第94話 タルブ政変~三つ巴の攻防~ 2
・・・
さて、では
「酷いものね・・・。」
「そうデスね・・・。」
『ハイドラス派』の『協力者』・『支援者』からの『情報』をもとに、ウルカとトリアは、エネアが“消息不明”になった、
当然ながら、この場所がいくら『
その結果、この場所から出た『焼死体』は
その事から、『
(もちろん、『物盗り』の線も考えられたが、わざわざ『裏社会』の『組織』に盗みに入るヤツもいないだろうと、早々にその可能性は排除された。)
なぜなら、これは何処の世界でも、あるいは国でも似た様な話がある訳だが、そうした『裏社会』の『組織』が、『政財界』の『大物』と繋がっている可能性があるだけに、『
事実、『治安当局』の『上層部』には
そんな事も手伝って、この件は曖昧なまま『調査』が打ち切られる事となったのであった。
もちろん、『事実』は違う。
ニコラウスが、自身の死を偽装する為、またエネアの件を隠蔽する為に、『自作自演』で放火を指示し『組織』ごと闇に葬り去ったのである。
『
また、その『副産物』として、『
トリアも、ここにはすでに手掛かりはないと結論付けていた。
しかし、ウルカはこの場所を訪れる事を強く希望した。
ウルカには、何か考えがあるのだろう。
トリアはそう思い、特に反対する事なく素直に付き従ったのであった。
「それで、ウルカ様。ここで何をなさるおつもデスか?」
山間の洞窟を拡張した様な、ある意味要塞染みた造りになっていたその『組織』の跡地を一通り見て回った後、トリアは疑問に思っていた事をウルカに尋ねた。
それにウルカは頷き、答えを返した。
「ここに眠る『同胞』を『
「・・・・・・はっ???」
トリアは、ウルカの発言に思わず耳を疑った。
当然ながら、
いや、正確に言うならば、『至高神ハイドラス』を始めとした『高次の存在』である『神々』には可能かもしれないが、人の身であれば、それは不可能な事だとされてきた。
もちろん、『不老不死』に関わる事柄は、世界の違いはあろうとも、『人間種』が一度は夢想するモノであるから、
しかし、それが成功した事例は、少なくとも現存する『文献』には記されていなかった。
それ故、必然的に『蘇生魔法』・『復活魔法』など不可能であると言うのが、
しかし、この目の前の『聖女』然とした女性は、それが出来るかもしれないと言うのだ。
普通ならばトリアも、そうした発言は一笑に付す所なのだが、すでにウルカには、トリアが長年追い求めてもなお解けなかった『
故に、トリアは「もしかしたら・・・」との思いが沸き上がり、ウルカの動向をジッと見守るのだったーーー。
・・・
フルダイブ用『VRMMORPG』・『The Lost World~虚ろなる神々~』は『
もちろん、『ゲーム』の種類によっては、現実と同じ様に『蘇生魔法』・『復活魔法』が存在しないケースも存在するのだが、『王道RPG』の流れを汲む『TLW』にはしっかりと組み込まれていたのである。
とは言え、『ペナルティ』は存在した。
所謂『
『
“レベリング”が面倒なのは、今更言うまでもないのだが、『TLW』では、高レベルになればなるほど、『レベルアップ』には相当時間が掛かる。
当然ながら、せっかく上げた『レベル』を下げられるのは目も当てられないので、『プレイヤー』達は
とは言え、強力な『ボス』、例えば大人数で挑む様な『レイドボス』などは、当然ながら、『攻撃力』もそれに見合ったモノであるから、しっかりと『戦略』を練って挑んだとしても、一定数脱落してしまう者達も出てしまう。
しかし、『攻略』中に、『攻略』に参加していない別のメンバーを補充する事は出来ない『仕様』であった為、部隊の立て直しの為にも『
当然、ウルカも『蘇生魔法』・『復活魔法』を習得している。
しかし、
もちろん、どういう理屈かはともかく、『TLW』の『魔法』が
それ故に、ウルカも確信を持てずに、なおかつ、それは人の『領域』を越える事だとは理解していた為に、今まで使用する事も無かったのである。
下手に“死者”を蘇らせたとしても、感謝されるどころか、得体の知れない『死霊』系の『術者』であると恐れられる可能性の方が高い訳であるし。
しかし、
それ故、今まではある種自重していた『蘇生魔法』・『復活魔法』を
それに、もし『蘇生魔法』・『復活魔法』が可能であれば、エネアの持っていた『情報』を聞き出す事も可能になる。
そんな事もあり、ウルカは『蘇生魔法』・『復活魔法』を試みるのであったーーー。
「この場で眠っている『同胞』の名は何と言うのでしょう?」
「え、ええ、エネアさんデスね。『
「ふむ、なるほど・・・。」
もちろん、これは“方便”である。
ニコラウスの『能力』を
しかし、
『信仰心』=『力』であるハイドラスからしたら、行方を眩ませた
ウルカとて、その事は何となく察していた。
と、言うよりも、実際の
その場合、その者にはそれ相応の『罰則』が課せられる事となるだろう。
彼女は、幸せな事に、これまでの人生の中で、
それ故、
「では、『同胞』・エネアさんの『
「ハッ!!!」
素早くトリアが距離を取るのを確認すると、ウルカは『
「この地に眠る『同胞』よ。無念の内にその“生”を終えた『同胞』・エネアよ。我が名はウルカ。『至高神ハイドラス』の『代行者』にして、『秩序』を管理する者なり。我が声に答え、今ここに再び『
ウルカの『魔法』が発動すると、幾何学模様かつ積層式の『魔法陣(魔法式)』がウルカの目の前にサークル状に展開された。
それは、トリアとしては見た事もない『現象』であり、サークルを中心に“光の粒”が渦を巻いて集まっている様に見えた。
これは、『TLW』時の『エフェクト』の一つである。
それに見覚えのあるウルカは、『蘇生魔法』・『復活魔法』が
段々“光の粒”は、一つの“形”に集約していった。
それは“人の形”となり、
気が付けば、目の前には生まれたままの姿のダークブロンドの美女の姿があった。
「す、凄イっ・・・!!!」
トリアは、いつの間にか涙を流していた。
『
気を失っているダークブロンドの美女に近寄り、ウルカは再度声を掛ける。
「目を開けなさい、『同胞』・エネアよ。汝は再び『現世』へと立ち返ったのです。さあ、再び立ち上がりなさい。」
すると、トリアには分からなかったが、“
そのすぐ後、ダークブロンドの美女は、身動ぎをしながら起き上がった。
「ぅうん、ココハァ・・・?」
「目が覚めましたか、『同胞』・エネアよ。」
内心、『蘇生魔法』・『復活魔法』が成功した事に安堵しながらも、そんな事はおくびにも出さないで、ウルカはエネアと対峙していた。
「・・・貴女はダアレェ~?」
「私はウルカ。貴女と同じく、『至高神ハイドラス』様より『神託』を授かりし者です。言わば『同胞』と言った所でしょうか?」
「そうなのォ~?ジャアァ、貴女も『
「まぁ、正確には違いますが、似た様なモノとの認識で合っていると思います。それより、身体の具合はどうですか?ああ、失礼。一先ず私のローブをお貸ししましょう。」
「ヘっ・・・?アラヤダァ、私ったら裸じゃないのォ?一体何があったのかしらァ?」
「ふむ、記憶が混濁しているのでしょうか・・・?」
ボケェーッと、寝起きの様なローなテンションでのんびりとした口調でウルカと会話を交わすエネア。
とりあえず、『蘇生』・『復活』には成功した様だが、その影響がエネアにどう出るかはまだ分からなかったので、ウルカはつぶさにエネアを観察していた。
「エネアさんっ!!!本当にエネアさんなのデスねっ!!!???」
「あらァ~、トリアちゃんじゃないのォ~?貴女も一緒ダッタのねェ~?ところでェ、私はどうしてこんな所で裸で寝ていたのかしらァ?」
『
しかし、同じ女性としてトリアとエネアにはそれなりに付き合いがあった。
それ故、これはトリアの『
“存在”を確める様に、トリアはエネアの手を握った。
温かい。
トリアは、これが『夢』でないのだと実感した。
「実ハ・・・。」
ポツリポツリと、トリアはエネアにこれまでの経緯を説明するのだった。
・・・
「そう・・・、そうだったわねェ。少しずつ思い出してきたわァ。そう、私は
トリアから事の経緯を聞いている内に、
「そうデスっ!しかし、“死者”すら蘇らす『
興奮した様にウルカを羨望の眼差しで見つめるトリア。
「いえいえ、トリアさん。大袈裟ですよ。私は大した事はしていません。私は、ただ
これは、ウルカの『本音』でもあった。
前述の通り、ウルカ達、元・『LOL』のメンバー達は、自身の『力』がどういう理屈で
故に、この『力』を誰かに『説明』する事も、誰かに『伝授』する事も不可能である。
ただ、
しかし、トリア達にとっては、それこそが
自分達が扱う『魔法技術』とは別の『
「ウルカ
「いえ、これもエネアさんの『
「ウルカ様ァ・・・。」
何気ないウルカの言葉に、エネアは感動にうち震えていた。
エネアは、ハイドラスの強烈な『狂信者集団』である『
それ故、同じ『ハイドラス派』・『上層部』の中でも、エネアを危険視する声もあったのだった。
当然ながら、『ライアド教』が一枚岩でない様に、『ハイドラス派』の中でも、それぞれ『立場』や『見解』は異なる。
中には、ニコラウスの様に、打算で『ハイドラス派』に加担している者達も、一定数いる訳である。
『
しかし、そうした者達は、やはり敬虔な『信者』達とは一線を画している事も多い。
それ故、熱心な『信者』達や『狂信的』な『信者』とは距離を置いている、いや、より正確に言うのならば、何処か冷やかな目で見ている事も多いのであった。
エネアも、それは感じていた。
しかし、明確な『反逆行為』でなければ、ハイドラスの
故に、エネアは何処か鬱屈とした『ストレス』を感じていたのである。
しかし、ウルカはそんなエネアの『
しかも、それは自分より、『上位者』、よりハイドラスに近しい存在であるウルカだった為に、その感動をひとしおであった事だろう。
それ故、エネアもトリアと同様に、『現世』に置ける『
「この身は
その先日のトリアを彷彿とさせる言葉にウルカは『
「顔を上げてください、エネアさん。私など大した者ではないのですから・・・。しかし、トリアさんにも言いましたけど、使う使わないはともかくとして、私のお友達になって下さいね。それで、もしよければ、私に『力』を貸して下さい。」
「「ハッ!!」
「んもぅ・・・。」
とまぁ、そんな感じで、ウルカは心強い仲間を2人得るのであったーーー。
□■□
その後、
元々、エネアは単独でニコラウスを追っていた訳であるから、
まぁ、その内の一つである
しかし、前述の通り、ハイドラスは、『信者』の『目』を介して『情報』を収集しているとは言え、細かい所までは流石に全て把握しきれている訳でもない。
故に、エネアが掴んでいた『情報』を知る
まぁ、これはウルカの活躍によってクリアとなった訳であるが。
とは言え、今現在の『
それに、『S級冒険者』クラスの『実力』を誇るエネアを、容易く退けた『
その為、ニコラウスらに正面から挑み、再び返り討ちに遭うと言う事態に陥らない為にも、また、ウルカらの行動が『
そして、先程、ついに『
これ幸いにと、ウルカ達はエイルを奪還して、こっそりと『
・・・
「ッ!!!・・・『データ』ニ、無イ、複数ノ、『マテリアル』、ヲ、感知・・・。・・・本機、ノ、『任務』、ノ、『妨害工作』、ト、仮定・・・。・・・『シミュレーション』開始・・・。・・・『追跡』、ヲ、振リ切ルor『迎撃』、ヲ、開始、スル・・・。・・・『追跡』、ヲ、振リ切ル、ハ、82%、ノ、確率、デ、成功・・・。『迎撃』、ヲ、開始、スル、ハ、75%、ノ、確率、デ、成功・・・。・・・結論、『追跡』、ヲ、振リ切リ、マス・・・。」
エイルは、『ヒーバラエウス公国』の首都・『タルブ』を移動中、ウルカ達の『追跡』を感知していた。
エイルの今現在の『任務』は、ニコラウスから託された『資料』をグスタークに届ける事だ。
それ故、この『追跡』が、何者かによる『妨害工作』であると仮定して、即座に高速で『シミュレーション』を実行し、エイルはより確率の高い『逃走』を選択したのだった。
それまでは、普通に夜の街中を歩いていたのだが、サッと路地裏に駆け込むと、まるで重力を無視したかの如く、建物を縦横無尽に駆け回っていた。
その様子は、さながら『忍者』の様であり、野性動物の様な俊敏な動きに加え、更に三次元的な動きも加わり、通常であれば『追跡者』を簡単に振り切る事が可能であっただろう。
そう、
「ッ!!!・・・追従シテクルッ・・・!?・・・『追跡者』、ノ、『データ』、ヲ、更新・・・。・・・高位レベル、ノ、者達、ト、仮定・・・。・・・『逃走』レベル、ヲ、引キ上ゲ、マス・・・。」
しかし、ウルカ達も並のレベルの『使い手』では無かった。
『
エイルは、
しかし、次第に追い詰められていく。
高い『性能』を備えているとは言え、エイルは
一方のウルカ達は3人であり、しかも非常に『統率』の取れた動きをしていた。
「ッ!!!・・・。」
「「「・・・。」」」
『タルブ』の夜の街で、しばらく非常にハイレベルの『鬼ごっこ』が繰り広げられていた。
が、ウルカ達は途中で三方に別れ、エイルの『逃走経路』を潰していった。
「・・・『方針』、ヲ、『変更』、シマス・・・。・・・『追跡者』、ヲ、『排除』、シテ、カラ、『逃走』、ヲ、続行、シマス・・・。」
そこで、エイルは『方針』を転換する事にした。
幸い、『追跡者』は、今現在三方に別れている。
それ故、その中の一つを『強行突破』出来れば、『逃走』の可能性は飛躍的に跳ね上がる。
もしかしたら、『追跡』が困難と見て、『追跡者』は撤退するかもしれない。
そうでなくとも、『逃走』は今よりは楽になるだろう。
一度『方針』が決まれば、エイルの行動は早い。
一番近くに追い縋って来ていた『追跡者』目掛けて、強襲を敢行した。
「っ!!!???」
「・・・『ウォーターカッター』、射出・・・。・・・命中・・・。」
それはエネアであった。
エイルも、エネアの顔には見覚えがあったが、『
故に、
しかし、エネアも以前とは違った。
いや、正確に言うのなら、
違ったのは、『
「・・・まったくゥ~。
「ッ!!!・・・『ノーダメージ』ッ・・・!?・・・『対物・対魔シールド』、ノ、可能性・・・。・・・否定・・・。・・・『魔素』、ノ、収束、ヲ、確認、出来マ、セン・・・。・・・モウ一度、『ウォーターカッター』、ヲ・・・。」
「遅いわよォ~。
エネアの名において命ずる。
森と大気の精霊よ。
出でよ、『バインド』!」
その隙を突き、エネアは拘束の『魔法』である『バインド』を発動させる。
即座にエイルは、『顕現』した木の根やツタにて身体の自由を奪われた。
もちろん、この程度の拘束など、『
しかし、これを抜け出すには、それなりに時間が掛かる。
それを待ってくれるほど、『追跡者』は優しくはないだろう。
注意深く距離を置いて警戒するエネアに加え、すぐに二つの影が現れた。
ウルカとトリアである。
エイルは、そう考えた。
「どうやら、問題なく確保出来た様ですね。」
「ええ。けどォ、ウルカ様の『
「そうですか・・・。事前にエネアさんのお話を聞いて、念の為に【
エネアの言葉を聞き、ウルカは安堵の表情を浮かべた。
「では、『
そう言いながら、油断なくトリアはエイルに近付く。
と、エイルがわずかに“
「ッ!???」
「えっ!!!???」
シュッ!
「どうしましたっ!?」
「どうしたのォっ!?」
ウルカはともかく、エネアはこうした“状況”に慣れていた。
故に、ウルカと言葉を交わしながらも、周囲の警戒は怠っていなかったのだが、
いや、それはトリアやエイルをしてもそうであっただろう。
声を上げながら、ウルカとエネアはトリア達を見やる。
「失礼・・・。あなた方に
そこには、いつの間にか現れたのか、『
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