幕間 それぞれの『変革』

第55話 ユストゥス教官のブートキャンプ(+α) 1



◇◆◇



「父さん、話があるんだけど。」

「・・・いきなりどうしたんだ、レイナード?」


掃除人ワーカー』・シュマイトの“襲撃事件”から、辛くも生き延びたレイナードは、数日後のとある日の夕食の席にて『元・騎士』にして、今現在は『ルダの街』を守る『憲兵』の一人、父親・バドにこう切り出した。

神妙そうな顔をしたレイナードの表情に、バドもその妻・ニーナも訝しげな顔をした。



バドもニーナも、レイナード達の身に起こった事も、また、『リベラシオン同盟』の事情もある程度把握している。

本来なら、子を持つ親としては、『リベラシオン同盟アキト達』が悪い訳ではなくとも、を呼び寄せてしまう集団とは距離を置かせるモノだが、そこはバドもニーナも子どもの“自主性”を尊重していた。

と、言うのも、この世界アクエラではこうした事態に一切見舞われる事なく一生を終える事は稀で(まぁ、『』に狙われる事などそうそうないが)、『村』や『街』の“外”では『盗賊団』の様な『無法者』達が跳梁跋扈ちょうりょうばっこする『世界アクエラ』故に、『危険』に対する“気構え”、あるいは“覚悟”を学ばせるのも、一種の『教育』だからである。

まぁ、だからと言って心配ではない訳では当然ないし、子どもの『メンタル面』の“サポート”をするのも、親の務めである。

そんな訳で、ある意味“過敏”になっているであろうレイナードの様子を窺い、慎重に話を進めようとしていたのだが・・・。

バドもニーナも、それにバネッサ、テオ、リベルト、ケイアの家族達も、レイナード達の“図太い”『メンタル』を見誤っていた。

あるいは、これもアキトの『事象起点フラグメイカー』の『影響』かもしれないが。



「いやね、この間“変な男”にボコボコにされちゃったじゃん?それが悔しくてユストゥス兄ちゃんに相談したら、しばらくは“任務”もないから稽古をつけてくれるって話になったんだよ。だから、しばらく『シュプールアキトんトコ』に行ってきてもいいかなぁ~と思って・・・。」

「「へっ???」」


そのレイナードのあっけらかんとした態度に、バドもニーナも一瞬呆気に取られてしまった。


「いやいや、レイナード。この間危ない事があったばかりじゃないか?その、アキトを怖いなぁ~とか、そういった気持ちはないのか?」


そのあまりに飄々としたレイナードの様子に、思わずバドはそう確認せざるを得なかった。

普通なら、こういった場合、アキトは忌避される様になるだろう。

例えるなら、『不良』の『抗争』に巻き込まれてしまった『友達』を避けるみたいな、本人が悪くなくとも、『危険』を呼び寄せてしまう人は避けられる傾向にあるだろう。

まぁ、中にはその『友達』に“自主的”に協力する者もいるかもしれないが、それと親御さんがどう考えるかは話は別である。

しかし、レイナードは、そのバドの発言にまるで分からないと言った表情をした。


「なんで?別にこの間の事はアキトが悪い訳じゃないじゃん。逆に俺は、いや俺達は、自分達がアキトの『弱点』だと思われた事の方がムカつくんだけど。後、それにあらがえなかった自分にもさ。」


レイナードの発言に、バドは「なるほど」と思った。

確かに親からしたら危険な渦中に飛び込んで行く事をよしとはしないが、レイナードの意見ももっともである。

もちろん、全てが全てでそうではないが、時にあらがう事は、『人生』を切り開いて行く上でも、『信念』を貫き通す上でも重要な意味合いを持つからだ。

例えば、“戦う術”を学ぶのもこの世界アクエラでは『選択肢』として普通に有りだ。

本人が望んでなくとも、危険が向こうからやってくる事はあるからだ。

それが『モンスター』や『魔獣』の脅威であったり、あるいは『盗賊団』の様な『人間』の『悪意』であったりした場合、この“戦う術”を持たなければ、ただただ搾取されて終わってしまう。

それ故、かつてアルメリアが述べた通り、この世界アクエラの者達は、弱い者達でも最低レベル100は有り、最低限の“戦う術”を身に付けている(と、言っても、それで即座に“対応”出来るかは、また別の話であるが)。

そして、レイナードはそれで満足せずに、また、『壁』にぶつかってもヘコたれたりせずに、更なる高みを目指すつもりなのだ。

バド自身も、少年時代にとある『事件』をキッカケに、“皆を守る”と志して『騎士』に、今現在は『憲兵』となった経緯がある。

危険だから、危ないからと言って、子どもの“向上心”に水を差すのは、子どもの成長を阻害するだけだし、何よりも野暮と言うモノだろう。


「・・・レイナード、一つ聞きたい。お前は『力』を持って何を成したいのだ?」


だからこそ、バドはその事だけは確認しておく必要があった。

バド自身は、すでにレイナードを止めるつもりはない。

バド自身もそうだった様に、“強くなりたい”と言う気持ちは痛いほど分かるからだ。

しかし、時に『力』はその人の『内面』を“変容”させてしまう事もあるし、その結果『力』に呑み込まれてしまう者達も、世の中には一定数いる。

だからこそ、『力』を持つ者達は常に己を律する必要があるし、分かりやすくそれを見定める上でも、その『理由』、あるいは『信念』は大きな意味を持つ。

だがしかし、またしてもバドはレイナードを見誤っていた。

いや、関係性が近いからこそ見えなくなっていたのかもしれない。

レイナードは、バドのその質問に、恥ずかしげに顔を赤らめ、バドとニーナを一瞥すると、意を決した様に呟いた。


「そ、それは、その~・・・。父さんみたいに皆を守れる人になれたらなぁ~って思ってるっつ~か。」

「へっ!?」

「ウフフッ。」

「だからぁ~、俺は父さんみたいになりたいんだよっ!『騎士』になりたかったのっ!今は、別の『職業』も有りかなぁ~とは思ってるけど、それでも父さんは俺の“憧れ”だからさ。」

「お、おう。」


面と向かって父親に尊敬している事を伝えたレイナードは恥ずかしそうにしているが、バドは一瞬何を言ってるか分からなかった。

次第に理解が追い付くと、バドの心にグッと来るモノがあったが、レイナードの手前、何とか表情に出す事はなかったが。

父親、特に男の子の父親なら、子どもが自分に憧れて、自分と同じ道を歩む事は、苦労を知っている分、複雑な気持ちもあるだろうが、単純に嬉しくもあるだろう。

ニーナは、レイナードのその気持ちを以前から知っていたので、ニコニコと微笑んでいるが、バドとレイナードは、ある意味変な空気になってしまった。


「な、なら、心配はいらんだろうが、その身に付けた『力』を悪用しない様にな。父さんとの約束だぞ。」

「分かってるさっ!じゃぁ、行ってきてもいいでしょ?」

「あ、ああ、ユストゥスさんにみっちりシゴいてきて貰え。」

「うんっ!!」


想定していた事とは大分違ったが、結局バドはレイナードにユストゥスとの『訓練』の許可を出した。

話が一段落付くと、今度はニーナがレイナードに問い掛けた。


「いつから行くつもりなの?」

「う~ん、皆次第だけど、二、三日後になるんじゃないかな?」

「そう、分かったわ。・・・話が終わったのならレイナードはお風呂に入ってもう寝なさい。体調を常に万全にしておくのも、重要な仕事ですからね。」

「はぁ~い。」


「ごちそうさまっ!」と元気良く言い、ドタドタとレイナードは風呂場に向かっていった。


「ニーナ・・・。」

「はいはい、今はレイナードの成長を見守りましょう?」


うるうるとした表情のバドに多少呆れながらも、ニーナは二つのコップにお酒を注いだ。

無言で二人は一足早い子どもの成長を祝って、乾杯するのだった。


その後、レイナード宅ではバドの“男泣き”をニーナが慰めると言う様な一場面もあった様だが、それはここでは割愛しておく。



◇◆◇



ヴィアーナ・クラウゼヴィッツは頭を悩ませていた。

先日の『掃除人ワーカー』・シュマイトの“襲撃事件”の折に、子ども達を守る為とは言え、思わず『魔法』を使い、“『魔術師』バレ”してしまったからである。

これを知られたのが、レイナード達やポールだけだったらまだ色々と誤魔化し様もあったのだが、最終的に自分達を助けてくれた『エルフ族』・ユストゥスにまで知られてしまったのは彼女としては痛かった。

ユストゥスが自分の『監視対象アキト・ストレリチア』の『関係者』だったからである。

それ故、ヴィアーナはどうしたモノかと頭を抱えていたのだった。


「はぁ~、あの方ユストゥスなら口は軽くないと思うけど、あの方ユストゥスの発言を信じるなら、あの方ユストゥスは『監視対象アキト・ストレリチア』の部下みたいなモノなのよねぇ~。」


今さらヴィアーナは、『監視対象アキト・ストレリチア』に対する『敵愾心』みたいなモノはもう持っていない。

と、言うのも、アキトの『魔法使い』としての在り方、『魔法技術』との向き合い方と、『魔術師ギルド』のそれを比較した場合に、彼女の中で言い知れぬ違和感が出てきたからである。

これは、ヴィアーナが『ルダの街』に派遣された事により、『魔術師ギルド』と一時期にでも距離を置いた事により見えてきた、そもそもの疑問だった。

確かに『魔術師ギルド』設立の経緯、この世界アクエラの『魔法技術』喪失、それからの復興の『歴史』を知っていれば、『魔法技術保護』を謳う『魔術師ギルド』の在り方や立場は理解出来なくはない。

その最も簡単な手段として、『権力者』に庇護を求めた事も、ある意味では自然の流れだろう。

しかし、その関係が長く続く事によって、『魔術師ギルド』そのものが『権力』に固執する様になってしまったのもまた言い逃れ様のない事実である。

それ故、『魔法技術』は大いなる『可能性』を秘めているのにも関わらず、その『恩恵』にあずかる者達が極一部の者達だけという非常に限定的なモノとなってしまったのである。

もちろん、『魔法技術』は危険な側面もあるので、『使い手』を“選別”する必要があるのは一見理にかなっている様に見えるが、そもそも、過去の『魔法使い』達も、誰彼構わずその『技術』を伝えていた訳では当然ない。

むしろ、過去の『魔法使い』達は、『権力』とは距離を置いていた。

なぜなら、『魔法技術』は非常に利便性や応用性に優れている故に、『争い事』に利用される危険性があるからだ。

それ故、『魔法使い』、『魔道師』達は『中立』を保っていたのである。

この事から、過去の『魔法使い』達が、『力を持つ者の責任』を常に意識していた事が窺える。

折しも、バドがレイナードに諭した話と似通ったモノであった。

しかし、人は環境に適応する生き物である。

逆の言い方をするならば、どこかに『所属』する事によって、その在り方を“変容”させる事もあると言う事である。

もし、『魔術師ギルド』の在り方を正すとしたら、まず“選別”方法から正す必要があるだろう。

もちろん、『特権階級』に限定しているのも、ある意味では理にかなっている。

当然ながら、『資金力』の点に置いて、『貴族』と『平民』では雲泥の差がある。

つまり、そうした点から、『教育』の『質』にも差が出てしまうのである。

現代の『地球』においても似通った例には枚挙に暇がないが、『教育』とは突き詰めて言ってしまえば、その人の『選択肢』の『可能性』を広げる事を言う。

それ故に、極端な例だが、ある程度の『教育』を受けられない者達は『職業的』に『肉体労働』≒『使われる側』、高い『教育』を受けてきた者達は『職業的』に『頭脳労働』≒『使う側』の『構図』が出来上がり、中々脱け出せない『サイクル』が出来上がるのである。

その為、そうした『サイクル』から脱け出す為に、多くの親達は高い『教育』を受けさせたがるのである。

ま、それはともかく。

『魔法技術』には、当然ながら高い『教養』が必要になってくる。

一見真逆な様にも見えるが、突き詰めて言ってしまえば、『魔法技術』と『科学技術』は、系統違いの兄弟の様な関係だからだ。

『アプローチ』は違えども、『物質世界』に『干渉』する点では同じなので、例えば、『火』一つとって見た所で、その“事の起こり方”は違っていても、その後の『プロセス』は似通っている。

以前にも言及したと思うが、『火』は当然ながら、燃やす対象、環境が整っていなければ、鎮火してしまう。

『科学的知識』がなくとも、『火』を『水』で消す事が可能なのは、何となく分かるかもしれないが、『知識』が無ければ、『二酸化炭素』をその周りに満たす事で“消火”する方法は知り得ないだろう。

まぁ、これは極端な例だが、高い『教育』を受けている故に、『貴族』達には、『魔法技術』への理解が比較的容易である点が重要なのである。

もちろん、『魔術師ギルド』としても、以前とはまた意味合いが違うが、自分達の『価値』を保つ手札として、“後継者”以外の者達に『奥義』、『秘伝』の様な『高位魔法』を伝える訳にはいかない。

その為、画一的な『教育』を受けさせるだけなら、一から教えるよりも手間が少ない分、すでに高い『教養』を持っている『特権階級』に限定した方が都合が良いと言う側面もあるのである。

しかし、そうなると、当然ながら『魔法技術』は衰退、と言うのは言い過ぎかもしれないが、停滞を余儀無くされる。

と、言うのも、『貴族』は絶対数が少ないので、当然ながら発展の可能性はその分小さくなるからだ。

『技術』とは、結局使われる事に意味があり、その過程で新たな『技術』が派生する事もある。

例えば、アキトが以前バッティオ親方に依頼された様な、『土木作業』に『魔法技術』を転用する事も可能だし、それを発展させて『魔素』と『魔法陣(魔法式)』を研究する事により、誰にでも使える新たな作業用の『魔道具マジックアイテム』を開発する事も可能だろう。

しかし、これは、その作業に従事している者、あるいは、それを実際に目の当たりにした者でないと出てこない発想である。

その為、かつての『魔法使い』、『魔道師』達は、見聞を広める上でも、頻繁に旅を重ねていたと伝えられている。

まぁ、その結果それらの『技術』や『道具』を悪用されるケースも出てくるだろうが、もちろん、そうした事への配慮や懸念も必要だろうが、それも究極的には『使い手』側の『道徳心』や『倫理観』の問題である。

それに、それは何も『魔法技術』だけに限った話ではない。

とまあ、そうした『魔法技術』の様々な可能性を、『魔術師ギルド』は極端な『保守主義』に傾倒する事により、潰してしまっているのではないかとの疑念がヴィアーナの中に生まれていたのであった。


「ああ、ヴィアーナさん。ここにいたんですねっ!」

「・・・んっ?あら、ケイア。どうしたの?」


思考の海に沈んでいたヴィアーナを引き上げたのは、ケイアだった。


「あの、ちょっと相談があるんですけど・・・。」

「?」


手慣れた様子で『お針子』仕事をこなしながらヴィアーナは考え事をしていたので、当然ながら周りには『お針子』仲間の奥様方がいる。

ケイアは、彼女達の様子を気にしながら口ごもっているので、人には聞かれたくないたぐいの相談事なのだろうとヴィアーナは当たりを付けた。


「すいません。ちょっと休憩頂きますね。」

「はいよ~。」


基本的に『ルダの街この街』の人達はおおらかで寛容である。

打てば響く様にそう言葉を交わし、ヴィアーナとケイアはその工房を離れるのだった。



途中の屋台で飲み物を買い、工房からそう遠くない町民達で憩う広場の一角でヴィアーナとケイアは腰を落ち着けた。


「はい、どうぞ。」

「あっ、ありがとうございます。」


ヴィアーナは、先程買った飲み物をケイアに渡しながら、話を切り出した。


「それで、相談と言うのは?」

「・・・はい。あの、言いにくいのですが、ヴィアーナさんは、その、『魔術師ギルド』の方ですよね?」


小声で問い掛けるケイアに、ヴィアーナは一瞬驚いた表情をしたが、その後少し諦めた様に頷いた。

一瞬誤魔化す事も頭をよぎったが、事実『魔術師ギルド』所属以外にも『魔法使い』はそれなりにいるが、ヴィアーナはそれをしなかった。


「この間『魔法』見せちゃったモノね。ええ、そうよ。」

「あ、いえ、誰かに言いふらすつもりはありませんよ。私も、レイナード達も。むしろ、あの時は助けて頂いてありがとうございました。」


幼いながらも賢いケイアは、ヴィアーナが『魔法使い』である事を隠していたのには何らかの理由がある事を察していた。

それはレイナード達も同じであり、吹聴してまわる様な恩を仇で返す様な真似はしていなかった。

その言葉に、少し心が軽くなる事を感じて、ヴィアーナは子ども達に気を遣われた事に苦笑した。


「いえ、気にしないで。それに私はあまり役に立たなかったから。最終的に助けてくださったのも、『エルフ族』のユストゥスさんだったしね。」

「・・・それでもヴィアーナさんは私よりも遥かに先の領域にいます。相談と言うのは正にその事なのです。」


『準備不足』もあったが、『実戦』レベルで己の『魔法』が役立たなかった事に、少なからず『自信』を喪失させていたヴィアーナはそう自嘲したが、ケイアは即座に否定した。

少し思い詰めた表情をしながら、ケイアは決意した様にケイアはこう言葉を繋いだ。


「ヴィアーナさん。私を貴女の『弟子』にして頂けませんか!?」

「えっ!?」


まさか、その様な事を言われるとは思っていなかったヴィアーナは、今度こそ驚き固まってしまった。


「意味が分かって言っているの?今さらケイアに隠す様な事じゃないから言うけど、私が『ルダの街この街』に来た理由は、『魔術師ギルド』以外で確認された、『高位魔法』を操るアキト・ストレリチアの『監視』の為よ?言わば私は彼の『敵対者』とも言えるのよ?」


レイナード達との接点を持つ内に、ケイアの『監視対象アキト・ストレリチア』に対する“特別な気持ち”にヴィアーナは気が付いていた。

だからこそ、ヴィアーナは、アキトを『監視対象』としてではなく、一個の“個人”として見る様になり、先程述べた様な『魔術師ギルド』に対する疑問を持つ様になったのだが。

ケイアも、ヴィアーナの言葉に驚きの表情を浮かべたが、すぐに微笑みに変わった。


「でも、今はヴィアーナさんにそのつもりはない、ですよね?元々はどうだったか知りませんけど、そうじゃなきゃ私にその事を言うメリットがありませんから。」


そうケイアに指摘されて、ヴィアーナは自分自身の“変化”を自覚した。


「それに、これはアキトにも言われた事なんです。アキトにも『魔法』を教えてほしいと頼んだんですけど、僕の様な『』に教わるとケイアの為にならないって断られました。今にして思えば、私が下手に『力』を身につけると、変な事に巻き込まれるとアキトは考えたのでしょうね。」

「それは、ない、とは言い切れないわね・・・。」


ケイアが『高位魔法』を身につければ、『モンスター』や『魔獣』、『盗賊団』と言った脅威を相手取る場合は有利に働くだろうが、今度は、その『力』を狙って各陣営が介入する事態になる事は想像に難くない。

ヴィアーナもその可能性に思い至り、渋い表情をした。


「その時、こうも言われたんです。ケイアの『熱意』や『覚悟』がなら『魔術師ギルド』に直談判した方が良いって。」

「なるほどね・・・。」


今さらケイアもヴィアーナも驚かないが、アキトの思慮深さ・先見の明には思わず舌を巻いた。

単純な話、そうした事態を回避するには、『組織』に所属してしまえば手っ取り早い。

要は、そう言った介入は、その『力』が自分達のモノとなるか他陣営のモノとなるかの『綱引き』の意味合いが強いので、『所属先』が定まっていれば、そうした『横やり』も少なくなるのである。

異端フリー』でいる事は、『自由』と言うメリットはあるが、『自衛手段』や『覚悟』も同時に必要になってくるし、よほどの『影響力』や膨大な『知識』や『叡智』がなければ、一度出来上がった『社会システム』を覆すのは容易ではない。

その点、『魔術師ギルド』は『影響力』のある『組織』故に、色々な“しがらみ”もあるが、万が一『内側』に潜り込めれば、庇護も期待出来るし、様々な『改革』、そこまでいかなくとも、『意識改革』には一石を投じる事が、『外側』からよりは容易だろう。

もちろん、アキトにそこまでの“思惑”があった訳ではないが、彼の何気ない行動や言動は、この世界アクエラの人達とは根本的に違う為、見る人によれば『危険』と感じるだろうし、また別の観点からは『新風』と感じる者達もいる。

だからこそ、アキト自身は慎重に行動しているつもりでも、もの凄い勢いで、特に『ロマリア王国この国』に置ける『社会システム』は『変革』の波を受けているのだが。


「・・・『弟子入り』の話だけど、少し考えさせて貰っても良いかしら?私自身、アキトや『魔術師ギルド』とはしっかり向き合う必要性を感じるし。」


それ故、“見えている人達”には、既存の『システム』に固執していると、“時流”に取り残されると感じるだろう。

すでに、アキトは様々な点で“常識”を覆しているのだから。


「ええ、もちろんです。あっ、それならヴィアーナさんも私達と一緒に『シュプールアキトの所』に行きませんか?私達、この間の“不審人物襲撃事件”の反省も踏まえて、ユストゥスさんに稽古をつけて貰う予定なんです。」

「えっ?」


そのケイアの発言にヴィアーナはまたも驚いてしまった。

ユストゥスの発言を信じるなら、この間の“不審人物”は、アキトに対する『切り札』としてレイナード達をつけ狙った事になる。

“想い人”であるアキトの“足枷”になったと感じたであろうケイアは、少なからずその事に傷付いている筈である。

にも関わらず、その事実を受け入れた上で、前向きに今現在の自分達と向き合い、“殻”を破ろうと動き出しているのだ。

その『若さ』故の眩しさにヴィアーナは感じるモノがあった。

私も、いえ、『魔術師ギルド私達』も変わらなきゃいけないのかもしれないわね。

そう、ヴィアーナは言外に伝えられた様に感じた。


「そうね。それも良いかもね。」

「そうですよ。それにアキトならヴィアーナさんの“事情”を素直に話しても普通に受け入れてくれそうですけど。貴女も大変なんですねぇ~とか言って。」


ケイアの発言は普通にありえそうであった。

こちらの世界アクエラに来てからは、アキトは基本的に『自由人』だが、『前世』では『役人』として『社会人経験』もある。

つまり、様々な“しがらみ”の中に生きていたので、時に自分の意に沿わない『理不尽』な事にもそれなりに遭遇している。

それ故、明確に『敵対』しない限り、大抵の事はあまり気にしない。

『大人』が『組織』に属していれば、色々な“しがらみ”がある事を理解しているからである。

あるいは、アキト自身も、また、『ルダの街この街』の人々に『影響』を受けたのかもしれないが。


「それは流石に・・・。ない、とは言い切れないわね・・・。」


ずっと『監視』していた関係上、アキトの様々な“常識”外れの行動や言動を見ていたヴィアーナは、冷や汗を流していた。

もしかして、あの方ユストゥスに知られる前から、私の『正体』に気付いていたなんて事は、流石にない、わよね?

そう疑心暗鬼になりながらも、ヴィアーナもまた今現在の『魔術師ギルド』とその行く末、自分がどうするべきのかを模索し始めるのだったーーー。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る