡地を一通り見て回った後、トリアは疑問に思っていた事をウルカに尋ねた。

それにウルカは頷き、答えを返した。


「ここに眠る『同胞』を『』させようかと思います。いえ、これは私も出来るかどうかは、あまり自信がないのですが・・・。」

「・・・・・・はっ???」


トリアは、ウルカの発言に思わず耳を疑った。


当然ながら、この世界アクエラでは、『ゲーム』と違い一度死んでしまったら、生き返る事など通常ありえない。

いや、正確に言うならば、『至高神ハイドラス』を始めとした『高次の存在』である『神々』には可能かもしれないが、人の身であれば、それは不可能な事だとされてきた。


もちろん、『不老不死』に関わる事柄は、世界の違いはあろうとも、『人間種』が一度は夢想するモノであるから、この世界アクエラの過去の『魔道師』・『魔法使い』・『魔術師』達も、『不老不死』を『テーマ』にした『研究』をした歴史的事実は存在する。

しかし、それが成功した事例は、少なくとも現存する『文献』には記されていなかった。

それ故、必然的に『蘇生魔法』・『復活魔法』など不可能であると言うのが、この世界アクエラの者達の“常識”であったのである。


しかし、この目の前の『聖女』然とした女性は、それが出来るかもしれないと言うのだ。

普通ならばトリアも、そうした発言は一笑に付す所なのだが、すでにウルカには、トリアが長年追い求めてもなお解けなかった『』をアッサリ解いた前例がある。

故に、トリアは「もしかしたら・・・」との思いが沸き上がり、ウルカの動向をジッと見守るのだったーーー。



・・・



フルダイブ用『VRMMORPG』・『The Lost World~虚ろなる神々~』は『』であるから、当然『プレイヤー』達の『救済措置』として『蘇生魔法』・『復活魔法』が存在した。

もちろん、『ゲーム』の種類によっては、現実と同じ様に『蘇生魔法』・『復活魔法』が存在しないケースも存在するのだが、『王道RPG』の流れを汲む『TLW』にはしっかりと組み込まれていたのである。

とは言え、『ペナルティ』は存在した。

所謂『』と呼ばれるモノで、これは『ゲーム』をより『リアル』に楽しむ為の『仕掛け』であり、これによって、『プレイヤー』達は、により緊張感を持って楽しむ事が出来るのである。

』も、『ゲーム』によっては様々なのだが、『TLW』での『』は、『復活』時に『アバター』の『レベル』が『ダウン』してしまうモノであった。

“レベリング”が面倒なのは、今更言うまでもないのだが、『TLW』では、高レベルになればなるほど、『レベルアップ』には相当時間が掛かる。

当然ながら、せっかく上げた『レベル』を下げられるのは目も当てられないので、『プレイヤー』達はに上手く『戦略』を練って立ち回るのである。


とは言え、強力な『ボス』、例えば大人数で挑む様な『レイドボス』などは、当然ながら、『攻撃力』もそれに見合ったモノであるから、しっかりと『戦略』を練って挑んだとしても、一定数脱落してしまう者達も出てしまう。

しかし、『攻略』中に、『攻略』に参加していない別のメンバーを補充する事は出来ない『仕様』であった為、部隊の立て直しの為にも『回復役ヒーラー』は『蘇生魔法』・『復活魔法』などの習得が必須であった。

当然、ウルカも『蘇生魔法』・『復活魔法』を習得している。


しかし、この世界アクエラで、『蘇生魔法』・『復活魔法』が効果を発揮するかどうかはウルカに取っても未知数であった。

もちろん、どういう理屈かはともかく、『TLW』の『魔法』がこの世界アクエラでも使用可能なのは、ウルカを始めとした元・『LOL』メンバー達全員のすでに知る所ではあったのだが、人の『蘇生』・『復活』まで可能なのかは疑問の残る所だったからである。

それ故に、ウルカも確信を持てずに、なおかつ、それは人の『領域』を越える事だとは理解していた為に、今まで使用する事も無かったのである。

下手に“死者”を蘇らせたとしても、感謝されるどころか、得体の知れない『死霊』系の『術者』であると恐れられる可能性の方が高い訳であるし。


しかし、ウルカは、すでに『至高神ハイドラス』に傾倒・依存しつつあった。

それ故、今まではある種自重していた『蘇生魔法』・『復活魔法』を事に躊躇は無かった。

それに、もし『蘇生魔法』・『復活魔法』が可能であれば、エネアの持っていた『情報』を聞き出す事も可能になる。

そんな事もあり、ウルカは『蘇生魔法』・『復活魔法』を試みるのであったーーー。



「この場で眠っている『同胞』の名は何と言うのでしょう?」

「え、ええ、エネアさんデスね。『ライアド教ハイドラス派』より行方を眩ませたニコラウス裏切り者の捜索に当たっていた筈デス。ニコラウス裏切り者な『能力』を持っていましたので、しゅはそれをを恐れたのだと思いマス。」

「ふむ、なるほど・・・。」


もちろん、これは“方便”である。

ニコラウスの『能力』をのはハイドラス、または『ハイドラス派』とて同じである。

しかし、から離れて場合は、最悪『ライアド教』の評判が落ちてしまう可能性がある。

『信仰心』=『力』であるハイドラスからしたら、行方を眩ませたニコラウス裏切り者を連れ戻すにしてもにしても、捜索をかけるのは当然の事であった。


ウルカとて、その事は何となく察していた。

と、言うよりも、実際の向こう日本の『企業』においても、『組織』に所属していた者が、『組織』から『機密』なり『技術』を盗み出す事は、明確な『ルール違反』である。

その場合、その者にはそれ相応の『罰則』が課せられる事となるだろう。

彼女は、幸せな事に、これまでの人生の中で、での『社会』の“”を見る機会は無かったが、“事情”で彼女が本来持つ『倫理観』や『道徳心』は、急速に

それ故、もあるだろうと、至極当然の如く納得していた。


「では、『同胞』・エネアさんの『』を試みます。万が一の場合に備えて、トリアさんは少し下がっていて下さいね。」

「ハッ!!!」


素早くトリアが距離を取るのを確認すると、ウルカは『』を開始した。


「この地に眠る『同胞』よ。無念の内にその“生”を終えた『同胞』・エネアよ。我が名はウルカ。『至高神ハイドラス』の『代行者』にして、『秩序』を管理する者なり。我が声に答え、今ここに再び『』せよっ!【真なる蘇生トゥルーリザレクション】っ!」


ウルカの『魔法』が発動すると、幾何学模様かつ積層式の『魔法陣(魔法式)』がウルカの目の前にサークル状に展開された。

それは、トリアとしては見た事もない『現象』であり、サークルを中心に“光の粒”が渦を巻いて集まっている様に見えた。

これは、『TLW』時の『エフェクト』の一つである。

それに見覚えのあるウルカは、『蘇生魔法』・『復活魔法』がこの世界アクエラでも有効である事を確信した。


段々“光の粒”は、一つの“形”に集約していった。

それは“人の形”となり、な風すら巻き起こしていたウルカの『魔法』は、徐々に終息していった。

気が付けば、目の前には生まれたままの姿のダークブロンドの美女の姿があった。


「す、凄イっ・・・!!!」


トリアは、いつの間にか涙を流していた。

聖女ウルカ』の起こした『』に、トリアの心の奥底にあった根源的な“”を揺さぶったのかもしれない。


気を失っているダークブロンドの美女に近寄り、ウルカは再度声を掛ける。


「目を開けなさい、『同胞』・エネアよ。汝は再び『現世』へと立ち返ったのです。さあ、再び立ち上がりなさい。」


すると、トリアには分からなかったが、“”がダークブロンドの美女の中にのが、ウルカには認識出来た。

そのすぐ後、ダークブロンドの美女は、身動ぎをしながら起き上がった。


「ぅうん、ココハァ・・・?」

「目が覚めましたか、『同胞』・エネアよ。」


内心、『蘇生魔法』・『復活魔法』が成功した事に安堵しながらも、そんな事はおくびにも出さないで、ウルカはエネアと対峙していた。


「・・・貴女はダアレェ~?」

「私はウルカ。貴女と同じく、『至高神ハイドラス』様より『神託』を授かりし者です。言わば『同胞』と言った所でしょうか?」

「そうなのォ~?ジャアァ、貴女も『血の盟約ブラッドコンパクト』のメンバーなのかしらァ?私は、貴女の顔をシラナイんだけどォ?」

「まぁ、正確には違いますが、似た様なモノとの認識で合っていると思います。それより、身体の具合はどうですか?ああ、失礼。一先ず私のローブをお貸ししましょう。」

「ヘっ・・・?アラヤダァ、私ったら裸じゃないのォ?一体何があったのかしらァ?」

「ふむ、記憶が混濁しているのでしょうか・・・?」


ボケェーッと、寝起きの様なローなテンションでのんびりとした口調でウルカと会話を交わすエネア。

とりあえず、『蘇生』・『復活』には成功した様だが、その影響がエネアにどう出るかはまだ分からなかったので、ウルカはつぶさにエネアを観察していた。


「エネアさんっ!!!本当にエネアさんなのデスねっ!!!???」

「あらァ~、トリアちゃんじゃないのォ~?貴女も一緒ダッタのねェ~?ところでェ、私はどうしてこんな所で裸で寝ていたのかしらァ?」


血の盟約ブラッドコンパクト』のメンバー達は、『至高神ハイドラス同じもの』を信奉する者として、一応それなりに『仲間意識』はあったものの、馴れ合う事はあまり無かった。

しかし、同じ女性としてトリアとエネアにはそれなりに付き合いがあった。

それ故、これはトリアの『』が解けた事による、ある種の『精神的余裕』が生まれた影響も合ったのだろうが、思いの外エネアの死亡がトリアにショックを与えていた事に気付いたのだった。

“存在”を確める様に、トリアはエネアの手を握った。

温かい。

トリアは、これが『夢』でないのだと実感した。


「実ハ・・・。」


ポツリポツリと、トリアはエネアにこれまでの経緯を説明するのだった。



・・・



「そう・・・、そうだったわねェ。少しずつ思い出してきたわァ。そう、私はだったのよォ・・・。」


トリアから事の経緯を聞いている内に、が戻って来たのか、ブツブツとエネアはそう呟いた。


「そうデスっ!しかし、“死者”すら蘇らす『』を起こせるトハっ!!ウルカ様は、しゅが遣わして下さった、真の『御遣い』様でいらっしゃるのデスねっ!?」


興奮した様にウルカを羨望の眼差しで見つめるトリア。


「いえいえ、トリアさん。大袈裟ですよ。私は大した事はしていません。私は、ただの事ですから。」


これは、ウルカの『本音』でもあった。

前述の通り、ウルカ達、元・『LOL』のメンバー達は、自身の『力』がどういう理屈でこの世界アクエラでも使用可能なのかは理解していなかった。

故に、この『力』を誰かに『説明』する事も、誰かに『伝授』する事も不可能である。

ただ、使、ウルカの言葉を借りるなら、ただ、そういう効果の『魔法』をなのである。


しかし、トリア達にとっては、それこそがハイドラスの起こした『』に他ならない。

自分達が扱う『魔法技術』とは別の『』を扱うウルカを、トリア達がそう認識するのは無理からぬ事であった。


「ウルカァ。改めて御礼申し上げますわァ。これで、再び敬愛するしゅのお力になれるのですからァ。」

「いえ、これもエネアさんの『』が強かった故でしょう。」

「ウルカ様ァ・・・。」


何気ないウルカの言葉に、エネアは感動にうち震えていた。


エネアは、ハイドラスの強烈な『狂信者集団』である『血の盟約ブラッドコンパクト』のメンバーの中でも、特にハイドラスに対する依存心が強かった。

それ故、同じ『ハイドラス派』・『上層部』の中でも、エネアを危険視する声もあったのだった。


当然ながら、『ライアド教』が一枚岩でない様に、『ハイドラス派』の中でも、それぞれ『立場』や『見解』は異なる。

中には、ニコラウスの様に、打算で『ハイドラス派』に加担している者達も、一定数いる訳である。

血の盟約ブラッドコンパクト』の様な『実動部隊』だけでは『組織』は立ち行かないし、『至高神ハイドラス』を『信仰』する敬虔な『信者』達だけでもダメである。

向こう地球の『企業』と同じ様に、『企業』の為に働くのではなく、あくまで自分の生活の為、家族の為に、『ビジネスライク』的に『組織』を管理・運営する者達も、時に必要なのである。


しかし、そうした者達は、やはり敬虔な『信者』達とは一線を画している事も多い。

それ故、熱心な『信者』達や『狂信的』な『信者』とは距離を置いている、いや、より正確に言うのならば、何処か冷やかな目で見ている事も多いのであった。

エネアも、それは感じていた。

しかし、明確な『反逆行為』でなければ、ハイドラスのでもあるそうした者達を、勝手に断罪する訳にもいかなかったのである。

故に、エネアは何処か鬱屈とした『ストレス』を感じていたのである。


しかし、ウルカはそんなエネアの『』を肯定してくれたのである。

しかも、それは自分より、『上位者』、よりハイドラスに近しい存在であるウルカだった為に、その感動をひとしおであった事だろう。

それ故、エネアもトリアと同様に、『現世』に置ける『あるじ』として、ウルカに仕える事が自分の『使命』なのだと感じたのであった。


「この身はしゅとォ、ウルカ様の為にィ。ウルカ様の『しもべ』としてェ、我が身をお使い下さいィ。」


その先日のトリアを彷彿とさせる言葉にウルカは『既視感デジャヴ』を感じながらも、エネアの言葉を受け取るのだった。


「顔を上げてください、エネアさん。私など大した者ではないのですから・・・。しかし、トリアさんにも言いましたけど、使う使わないはともかくとして、私のお友達になって下さいね。それで、もしよければ、私に『力』を貸して下さい。」

「「ハッ!!」

「んもぅ・・・。」


とまぁ、そんな感じで、ウルカは心強い仲間を2人得るのであったーーー。



□■□



その後、を取り戻したエネアの『情報』を頼りに、ニコラウスと『魔道人形ドール』の捜索に乗り出し、それを見付ける事に成功していた訳である。


元々、エネアは単独でニコラウスを追っていた訳であるから、くだんの『組織』以外にも、ニコラウスが潜んでいそうな『拠点』をいくつか『ピックアップ』していた。

まぁ、その内の一つであるくだんの『組織』にて、倒れる事となった訳であるが。

しかし、前述の通り、ハイドラスは、『信者』の『目』を介して『情報』を収集しているとは言え、細かい所までは流石に全て把握しきれている訳でもない。

故に、エネアが掴んでいた『情報』を知るすべが無かったのであった。

まぁ、これはウルカの活躍によってクリアとなった訳であるが。


とは言え、今現在の『ヒーバラエウス公国この国』の情勢が不安定な事はウルカ達も『協力者』・『支援者』からの『情報』や、の活動を介して知っていたし、エネアの独自の調査により、ニコラウスが『ヒーバラエウス公国この国』の『重鎮』と、“”で事も判明していた。

それに、『S級冒険者』クラスの『実力』を誇るエネアを、容易く退けた『魔道人形ドール』の『力』はウルカ達にとっても脅威であった。

その為、ニコラウスらに正面から挑み、再び返り討ちに遭うと言う事態に陥らない為にも、また、ウルカらの行動が『ヒーバラエウス公国この国』と『ライアド教・ハイドラス派』の問題に発展しない為にも、慎重にニコラウスらの動向を窺っていたのであった。


そして、先程、ついに『魔道人形ドール』・エイルが単独での行動を開始したのであった。

これ幸いにと、ウルカ達はエイルを奪還して、こっそりと『ヒーバラエウス公国この国』を脱出するべく、行動を開始したのであったがーーー。



・・・



「ッ!!!・・・『データ』ニ、無イ、複数ノ、『マテリアル』、ヲ、感知・・・。・・・本機、ノ、『任務』、ノ、『妨害工作』、ト、仮定・・・。・・・『シミュレーション』開始・・・。・・・『追跡』、ヲ、振リ切ルor『迎撃』、ヲ、開始、スル・・・。・・・『追跡』、ヲ、振リ切ル、ハ、82%、ノ、確率、デ、成功・・・。『迎撃』、ヲ、開始、スル、ハ、75%、ノ、確率、デ、成功・・・。・・・結論、『追跡』、ヲ、振リ切リ、マス・・・。」


エイルは、『ヒーバラエウス公国』の首都・『タルブ』を移動中、ウルカ達の『追跡』を感知していた。

エイルの今現在の『任務』は、ニコラウスから託された『資料』をグスタークに届ける事だ。

それ故、この『追跡』が、何者かによる『妨害工作』であると仮定して、即座に高速で『シミュレーション』を実行し、エイルはより確率の高い『逃走』を選択したのだった。


それまでは、普通に夜の街中を歩いていたのだが、サッと路地裏に駆け込むと、まるで重力を無視したかの如く、建物を縦横無尽に駆け回っていた。

その様子は、さながら『忍者』の様であり、野性動物の様な俊敏な動きに加え、更に三次元的な動きも加わり、通常であれば『追跡者』を簡単に振り切る事が可能であっただろう。

そう、


「ッ!!!・・・追従シテクルッ・・・!?・・・『追跡者』、ノ、『データ』、ヲ、更新・・・。・・・高位レベル、ノ、者達、ト、仮定・・・。・・・『逃走』レベル、ヲ、引キ上ゲ、マス・・・。」


しかし、ウルカ達も並のレベルの『使い手』では無かった。

魔道人形ドール』であるエイルには、『人間種』の様な表情を浮かべる『機能』は備わっていなかったが、その『雰囲気』は、何処か焦った様な感じであった。

エイルは、『全力』で『逃走』を続行した。

しかし、次第に追い詰められていく。

高い『性能』を備えているとは言え、エイルはである。

一方のウルカ達は3人であり、しかも非常に『統率』の取れた動きをしていた。


「ッ!!!・・・。」

「「「・・・。」」」


『タルブ』の夜の街で、しばらく非常にハイレベルの『鬼ごっこ』が繰り広げられていた。

が、ウルカ達は途中で三方に別れ、エイルの『逃走経路』を潰していった。


「・・・『方針』、ヲ、『変更』、シマス・・・。・・・『追跡者』、ヲ、『排除』、シテ、カラ、『逃走』、ヲ、続行、シマス・・・。」


そこで、エイルは『方針』を転換する事にした。

幸い、『追跡者』は、今現在三方に別れている。

それ故、その中の一つを『強行突破』出来れば、『逃走』の可能性は飛躍的に跳ね上がる。

もしかしたら、『追跡』が困難と見て、『追跡者』は撤退するかもしれない。

そうでなくとも、『逃走』は今よりは楽になるだろう。


一度『方針』が決まれば、エイルの行動は早い。

一番近くに追い縋って来ていた『追跡者』目掛けて、強襲を敢行した。


「っ!!!???」

「・・・『ウォーターカッター』、射出・・・。・・・命中・・・。」


それはエネアであった。

エイルも、エネアの顔には見覚えがあったが、『魔道人形ドール』であるエイルには、『感情』と言うモノが希薄であった。

故に、のエネアがそこにいたとしても、狼狽える事もなく、以前の焼き増しの様に再び『古代語魔法ハイエイシェント』を躊躇なく叩き込むのだった。

しかし、エネアも以前とは違った。


いや、正確に言うのなら、のエネアは『』による『レベルダウン』で、絶賛『弱体化』中であった。

違ったのは、『』であるウルカの存在である。


「・・・まったくゥ~。、そのおっかない『魔法』(?)を躊躇なく放ってくるなんてェ~。」

「ッ!!!・・・『ノーダメージ』ッ・・・!?・・・『対物・対魔シールド』、ノ、可能性・・・。・・・否定・・・。・・・『魔素』、ノ、収束、ヲ、確認、出来マ、セン・・・。・・・モウ一度、『ウォーターカッター』、ヲ・・・。」

「遅いわよォ~。

エネアの名において命ずる。

森と大気の精霊よ。

いにしえの盟約に基づき、我が敵を拘束せよ。

出でよ、『バインド』!」


エネアに、さしものエイルも一瞬対応が遅れた。

その隙を突き、エネアは拘束の『魔法』である『バインド』を発動させる。

即座にエイルは、『顕現』した木の根やツタにて身体の自由を奪われた。

もちろん、この程度の拘束など、『魔道人形ドール』であるエイルにとっては大した障害ではない。

しかし、これを抜け出すには、それなりに時間が掛かる。

それを待ってくれるほど、『追跡者』は優しくはないだろう。


注意深く距離を置いて警戒するエネアに加え、すぐに二つの影が現れた。

ウルカとトリアである。

エイルは、そう考えた。


「どうやら、問題なく確保出来た様ですね。」

「ええ。けどォ、ウルカ様の『』に助けられましたわァ~。この『』ちゃんたら、またあのおっかない『魔法』(?)を躊躇なく放ってくるんですものォ~。」

「そうですか・・・。事前にエネアさんのお話を聞いて、念の為に【物理障壁プロテクト】や【対魔障壁マジックシールド】を重ね掛けしといて正解でしたね・・・。」


エネアの言葉を聞き、ウルカは安堵の表情を浮かべた。


「では、『』を連れて『ヒーバラエウス公国この国』を脱出しまショウ。」


そう言いながら、油断なくトリアはエイルに近付く。

と、エイルがわずかに“”に反応した。


「ッ!???」

「えっ!!!???」


シュッ!


「どうしましたっ!?」

「どうしたのォっ!?」


ウルカはともかく、エネアはこうした“状況”に慣れていた。

故に、ウルカと言葉を交わしながらも、周囲の警戒は怠っていなかったのだが、がするまで、そのに気付きもしなかったのである。

いや、それはトリアやエイルをしてもそうであっただろう。

声を上げながら、ウルカとエネアはトリア達を見やる。


「失礼・・・。あなた方にを捕らえられる訳にはいきませんのでね・・・。」


そこには、いつの間にか現れたのか、『』とマントに身を包んだ怪しげな人物が、エイルとトリアの間に立ちはだかっていたのだったーーー。


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