第56話 ユストゥス教官のブートキャンプ(+α) 2



◇◆◇



僕は今、人生の岐路に立っている。

と、言うのは些か大袈裟な表現だが、『掃除人ワーカー』チームを『ノヴェール家』に引き渡し、『リベラシオン同盟』と『ノヴェール家』の『関係悪化』を避けるべく『裏工作』を施したあの『会談』から数日過ぎて、ユストゥスからとある提案を受けていたのである。


あるじさん、ちょっと相談があるんだけどよ。」

「んっ?どうした?」


シュプール我が家』にて、僕、アルメリア様、アイシャさん、ティーネ、ハンス、ジーク、ユストゥス、ドニさん、シモーヌさん、リサさん、アラン、エリー、それに先日から僕らの仲間入りを果たしたリオネリアさんとフィオレッタさん、それに『出張』から帰ってきたメルヒとイーナを加えた、総勢16名での夕食の席での事であった。


「しばらく『任務』はないんだろ?」

「ああ、『ロマリア王国この国』の『情勢』も大分落ち着いて来たからね。今後は『武力介入』よりも『ノヴェール家』を主体とした『交渉』にシフトする予定だよ。いくら“相手”に非があると言っても、全て“力づく”で事に当たるといずれ不満や歪みが出るモンだからね。ここら辺は面倒だけど、まぁ仕方ないよね。」


人の心は時に『不合理』である。

客観的に見てどちらに非があるかを明確にされても、それを頑なに認めようとせずに、むしろ強弁な態度を崩さないなどと言う事も起こりうる。

特に『貴族』とか『特権階級』の中には、『既得権益』に固執する余り、『視野狭窄しやきょうさく』に陥り、“時流”が見えていない事も往々にしてある。

『歴史』を鑑みれば、かつて栄華を誇っていた『文明』だろうと『国』だろうと『組織』だろうと、例外なく滅亡の憂き目にあうのだから、『世情』に合わせて自身も“変革”する必要があると思うのだが、まぁ、世の中そう簡単な話でもない。

今現在の『ロマリア王国この国』は、『リベラシオン同盟僕達』の活動の成果もあって、変化の兆しを見せつつある。

とは言え、いくら“相手”に非があると言っても、こちらが正しかったとしても、それで全て『正論』がまかり通るなんて事は意外と稀である。

叱られた子どもがヘソを曲げるなんて事が、『』でも普通にあるからだ。

それ故に、あまり追い込み過ぎずに、あえて“心理的”な『逃げ道』に誘導する事で、物事をスムーズに進める事も時に必要なのである。

今回のケースの場合は、『ノヴェール家』を『交渉役』に据える事によって、同じ『貴族』・『特権階級』の“立場”から諭して貰う事で、彼らに既存の理屈だけでは立ち行かなくなると『意識改革』を促す狙いがある。

それに、仮に“グレー”な人達が、この勝負から降りる事となっても、「負けたんじゃない、」と言う“言い訳”を用意してやる事で、彼らの『プライド』を保ちつつ『交渉事』を有利に進めるのも狙いの一つである。

一見バカみたいな話だが、世の中は『効率性』や『合理性』、『正論』だけでは立ち行かない事も往々にしてあるのだ。

それに、意外と『歴史』を(悪い方へ)進ませるのは、こうした『駄々っ子』みたいな連中なので、こうした『大人』の対応も必要になってくる。

何にせよ、今は『ノヴェール家』の『交渉』によって、『ロマリア王国この国』に『賛同者』を増やしていく『根回し』の時期と言う訳だ。

結局、世の中を動かすのは『多数派』な訳だからね。

まぁ、こんな感じにめんどくさいので、僕は正直『政治の話』には関わりたくないんだけどねー。

後、所謂『フロレンツルート(フロレンツ侯から押収して発覚した情報)』を全てツブしたので、今現在分かっていた囚われの『エルフ族(他種族)解放』にも一段落ついたという事情もあるんだけどね・・・。


「ま、難しい話は俺には分からんが、しばらく時間があるってんなら、レイナードの坊主達に『稽古』つけてやっても良いかい?“この間”の事が相当悔しかったみてぇでよぉ~。」

「へっ?」


それは・・・、どうなんだろう?

いや、レイナード達の“向上心”は僕も尊重する。

それに、いくら僕が『英雄』と言う“称号”を持っていても、『地球』で言う所の『正義の味方ヒーロー』には程遠いし、全ての人々を救える訳じゃない。

それ故に、あえてダールトンさん達にも『掃除人ワーカー』達の件では、ハンス達を“こっそり”『護衛』につける事で、ある種の『自覚・自立』を促したってのもある。

結局、自分の身は自分で守るしかないので、仮に僕達が居なかったとしても『対策』を取って貰わなければ困る場面も出てくるだろう。

特に、ダールトンさんとドロテオさんは、『リベラシオン同盟』の中心人物だからな。

まぁ、お二人なら、特に問題なくその意図は伝わった筈なので(ハンスとジークにも確認したし)、今後はしっかり『対策』を打つ事だろう。

同じ様に、レイナード達も僕達がいつでも守ってやれる訳ではない。

だからこそ、彼らも自分自身を鍛え、『レベルアップ』を図るのは良い事なのだが、『力』を持ったら持ったで、今度は別の『問題』も浮上してくるんだよねぇ・・・。


「アキトさん。何を考えているか大体察しはつきますが、以前私が言った事を思い出して下さいね。これは“彼ら”の『人生』なのです。どんなに『困難』が待ち構えていても、自ら進むと決めた者達を引き留める事は誰にも出来ないし、するべきではありません。その過程で成功と挫折を経験しようと、それは“彼ら”だけのモノです。なぜなら、“彼ら”の『物語』の『主人公』は“彼ら自身”なのですから、誰もそれに取って変わる事は出来ませんからね。」

「アルメリア様・・・。」


全てお見通しとばかりに、アルメリア様は僕に忠告してきた。

・・・確かにその通りだ。

心配だからと言って、何もさせないのでは何も成長しない。

某目が腐ってるぼっち主人公の所属している部活だって、「飢えた人に魚を与えるのではなく魚の取り方を教えて自立を促す」と言っている様に、むしろ僕が出来る事は消極的に否定する事ではなく、彼らの成長に協力してやる事かもしれない。


「ククク。よろしい、ならばこの僕が、いや『シュプール僕達』が全力を持って“サポート”してやろうじゃないか。『レベルアップ』を図る以上中途半端ではいけない。レイナード達には、存分に強くなって貰おうじゃないか。そうすれば、今後僕も心配する必要もなくなるからなっ!フハハハッ!!」

「あれ~?何かアキトさんの“変な”『スイッチ』が入っちゃいましたね~。」

「いやいや、アルメリア様。以前も似たような事ありませんでしたっけ?」

「いえいえ、今回はその様な意図はありませんよ、アイちゃん。ただ、まぁ、アキトさんの言う通り、中途半端な『力』を身に付けるより、いっそ目一杯強く鍛えた方が憂いもありませんよね~。ま、“彼ら”は死ぬほど後悔する事になるでしょうけど、これもまた『人生』デスヨネ~。」


オホホホッと乾いた笑いを浮かべるアルメリアに、アキト以外の皆がジト目で冷たい視線を浴びせた。

提案者本人であるユストゥスは、内心レイナード達に「坊主達、すまねぇ。早まったかもしれん・・・。」と、詫びるのだった。



◇◆◇



と、言う様なやり取りがあって、現在レイナード達は絶賛地獄の訓練中である。

え?

お前の人生の岐路ではなく、レイナード達の人生の岐路だって?

まぁ、それはそうなのだが、僕としても、『幼馴染み』達の幸せを願っていただけに、この『選択』は一つの大きな決断でもあったのだ。

『前世』での事も合わせると、レイナード達とは『精神年齢的』には30歳ぐらいの開きがあるので、『幼馴染み』であると同時に親類の子ども達みたいな感覚もある。

僕と関わらなければ、幸せな人生だったかもしれないし(まぁ逆の可能性も大いにあるのだが)、『パンデミックモンスター災害』に『掃除人ワーカー』の件と、立て続けに僕の“事情”に巻き込んでしまったのは紛れもない事実だしね。

だからこそ、ある意味過剰に心配していたのだが、今はもう吹っ切れたので、逆にレイナード達を「如何いかに強く育てるか?」に考え方がシフトしていた。

意外とゲームでも『キャラクター』を育てるのにはかなり凝るタイプだっただけに、レイナード達には迷惑な話だろうが、まぁ、僕に関わったのが運の尽きと諦めて貰おう。

少なくとも、強くなるのは損ではない。

ま、余計な面倒事に巻き込まれる可能性も上がるが、それも乗り越えられる様にしてやれば良いだけの話だ。

場合によっては、『魔獣の森』はクロ、ヤミ率いる『白狼』達に任せているが、『ルダの街』はレイナード達がいれば問題ないくらい強くして任せてしまった方が、『リベラシオン同盟僕達』としても有り難いしねー。

てな感じで、“リアル”レベリングを眺めているのであった。

ま、自分自身も経験済みだが(つか、今も絶賛レベリング中だが)、人の“成長”を見るのは、自分自身が強くなるのとはまた別の面白さがある。


「おいっ、ペースが落ちてるぞっ!強くなるにはまず何に置いても“下半身強化”からだっ!疲れてもう立てなくなってからが本当の勝負だぞっ!」


とは言っても、『稽古』をお願いされたのはユストゥスだし、僕が直接“指導”するのはレイナード達との『関係性』から、どうしてもお互い“甘さ”が出てしまうかもしれない。

そんな訳もあり、『鬼教官』役はユストゥスや他の皆に任せて、僕は所謂『裏方』に徹する事にした。

今、レイナード達は『シュプール』の『領域干渉けっかい』内(『シュプール建物』を起点に半径1kmぐらい)内を延々と走り込み中である。

多分、レイナード達が想像した『修行』・『稽古』とは異なると思うが、これはアルメリア様と僕とで考案・実践し、後にアイシャさんやティーネ達の意見も取り入れて完成した『シュプール式トレーニング方法』だ。

『スポーツ』の経験がある方ならお馴染みだと思うが、“下半身強化”はもっともポピュラーな基礎トレーニングの一つである。

この世界アクエラは、『ゲーム』の様に『レベル制』があるとは言え、基本は『現実』に準拠している。

確かに手っ取り早く“レベリング”するなら、『モンスター』や『魔獣』の討伐が効率的だが、『ゲーム』と違い“彼ら”もこの世界アクエラに生きる者達だ。

それ故、意味もなく殺傷するのはただの殺戮であり、生態系の破壊であり、ひいては自然破壊に繋がりかねない。

もちろん、僕ら『人間種』が生存する上での脅威となるなら話は別だが(生存競争だからね)、この方法を取るのは、別の観点からもあまりお奨めしない。

また、所謂『模擬戦』を行う“レベリング”も存在するが、先程言及した観点から、こちらもあまりお奨めしない。

どちらも『経験』として“体感”する事は重要だが、それらだけで『レベルアップ』を図ると、『ステイタス』的に非常に『アンバランス』になってしまうからである。

これが『スポーツ』であるなら、競技に合わせて“特化”する事は全然構わないし、確かに『実戦』に得意な『技術』(例えばレイナードなら『剣術』)を用いるのは有効な手段だが、いつでも手元に得意な『得物』がある訳でもないからだ。

『実戦』では想定外の事がよく起こる。

例えば、『剣術』なら得意な『得物』は『剣』となる訳だが、仮にそれが折れてしまったら?血や汗や脂で手から滑り落ちてしまったら?弾き飛ばされてしまったら?

『スポーツ』なら『タイム』をかける事も可能かもしれないが、『実戦』中はそんな訳にはいかない。

それなのに、そんな状況下で、『剣』がなければ何も出来ないのでは、生存率は極端に下がってしまうのである。

それ故に、特に『上級冒険者』ともなると、複数の『武術』・『武器術』に精通しているのである。

この事からも、『モンスター』や『魔獣』を討伐する“レベリング”、『模擬戦』を行う事での“レベリング”の場合は、どうしても得意な『武術』・『武器術』に頼る傾向にある為、あまりお奨めしないのである。

また、『ステイタス』の『パラメーター上昇率』にも影響が出る。

こうして地道にコツコツとトレーニングして『レベルアップ』すると、『レベルアップ』までにはそれなりに時間が掛かるが、討伐や『模擬戦』での『レベルアップ』に比べ、バランスの取れた『パラメーター上昇』が可能だ。

『ゲーム』的観点から見ても、“天井(レベル500がMAX)”が決まっていて、鍛え方によって『レベルアップ』時に『パラメーター』に差が出るのなら、早く効率的な『レベルアップ』より、バランスが良く『パラメーター上昇率』の高い『レベルアップ』を図る方が当然色々お得と言うモノである。

まぁ、この世界アクエラでは中々周知されていない方法なのだが・・・。

更には、『特製ドリンク(ドーピング風味)』を添える事で、上昇率はうなぎ登りである(もちろん合法的な物ですよ?)。

てな感じで、『特別合宿』も短期間である為、まずは徹底的に基礎から鍛えているのであった。


「何か、思っていたのと、違うんだけど・・・。」

「ハァ、ハァ、まだ私達は良いけど、テオは大丈夫かな?」

「うっ、おぇ、し、死ねる・・・。」

「おい、しっかりしろ、テオッ!」

「終わりが見えない、事って、こんなに、『精神的』にキツいのね、ハァ、ハァ・・・。」

「な、何で、私まで・・・。」

「さぁ、皆~。まだまだ先は長いよ~。速さを競ってる訳じゃないんだから、ペースを守って最後まで走りきろ~。」


そうそう、特別ゲストとして、レイナード達に同行して来た、『魔術師ギルド』からの僕の『監視者』であるヴィアーナ・クラウゼヴィッツさんもこの『特別プログラム』に参加して貰っている。

誤解なき様言っておくが、これは僕の提案ではなく、ユストゥスの提案である。

ユストゥスからの報告でも、『掃除人ワーカー』の襲撃からレイナード子ども達を守ろうとしていたらしいし、『監視者』と言っても、彼女自身は悪い人ではないだろう(まぁ、今現在『シュプール』の『領域干渉けっかい』を通り抜けているので、少なくとも“敵対”の意思は持っていないだろう)。

聞けば、非公式ながらも僕と接触を持つ事で、“見えている”ヴィアーナさんは、これからの『魔術師ギルド』の在り方を模索しようとしていたみたいなのだが、基本『脳筋』なユストゥスが、それならいっそあるじさんの『強さ』の秘密を体験してみてはどうかと提案したのである。

いや、ユストゥスの言わんとしている事は分かるのだが、基本的に、普通の『魔法使い』ってのは所謂『後衛職』なので、『体育会系』のノリにはあまり馴染みがないだろうにお気の毒である。

まぁ、しかし、この訪問を“視察”と捉えるなら、当然ながら明かせない“機密”もあるが、少なくとも僕が『魔術師ギルド』と“敵対”するつもりがない事がヴィアーナさんに伝われば万々歳だ。

その意味では、同じ様に生活してみるのも、一つの手ではある。

ちなみに、アイシャさんは『ムードメーカー』としてレイナード達と一緒に走っている。

身近に応援してくれる人がいると、意外と力が湧いてくるモノだからな。


「よしっ!ラスト一周っ!」


とは言え、レイナード達はまだ成長期前なので、過剰なトレーニングはあまりよろしくない。

なので、多少厳しくも無茶のない程度にトレーニング内容も調整している。


「よっしゃ、やってやるぜっ!」

「負けないよぉ~!」

「うっぷ、おぇっ、ゼィゼィ、ポッチャリには、厳し過ぎや、しませんかね・・・。」

「後、少しだぞっ、テオッ。」

「アイシャさんは、全然、余裕そうですね・・・?」

「まぁねぇ~。ケイア達よりもレベルが高いし、この程度なら、慣れたモノだよ。準備運動みたいなモノだしね~。」

「普段は、もっと、厳しい、鍛練を?」

「まぁ、その時々で変わるけどね。アキトが言うには、生活全てが一種のトレーニングになっているんだって。『狩り』一つ取っても、『魔法技術』を使えば“討伐”は簡単でも、そのあまりの『強力な力』故に損傷が激しくなっちゃって、『狩り』の意味を成さないから。だから、『魔法使い』が基本であるアキトも、普通に『武器術』や『罠』を用いるし、過剰な殺傷は生態系を崩して最終的には己の首を絞める事になるから、『隠密技術』や『体術』も駆使して、避けられる戦いは避けるしねぇ~。」


アイシャさんの言っている事は、ほとんどアルメリア様からの受け売りである。

僕自身も、こちらの世界アクエラに来た当初は、『ゲーム』的観点から普通に『モンスター』や『魔獣』を討伐する事が『レベルアップ』に必要不可欠なのだと勘違いしていたからなぁ。

ただ、前述の通り、今は必要な『狩り』と、厄介な『モンスター』や『魔獣』の間引き以外では彼らを害するつもりはない。

それに、『採掘』や『採集』が目的の場合、戦いを避ける様に心掛けると、自然と『隠密技術』や『体術』が身に付き、バランスの取れた『ステイタス構成』になっていくのである。

『魔法技術』に関しては、『座学』や『訓練』でもしっかり『レベル』が上がる。

何も戦う事だけが、成長する手段じゃないのだ。

まぁ、当たり前の事なんだけどねー、本来は。


「よしっ、よくやったぞっ!10分休憩だっ!」

「皆さんお疲れ様で~す。飲み物をどうぞ~!」

「『レモンのハチミツ漬け』です。こちらもどうぞ~!」


ユストゥスが、最後尾のリベリト(テオの付き添い)とテオが辿り着くのを待ってから、へたりこんだレイナード達に一声掛けてから、休憩を指示した。

それに反応して、リオネリアさんとフィオレッタさんが、飲み物と『レモンのハチミツ漬け』をレイナード達に配給していた。

何か、ここだけ見ると何かの部活みたいな雰囲気である。


主様あるじさま。“設備”の設置は御済みですか?」

「ああ、ジーク。昔僕が使っていた“設備”の補強をしただけだからね。問題なく使えるよ。」

「分かりました。」


レイナード達の休憩中に、次のトレーニングに必要な準備が済んでいるかの確認に、ユストゥスのサポートであるジークが訪れた。

それに対して、僕はそう応えるのだった。



次のトレーニングは、所謂『アスレチック』を用いたトレーニングであった。

『地球』では、子どもの遊具としてもポピュラーだが、『軍隊』などにも採用される事がある立派なトレーニングの一つである。

様々な障害物を乗り越える事は全身運動だし、バランス感覚を養う上でも非常に有効である。

レイナード達にはまだ始めたばかりだから行わないが、僕らがこのトレーニングをやっていた時には、最終的にここに妨害や襲撃も加わえていた。

『実戦』では常に有利な足場を確保出来る訳ではないし、いつ攻撃されるかも分からない。

そうした場合の対処を身に付けるのである。


「これは、疲れるけど面白いなっ!」

「これ私得意かも~。」

「ポッチャリにも、もう少し、優しくしてくれませんかねぇ。いや、これは面白いけど。」

「もうちょい痩せような、テオ。いや、これが終わる頃にはかなり痩せてると思うけど。」

「『力』に片寄り過ぎなんだよ、テオは。」

「もう吹っ切れましたっ!いくらでも付き合ってあげますともっ!」

「おっ、ヴィアーナさんやるねぇ~。でも、これもペースを守った方が良いよ~?」

「そう言うアイシャさんは、ヒョイヒョイ登っていきますね~。」

「アキトやティーネ達はもっと凄いよ?森の中も縦横無尽に駆け回りながら、木々を足場にして一回も地面に足をつけないなんて事も当たり前だし。」

あるじさんはともかく、俺らは『森の民』である『エルフ族』だからな。身軽さなら、『他種族』には負けてられないぜっ!」


このスキルのおかげで、この間の“ホームラン事件”の時には命拾いしたのである。

まぁ、僕の場合は、環境もさる事ながらクロとヤミとの“遊び”が大きかった様に思う。

野性動物かつ『魔獣』である彼らクロとヤミと渡り合うなら、自分もその程度出来ないとそもそも勝負にすらならないからな。

やはり、“遊び”ながら学ぶのは、上達も早いのだろう。

それに、アイシャさんやヴィアーナさんの様子を見るに、“遊び”ながらコミュニケーションを取ると、すぐに仲良くなる傾向にある。

子どもが一度一緒に遊べば友達、みたいな感じか?


「よ~し、ゴールまで辿り着いたら、一旦また休憩を挟むぞ~。怪我したヤツはいないか~?」

「怪我じゃないけど、気持ち悪いっス。」


テオがおずおずとそう訴えたが、ユストゥスは爽やかに一刀両断した。


「吐いてないなら、まだ大丈夫だっ!それに、次は『体力トレーニング』じゃないから、心配するなっ!」

「Oh、無視!?」


諦めろ、テオ。

死ぬほどキツいだろうが、いずれこの時の事を感謝する時がきっと来る。

具体的には、痩せてモテモテになるとかな。

まぁ、テオ的には、それよりも『狩人ハンター』スキルが上がると言った方がモチベーションが上がるかもしれんがな。



次は、『体術』の『訓練』である。

『体術』には、主に『身体操作』と『総合的な徒手空拳』が内包されている。

まぁ、そこから『無手』での『武術』(例えば、『柔術』とか『拳法』、『格闘技』)などに発展していく事もあるが、今回の場合は、『体術』を駆使した咄嗟の時にどう対処するかのトレーニングが主な狙いだ。


「次は、『シュプール』内を使用した“鬼ごっこ”だ。“鬼”役はジークに担当して貰う。ハンデとして、ジークからの“攻撃”は一切禁止とする。ただし、相手を捕まえる上での“タッチ”はOKだ。レイナード達はジークから出来るだけ逃げ延びろ。『武器』・『飛び道具類』・『魔法』の使用は禁止だが、それ以外なら、『罠』を使おうが、“鬼”に“攻撃”しようが、隠れようが自由だ。ただし、“鬼”に“攻撃”する場合は、“タッチ”されるリスクがある事は頭に入れておけ。制限時間は30分。それ以内に全員捕まえれば、ジークの勝ち。一人でも逃げ延びたら、レイナード達の勝ちだ。ああ、そうそう、勝った場合は、あるじさんよりご褒美があるそうだ。ただし、負けた場合は、ペナルティだ。」

「よっし、やってやるぜっ!」

「隠れるのは得意だよ~。」

「『罠』を使っていいなら、俺にもワンチャンあるかもな。」

「皆、油断は禁物だぞ。相手はジークさんだ。固まっていたら、一網打尽にされるぞ。」

「“遊び”を『訓練』に取り入れてるんだね。アキトの発案かな?」

「何だか、童心に返った様な気分ですね。あら、今回はアイシャさんは参加されませんのね?」

「私が入ってると、ジークが可哀想だからね~。それに、ハンデが有り過ぎちゃうと、レイナード達の『訓練』にならないからね。」

「よしっ、皆散らばれっ!5分後にスタートするぞっ!」

「「「「「「はいっ!」」」」」」


さてはて、どのくらい保つかな?



―――10分後。


「だぁ~、強過ぎだって、ジーク兄ちゃんっ!」

「アッサリ捕まっちゃったねぇ~。」

「『罠』も簡単に掻い潜られちゃったよ。」

「足止めにもならんかったな。もう少し『連携』を考えた方が良いか?」

「まずは隠れる事を工夫しないとダメかも。『身体能力』だけで逃げ切るのは、今の私達じゃ無理だよ。」

「如何に時間を稼ぐかがポイントになりそうですね。」


ものの見事に『全滅』でした。

まぁ、レイナード達とジークの『レベル差』を考えれば当たり前だけどね。

皆も、相手が遥か“格上”であるジークだからか、特に不貞腐れる様子もなく、どこが悪かったかの意見を出し合って分析をしている。

これは、良い傾向だ。

何も考えずに、ただ闇雲に逃げ回ったところで、ジーク相手には通用しない。

その為、常に周囲の状況を確認しながら、素早い『状況判断』と『状況選択』を身に付けなければならない。

ただし、これにはある程度の“慣れ”が必要になってくるので、何度も繰り返し行動と分析を重ねる事が重要である。

これによって、咄嗟の時にどうするかの対処の幅が広がるのである。


「まっ、まだ初日だしこんなモンだな。ペナルティは今回はおまけしてやるよ。ただし、明日からは容赦なくペナルティを与えるので、そのつもりで挑む様にっ!」

「「「「「「はいっ!」」」」」」

「よしっ。んじゃ、次、と行きたいところだが、そろそろ良い時間だな。飯にしようぜっ!」

「やった~!ハラペコだったんだぉ~!」

「これだけ動いたのに、食欲があるのはちょっと変だけどねぇ~。」

「肉、肉っ!!」

「落ち着け、テオッ!」

「多分あの『ドリンク』に秘密があるんじゃないかな?疲れが、すぐ回復するし。」

「『体力回復ポーション』の一種じゃないかしら?『エルフ族』は『薬学』に造形が深いと聞くわ。」


バネッサとケイア、ヴィアーナさんはよく観察しているなぁ。

それに比べて、男共ときたら・・・。

あの『特製ドリンク』には、水分補給、体力回復、疲労回復に加え、各種栄養成分をバランス良く配合している『シュプールオリジナル』の物だ。

若干ドーピング染みているが、それにより『パラメーター上昇率』を飛躍的に高める効果もあるのだ。

『医食同源』と言う言葉もある通り、強い肉体を作るには、食から気を使うとより効果的なのは、『スポーツ科学』でも実証されているしね。


「お~い、肉焼けてるぞぉ~!」


『裏方』として、設備補強やら、食事の支度やらをこなしていた僕は、レイナード達に向かってそう声を掛けた。

その言葉に、レイナード達はまだまだ元気に食事に殺到するのだったーーー。


さて、大戦争の昼食を乗り越えたら、恐怖の時間の始まりだ。

レイナード達は、果たしてこれを乗り越える事が出来るだろうか?


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