新たな『英雄伝説』
第80話 公女暗殺計画
大洪水による全滅を免れたロトと家族達は、過酷な世界を懸命に生き抜いていった。
そんなロトと家族達に『天空神ソラテス』は各地に散らばり繁栄する様に命じた。
こうして、ロトの子孫らは大洪水後の世界各地に散らばっていったのである。
時が経ち、いつしか、かつての文明にすら追い付くほどの繁栄を見せた“人類”だったが、かつての苦い経験を教訓に、各地で別れて暮らす事が人心の荒廃と暴虐を生み出すと考えたロトの末裔達は、『方舟伝説』を参考に一つ所でまとまって生きていく事をいつしか考えるようになった。
新たなる技術を結集して、『天』にも届く強大な『塔』を建てて、そこに共に暮らそうと考えたのである。
しかし、『天空神ソラテス』は、その“人類”の行いにまたしても怒りを感じて見ていた。
『天』は『天空神ソラテス』の『領域』であり、なおかつ、自身の命に背いた“人類”が、『神』に対する挑戦を挑んだと考えたのである。
「なるほど、そなたらの考えは分かった。しかし、私は各地で繁栄せよと命じたのだ。そなたらは私に背いたのである。」
「おお、我らが父よ。
「ならぬ。そうか、そなたらの『言葉』が同じであるから、“結託”したのであるな。ならば、その『言葉』を乱す事としよう。」
『天空神ソラテス』がそう言うと、ロトの末裔らの『言葉』は途端に通じなくなってしまった。
こうして、『言葉』の通じなくなったロトの末裔らは、『塔』の建設を断念し、再び各地に散らばる事を余儀なくされたのであるーーー。
ー『アクエラ創世記 背信の塔』の記憶の断片よりー
『世界』を産んだ代償により、長らく『眠り』に就く事を余儀なくされた『大地神アスタルテ』は、再び目覚めた時に、再三に渡る我が子らに対する『天空神ソラテス』の“天罰”を知り、激しい憤りを感じていた。
“人類”に『自由意思』を与えたのは彼ら『神々』であるにも関わらず、己の“意向”に従わなければ“力づく”で矯正しようとする『天空神ソラテス』の浅ましさ、身勝手さ、矮小さに激しい怒りを感じたのである。
「おお、『偉大なる母』よ。心中御察しします。私も、我が弟達が苦しむ様には心痛めているのです。」
そこに現れたのは、『原初の
セロスは言葉巧みに『大地神アスタルテ』を懐柔し、『神々』を対立させようと画策していたのである。
「『奈落』にて、生前の『罪』を“浄化”されたとて、『地上』がこの“有り様”では、我が弟達も浮かばれますまい。しかし、私にはどうする事も・・・。」
「・・・皆まで言うな、セロスよ。我は『天空神ソラテス』の排除を決めた。お前にも協力して貰うぞ。」
「おお、『偉大なる母よ』。謹んでお受けしましょう。この『地上』に、我が弟達の『楽園』を、再び築き上げようではありませんか。」
こうして、のちに“人類”をも巻き込んだ、長きに渡る『神々の争い』が、この地に巻き起こる事となったのであるーーー。
ー『偽典・ブリューゲルの書 女神の怒り』の記憶の断片よりー
◇◆◇
『ヒーバラエウス公国』は、『ロマリア王国』の西側の隣国であり、過去に『ロマリア王国』の『大公』が独立して築き上げた『国』でもあった。
『政治体制』と言うのは結構いい加減で、それ故にややしくなるのだが、現在の『日本』におけるそれも、もちろん『中央政権』が事実上は統括しているモノの、各『地方政権』はある意味では一つ一つは独立している『国』の様な形式にも
『イギリス』における『連合王国』や『アメリカ』における『合衆国』の例にもある様に、“小さな”『国』が集合し、一つの“大きな”『国』を形成している、などと言うケースは
それと同じ様に、これは以前にも言及したが、『ロマリア王国』でも、もちろん『ロマリア王家』が便宜上は統括していると言う
『ロマリア』も、形式的には“小さな”『
そして、現在の『ヒーバラエウス公国』の一部も、かつては『ロマリア王国』が支配する『領地』の一つだったのだが、『大公』の『影響力』が増大すると、『ロマリア王国』の内乱を恐れた当時の『王家』や元老院が、『大公国』としての独立を認めたのである。
こうして、広大な『ヒーバラエウス』の土地を手に入れた『大公』は、この地に『ヒーバラエウス公国』を築き上げたのであった。
ちなみに、『大公』というのは、『貴族』の『爵位』とは少し違い、ここら辺も少しややこしいのだが、ここでは『ロマリア王家』の直系の血統筋の者が名乗る『称号』であった。
通常、王位継承権第一位である皇太子が、次代の『国王』に即位する事となるが、その『継承レース』から脱落した元・王位継承者達も当然出てくる訳である。
そして、これは時代や国、考え方にもよるが、そうした第二王子、第一王女以下の者達は、その後『他国』との『関係強化』を含めた『政略結婚』の道具となる事もあれば、有力な『貴族家』との、これまた『政略結婚』の道具となる場合も存在する。
後者がマルセルムの公爵家や、ジュリアンの侯爵家などに分流し別れていったのに対して、前者が『大公』として台頭していったのである。
が、血筋における“骨肉の争い”と言うモノは、いつの世も存在するモノで、特に自身の『権力』を増大させたい『貴族』からしたら、『王家』に連なる者達は『政治的』な『
(形としては少し違うが、マルセルム公爵が『王派閥』の中心人物だったのも、フロレンツが『貴族派閥』の中心人物だったのも、元々はその血筋に由来する所が大いにあった。)
まぁ、『王家』の『権威』が絶大である内は、納得した上で『大公』の名を捨て、『他国』や『貴族家』に入り、『王家』の補佐役に徹したり、別アプローチからの自身の『権力』を高める方法を模索したりするのだが、中には『貴族』に唆されたり、高い『
当然、そうした者達を『政治的』に下手な扱いをする事は出来ないが、かと言って『王家』の『直轄領』にて好き勝手に動かれるのも困りものである。
そうした末に、『ロマリア王家』はその『大公』に『ヒーバラエウス公国』の一部を含めた『領地』を与え、ある種の『
まぁ、先程も述べたが、その『政策』は結果的に失敗に終わり、内乱を恐れた当時の『王家』や元老院から、『大公国』としての独立を認められて、
さて、これは以前にも言及したが、『ヒーバラエウス公国』は様々なすったもんだのあげく、『ロマリア王国』と一応の『不可侵条約』を結んではいるが、『ロマリア王国』の豊かな資源や農作地を虎視眈々と狙っているのは周知の事実であった。
と、言うのも、『ヒーバラエウス公国』は『領土』の半分以上が荒れ果てた山に覆われているからであった。
ならば『開拓』をすれば良い事だと思うだろうが、話はそう簡単ではない。
当然ながら、『開拓』をする為には多大な『労力』が必要になってくるし、『地球』と違い『大型重機』など
その代わり、『魔法技術』は存在するが、一部の『特権階級』や『魔術師ギルド』が『独占』しているし、何よりも、『ヒーバラエウス公国』の山々は
その一方で、『鉱脈』(や『古代魔道文明』に関わる『遺跡』)は無数にあるので、『ヒーバラエウス公国』は『ロマリア王国』や『ドワーフ族の国』との『交易』と、やっとの事で『開拓』した農作地で何とかやりくりしていた。
面白いのは(と言うのは失礼かもしれないが)、『交易』により『ヒーバラエウス公国』は莫大な『富』を持っている。
しかし、猫の額ほどの農作地の為、また『冷蔵技術』が発展していなかった為、『富』はあれど『食糧』が慢性的に不足気味なのである。
そうした状況の中で、『ヒーバラエウス公国』は、今や国内を大きく二つの『勢力』が二分していた。
先程も述べた通り、『ヒーバラエウス公国』の『大公家』は、元々『ロマリア王家』の直系の親戚筋にあたる。
それ故、『ロマリア王国』の正当なる『後継者』を主張して、『ロマリア王国』を侵略・占領し、ある種
もう一方は、『ロマリア王国』との関係を重視し、『交易』による『関係強化』を図り、この局面を打開するとともに、将来的な『布石』を打っておこうとする『反戦派』である。
『開拓』などによる『副産物』として、『ヒーバラエウス公国』の『魔法技術』は独自の発展を遂げており、『ロンベリダム帝国』とはまた違った方向で『魔法技術先進国』の一つであった。
この大きな“武器”を背景に、『主戦派』の主張が優勢であったのだが、『ヒーバラエウス公国』から見れば『魔法後進国』である『ロマリア王国』は、『
息を吹き返し始めた『反戦派』に対して、国内情勢の悪化も手伝って、『主戦派』はより『
それが、『ヒーバラエウス公国』の『第三公女暗殺計画』であったーーー。
◇◆◇
現・『ヒーバラエウス公国』の君主である『アンブリオ大公』には、5人の子供達がいた。
“第一公太子”である『ドルフォロ』、“第二公太子”である『グスターク』、“第一公女”である『ベネディア』、“第二公女”である『ニアミーナ』、そして末娘であり“第三公女”である『ディアーナ』である。
この内、“第一公女”と“第二公女”は『他国』の有力な『貴族家』との『政略結婚』をしており、所謂『継承レース』からすでに外れているのだが、今現在の『ヒーバラエウス公国』国内では第一公太子・ドルフォロと第二公太子・グスターク、そして第三公女・ディアーナをも巻き込んで泥沼の『継承権争い』が激化していた。
と、言うのも、末娘である事もあり、アンブリオ大公の寵愛を一身に受けているディアーナに、『貴族』連中からある事ない事吹き込まれたドルフォロとグスタークが、ほの暗い『嫉妬心』を剥き出しにしていたからであった。
そもそも、これは『ロマリア王家』と『ヒーバラエウス大公家』の確執のもとともなっていたが、『王位継承権』、あるいはそれに類似する『継承権』とは、継承をめぐる争いを未然に防ぐ為にもしっかりと明確化しているケースが多いのだが、にも関わらず結果的に『継承権争い』が巻き起こる事が非常に多いのである。
これは、もちろん様々なケースがあるものの、前述の通り、“家族”ならではの『嫉妬心』を『他者』に『利用』され、無垢な子供らを
順当に考えれば、第一公太子であるドルフォロが次期君主につくのは火を見るより明らかなのであるが、それでは面白くない者達も一定数いるのである。
そうした者達は、言葉巧みに『継承権』を持つ者に取り入り、『洗脳教育』や『思想教育』を用いて、自分達の都合の良い様に『継承権』を持つ者を『駒』に仕立て上げるのである。
言うなれば、一種の『傀儡』である。
以前にも言及したが、『
一般的な『家庭』であれば、子供らが『自立』するまでは、大抵は親が、または周囲の大人達がそうした“影響”から守るのであるが、『国』のトップなどの高い『社会的地位』を持つ『家』などでは、公私ともに多忙を極める為に、その様々な教育などを『
(もちろん、しっかりと自分達で教育する者達も中にはいるが。)
その『配下』が信頼の厚い者ならば、むしろ少年・少女達は立派な紳士・淑女として成長していく事となる訳だが、その『配下』との『信頼関係』が浅ければ、“裏切られる”可能性は非常に高いのである。
何せ、そうした『立場』の者達には、大人であろうと、子供であろうと、近寄ってくる“悪い大人”が後を絶たないのだから。
本物の『悪党』と言うのは、意外なほど狡猾で計算高く、初めから大きな『結果』を求める事はない。
それ故に、
ちょっとした小遣い稼ぎ程度の認識で、少しだけ偏った『教育』を吹き込むだけなのだから。
しかし、『裏社会』の『常套手段』でもあるが、それが大きな“罠”なのである。
そうした
“沼”にハマってしまえば『
段々と『要求』がエスカレートしていき、それを断る事が出来なくなるのである。
その末でそれぞれ歪んだ形で
一方、第三公女ディアーナは、アンブリオ大公のお気に入りであった事もあり、また、早々に『継承レース』から外れた第一公女ベネディアと第二公女ニアミーナとの姉妹仲も良かった事から、まともな『愛情』と非常に高水準の『教育』を受けて育った為に、聡明かつまともな感覚の持ち主として成長していた。
その見た目の『美貌』もさることながら、『知性』と『慈愛』を兼ね備えた才媛である彼女は民衆からの支持も厚かった。
ディアーナは、その高い『知性』から、“先”を予測する能力にも長けており、『ヒーバラエウス公国』が長年抱えていた『食糧問題』に、近年一筋の光明を見出だしていた。
それが、『
当然ながら、ディアーナにとっては、安易な侵略や占領などもってのほかである。
もちろん、侵略や占領によって、『土地』や様々な『技術』を奪う事は可能かもしれないが、ハッキリ言うとこれは悪手である。
『戦争』を完璧にコントロールする事は、言うなれば、軍人一人一人を完璧にコントロールする事になる訳で、そんな事は現実的に不可能だ。
『情報』の(意図的なのか偶発的なのかはこの際置いておくとして)行き違いで、『ロマリア王国』側の『魔法技術』の『第一人者』である人物やあるいは組織を失ってしまったら、その『技術』を復興する為には多大な時間と労力を必要とする事は火を見るよりも明らかであり、それならば、『
その末で、『政治的』な『裏工作』はある程度黙認しつつも、『ロマリア王国』との正式な『外交交渉』を主張するディアーナは、いつしか『反戦派』の『
もっとも、ディアーナ自身は『権力』に対して執着を見せず、あくまで君主の『補佐役』として、『ヒーバラエウス公国』の『国益』を鑑み自身の能力を最大限に活かそうと考えていたのだが。
しかし、己の『権力』に執着する者達には、ディアーナの存在は脅威でしかない。
彼女にそのつもりはなくとも、彼女の『実力』と『人気』は無視出来ないモノであり、密かに彼女を次期君主に擁立しようと画策する者達も出てくるのは時間の問題だ。
その前に、彼女を“排除”しようと考えるのも、まぁ、『政治的』にはよくある話であろうーーー。
◇◆◇
『リリアンヌ』子爵令嬢は、『ヒーバラエウス公国』では有名な変わり者の『古代魔道文明研究者』であった。
前述の通り、『ヒーバラエウス公国』には『古代魔道文明』に関する『遺跡』が多数発見されている。
しかし、現状の『ヒーバラエウス公国』には、それら『遺跡類』など無用の長物でしかなく、もちろん、『古代魔道文明』に関連した『
あるかどうかも分からない、しかも
もちろん、『ロンベリダム帝国』の様に、皇帝自ら『古代魔道文明』の『資料』や『物品』を収集・研究させていたり、『ライアド教ハイドラス派』の様に、実際に有用な『
これは、使える『資金』が豊富にある、あるいは簡単に“都合”をつけられる背景があるからであり、現状の『ヒーバラエウス公国』には残念ながらそんな余裕は存在しない。
豊富な『鉱石類』はあっても、一番のネックである『食糧問題』に解決の目処が立っていないのだから。
しかし、そんなリリアンヌに『資金提供』を申し出た酔狂な者が現れた。
他でもないディアーナである。
方向性は違うが、現状の『ヒーバラエウス公国』の『生命線』は、その独自の発展を遂げた『魔法技術』である事はディアーナもしっかり認識しており、『外交交渉』をより有利にする為にも、『古代技術』の『知識』や『資料』に『利用価値』を見出だしていたのである。
それに(アキトの周囲は例外であるが)、
男社会である様々な『分野』で、(一般的評価は低いかもしれないが)一線級の活躍を見せる同じ『女性』に、ディアーナがある種の『シンパシー』を感じていたとしてもおかしくはないだろう。
しかし、それ故に、リリアンヌの『護衛魔法士』であるレティシアの胃痛は加速度的に増大していった。
ただでさえ、自由奔放なリリアンヌに振り回されているのに、そこに『
ディアーナに何かあれば、自分の首どころか、リリアンヌの生家であり、レティシアに取っても大恩ある『グーディメル家』にまで迷惑が掛かる。
もちろん聡明なディアーナは、『敵』に対する対策も講じていたが、彼女は頭は良いが、半面『経験』に乏しく、『海千山千』の『狸親父』達が
良いか悪いかはともかく、どんな人間も“
そこに、まだ彼女は気付けていなかった。
・・・
「はぁ~~~んっ!!!こんな事になるなんてぇっ~~~!!!やっぱりワタシって、ツイてないんだぁっ~~~!!!」
「落ち着きなよ、レティシアぁ~。彼らも、ボク達を殺すつもりはないってっ!」
栗毛の髪を短く切り揃え、急所のみを防護する軽装の鎧に身を包んだ凛々しい女性と(今現在はその面影もないほど泣き崩れているが)、高級そうなローブを、これでもかとヨレヨレになった状態で気崩しているポヤポヤした雰囲気の黒っぽい髪色をした女性が、とある『盗賊団』の“アジト”にて
そしてもう一人、動きやすい旅人風の衣装に身を包んでいるが、その上品で高貴な雰囲気から、ドレスを身に纏っている様に
「・・・申し訳ありません、リリ、レティシア。
綺麗な所作で頭を下げるディアーナに、泣きわめいていたレティシアも、ポカーンとしたリリアンヌも、面食らって慌ててしまった。
「お、お顔を上げて下さい、ディアーナ様っ!今回の件は、ワタシの失態なのですからっ!!ワタシの『力不足』故に、御身をこの様な危険にさらす事となってしまいっ・・・!!!」
「そうだよぉ~、ディアーナ様が謝る事じゃないよねぇ~。けどけど、レティシアは十分頑張ってくれたよぉ~?ディアーナ様の護衛の人達は簡単にやられちゃったのに、ボク達はこうして無傷で済んでるんだからさぁ~。けどけど、心配は要らないんじゃないかなぁ~?ボクらの顔を知ってるみたいだったから、多分『身代金』目当てなんじゃなぁ~い?」
『古代魔道文明』と『魔法技術』以外には、とんと無頓着とは言え、リリアンヌも一応子爵の娘としてのある程度の自覚はあった。
しかし、人間の『悪意』に鈍く、『政治的』な事には興味がなかったリリアンヌは、『身代金』目当ての『誘拐』だとある種楽観的に考えていた。
しかし、当然ディアーナはリリアンヌのその言葉に首を振る。
「いいえ、リリ。貴女を狙ったのなら、その可能性もありますが、彼らは
「ご明察ですよぉ、ディアーナ公女殿下。」
そのディアーナの推論に、肯定の言葉を発しながら監禁部屋に入って来た、高貴な身形をしているモノの何ともいやらしい表情を浮かべる40そこそこの男と、それに付き従う様に数人の男達がゾロゾロと現れる。
「ディアーナ様、リリアンヌ様、ワタシの後ろにっ!!!」
「ひゃうぅっ!!」
「貴方はっ!!??モルゴナガル卿っ!!!」
「おやおや、私の様な者の名前を覚えておいでとは。流石は聡明なディアーナ公女殿下であらせられる。」
大仰な言葉遣いをして、人をくった様な態度を取る男。
彼はモルゴナガル伯爵。
『
しかし、分かる者には分かるが、そうした“立ち居振舞い”が出来ると言う事は、狡猾で計算高く、胆力や謀略にも長けていると言う裏返しでもあった。
「これは、貴方が画策した事なのですわねっ!!!」
「流石はディアーナ公女殿下。左様。生憎と
「なるほど・・・。リリと
ディアーナ達には、残念ながら現状を打開する『力』はない。
しかし、彼女はその明晰な頭脳をフル活用して、『舌戦』にて、少しでも『時間』を、『活路』を見出だそうとしていた。
「ええ、ええ。もちろん、公女殿下の護衛は精鋭中の精鋭。少し言いにくいのですが、本来なら有象無象の『盗賊団』程度に後れを取る事はありますまい。しかし、多勢に無勢は世の常ですから、仮にやられてしまっても、これもある程度は世間も納得するでしょう。何か卑劣な罠を仕掛けられたのだろうとか、適当に納得出来る理由を想像してねぇ。そもそも、公女殿下ほどの高貴な方が、“お忍び”で『
「っ!!!やはり、護衛達とも“結託”していたっ!?」
「ええ、ええ。彼らは生きていますよぉ。流石に、このまま『
「くっ!!??・・・『
圧倒的不利を確信して、ディアーナは『仲間割れ』を誘発する為に、『盗賊団』の『頭目』と思わしき男に声を掛ける。
それに、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべて男は答えた。
「嬢ちゃん、残念だが、旦那とはナシがついてんのよ。ま、部下のバカ共は殺られんだろーが、俺にゃあカンケーねぇ。俺ぁ、いただいた大金を持って、どっかヨソで悠々自適に暮らすとするさぁ。」
「貴方、騙されていますわっ!!!『裏事情』を知っている者を、モルゴナガル卿が生かしておくとでもっ!!??」
「ハハハハハッ、おかしな事を言う嬢ちゃんだなぁ~。ねぇ、旦那ぁ~。」
「ええ、ええ。本当に単純で助かりますよ、
「へっ???」
「くっ!!!???」
「キァアアアアアッーーー!!!」
「な、なんという・・・。」
モルゴナガルが手を上げると、『盗賊団』・『頭目』の男はモルゴナガルの配下に胴を貫かれた。
「な、なんでっ・・・!?」
「公女殿下の仰る通りです。護衛の皆さんは、私に取っても『利用価値』のある『力』を持っていますが、アナタ方程度は、生かしておいても害悪にしかならない。まあまあ、大金を
完全に致命傷を貫かれた『盗賊団』・『頭目』の男は、放心状態で間もなく絶命した。
その衝撃シーンは、ディアーナ、リリアンヌ、レティシアにも緊張感を走らせる。
モルゴナガルは、
「み、皆さんも見たでしょうっ!!??この男は、血も涙もない本物の『悪党』ですよっ!!??貴方達も無事では済まされませんよっ!!??」
それでもディアーナは、気丈にモルゴナガルの配下達に訴え掛ける。
しかし、彼女は、やはり『政治的』な面においては、モルゴナガルに一歩劣っていた。
「いえいえ、公女殿下。私は私が認めた者達は重宝するタチでしてねぇ。一度部下や配下にした者達を、もちろん不始末をおこしたらその限りではありませんが、私から切り捨てる事はありませんよぉ。それに、仮にここで貴女様を助け出したとしても、その先は茨の道です。『損得勘定』がしっかり出来れば、そんな愚かな『選択肢』を取る者などおりませんよぉ。」
「・・・申し訳ありません、公女殿下。」
「そんなっ・・・。」
いくら高い『能力』を持っていても、『国』や『政治』を
人一人の『力』で出来る事など、たかが知れてるのだから。
『人心掌握』の観点から、ディアーナはそれを怠ってしまった。
なぜなら、彼女は自身が動く事で、それに惹かれて人々が勝手についてきてくれたのだから。
しかし、これもまた『人生』である。
『人生』とは、常に『準備不足』の連続だ。
その中で、
あるいは、“アドリブ”で
ディアーナは、それを自身の『命運』がつきかけるタイミングで、ようやく悟ったのであるーーー。
・・・
しかし、そうした数々の『謀略』や『思惑』も、いとも容易く
無言でモルゴナガルが手を上げると、モルゴナガルの配下達はディアーナ達に殺到する。
「貴様らぁっーーー!!!」
「いやぁぁぁぁっーーー!!!」
「くっ!!??だ、誰かっ・・・!」
「無駄ですよぉ、公女殿下。貴女様を守る者など、ここにはおりません。」
「・・・いるさっ!ここにひとりなっ!!」
「ヒューッ!!!って、コ〇ラじゃねーかっ!!!」
「「「「・・・えっ???」」」」
レティシアは玉砕覚悟で最後の抵抗を試みようとし、リリアンヌとディアーナがお互いを守り合う様に寄り添って悲鳴を上げる。
ディアーナの祈る様に漏れ出た呟きに、モルゴナガルは嘲笑う様に『絶望的』な『最後通告』を言い渡すが、そこに“場違い”なほど絶妙なタイミングで割って入った者達がいた。
何を隠そう彼らこそが、(最近随分出番が少なかった為に少しノリノリな)『英雄神』・セレウスと『英雄』・アキトの、もはや『
「何か、ごめんねぇ~。」
「いえいえ、アイシャ殿。『悪党』共に謝る必要などありませんよ。」
「ダーリンとセレウス様、楽しそうだねぇ~。」
「「「「・・・誰っ???」」」」
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