第36話 『ルダの街』にて 2



◇◆◇



「さて、まずはダールトンさんの所に向かおうかな。」

「ダールトン?」

「誰それ~?」


バッティオ親方の『依頼』をサクッと終わらせた僕は、『ルダの街』の中に入った。

ルダの街この街』では既に『鬼人族アイシャさん』や、『エルフ族ティーネ達』は受け入れられているので、彼女達も顔を隠していない。

僕も、『仮面』で顔を隠さなくて済むのでホッとしている。

まぁ、アイシャさんとティーネはなぜか渋い顔をしているが・・・。

ちなみに、リーゼロッテさんは『ドワーフ族』だが、『ドワーフ族』は『人間族』とも友好関係を結んでいるので、珍しくはあるが、『人間族の領域』でも結構見掛けるらしい。

もっとも、『ルダの街この街』では滅多にお目に掛かれないので、行き交う人々は、彼女をもの珍しそうに見ている。

その視線に、リーゼロッテさんは居心地悪そうにしているが、悪意のあるモノではないので僕も何とも言えなかった。

まぁ、僕らとドニさん一家はいいとしても、問題は被害者の方達である。

彼らは、捕らわれた関係で『身分証』を持っていない人も多い。

当然ながら、そうした人達が『検問所』を通過する事は通常不可能なのだが、そこはフロレンツ侯のお墨付きである『リベラシオン同盟』である。

『保護者』である僕らと一緒であれば、特に問題はない。

ルダの街この街』の『憲兵』の皆さんとは知り合いであるし、彼らも既に慣れたモノである。

そんな訳で、僕らは『検問所』を無事通過し、『ルダの街』を歩いているのだった。

珍しい『エルフ族』のハンス達に夢中だったアランくんとエレオノールちゃんは、彼らが『シュプール』に向かう為、一時的に別れたので今は僕に引っ付いている。

僕も、子ども(自分も子どもだが・・・)に懐かれて悪い気はしなかった。


「ダールトンさんは『ルダの街この街』で一番エライ人だよ。僕の友達のお父さんでもあるけど・・・。」

「ふ~ん。」

「エリー、ちゃんとご挨拶出来るよっ!こんにちは、エレオノール、四才ですっ!」

「おっ、エライぞ、エレオノールちゃん。」

「えへへ~!」

「アキト、アキト、俺だって出来るぞっ!こんちは、アラン、八才ですっ!好きな物は、シチューですっ!」

「ほう、アランくんはシチューが好きなんだな。」

「ああっ、母さんの作るシチューはウマイんだぜっ!」

「エリーもシチュー好き~!」

「それは興味深いな・・・。シモーヌさんは、料理がお得意なんですか?」

「まぁ、得意かと言われると微妙な所だけど、ま、キライじゃないね。ウチには大食らいと育ち盛りがいるから、必然的に慣れちまっただけさ。」

「いやいや、アキト。こいつの手料理は絶品だぜ?たまに付き合いで外で飲む事があった俺だが、メシだけはこいつの手料理じゃねぇと満足出来ねぇから家に帰るまでろくに食べないほどさ。」

「それは身体と胃に悪いので、ちゃんと食べて下さいよ・・・。」

「おっ、アキトはちゃ~んと分かってるんだねっ!もっと言っておくれよっ!」

「まぁ、いいじゃねぇか・・・。そうだっ!アキトんトコに世話になるんだし、お前一度手料理を振る舞ってやんな。きっとびっくりするぜっ!」

「それは楽しみですね。僕も結構やる方なんですが、他の人の味付けなどには興味があります。」

「あんまり期待しないでおくれよ?」


ガヤガヤとドニさん一家と会話を交わす僕。

中々に幸せそうな家庭の様だな。

つくづく彼らを助けられて良かった。

一方、僕らの後ろでは、既に意気投合したらしいアイシャさんとリーゼロッテさんが何やら話し込んでいる。

それに、ティーネと被害者の(主に女性)人達も交ざっていた。



◇◆◇



「シモーヌさんも料理上手なんだね~?アキトとどっちが美味しいかなぁ?」

って、料理まで出来るのっ!?何だか、女として立つ瀬がないよぉ~。ボク、『鍛冶仕事』はともかく、料理はした事ないし・・・。お婆ちゃんは料理上手だったけどねぇ~。」

「それに関しては、私達も何とも言えませんよね。私達(ティーネ・メルヒ・イーナ)とアイシャ殿もそれなりにこなせますが、主様あるじさまの方がお上手ですし・・・。本来なら、従者である我らが主様あるじさまのお手を煩わせる事などあってはならない事なのですが、主様あるじさまはそういうのはお嫌いな様ですし。ハンス達、特にユストゥスにいたっては主様あるじさまのお料理が気に入っている様子で、逆に主様あるじさまにねだる始末・・・。一度『お話』をした方が良いですかねぇ?」


言葉を紡いでいく内に、何やらティーネの中で燻っていた男組に対する不満が吹き出したきた様子で、剣呑な『雰囲気オーラ』を放っていた。

その様子に、若干尻込みしつつも、アイシャは素早くフォローした。


「ま、まぁ、ハンス達の気持ちも分かるけどね~。何でもそつなくこなすアキトだけど、料理に関しては『年季』ってのかな?が、違う感じがするし。たぶん、アキトの中ではもう生活の一部なんだよ。だから、そこに負担みたいなモノはないんじゃないかな?」

「それは、そうかもしれませんが・・・。」

「ボクもシモーヌさんに料理教わろうかなぁ~?」


そんな感じに会話を交わすアイシャ達を眺めながら、被害者の人々も思わず笑みを浮かべていた。


「ふふふ・・・。」

「ん?」「へっ?」「おや?」

「あっ、ごめんなさいね。別に貴女達を笑った訳ではないの。けれど、何だか微笑ましくて・・・。」


その内の一人、妙齢の女性・リオネリアが漏れてしまった笑い声を謝りながら、舌を出した。

茶目っ気たっぷりのその仕草に、場の空気も和やかになる。


「『他種族』の人達を見るのは初めてだけど、あ、いえ、一緒に捕まってしまった方達はいたけれど、お話した事はなかったから。でも、感じと違って、案外私達と変わらないんだなぁって思って・・・。」

「そう、ですね。私達を助けた様子から、勝手に勇ましくてカッコいいイメージを持っていましたが、今の様子は可愛らしい女性と言う印象を持ちました。その前は、もっと『差別的な事』をずっと言われ続けていましたけど・・・。」


それに同調して、十代らしき女の子・フィオレッタもそう意見を述べた。


「ああっ、そういう事かっ!『ロマリア王国この国』で生まれ育ったなら仕方ないよ~。『ロマリア王国この国』は『ドワーフ族』以外とは友好関係にないって話だしねぇ~。」

「しかし、分かる話ではあります。私も、『ルダの街この街』に来るまでは『人間族』にあまり良い印象は持っていませんでしたし・・・。あっ、いえ、主様あるじさまは別ですが・・・。」

「そうなんだね~。ボクは『ドワーフ族』だけど、世情に疎いから知らなかったよ。つい最近まで、『ドワーフ族の国』を出た事なかったしね~。」


それぞれ生まれ育って来た環境が違うのだから、社会通念や考え方に違いがあるのは当たり前の話なのだ。

しかし、人は往々にしてその事を忘れがちになり、相手の事を深く知ろうともせずに、与えられた『情報』を鵜呑みにしてしまう事がある。

所謂、『情報操作』・『印象操作』である。

『狭い世界』、『閉鎖された社会』に蔓延したイメージは、中々覆す事は難しい。

『地球』でも、(歴史的観点から見れば)つい最近まで、『天動説』が一般常識だった。

今でこそ、『地動説』が正しかったと証明されているが、その当時『地動説』を唱えた人達は世間一般的にも『異端者』であった。

まぁ、諸説あるが、宗教的には『天動説』の方が都合が良かったと言う『政治的』な話もある。

『権力者』達の都合で『市民』や『国民』が振り回されるのは、この世界アクエラでも変わらない様だ。


「と・こ・ろ・でぇ~。貴女達は、の事が好きなの~?」


ニマ~と笑いながら、リオネリアは興奮ぎみに爆弾を投下した。

『コイバナ』が好き。

それは、この世界アクエラの女性も同じ様だ・・・。


「へっ?」

「ぅえっ!?」

「なっ!?」

「それは私も気になっていましたっ!見た目は、まぁ、まだ幼さが残る男の子ですけど、『強さ』も『雰囲気オーラ』も尋常じゃありませんよね?実際私達も助けられた訳ですし・・・。」


それに便乗して、フィオレッタもそう突っ込んできた。

さらに、『コイバナその話』を耳聡く聞きつけ、被害者の女性達も群がって来た。


「それは私も聞きたいなっ!」

「あの子、絶対将来有望よっ!既に『イケメン』の『雰囲気オーラ』出てるものっ!」

「つーか、あの歳で既に貴女達を引き連れて色々『活躍』してるんでしょ?頼りになりそうじゃない?」

「てか、さっきの『魔法』見て思い出したんだけど、噂の『英雄』ってあの子じゃない?『パンデミックモンスター災害』から人々を救った若者。もうちょっと上の年齢を想像してたけど、『魔法』使える人なんて、『貴族』以外じゃそうそういないだろうし、『他種族』の仲間達と一緒だったってもの合ってるし・・・。」

「えっ!?そうなんですか~!?」

「まぁ、さっきの『魔法』見ちゃったら疑いの余地はないよね~。いいなぁ~、『イケメン』で『英雄』の彼なんて、女子の憧れじゃない。」

「あれでも結構抜けてる所もあるし、『研究』に没頭すると他の事が目に入らなかったりするんだけどね~。」

「やはり、リーゼロッテ殿もなのですかっ!?」

「えっ!?い、いや、よく分からないよ。ボクにとっては初めての感覚だし・・・。ってか、、って事は、ティーネさんも・・・?」

「ぅえっ!?わ、私ごときが主様あるじさまとなんて、そんな、畏れ多いっ!」

「なんでです~?恋に立場は関係ないですよ~?」

「う、うう・・・。」


女三人寄れば姦しいと言うが、集団の、しかも『燃料『コイバナ』』などがあれば、さらにその規模を大きくする様子である。


「お~い、みなさ~ん?もうすぐ着きますよ~?」


遠巻きにアキトとドニ一家が振り返りながら、そう声を掛けた。


「あ、すいませ~んっ!すぐ行きま~すっ!あ、あの女性の皆さん。彼も呼んでいますので、もうそのぐらいで・・・。」


見かねた被害者の男性、と言っても二十そこそこの青年・カルロがそう恐る恐る告げた。


「えぇ~。イイトコだったのにぃ~。」

「でも、当分は『ルダの街この街』にいるんですし、お話をする機会は多いのではないですか?」

「そうだ、私達お友達になればいいのよっ!もっと私は貴女達とお話ししてみたいものっ!」

「それはいい考えねっ!『他種族』のお友達なんて、初めてで興奮しちゃうわっ!」

「えっ?いいの~?私も嬉しいなぁっ!」

「私でよろしければ・・・。」

「ボクも?」


困惑するティーネとリーゼロッテ、フィオレッタをよそに、アイシャとリオネリア、被害者の三人の女性は仲良く笑い合った。


「私は『鬼人族』の、アイシャ・ノーレン・アスラだよっ!アイシャって呼んでねっ!」

「わ、私は『エルフ族』の、エルネスティーネ・ナート・ブーケネイアです。ティーネとお呼び下さい。」

「ボクは『ドワーフ族』の、リーゼロッテ・シュトラウスだよ。リサって呼んで。」

「私はリオネリアよ。よろしくねっ!」

「わ、私は、フィオレッタです。よ、よろしくお願いしますっ!」

「ヴィレッダだよ、よろしくっ!」

「私はイザベラ。よろしく~。」

「アンナです~。よろしくお願いします~!」


改めて自己紹介をし、ここに『他種族』同士の女性の友情が結ばれたのだった。



◇◆◇



『リベラシオン同盟・盟主』にして、『町長』のダールトンさんの家は、前と変わらず中央大通りの北側の奥まった広い家である。

まぁ、所謂『区画整理』の影響で若干印象が違うし、フロレンツ侯の出資した『リベラシオン同盟』の本部兼施設が併設された所も、前とは大きく違う点である。

『人身売買』用や『奴隷』用として捕らえられ、後に僕らに解放された『人間族』の人々は、この施設にて療養と社会復帰を促している。

精神や心のケアは、この世界アクエラでは『地球』以上に難しいが、アルメリア様の協力の下、彼女に教わった『同盟スタッフ』が治療にあたるので、中々に順調の様子である。

その一方で、今だに心を閉ざしたままの人もいるし、四肢に欠損が見られる人もいる。

その様子から、相当に劣悪な環境にいたのは想像に難くない。

それらを『完治』させる『回復魔法』など存在しないし、『医療技術』も進んでいないので、これらはこれからのこちらアクエラの『医療』の課題となるだろう。

ちなみに、アルメリア様も『制約』により、今以上に高度な事は教えられない。

現在の『技術』を軸に教育を施しているらしいが、本来の『力』を使えばそれらも全て『解決』する事は可能の様だ。

ただ、そもそも彼女はこの世界アクエラに『不干渉』の『縛り』があるし、現行の『技術』とは言え、僕や仲間達以外に教育を施すのは相当な負担になると思われる。

もちろん、彼女自身が直接的に助けるなど無理な相談だろう。

一度、アルメリア様の『輪郭』がぼやけた光景を目撃した事がある。

一瞬、目の錯覚かとも思ったのだが、彼女の『正体』を知っている以上、楽観視は出来ない。

自立型スタンドアローンの『生体端末』とは言え、『一級管理神』でもあるのだ。

ここからは推測の話になるが、過度に『世界』に干渉すると、強制的に『退場』させられるのではないだろうか?

それ故、僕もアルメリア様にこれ以上を望むべきではないと判断したのだった。

この世界アクエラに来て、改めて感じた事だが、『前世』でも僕は相当に恵まれた環境で生まれ育って来たのだ。

『地球』でも、世界各地では存在する。

もちろん、ニュースなどで知ってはいたが、『日本』に住んでいた僕としては、だと思っていた。

しかし、その『現実』に直面している人々からすると、それこそ、『神仏』にすがってでも救われたいと思うだろう。

しかし、実際問題、そうした存在は『現実』には存在しない。

いや、まぁ、ルドベキア様が存在した以上、それは言い過ぎかもしれないが、しかし、そうした存在の『慈悲』に期待する事がそもそも間違っているのだ。

自分達の事は、自分達で『解決』する。

当たり前の事だ。

人を救うのは、『神仏』でなく、やはり人であるべきなのだ。

もっとも、その当たり前の事を当たり前に出来ないのも『人間』と言うモノだろうけどね・・・。

ま、それはともかく。


「おかえりなさいませ、アキト様、皆様。」

「おかえりなさいませ。」

「ただいま、ヨーゼフさん、ヘルヴィさん。」

「ただいま~!」

「ただいま戻りました。」


『リベラシオン同盟』の本部兼施設で僕らを出迎えてくれたのは、トーラス家の執事・ヨーゼフさんと、メイドのヘルヴィさんだった。

何かと忙しいダールトンさんに変わって、トーラス家、『リベラシオン同盟』の管理を、このヨーゼフさんが代行している。

まぁ、執事とは本来高貴な人にしかなれない職業であり、いわば『その家』の家長代理であるから、あまり珍しい事ではない。

そもそも、この二人はおよそ一般人とは思えない『出来る人』達だ。

大抵の事は一流にこなし、武器の扱い、武術の経験も相当なモノだ。

二人にはそれとなく尋ねてみた事があるが、


「執事の嗜みですから。」

「メイドの嗜みですよー。」


と、はぐらかされてしまった。

まぁ、二人とも悪い人ではないので、ダールトンさんの人を見る目、それを取り込む手腕を流石と言っておこう。


「めちゃくちゃシブイ///。」

「って、ヴィレッダっ!貴女一発でヤラれてるんじゃないわよっ!貴女がオジサマ好きなのは知ってるけども・・・。」

「確かにダンディーですね~。メイドさんもお綺麗です~。」


何やら後ろが賑やかだが、それは置いておいて、僕はヨーゼフさんとヘルヴィさんと会話を交わす。


「ダールトンさんは?」

「旦那様は、現在会合に赴かれておりまして、『ルダの街この街』にはおりません。」

「そうですか。まぁ、お忙しいですからね。では、ヨーゼフさんにお任せしますね。こちらの方達が、今回救出した方達です。ご覧の通り、さして心身に異常は見られないと思われますが、そこは『専門家』の皆さんにお願いします。療養と身のフリ方はいつもの通りに。」

「畏まりました。」

「アキトくんも少しは休んだ方が良いんじゃないかなー?リベルト様も、最近は文武両道にこなしてらっしゃるけれど、あいかわらずレイナードくん達とも遊んでらっしゃるしねー。まぁ、彼らも相当逞しくなったけどー。」

「そうしたいのは山々なんですが、なんせ僕は『発起人』の一人ですからね~。」

「ヘルヴィさん。ご心配には及びません。主様あるじさまは私がしっかり見ておりますので。」

「あぁっ!そう言えばそうでしたねー。しかし、ティーネさん。旦那様もそうですが、は平気で無理をなさいますから、時には強引に休ませる事も『従者』の役割ですよー?」

「そ、それはっ!た、確かに、そう、かもしれませんね・・・。ヘルヴィさんのお話はいつもためになります。」

「いえいえー、これもメイドの嗜みですからー。」


ティーネは、ヘルヴィさんを尊敬している。

侍女として、従者としての有り様、立ち居振舞いに感銘を受けた様なのだ。

ヘルヴィさんやヨーゼフさんはどちらかと言うと『秘書』とか『マネージメント』と言う実務が専門分野なので、ティーネとしては、『武人』としての有り様はともかく、そうした方面を伸ばしたいと考えている様子である。

そこまでせんでもとも思わなくもないが、向上心に水を差すのも気が引けるので、ティーネのやりたい様にやらせている。


「これこれ、ヘルヴィ、それにティーネ様。アキト様もお忙しいのですから、被害者の方達をすぐに受け入れますよ?お話ならまたの機会にして下さい。」

「はーい。」

「こ、これは失礼しました。」


やんわりと嗜めながら、ヨーゼフさんは『同盟スタッフ』にテキパキと指示を開始した。

う~ん、やはり『貫禄』と『年季』が違うなぁ。

人を動かす事に慣れた様子である。

僕も、『前世』の学生時代の『スポーツサッカー』の『司令塔ポジション』としての経験、ゲームの知識、社会人経験などから、これまで何とか『リーダー』をこなしてきたけれど、あいかわらず人を動かす事が得意とは言い難い。

もしかしたら、人から見れば「またまた~。」と言われるかもしれないが、こればっかりは持って生まれた『資質』が関係する様にも思う。

元来、僕は一人で何かをするのが好きなのだ。

これは(『前世』の)育った環境も起因すると思われるが、集団行動をする上ではこれはマイナス要素である。

それ故、『対人スキル』や『集団スキル』を磨いてきたけれど、根っこの部分はやはり中々変えられない。

まぁ、これに関しては出来る人に任せるのが一番である。


「あ、あの、すいません。」


少し考え事をしていた僕に、ふと声を掛ける人がいた。

被害者の男性、と言っても二十代くらいの青年であった。

被害者の方達は、『人身売買』用や『奴隷』用としての目的で捕らえられた関係で、男女共に年若い人が多い。


「あ、はい。どうされました?」

「その、助けて下さって本当にありがとうございましたっ!皆を代表して、と言うのはおこがましいのですが、お礼を申し上げます。」


一瞬ポカーンッとした僕だったが、他の人達も同じ様に頭を下げていた。


「あ、いえ、こちらも『目的』があっての事ですから、お気になさらないで下さい。これまでは大変な思いをされたと思いますが、こちらにいれば安全です。しっかりと療養を経て今後の身のフリ方をゆっくり考えて下さいね。出来る限りの事はしますので・・・。何かあれば」

「私や『スタッフ』にお声掛け下さい。大切な客人としておもてなし致しますので。」


う~ん、良い所を持って行かれた。

と、言っても僕の様な『子ども』の言葉より、ヨーゼフさんの様な頼りになりそうな『大人』の言葉の方が安心感があるし、これも適材適所だよね。

ここに来るまでは、どこか半信半疑だった被害者の方達も、ようやくその言葉に安堵の表情を浮かべている。


「そういう訳です。」


言葉尻をヨーゼフさんにとられた事で、曖昧な言い方になってしまったが、気持ちは伝わったのか、再び頭を下げながら、『スタッフ』に促されて、被害者の方達は施設の中へと消えていった。


「ふぅ・・・。」

「差し出がましかったですかな?」

「いえ、助かりました。」


肩の荷が降りた事でホッと一息吐くと、ヨーゼフさんは、軽い調子で僕に微笑み掛ける。

場の空気を読むのも、執事としての『必須スキル』の様だ。


「それでは、こちらが『報告書』になります。ダールトンさんに渡しておいて下さい。」

「畏まりました。後の事はお任せ下さい、アキト様。ところで、そちらの方々は?」

「ああ、ご紹介が遅れましたね。今回の『出張』で知り合ったご家族で、『ルダの街』に転入を希望されているドニさん一家です。こちらが『鍛治職人』のドニさん、奥様のシモーヌさん、息子さんのアランくん、娘さんのエレオノールちゃん、そして、ドニさんの弟子で『ドワーフ族』のリーゼロッテさんです。ドニさん、こちらがトーラス家の筆頭執事にして、『リベラシオン同盟』の管理も任されているヨーゼフさんです。そちらはトーラス家の侍女、ヘルヴィさんです。『町長』のダールトンさんは何かとお忙しいので、何かご用がありましたら、こちらの二人に話を通して置けば問題ありませんよ。」


隙のない身形で綺麗なお辞儀をするヨーゼフさんとヘルヴィさん。

ドニさん達は、その立ち居振舞いに圧倒されながらも、ぎこちなく挨拶を返した。


「皆様、只今ご紹介にあずかりましたにヨーゼフと申します。以後お見知りおきを。」

「同じくヘルヴィと申します。よろしくお願い致します。」

「ドニ・ブリュネルです。今後お世話になると思います。よ、よろしく、お願いします。」

「妻のシモーヌです。お世話になります。」

「こ、こんにちは。アラン、八才ですっ!」

「こんにちは。エレオノール、四才ですっ!」

「『ドワーフ族』のリーゼロッテ・シュトラウスです。よろしくお願いします。」


挨拶は、若干気恥ずかしいが大事だからな。

これから『ルダの街この街』の仲間になるのだから、何事も最初が肝心である。


「さて、これから僕らは『役場』でドニさん達の手続きをして、挨拶廻りをしてから『シュプール』に戻ります。ドニさん達の自宅と『工房』はバッティオ親方に頼んでありますが、当分はドニさん一家も『シュプールウチ』にいますから、何かあれば『シュプールウチ』に連絡をお願いしますね。」

「畏まりました。」

「じゃ、よろしくお願いします。僕らはこれで失礼しますね。」

「はい、お気を付けて。またお時間のある時にお越し下さい。旦那様もリベルト様もお会いしたがっておいでですから。」

「分かりました。」


そう言って、僕らは被害者の方達を預け、その場を後にした。


「は、はぁ~、緊張したぁ~。アキトは良く平気で対応出来るなぁ。あの二人は、『貴族』様じゃねぇのかい?」

「いえ、ダールトンさんも含めとトーラス家は全員『平民』ですよ?まぁ、僕もあの二人はだとは思っていますが、悪い人達ではありませんから、普通で良いんですよ。案外気さくな人達ですし・・・。」

「ほぇ~、世の中色々な人がいるもんだねぇ~。」

「まぁまぁ、そんな肩肘を張らずに。『ルダの街この街』の仲間になるんですから、自然体で行きましょう。」


「そんなモンかねぇ~。」とひとりごちながら、ドニさんは肩をすくめた。


さて、『同盟メンバー』としての『仕事』は片付いた。

後は、『役場』の手続きである。

まぁ、こればっかりはドニさんとシモーヌさんにやって貰わなければならないが、子ども達にとっては退屈な時間だろう。

何か暇潰しのアイディアを考えておくか・・・。

そんな事を考えながら、僕らは『役場』に向かうのだった。


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