第88話 懲りない『悪意』の『伝道師』



◇◆◇



ここ最近の『ヒーバラエウス公国この国』の君主、アンブリオ・ヒーバラエウスは眠れない日々を過ごしていた。

と、言うのも、彼の末娘にして、最愛の“第三公女”、ディアーナ・ヒーバラエウスの行方がようとして知れないからである。


もちろん、『最重要人物』の一人であるディアーナの『情報』は、公式のモノ以外は『トップシークレット』扱いである為、一般市民や『情報力』の低い『貴族』なんかが、彼女の足取りを掴めないのは不思議な話ではないのだが、“身内”であり、『ヒーバラエウス公国この国』の君主トップであるアンブリオにまで消息が分からないとなると、事態はかなり深刻である。


当然ながら、アンブリオも『ヒーバラエウス公国この国』が現在抱えている問題をしっかり把握していた。

『食糧問題』、は以前からの『ヒーバラエウス公国この国』の潜在的な課題として存在したが、それを背景として『ロマリア王国』との開戦を望む声が、昨今では膨れ上がっていたのである。

所謂『主戦派』の台頭であった。


ここら辺は、どの『国』も抱える『政治的』な話に関わってくるのだが、皇帝、国王、君主、あるいは向こうの世界地球での大統領や首相などと言った、所謂『トップ』の『力』が強い内は、そうした問題が表面化する事はあまりないのだが、元々水面下では不満意識が大なり小なり存在するモノなのである。

これは、『組織』である以上当たり前の話で、全員が全員現状に満足している『社会』などありえないからである。


『国』を運営する上で数々の問題に直面する訳であるが、そうした事を通して、皆『トップ』の『政治的手腕』などを注視している。

ヒーバラエウス公国この国』では、特に『食糧問題』に関する事が『最重要課題』なのであるが、依然としてその『問題』に解決の道筋が立っていなかった。


そうなれば、当然アンブリオの『政治的手腕』に疑問を持つ者達が現れ始めるのはある意味必然であり、それに成り代わる『受け皿』として、『ロマリア王国』の豊かな資源や農作地を“”する事を掲げた『主戦派』の台頭を許す結果となってしまったのである。


もちろん、『主戦派』の『主張』は完全に破綻している『理論』である。

小さな話に置き換えると分かり易いが、要は自分の新しい『村』が欲しいと『A村』から、『未開拓』の土地に出ていって『B村』を興した者達が、後々になって依然として『開拓』が進まず、食べ物に困った挙げ句に、その『A村』は元々俺達のモノだから、その土地を寄越せ、と言っている様なモノなのである。

おおよそバカげた話である。


ところが、時にそうしたバカげた話がまかり通るのが世の常だ。

自分達の『利益』となる事の為なら、他者の『不利益』など簡単に

そこに、『主戦派』の(一見)勇ましくも魅力的な『主張』、『大義名分』が加われば、人々は簡単にモノなのである。


ところが、その局面で頭角を現したのがディアーナであった。

以前にも言及したが、彼女はその『美貌』により元々『ヒーバラエウス公国この国』の民衆からの人気が高かったのだが、それに加えて、その『知性』も非常に優れていた。

『主戦派』の『主張』に真っ向から対決し、そのことごとくを論破していったのである。

元々、『主戦派』の『主張』は破綻している『理論』であるから、当然と言えば当然なのだが。


更に、彼女の打ち出した『政策』は、非常に理にかなったモノであり、もちろん、長い期間を必要とするかもしれないが、長期的に見れば、むしろ『主戦派』の掲げる『主張』より、多くの『利益』を『ヒーバラエウス公国この国』に与えてくれるモノであった。

こうして、大半の者達からは、ただの“”としての認識しかなかったディアーナは、いつしか『反戦派』の『旗印はたじるし』として祭り上げられる事となったのである。


しかし、アンブリオはその事を非常に憂慮していた。

ディアーナは、聡明である一方で、少々“世間知らず”な面があり、『政治的』な事や人々の『悪意』に少々疎い傾向にあった。

もちろん、ディアーナもそれらを『知識』としては知っていて、色々と『対策』も打っていたし、『求心力』が落ちたとは言え、一国の長たるアンブリオも、陰ながらディアーナのサポートをさせていた。

しかし、日に日に『影響力』を増すディアーナを危険視する者達を排除するまでには至らなかったのである。


その末での、ディアーナの行方不明。

アンブリオは、その知らせを聞いた時は、思わず卒倒しかけた。

悪い予感が当たってしまった。

ディアーナを快く思わない連中が、彼女に何か仕掛けたのだとアンブリオはすぐに察した。

アンブリオは、深い自責の念を抱いた。

君主として、自分にもっと『力』があれば・・・。

そう、思わずにはいられなかったのである。


ただ、その後は一向に“進展”がなかった。

普通に考えれば、ディアーナは『暗殺』されている筈である。

もちろん、『誘拐』と言う線も捨てきれないが、彼女の『政治的価値』を鑑みれば、むしろ生かしておく方が危険である。

だが、一向にディアーナの“遺体”が出てこなかったのである。


これによって、アンブリオは眠れない日々を過ごすハメになった。

上手い事逃げおおせて、何処かで身を隠しているのではないか?

はたまた、ディアーナはすでにこの世には存在せず、『魔獣』や『モンスター』に“遺体”を食らわせて、証拠隠滅を図ったのではないか?

希望的な考えと悲観的な考えを交互に繰り返しながら、悶々と過ごす事となったのであるーーー。






結論から言えば、これはアキトが仕掛けた一種の『情報戦』であった。

もちろん、ディアーナとしては、極親しい人々に自身の生存を知らせたいと言う思いもあったのだが、「敵を欺くにはまず味方から」と言う諺がある様に、それはアキトに止められたのである。


と、言うのも、ディアーナは今現在『ヒーバラエウス公国この国』では非常に微妙な『立場』に立たされた状況であったからである。

『暗殺未遂』を受けた以上、彼女が『主戦派』から目の敵にされているのは明白である。

しかし、だからと言って、全面的に『反戦派』に庇護を求めるのもやや早計である。

モルゴナガルの例にもある様に、『反戦派』の者達の中にも、何処で『主戦派』と繋がっている者達がいないとも限らないからである。

誰が『敵』で、誰が『味方』かを見極める必要がある。

そうアキトは説いて、ディアーナとモルゴナガルの“身柄”を密かに『グーディメル家』に移してから、二人の『情報』を封殺したのである。

もちろん、『グーディメル家』が何処かと繋がっている可能性もあったが、アキトの『英雄の因子』の『能力』、精神感応テレパス(※『悪感情』限定)によって、それがない事が分かっていた。

後は、二人の『情報』を求めた『敵』が、焦れて動き出すのを待つだけであった。

(ちなみに、モルゴナガルに加担していた者達は放置してきている。

残念ながら、今現在の『ヒーバラエウス公国この国』の『治安当局』が信頼に足るか疑問が残るし、アキト達にも彼らを連行する余力はなかった。

残酷な話だが、生き残れるかどうかは彼らの運次第である。

まぁ、『犯罪』に加担したのだから、この世界アクエラでは殺されても文句は言えない『立場』であるが。

アキトにちょっとした『』があったとは言え、生き残れるチャンスがあっただけでも、彼らはまだ運が良い方かもしれない。)


そして、それにものの見事に引っ掛かった者達がいた。

誰あろう、第二公太子グスタークと、彼を中心とした『主戦派』の中でも急進的な一派、そして、その“”で暗躍していたニコラウスであった。


ニコラウスは、以前アキト(とヴァニタス)に手酷くやられたにも関わらず、エイルを手に入れた事で再び増長していた。

と、言うのも、エイルはどうやら『』に対抗出来る『能力』を有している様だからである(まぁ、これはニコラウスの勘違いなのだが。)

となれば、もしかしたら、アキトの『未知』の『能力』にも対抗出来るかもしれないと考えたのだ。


ニコラウスはすでに『血の盟約ブラッドコンパクト』のエネアの介入の末に『組織』の一つを失っていたものの、『ヒーバラエウス公国この国』に影響を与える『資金力』や『ヒーバラエウス公国この国』にて張り巡らせた『影響力』は今だ健在であった。

元々の『スタンス』としても、『黒幕』を気取っているニコラウスが表に立つ事はないが、遠回しに、再びアキトにちょっかいを(もちろん、アキトを直接の『ターゲット』としないまでも)掛けようとしていたのだった。

これは、彼の逆恨みによる私怨も多分に含んでいた。


そして、もう一人、第二公太子グスタークである。

彼は、歪められた『洗脳教育』や『思想教育』の末に、『主戦派』の急進的な一派の中心人物として祭り上げられる事となっていた。

奇しくも、妹であるディアーナとは『政敵』として対立する事となったのである。

しかも、グスタークは、“家族”ならではの『嫉妬心』を『他者』に『利用』され、ディアーナに対してにも似た感情を持っていたのである。

もちろん、だからと言ってグスタークが直接的に『公女暗殺』を指示した訳ではないものの、それを容認する程度には、彼の『倫理観』や『道徳心』は



◇◆◇



「まだディアーナとモルゴナガルの行方が分からんのかっ!?」

「は、ハッ!目下捜索中なのですが、『』達の証言も、どうも要領を得ませんでっ・・・。」

「それはすでに報告を受けているっ!何処かの『冒険者』達が介入して、モルゴナガルの配下達や協力者達を排除し、『公女暗殺計画例の件』は失敗に終わったのだろうっ!?そうではなく、その『冒険者』達とディアーナとモルゴナガルが何処に行ったのかと俺は聞いているんだっ!!!」

「そ、それはっ・・・!!!も、目下捜索中でっ・・・。」

「すでに『公女暗殺計画例の件』から一月以上も経っているのにかっ!?お前らの『情報収集力ちから』も大した事はない様だなっ!?」

「っ・・・!!!」


『ヒーバラエウス公国』の首都・『タルブ』にある『オルレアン侯爵家』にて、第二公太子グスタークは『諜報員』達を烈火の如く叱責していた。

と、言うのも、ディアーナとモルゴナガルの行方が依然として掴めていなかったからである。


『公女暗殺計画』。

これが失敗したのは、運良く生き残っていたモルゴナガルの配下達や協力者達を回収し、その証言からほぼ間違いない事実なのであると分かっていたが、その肝心のディアーナとモルゴナガルの姿が、その証言の後から忽然と消えてしまったのである。

もちろん、ディアーナが『暗殺未遂』を受けて雲隠れするのはある種道理だが、モルゴナガルまでもが行方不明と言うのはどういう事だろうか?


更に、その時共にいた『古代魔道文明研究者』であるリリアンヌの線から、『グーディメル子爵家』に匿われているのではないか?と当たりを付けたのだが、一向に『情報』が出てこない。

(これは、アキトが施した『精霊石せいれいせき』を用いた『結界術』と、アキトお得意の『幻術系魔法』を併用して、『グーディメル子爵家』に侵入してきた『諜報員』達に、『虚偽』の『情報』を掴ませていたからである。)


グスターク達からしたら、一流の『諜報員』達がこれだけ調べて『情報』が出てこない事が逆に怪しいのだが、さりとて確かな『情報』も無しに『貴族家』の一つに『武力行使』する訳にもいかない。

しかも、つい先日上がってきた『情報』なのだが、『主戦派』の一部『貴族』の所から、“”に関わる『極秘資料』が忽然と消えているそうなのである。

もしやと思い、他の『主戦派』の『貴族』達にも調べさせているのだが、続々と『極秘資料』の謎の紛失の報告が上がってきていた。


もはや、これは異常事態である。

自分達の欲しい『情報』は全く得られず、自分達の知られたくない『情報』はによって奪取されている。

それらをおおやけにされる前に、手を打たないと、『主戦派』は瓦解してしまう。

グスタークは非常に焦っていた。


しかし、幸いな事に、ディアーナの行方不明は『反戦派』にとっても動揺を誘い、足並みを乱す事態となっていた。

その事から、『反戦派』にとってもディアーナの存在が如何いかに大きいモノかは明白である。

それ故、いちはやくディアーナの所在を確認し、今度こそ彼女を無き者に出来れば、『主戦派』の『政策』を強行する事も可能であろう。

と、言うか、それしか『主戦派彼ら』の生きる道はなかったのである。


「殿下、少し落ち着いて下さいっ!」

「しかし、シュタイン侯っ!!!」


グスタークを止めに入った50代前半の初老の男性。

彼の名はシュタイン・ド・オルレアン侯爵。

グスタークの『スポンサー後ろ楯』にして、『主戦派』の第一人者でもあった。


「・・・殿下の焦りも分かりますが、しかし、冷静さを失ってはいけませんよ?」

「こ、これは、ニコラウス殿・・・。どうしてここに?」


そして、もう一人。

グスターク、と言うか、『主戦派』全体の“”の『スポンサー』であるニコラウスであった。

ニコラウスは、『車いす』の様な用具に乗って現れた。

もちろん、それを介助しているのはエイルであったが、彼女は『魔道人形ドール』である為、もちろん、ぱっと見は『人間』の少女そっくりとは言え、所々で『人間』とは異なる外見的特徴を備えているので、全身をゆったりとした服装とマントで覆って、顔が見えない様になっていた。

もっとも、ニコラウスの従者に過ぎない(と認識されている)彼女に注目する者もこの場にはいなかったのだが。


「いえね、私としましても、このまま『反戦派』に風向きが変わるのは面白くない事態ですからねぇ。それに、お伝えしたい『情報』もありましたし、それで、わざわざ出向かせて頂いたんですよ。」

「『情報』・・・?」


グスタークとシュタインは顔を見合わせる。


「『グーディメル子爵家』が、こそこそと『反戦派』の『貴族』達を夜会パーティーに招待している事はもちろん御存知ですよね?」


そのニコラウスの言葉に、肩透かしを食らったかの様にグスタークは応えた。


「もちろん、知っています。大方、ただの『決起集会』か何かでしょう?」


興味なさそうに斬って捨てたグスタークに、呆れた様にニコラウスは諭した。


「いやいや、不思議に思いませんか?このタイミングでそれをする意味。掴めぬ公女の所在に次々に明らかになる紛失した『極秘資料』。そのタイミングに開催される『反戦派』の夜会パーティー・・・。これは、一体何を意味すると思いますか?」


その言葉に、グスタークも、そしてシュタインもハッとした。


「そ、そんな、まさか・・・。」

「そ、そうですよ。いくら『グーディメル子爵家』と言えど、足も残さずに『極秘資料』の奪取など・・・。」

「それが可能なのですよ。お二方は『リベラシオン同盟』を御存知ですかな?」

「なっ・・・!!!???」

「ま、まさかっ・・・!?では、公女を助けた『冒険者』達と言うのはっ・・・!!??」

「そうです。彼の有名な『ルダ村の英雄』、アキト・ストレリチアと、その仲間達です。」


衝撃の事実を知り、グスタークとシュタインは顔面蒼白となった。

当然彼らも、アキトと『リベラシオン同盟』の“英雄譚噂話”は聞き及んでいた。

と、言うより、後ろ暗い事のある『権力者』としては、『リベラシオン同盟』は恐怖の象徴なのである。

『隣国』の話とは言え、『ロマリア王国』の『悪徳貴族』達が、次々と粛清されているのは、彼らからしたら他人事ひとごとには思えなかったからだ。

その『リベラシオン同盟』のが、いよいよ『ヒーバラエウス公国この国』にまで及んだ、と言うのだ。


「か、仮にそれが本当だとしても、『内政干渉』ではないのかっ!?『ロマリア王国』に対して、即刻抗議をっ・・・!!」

「何を証拠に?『』が『他国』で活動する事は、何も不自然な事ではありませんし、仮に『公女暗殺計画』を阻止したのが『リベラシオン同盟彼ら』だとしても、おおやけには、誉められこそすれ、罰せられる事では無いでしょう?『極秘資料』奪取にしても『リベラシオン同盟彼ら』の仕業でしょうが、先程も言った通り証拠がない。『極秘資料それ』自体がある意味証拠となるかもしれませんが、それを出されて困るのは、『主戦派』の方であって、『リベラシオン同盟彼ら』ではありませんよね?」

「うっ・・・!」

「くっ・・・!確かにっ・・・!!」


グスタークとシュタインはそう認識した。

仮に、その『決起集会』がカモフラージュで、真の目的がディアーナ生存の報告と『極秘資料』を公開する事だとしたら、『反戦派』の勢いはもはや止められないモノになる。

その前に『公女暗殺』と『極秘資料』の再奪取が出来れば話は別だが、それは限りなく不可能に近いミッションである。

それもその筈、『リベラシオン同盟』がどうこう以前に、『グーディメル子爵家』にはすでに『諜報員』を何度も差し向けているのに、一向に『情報』すら持ち帰れなかったのだ。

彼らの『持ち駒』では、『公女暗殺』と『極秘資料』の再奪取など、夢のまた夢であった。

しかし、ニコラウスはニヤリと笑みを浮かべた。


「しかし御安心下さい。まだ打つ手は残っていますから。」

「えっ・・・!?」

「い、今、なんとっ・・・!?」


グスタークとシュタインはニコラウスのその言葉に、一瞬理解が及ばなかった。

しかし、考えてみれば不思議な話で、ニコラウスは、どうやってグスターク達が得られなかったそれらの『情報』を得たのであろうか?

その事実に気付いた時、グスターク達の表情に一縷の望みが浮かび上がった。


「生憎、『情報源』は明かせませんが、『リベラシオン同盟彼ら』の動向は掴めている、と考えて頂いて構いません。しかし、私はかつて『リベラシオン同盟彼ら』と、もちろん、直接ではありませんが、戦り合っておりまして・・・。その経験から、『リベラシオン同盟彼ら』と矛を交えるのは圧倒的不利であると考えております。」

「なんとっ・・・!」

「ニコラウス殿に、その様な過去が・・・。」


ニコラウスは、肩を竦めて自身の損傷した身体を暗に示してみせた。

それに、グスタークとシュタインは、薄ら寒いモノを感じる。

ニコラウスのその身体の状態も、『リベラシオン同盟彼ら』が関与した為ではないかと考えたからである。


「しかし、忘れてはならないのが、『リベラシオン同盟彼ら』も、、と言う事です。『リベラシオン同盟彼ら』の『力』を持ってすれば、回りくどい方法など取らなくても、『主戦派』の『貴族』達を潰して回る事は容易でしょう。それこそ、『ロマリア王国』の『悪徳貴族』粛清の“噂話”の様にね。しかし、それをすれば、民衆からも『反戦派』からも少なからず反感を買うでしょうし、これは先程の殿下の発言の通り、完全なる『内政干渉』に当たります。それ故、ある意味正規の方法である、公女と『反戦派』による『国内掌握』と言う方策を打ち出したのです。これならば、『ヒーバラエウス公国この国』の人間が行う事ですから、もちろん、『リベラシオン同盟彼ら』の『思惑』を反映する形にはなるかもしれませんが、おおやけには『内政干渉』には当たりませんからね。」

「なるほど・・・。」

「・・・確かに。」


ニコラウスの言葉に、グスタークとシュタインは考え込み、そして言葉を返した。


「しかし、それは何も良い事ではないだろう?ディアーナと『リベラシオン同盟』、そしておそらく『グーディメル子爵家』が結託した。そこに『反戦派』が加わる形になる。勢力としては、まだまだ『主戦派俺達』の方が強いが、そこに『極秘資料』を持ち出されたら終わりだろう。」

「そう、ですね。残念ながら、『極秘資料』による糾弾を受けたら、『主戦派』は瓦解します。もはや、『リベラシオン同盟彼ら』が事は、些細な問題でしかないのではありませんか?」

「ところがそうでもありません。一つだけ、それらを有無を言わさず打開するすべがあるのです。」

「なにっ!?そ、それは・・・?」

「も、もしやっ・・・!?」


グスタークは疑問符を浮かべるが、シュタインはニコラウスの言葉に思い当たる節があった様だ。

ニコラウスはニヤリと笑みを浮かべて言葉を続けた。


「そうです。『政変クーデター』を起こして、殿下が君主に成り代われば良いのですよ・・・。」



シーンッ・・・。

暫しの静寂が辺りを包んだ。

その後、グスタークが苦笑する様に笑い飛ばした。


「ハッハッハッ!ニコラウス殿っ、それは完全なる悪手ですよ。俺に、父上と兄上をとでも?それで仮に俺が即位したとしても、誰も着いてきませんよ。むしろ、状況は更に悪化させるだけでしょう。」

「いえいえ、などと滅相もない。ただ、アンブリオ大公は倒れられて退位を余儀なくされるだけですよ。原因は、殿、ね。」

「っ!!!」

「っ!な、なるほどっ!!!」


アンブリオも、この世界アクエラではすでにかなりの歳だ。

混沌としている『国内情勢』に加えて、もっとも溺愛しているディアーナの行方不明の報に心を打ちのめされて倒れたとしても、決して不思議な話ではないのである。

事実、最近のアンブリオに覇気がないのは周知の事実であった。


「し、しかし、兄上はどうするのですかっ!?そうなったとしても、順当に行けば、兄上が次期君主になる事になります。それすら排したとしたら、流石に俺に疑いの目がっ・・・!」

「ドルフォロ公太子殿下は、『』と内通しているのです。自身の保身の為にね。殿下は、それを正々堂々とそれを糾弾して、ドルフォロ公太子を追放する。そして、その通じていた『』に、『報復措置』としての『宣戦布告』をする。この『』が何処に、お二方ならお分かりになると思いますが・・・。」

「っ!!!」

「な、なんとっ!!!」

「と、まぁ、この様に、すでに“”は済んでいるのですよ。後は殿下の決断次第。しかし、これならば、『主戦派』の正当性が主張出来ますし、民衆を扇動する事も可能です。その“流れ”になってから、公女と『反戦派』が出張ってきたとしても、すでに後の祭りですよ。」

「・・・。」

「・・・。」


再び静寂が訪れる。

しかし、今度は真剣な表情でニコラウスの言葉を反芻するグスタークとシュタイン。

しかし、結論は決まっていた。

このまま座して何もしなければ、『主戦派』は瓦解するだけなのだから。


「・・・もう少し詳しい話を聞かせてくれまいか、ニコラウス殿。」

「殿下・・・。」

「ええ、もちろんですとも。」

「・・・。」


隻眼のをギラつかせて、ニヤリとニコラウスは笑みを浮かべた。



こうして、誰にも悟られる事なくグスターク達は新たなる謀略を企てるのだったーーー。


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