第75話 『テポルヴァ事変』 3



◇◆◇



『TLW』における“善性”とは、『法』や『秩序』を重んじる事であって、『善悪』における『絶対的な善』の事ではない。

言うなれば、“考え方”の一つの方向性であり、現実世界で言えば『保守派』などがこれに該当する。

『保守派』は、一種の『事なかれ主義』の事であり、当然ながらそれ相応の欠点も存在する。

それは、『法』や『秩序』を乱す者とは相容れない点である。


もとより、『自然界』とは『弱肉強食』の『世界』であり、その『世界』では大きな『群れ』を成しているのは、はっきり言うと『弱者の証明』である。

しかし、特に『人間種』の『世界』においては、『文明』が発達して、『社会』が形成されていくと、その“平穏幻想”を守ろうとする働きが作用する。

それが、『ルール』であり、『法』であり、『秩序』である。

それ自体は特段悪い事ではない。

安定した生活基盤と言うのは、ある種の『理想的』な『社会』だからである。

しかし、それにも慣れてくると、人は簡単な事を忘れる。

、最終的に『力』ある者が、『暴力』が、『悪党』が台頭する。

『法』や『秩序』は、『』と言う“入れ物”を守る『システム』なのであって、『』と言う“社会の一構成員”を守る『システム』ではないからだ。

この世に、『完全なる法』など存在しないのである。


では、“悪性”とは何だろうか?

『TLW』における“悪性”とは、“善性”とは真逆の『自由』を重んじる事であって、『善悪』における『絶対的な悪』の事ではない。

現実世界で言えば、『リベラル派』などがこれに該当する。

『リベラル派』は、一種の『進歩主義』の事であり、『法』や『秩序』を重んじる『保守派』とは常に対立構造にある。


一見すると、『自由』とは良いイメージを持つ事もあるが、裏を返せば全て『自己責任』と言う事でもある。

ある意味では『自然界』の『弱肉強食』の『強者の証明』でもあるが、こちらも当然ながら欠点が存在する。

それは、『食物連鎖』のバランスを完全に無視している点である。


『自然界』の『弱肉強食』は、一見『強者』が『弱者』を搾取している『システム』に見えるが、これはしっかりしたバランスあっての事である。

当然ながら、『食物連鎖』の頂点である『強者』が増えると、安定したバランスが崩れ『弱者』の『絶対数』もそれに反比例する様に数を減らしていく。

そうなれば、『強者』は生き残る為にも、『強者』同士での争いを余儀なくさせる。

それが、『人間種』の『世界』では『戦争』であり、『覇権』をかけて争った結果、最終的に『弱者』をも巻き込み、『強者』の生命線とも言える存在を失い、『強者』自身の首を絞める事となるのである。

この世に、『完全なる自由』など存在しないのである。


では、“中立”とは何だろうか?

『TLW』における“中立”とは、一種の“バランサー”の事である。

前述の通り、“善性”にも“悪性”にも、それぞれメリットとデメリットが存在する。

その“善性”と“悪性”の良いとこ取りのハイブリッドが“中立”と言えば聞こえは良いが、ある意味では『日和見主義』であるとも言える。


人は結構『白黒』はっきり着けたい生き物だ。

そして、最終的には『論理』よりも『感情』で動いてしまいがちである。

“中立”とは、“善性”・“悪性”の『勢力』から言えば、「どちらの味方でもない」のではなく、「どちらの敵でもある」『勢力』に他ならない。

故に、ある意味では一番『正しい』のであるが、“中立”の『主張』は軽んじられる傾向にある。

この世に、『完全な公平』など存在しないのである。


とは言え、これは大まかな“カテゴリー”分けであり、実際の『社会』や人々の『心』や『主義』・『主張』はもっと複雑怪奇な訳であるが・・・。



◇◆◇



『治療班』の活動が“光”だとすると、『警戒班』の活動は“闇”の部分に相当するだろう。

いくら『テポルヴァ』の住人達を守る為とは言え、『警戒班彼ら』の行う行為は、『人間』の殺傷行為に他ならないのだから・・・。

しかし、『LOL』以外の者達は、その行為に対してそれほど“忌避感”は持っていなかった。

比較的『秩序』の安定していた『地球日本』からこちらの世界アクエラにやって来た『LOL彼ら』と違い、身近に『魔獣』や『モンスター』、『紛争』の危険が潜んでいる『世界』で生きるこちらの世界アクエラの住人達は、生き残る為には相手を殺傷する事も時に必要であると理解し、ある程度の『覚悟』を持っているからである。

まぁ、実際に戦えるかはまた別の話であるが。

しかし、そうした面では、『LOL彼ら』よりも、こちらの世界アクエラの住人達の方が、精神面での『アドバンテージ』があると言える。



・・・



「『感知』しましたっ!『カウコネス人彼ら』の次の狙いは、西側の『市街地』の様ですっ!」

「了解しましたっ!私とN2さんで先行しますっ!行きましょうっ、N2さんっ!」

「了解ですっ!」

「くそっ!? 性懲りもなく、また現れたのかっ!?」

「『カウコネス人彼ら』は、“引き際”が分からんのかっ!?」

「ツェッチーニ殿っ、『衛兵』の皆さんの協力を仰いでもっ!?」

「ああっ、よろしく頼むっ!!」


駐留軍と合同で警戒に当たっていた『LOL』の『警戒班』、ドリュース、キドオカ、N2、アーロス、アラニグラ、タリスマン、そして、駐留軍の“現場指揮官”であるツェッチーニが、これで何度目かも分からない襲撃にそう辟易しながら叫ぶのだった。


エルファス最重要人物を失った『カウコネス人』達の、その後の襲撃はお粗末なモノだった。

『歴戦の雄』たる駐留軍の“現場指揮官”・ツェッチーニをして「見事な手際」と言わしめた緻密な“作戦行動”は鳴りを潜め、まさしくただの『暴徒』と化した『カウコネス人』達が、好き勝手に無作為に暴れまわっているだけなのだから。

まぁ、それもその筈、『カウコネス人彼ら』がここまで優勢に事を進めてこれたのも、『神の眼』とエルファスの的確な指揮のおかげなのだ。

エルファスを失い、ただでさえ『士気』がボロボロに低下していて、更にマトモな統率も取れていない『カウコネス人彼ら』では、『強国』たる『ロンベリダム帝国』、その『国境』防衛を任されている精強なる『テポルヴァ』の駐留軍や『LOL』の敵ではなかった。


とは言え、『カウコネス人彼ら』側からしても、この『一斉放棄』は、事ここに至れば、もはや後戻りは出来ない状況でもあった。

ここで退いても、『ロンベリダム帝国』側としては、当然報復措置を取る筈だ。

そうなれば、『戦力差』から『カウコネス人』側の敗北は火を見るより明らかであり、結果的には良くても『戦後賠償』を支払う必要に迫られ、最悪の場合は『カウコネス人』そのものが『滅亡』の憂き目にあうのは想像に難くない。

何より、その『判断』を下せる『』がいないのである。

前述の通り、『カウコネス人』側の『実質的指導者』はホンバではあるが、エルファスを失ってからは彼に対する『信頼』や彼の『求心力』など有って無い様なモノだ。

むしろ、若者達が“暴走”してその首を取られてないだけ、まだかろうじて理性的であった。

まぁ、見も蓋もない言い方をすると、戦後の事を考えれば、最終的に『責任』を取るべき人物はやはり必要だからである。

まぁ、一種の『人身御供』としてホンバは生かされている、と言った状況である。


「くそぉぉぉぅっ、『侵略者』共がぁぁぁっーーー!!!」

「もとはといえば、お前らが攻めてこなけりゃこんなことにはぁぁぁっーーー!!!」

「「「「「『カウコネス人』達の襲撃ですっ!!『市民』の皆さんは中央広場に退避をっ!!『衛兵』の皆さんは、足止めをして下さいっ!!!」」」」」

「うりゃあぁぁぁっ!!『カウコネス人お前ら』下がれぇぇぇっーーー!!!」


召喚士サモナー』の『職業クラス』を持つドリュースは、こちらの世界アクエラでは、『テイム使役』した『魔獣』や『モンスター』、『召喚』した『精霊』などと感覚を“同調シンクロ”させて、その“目”を通して広範囲の『情報収集』が可能だった。

これにより、今まさにを失って突撃してくる『カウコネス人』達の動向をいち早く察知し、駐留軍や『LOL仲間達』に警告を出す事が可能だった。

事『諜報』関係の『スキル』においては、『忍者ニンジャ』の『職業クラス』を持つキドオカには及ばないが、こうした単純な『警戒監視』においては、一種の『人海戦術』を可能とするドリュースの方が一日の長があった。

しかし、そうした事からドリュースの『役割』は、自ずと『後方支援』となってしまう。


その代わり、現場に真っ先に駆け付けるのは、『LOL』のメンバーの中では最速の『スピード』を誇る『忍者ニンジャ』の『職業クラス』を持つキドオカと、それに次ぐ『狩人ハンター』系の派生職業である『砲撃手ガンナー』の『職業クラス』を持つN2の『役割』となった。

キドオカは、『忍者ニンジャ』の『特殊スキル』である『分身の術』を活用しながら、逃げ遅れた『一般市民』や『警戒』に当たっていた『衛兵』達に襲撃を知らせながら現場に駆けていく。

N2は、『砲撃手ガンナー』の『特殊スキル』である、“”の銃弾で、遠距離からの『カウコネス人襲撃者』達に対する牽制攻撃を敢行していた。


「だからって、無抵抗な人間をその手にかけて良い理由にはならないだろーがっ!!!」

「・・・。」


キドオカとN2に少し遅れて、アーロスとアラニグラが迎撃に参戦する。

竜騎士ドラゴンナイト』の『職業クラス』を持つアーロスは、所謂『アタッカー』タイプなので、遠距離からの攻撃手段を持たない。

いや、正確には“本気”を出せばそれも可能なのだが、それをすると、“手加減”が出来ないし、無差別に周囲に被害が出てしまう恐れがある為、使用には注意が必要なのである。

似たような理由で、『暗黒魔道士ダークウィザード』の『職業クラス』を持つアラニグラや、『魔法技術先進国』たる『ロンベリダム帝国』の駐留軍がこれまで手をこまねいていたのも、『魔法攻撃』では、『カウコネス人』だけでなく、味方や『市民』・『市街地』にも甚大な被害が出てしまうからであった。

事、『市街地』における『ゲリラ戦』では、色々と制限の掛かる『守り手』の方が圧倒的に不利なのである。

とは言え、『LOL』の『力』は、こちらの世界アクエラでは群を抜いたデタラメなレベルであり、アーロスはもちろん、『魔法使い』と言う普通なら貧弱な『職業クラス』であるアラニグラも、超一流の『戦士』にも引けを取らない近接戦闘を軽々とこなしていた。


「くそぉぉぉうっ、バケモン共がぁぁぁっ!!!」

「退け、退けぇぇぇっーーー!!!」

「逃がすかよっ!!!」


『LOL』や駐留軍の活躍によって、瞬く間に瓦解した『カウコネス人』達は撤退して行った。

ある種の『フラストレーション』の溜まっていたアラニグラは、それを追撃すべく声を張り上げるが、すかさずタリスマンからの制止が掛かった。


「いけませんっ、アラニグラさんっ!!!深追いは禁物ですっ!!!」

「けどよぉっ!!!」

「『治療班』の皆さんの活躍により、撤退準備は整いつつありますっ!『LOL我々』の活動は、あくまで駐留軍の支援ですっ!!後の事は、駐留軍の皆さんや『援軍』の『帝国兵』の皆さんにお任せして、『LOL我々』は『市民』の皆さんを安全に『テーベ』まで送り届ける事を優先すべきですっ!!!」


所謂『タンク』タイプである『近衛騎士ロイヤルガード』の『職業クラス』を持ち、『LOL』のリーダーでもあるタリスマンは、必然的に前線に出ずに駐留軍や『治療班』との連絡役を担っていた。

タリスマンがルキウスにと言っても、それは『名君』然としたルキウスに対してであって、“”の『カルマ値』を持つタリスマンは、むしろ『戦争』や『紛争』に対しては否定的な意見を持っていた。

もちろん、『迎撃』であれば致し方ないが、『侵攻』となると話は別だった。


「ちっ!ったく、りょーかいっ!」


しかし、“”の『カルマ値』を持つアラニグラは、前述の通り、『アバター』に“”事により、ある種『過激』な『思想』を


「けど、皆さんが手伝って下されば、鎮圧も簡単に済みそうですよねぇ~?『蛮人バルバロイ』共も、駐留軍我々と皆さんの『力』に対抗出来ないと分かりきっているのに、一向に襲撃を止める気配がないですし・・・。一発ガツンッと痛い目をみせてやった方が、ヤツらも大人しくなるんじゃないですかぁ~?」

「おいっ、トロメーオっ!言葉を慎みたまえっ!!『LOL彼ら』は皇帝陛下の『』であり、なおかつ『力』はあっても『ロンベリダム帝国この国』の正規の『軍人』ではないっ!!“治安維持”活動に手を貸していただいているだけでも有り難い事なのに、この上『ロンベリダム帝国我々』の“事情”に巻き込むなど、『帝国兵』として恥ずべき行為であるぞっ!!!」

「す、すいませんっ!!!」


若者特有の思慮の浅さから、そう軽口を叩くトロメーオに、ツェッチーニはそう叱責した。

ツェッチーニは、『緊急通信』にて『LOL彼ら』が“平和維持活動”をする為に派遣された『名目建前』を聞いていて、当然、その『裏』に某かの『思惑』がある事は“読んで”いたが、『軍人』としての『プライド』もあってか、『LOL彼ら』を『紛争』に巻き込む事をよしとしてはいなかった。


「申し訳ありません、『LOL』の皆さん。皆さんの素晴らしい『お力』に部下が魅せられてしまった様でして。彼の失言をお許し下さい。そして、出来れば忘れて頂けると幸いです。」

「申し訳ありませんでしたっ!!!」


ツェッチーニの謝罪に、慌ててトロメーオも頭を下げた。


「いえ、こちらの『立場』を尊重して頂いてむしろ感謝します。」


タリスマンは、その謝罪を快く受け取り水に流したが、アラニグラは、そのトロメーオの言葉に少し考え込むのだったーーー。



◇◆◇



男と言う生き物は、何だかんだ言って競い合う事が好きな生き物なのである。

その証左ではないが、幼い男の子達は、『強い者』に強く惹かれる傾向にある。

その“対象”は人それぞれだろうが、アラニグラは、その“厨二病的嗜好”からも分かる通り、『悪』に対してそれを持っていた。

と言っても、別に『犯罪者』に憧れを抱いてる訳ではない。

むしろ、『悪』のイメージとしての、何者にも“『自由』な“生き様”に憧れを抱いていたのである。


しかし、彼は普通の『一般常識』をしっかり持つ理性的な青年だったし、『地球日本』における彼は、そうした“生き方”が出来る様な『力』を有していなかった。

それ故、ある意味健全に、その“嗜好”を『フィクションゲーム』の中で満たしていたのである。


ところが、彼は、『オタク』ならば一度は憧れる『異世界転移』を現実のモノとした。

初めこそ『混乱』し、『LOL仲間達』と寄り添いながら、『地球日本』に帰還する方法を模索していたが、こちらの世界アクエラに“”いくほどに、『アバター自分』の『力』を認識するほどに、彼の『心』は、むしろファンタジーアクエラに強く惹かれていった。

この世界アクエラでなら、自分は『理想』の“生き方”が出来るのではないか、と。

もちろん、『地球日本』にも多少なりとも未練があるし、残してきた『家族』や『友人』の事が気掛かりではあったが、冴えない人生を過ごす事にある種の『絶望感』を持っていた彼は、今では、帰還する事を強く望んではいなかった。

そうした意味で、彼は『LOL仲間達』とは考え方に隔たりがある事に、小さな“苛立ち”を感じて始めていたのだった。


「ドリュース。少しいいか?」


迎撃から戻ったアラニグラは、その足でドリュースのもとを訪れた。


「お疲れ様でしたっ、アラニグラさんっ!どうかされましたか?」

「『カウコネス人』達のの場所は分かるか?」

「えっ・・・!?ま、まぁ、調べ分かると思いますが・・・。」


アラニグラの言葉に、訝しげな表情を浮かべてそう答えるドリュース。


「なら調べてくれ。俺が一気に叩き潰すっ!!!」

「ちょっ、アラニグラさんっ!?それは、いくらなんでも・・・。」


アラニグラのその発言には、ドリュースもギョッとした。


「・・・ドリュースも、やはり側か・・・。」

「はっ???側って言うのは・・・?」

「いや、何でもない。今の言葉は忘れてくれ。」


とは言うものの、アラニグラは落胆の表情を浮かべていた。

と、そこへ、から声が響き渡った。


〈なら、僕が教えてあげよっかっ?〉

「なっ!!??だ、誰だっ!?」

「っ!!??」


LOL彼ら』の持つ『危機察知』スキルや『気配察知』スキルに一切引っ掛からずに、所属不明の何者かの接近を許した事に二人は驚愕の表情を浮かべて誰何すいかした。

そこには、から突如現れ、ケラケラと無邪気な笑顔を浮かべる、年の頃十二、三歳のヴァニタス少年の姿があったーーー。


・・・



「貴様っ、何者だっ!?」

「おやおや、警戒させちゃった様だねぇ~?僕は別に君達の『敵』じゃないよ?まぁ、『味方』でもないんだけどさぁ~。」


ヴァニタスは、この世界アクエラでは珍しい、東洋系の顔立ちをした黒髪の美しい少年で、服装もオリエンタル系のこれまたこの世界アクエラでは珍しい不思議な格好をしていた。

そして前述の通り、この世界アクエラではトップクラスの『力』を誇る『LOL彼ら』の『警戒網』を簡単に潜り抜けてみせた。

(もっとも、これは『LOL彼ら』がしているだけで、『LOL彼ら』は、自分達の『異能力』や『力』を十全に使のだが。)

二人が警戒するのも無理からぬ事であろう。


「それじゃ、自己紹介しておこうか。僕はヴァニタス。“願いを叶える者”だよぉ~。」

「ヴァニタス・・・?」

「“願いを叶える者”・・・?」


そのヴァニタスの胡散臭そうな“自称”に、二人は更に警戒感をあらわにするのだった。

ヴァニタスは、その二人の様子を面白そうに眺めていた。


「まぁ、突然現れてそんな事言い出したら警戒するのも無理ないけど、本当の事だよぉ~?まぁ、もっとも、その“願い”の『結果』を良いモノとするか、悪いモノとするかはその人次第なんだけどねぇ~?」

「何を言って・・・。|

「耳を傾けるな、ドリュースっ!離脱して、仲間達と合流しようっ!!」

「別に僕はそれでもいいけど、君自身の為にもそれは止めておいた方が良いんじゃないかなぁ~?それに、そのまま『LOL彼ら』と“なあなあな関係”でいたら、君は君の”を一生出来なくなると思うよ、アラニグラくん?いや、“橘恭平たちばなきょうへい”くん、と言った方が良いかな?」

「っ!!??なぜ俺の『本名』をっ!!??」


ネトゲなどでは、『リアル』の詮索は『マナー違反』である。

よほど親しい相手や親しくなった相手でなければ、『リアル』の『情報』を交換する事はデメリットが大きい、と言い換えてもいいだろう。

(まぁ、その人の『ネットリテラシー』にもよるのだが。)

アラニグラはその辺の意識が特に高く、他のメンバーがある程度『リアル』の『情報』を交換する中で、彼だけは今現在に至るまで『リアル』の『情報』を流出した事がなかった。


「僕、これでも『神性』の端くれだからさぁ~。まぁ、にわかには信じられないかもしれないけどねぇ~。そっちの彼の『本名』も分かるよぁ~。“小田切末次おだぎりすえつぐ”くん、でしょ?」

「っ!!??」

「・・・。」


アラニグラは、ドリュースの『本名』を知らなかったが、ドリュースの表情からそれが正解なのだと理解した。


「ヴァニタス、と言ったか。何が目的だっ!?」

「だから言ってるでしょ?君の“”を叶える為に来たんだよぉ~。まぁ、ルキウスくんやハイドラスのヤツに対する嫌がらせも多分に含んでいるだけどねぇ~。けど、君に取っても悪い話じゃない。なにせ君は、ここにきて『LOL仲間達』と考え方が乖離している事に“苛立ち”を感じているのだからっ!」

「何をっ・・・!!」


バカな事を、と言おうとして、アラニグラは言葉を紡げなかった。

それは、彼が今まさに感じていた事なのだから。


「むしろの君の“考え方”の方が、この世界アクエラではより『正解』かもねぇ~。『地球日本』の『常識』に凝り固まっていると、こちらの世界アクエラでは足元をすくわれるからねぇ~。そうそう、ついでに一つ良い事を教えてあげよう。君達が『地球日本』に帰れる方法なんてないからね?まぁ、正確には、帰る方法自体はあるんだけど、君達の『』はもう存在しないから、帰るだけ無意味って事なんだけどさ。だから、この世界アクエラでどう“生きるか”を考えた方が、より建設的だと僕は思うけどねぇ~。ま、信じるか信じないかは君達の『選択』次第だけどさ。」

「なっ!?」

「そんなっ!?」


サラッとヴァニタスからもたらされた衝撃の事実に、アラニグラとドリュースはショックを隠せなかった。

しかし、これは事実である。

もっとも、ヴァニタスが『LOL』と『至高神ハイドラス』との『縁』の事を知っているかはさだかではないが。


「まぁ、それはともかく、アラニグラくん。君にはこれを貸してあげよう。」


ショックを受ける二人には特段興味を示さず、ヴァニタスはあくまでマイペースに話を進める。

ヴァニタスがふいにアラニグラに放り投げたのは、何とも不思議な感じのするであった。

反射的にアラニグラはそれを受け止め、警戒しながらそれを観察した。


「何だ、これはっ!?」

「それは、『神の眼』と言う『失われし神器ロストテクノロジー』さ。君が念じれば、君の欲しい『情報』が映し出される筈だよ。是非試してみてよっ!けど、それは貴重な物だから、後で返してもらうけどねぇ~?」

「・・・そんな貴重な物を他人に預けて、壊されるとか考えないのかっ?」

「ああ、無駄無駄。ただの『人間種』では傷一つつかないよ。例え、『LOL君達』の『力』をもってしてもねっ!『複製コピー』も不可能だし、僕との『リンク』も繋がっているから、例え流出されても追跡は簡単だしねっ!!」


会話による“揺さぶり”を仕掛けてみても、まさに「暖簾に腕押し」状態だった。

ケラケラと面白そうに笑うヴァニタスに、アラニグラは苦虫を噛み潰した様な顔をした。


「ま、そんな訳だから、『神の眼それ』をどう扱おうが、君の『』だっ!!君が、どんな『選択』をするのかを楽しみにしているよっ!!じゃあねぇっ~!!!」

「あっ、おいっ!!!」


ヴァニタスは、好き勝手に言うだけ言うと、またに消えていってしまった。

事『交渉事』・『折衝事』においては、これほど厄介な相手はそうはいないだろう。

なんせ、あらゆる意味で『コミュニケーション』が一切成立しないのだから。

残されたアラニグラとドリュースは、しばらく狐につままれた様な顔をしていた。

そして、アラニグラの手もとに残された『神の眼』の存在により、今の出来事が“夢”ではなかったと理解した。


「ど、どうしましょうか、アラニグラさんっ!?皆さんに今の出来事を報告した方がいいんじゃっ・・・!!??」


ドリュースは、得体の知れないヴァニタス少年の存在に、すっかり混乱し冷静さを失ってしまっていた。

それ故に、ジーっと『神の眼』を見ながら考え込んでいたアラニグラの内心の変化に全く気付けなかった。


「・・・悪いな、ドリュース。」

「・・・えっ!?」

「【強制睡眠スリープ】っ!」

「な、何をっ・・・。Zzz・・・Zzz・・・。」


しばらく考え込んだ末に、ある種の決意をしたアラニグラは、ドリュースに対して『睡眠攻撃』を仕掛けた。


「ちょっと、試してみたいのさ。その結果、『LOLお前達』と袂を分かつ事になっても、な。」



◇◆◇



「よろしかったのですか、ヴァニタス様?あの者に、貴重な『失われし神器ロストテクノロジー』を預けてしまっても。」

「別にかまわないさ。本当は『LOL彼ら』にちょっかいかけるつもりはなかったんだけど、アラニグラの存在は面白そうだったからね。ルキウスくんやハイドラスのヤツに対する牽制になるかもしれないし。それに、これはアラニグラや『LOL彼ら』としても、悪い話じゃあない。せっかくこっちの世界アクエラに来たんだから、『好き』に生きればいいんだよっ!!皆、そうしてるんだからさっ!」


相変わらずむっつりとした陰気な雰囲気を醸し出したまま、遠くからアラニグラ達を『監視』していたエルファスは、戻ってきたヴァニタスにそう問い掛けた。


アラニグラを『セレスティアの慈悲ティアーズドロップ』に引き込むおつもりで?」

「う~ん、それも面白そうだけど、アラニグラが僕らに合流する事は多分ないんじゃないかなぁ~?ま、さっきも言った様に牽制になれば程度だよっ!それに、場合によっては、君が仕込んでくれた“仕掛け”よりも、更に『負のエネルギー』を回収出来るかもしれないしねぇ~?モノは試しってヤツ?」

「おお、こわいこわい。『カウコネス人』共にはとっては、まさしく『悪夢』ですな。」

「君に言われたくはないなぁ~。」


エルファスは、ちょっとした仕返しの様にヴァニタスに少し前に彼から言われた台詞を再現してみせた。

これには、ヴァニタスも心外そうに頬を膨らますのだったーーー。


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