第34話 『ルダの街』を目指して



◇◆◇



「『解放』が遅れた事を謝罪しよう。本当にすまなかった・・・。」

「いやぁ、おやっさんが悪い訳じゃねぇよ。それに、『軟禁状態』ではあったが、待遇は悪くなかったぜ?少し変わった『休暇』だと思う事にするさ。」

「ただ、まぁ退屈だったけどなぁ~。せめて、酒とお姉ちゃんでも用意してくれりゃあいいのによぉ~。騎士やら憲兵ってのは、気が利かなくていけねぇや。」

「無茶言わないで下さいよ、アーヴィンさん・・・。」

「しかし、日課の筋トレくらい好きにさせてくれても良いと思わんか?アイツら、すぐ文句を言ってくるんだぞ?」

「ドタバタうるさかったのはお前さんかい、ゴドウェル・・・。」

「案外元気そうだなぁ~、お前らは・・・。」


ランドルフは、『軟禁状態』から『解放』された『デクストラ』のメンバーと対面していた。

流石に、修羅場を数多くくぐり抜けてきた猛者である彼らは、これぐらいの事では少しも疲弊していなかった。

余談だが、彼らを取り調べしていた現場の騎士や憲兵は、最初は彼らの『胆力』に驚き、畏敬の念すら抱いていたが、時間が経つにつれ、彼らがただなだけだと気付き、若干呆れていた。

まぁ、どんな環境でも冷静さを失わないと言う意味では、『冒険者』にとっては、とても重要な資質なのだが・・・。


「それでおやっさん。事件が解決したから俺らは『解放』されたんだろ~がよ、詳細を聞かせちゃくれね~か?」

「ああ、もちろんだ。ただ、じゃなんだな・・・。ギルドの俺の部屋で話そう。お姉ちゃんは呼べんが、酒と飯ぐらいは用意させよう。」

「さっすがおやっさんっ!話せるぜぇ~。」

「酒はともかく、飯はありがたい。『騎士団』の所は、味はともかく量が少なかったからなぁ。」

「味もな物だったと思いますけど・・・?」

「言うな、レオニール。ゴドウェルにとって、量さえ食えれば、味は関係ない。」

「そう、でしたね・・・。ある意味、『冒険者』向きデスヨネー。」

「ほれ、お前ら、とっとと移動するぞっ!」


ガヤガヤと騒がしい『デクストラ』を引き連れて、ランドルフは『ダガの街』の『冒険者ギルド支部』へと向かうのだった。



「『リベラシオン同盟』からの『メッセージ』だとっ!?」

「あ、ああ。『騎士団』、と言うか、クロヴィエの野郎は、今回の一連の『』をお前らだとしてやがって、その『手柄』を横取りしようとしたんだろうよ。んで、ランツァー一家の『盗賊部門』頭目を捕まえたお前らが『検問所』に現れたモンだから、これ幸いと調と表してお前らを『軟禁』したんだ。まぁ、詳細はさっきも言ったが、結果的に、奴の目論みは半分成功して、半分失敗した。『騎士団』を動かした事で、今回の事件の『功労者』である事をアピールする事は出来たが、出世の道は難しくなったんじゃね~かなぁ?なんせ、フロレンツ侯に目を付けられた様なモンだからなぁ~。ああ、後、お前らの褒賞と、ついでに『冒険者ギルドうち』に対する補償も約束させといた。」

「あいかわらず抜け目ねぇな。どうせ奴が動揺してるトコを突いて、言質とったんだろ?」

「ま、『迷惑料』だよ。それに、この程度も上手く返せない様なら、結局奴はに行っても何も出来やしねぇよ。ここが回らない、そもそも『実力』もなしじゃ、ただていよく使終わりさ。」

「ま、そりゃそうだな。」


プチ宴会も一段落つき(主にアーヴィンとゴドウェルが飲みまくり、食いまくっただけだが)、ランドルフは『デクストラ』のメンバーに事のあらましを説明していた。

『リベラシオン同盟』の名が出た途端、ディナードを始め、『デクストラ』のメンバーは小さく動揺した。

ランドルフは、それを見逃さなかった。


「んで、『彼ら』とはかい?」


ずばり核心を突いたランドルフに、少しバツの悪い表情を浮かべたディナードは、仲間の様子を窺った。

他のメンバーも、似た様な表情を浮かべ、ディナードに無言で頷いた。


「・・・ま、おやっさんなら大丈夫だろ。知り合いっちゃあ、知り合いかね?メレディーさんトコの隊商キャラバンの『護衛』中に、ランツァー一家の襲撃を受けてよぉ。ま、迎撃自体は上手くいってたんだが、『非戦闘員』のお嬢ちゃんに被害が出そうになったトコをしてくれたんだよ。その連中が『リベラシオン同盟』を名乗っていた。」

「・・・お前らは、『騎士団』や『憲兵』にはその話をしてない様だが・・・?」

「単純に、『彼ら』と?含みも何もないさ。『彼ら』と『騎士団』、どちらが与し易いかと考えりゃ、誰でも『騎士団』の相手を選ぶさ。それぐらい、だった。ああ、言っとくが、『悪党』って雰囲気じゃなかったぜ?単純に、『実力』の底が見えねぇ。そういう連中だった。」

「お前らがそこまで言うほどの連中か・・・。そりゃ、『騎士団』の相手をしてた方がなんぼかマシだな・・・。」

「まぁ、別に『彼ら』からは特に口止めされてた訳じゃねぇんだけど、俺らも『冒険者』生活が長いし、おやっさんによく言われてたじゃねぇか。不確定な『情報』は、時に『真実』を隠しちまうし、場を混乱させるだけだってよ。だから、『情報収集』をするまでは、『彼ら』の事は黙ってようと思ってな。皆にも了解して貰ってたし、メレディーさんにも言っといたけど、その分じゃ、『商人』の誰かがゲロったんだろーよ。ま、クロヴィエの野郎は、その『情報』をさして『重要視』しなかったみてーだが・・・。」


一息ついて、ディナードは酒の入ったコップを煽った。


「どうやら、また『借り』が出来ちまったよーだな・・・。」

「しかし、これで『彼ら』の発言が真実である可能性が高くなりましたけどね?『メッセージ』には、フロレンツ侯の『紋章』まで入っていて、『重要証拠』の『写し』まで添えられていたのでしょう?」

「しかし、ちっと妙なんだよなぁ~。」


レオニールが話を整理していると、ランドルフがひとりごちる。


「どうしたんだい、おやっさん?」

「あ、いや、すまない。しかし、クロヴィエの野郎も言っていたが、フロレンツ侯が『リベラシオン同盟』だったか?の後ろ楯になる事は考えにくいんだ。まぁ、俺も『貴族』の連中ほど政治に詳しい訳じゃねーから何とも言えねーが、フロレンツ侯はロマリア王国この国の『貴族派閥』の中心人物だそうだからな。『リベラシオン同盟彼ら』の目的は、『メッセージ』によれば

ロマリア王国この国の腐敗の根絶と、

『人身売買』の根絶だろ?

謂わば、『王派閥』にとっては都合が良いが、『貴族派閥』には都合の悪い話だろ?人間、考え方がガラリと変わる事なんかそうねぇし、『貴族』なら尚更だから、ずっと引っ掛かってたんだよ。」

「確かに、妙な話だな・・・。俺らも『冒険者こんな商売』だから、『貴族』の『情報』にはそれなりに敏感だが、おやっさんほどじゃねーし・・・。まぁ、でも俺らとは縁遠い話だけどな。」


肩をすくめるディナードに、アーヴィンも同調する。


「そうそう、あんま気にすんなよ、おやっさん。確かに、『彼ら』には『借り』が出来たけどよぉ~。『貴族』の大物が関わっている以上、『冒険者』の出る幕じゃねぇよ。もし、偶然『彼ら』と再会したとしても、礼だけ言って、後は知らんぷりしてりゃい~さ。それよりも、『ダガの街』も『彼ら』のおかげで、だった『レイモン伯』とランツァー一家が揃っていなくなったんだ。これから忙しくなるぜぇ~。」

「確かにそうだな。『ダガの街この街』は『ヒーバラエウス公国』と『ドワーフ族の国』を結ぶ要所だし、『盗賊』が出る危険性が下がったと噂になれば、人や物の交易もさらに盛んになるだろう。」

「今以上に人手が足らなくなりそうですね・・・。おやっさんは、そちらの事に頭を悩ませた方が良いかもしれませんよ?」

「・・・そりゃ頭の痛ぇ話だな。お前らクラスの『冒険者パーティー』なんてそうそういねぇし、どっかから引っ張ってこれねぇモンかね?」

「それも良いでしょうが、我らの様に、が後々良いのでは?優秀な人材は、どこも手放したくないでしょうからね。」

「・・・そいつが良いかね?じゃ、良さげな奴らがいたら、お前らに面倒みて貰うから、よろしく頼むぜっ!」

「いかんっ、やぶ蛇だったかっ!」

「そりゃねぇよ、おやっさん。」


ゴドウェルがランドルフに進言したら、逆に面倒事を押し付けられる羽目になった。

『デクストラ』のメンバーは顔をしかめる。

しかし、ランドルフは冗談めかした顔から一転、真剣な表情を作った。


「まぁ、冗談半分だったが、結構良い案かもしれんぞ?お前らには面倒だろうが、人にモノを教えるのは自分にも返ってくるモンさ。お前らは、まだまだ若いんだから、それ次第では『S級』も見えてくるかもしれんぞ?どうしても嫌なら仕方ないが、何でもやってみると案外向いてるかもしれん。ま、少し考えてみてくれや。」

「・・・はぁ、分かったよ・・・。」


世話になっている人の言葉だから、ディナードを始め、『デクストラ』のメンバーも嫌とは言えなかった。

頭を掻きながら、ディナードはそう答えるのであった。


『デクストラ』とアキトの邂逅は、非常に短い時間だったが、彼らはアキトの『英雄の因子』の能力、『事象起点フラグメイカー』の影響を大いに受けた。

『デクストラ』も『冒険者』と言う、ある種『自由度』の高い職業に就いてはいるが、『義侠心』や『正義感』と言うモノを持ち合わせてはいる。

だから、『リベラシオン同盟』の掲げるに思うところはあった。

しかし、逆に『冒険者』ゆえに、『政治の話』に関わってきそうな『リベラシオン同盟』と積極的に関わり合いになる事は避けたのだった。

それ故、現状『デクストラ』がアキトにする事はなかった。

しかし、後にアキトと『デクストラ彼ら』は再会する事になる。

なんせ、アキトは『古代魔道文明』の発見・発掘に適しているであろう『冒険者』になるつもりなのだから、ある意味必然ではあるが、それは後の話。



◇◆◇



「へぇ、ドニさんは『鍛冶職人』なんですねぇ~。『ドワーフ族の国』にご家族を伴って修行に出向かれていたのですか?」

「まぁな。で、ちっと『事情』があって、そっちのリサ嬢ちゃんを弟子に迎えて、心機一転、噂の『ルダの街』で開業しようかと思ってよぉ。元々、修行を終えたら『人間族の領域』に戻る予定だったしな。」

「なるほど。確かに、『ルダの街』は現在発展途上ですから、色々な『職人』の力は喉から手が出るほど欲しているでしょうねぇ~。」


隊商キャラバンに同行しながら、僕はドニさんと会話を交わす。

『魔獣』襲撃の一件以来、隊商キャラバンの皆さんには多少恐れられてしまったのか、僕らと話すのがドニさん一家しかいないってのもあるが・・・。

まぁ、しかし、気持ちは分かる。

この世界アクエラの『保冷技術』が発達していない影響で、亡くなられた方達をそのまま運ぶ事は出来なかった。

亡くなられた方達の家族が『ルダの街』にいれば、せめて亡骸と対面させる事も僕の『魔法』を使えば可能だったが、『旅商人』だけあって、故郷は遠い別の地であるとの事だった。

そうなると、『魔法』だけでは『保存』にも限界があるので、時間経過と共に亡骸が腐敗してしまうし、その『臭い』に惹かれて『モンスター』や『魔獣』が集まってしまうし、さらに、感染症の懸念もあるので、隊商キャラバンの皆さんにもきちんと説明した上で、『火葬』するのが適切であると助言アドバイスしたのだ。

隊商キャラバンの皆さんも、理屈は理解し了承してくれたのだが、感情までは流石に無理な様子で、『火葬』作業をしていた僕を、作業終了後避ける様になったのだ。

まぁ、誰でも仲間が焼かれていくのを何も感じないで見ていられる訳もないし、そこは僕も理解している。

形見の品と頭髪の一部を保存し、『遺骨』と『灰』は『骨壺』(『商品』を流用させて貰った)に納めた。

出来うる限りの事をはしたので、皆さん複雑な表情だったが、ポツリとお礼も言ってきたので、まぁ、特に問題ないだろう。

後は、気持ちの整理をする上でも、時間が解決する問題だ。

ちなみに、僕も人の死を見るのは当然好きではないが、この世界アクエラで生きている以上、嫌でも慣れたし、人を殺めた事も(間接的にも直接的にも)ある。

好き好んで殺人を犯したい訳ではないが、この先も仲間に被害が及ぶ様なら躊躇はしないだろう。

なんせ、殺らなきゃ殺られる、そういう世界だしね・・・。

その事で、精神に悪影響が出そうなモノだが、アルメリア様によれば特に問題ないとの事。

これも、僕の持つ『英雄の因子』の能力だろうかね?


「へぇ、リサちゃんも『鍛冶職人』なんだねぇ~。私もちょっとは心得があるんだよっ!って言っても、『武器類』は作った事ないけどね・・・。」

「ボクもまだまだだけどねっ!けど、アイシャちゃんの作ったの『仮面』は良く出来てるよぉ~。こう言った『金細工』は、『ドワーフ族』でも得意不得意がわかれるから、勉強になるよねぇ~。」


そういう空気を読んだのかどうかは知らないが、アイシャさんやティーネ達は『他種族』である事を隠すのを止め、フードを外して顔を晒している。

僕に対する微妙な空気を、自分達に注目させる事で分散させる狙いだろうか?

もっとも、アイシャさんとリーゼロッテさんの様子を見るに、僕の考え過ぎな様にも思えるが・・・。

ちなみに、ティーネ達は『人身売買』用に捕らえられた人達の『護衛兼壁役』をしているが、隊商キャラバンの人達も無闇に近寄ったりはしない。

まぁ、アランくんとエレオノールちゃんはそんなのお構い無しに珍しい『エルフ族』に夢中だが・・・。


「しかし、う~ん、大変じゃないですか?」

「うん?」

「あ、いえ、僕もあまり詳しい訳ではありませんが、『鍛冶職人』ならば『炉』が重要になってきますよね?建物の建築も人手不足ですぐには着工出来ないでしょうし、建物が完成しても、『炉』に火入れをして火の調整作業がありますよね?確か、それだけでも一ヶ月は掛かるんじゃありませんでしたっけ?それから作業に入られるのですから、どんなに早くても数ヶ月はお仕事にならないのではないですか?」

「若けぇのに、変な事知ってるなぁアキトは。実際はもう少し複雑だが、概ねその通りだ。けど、これでも俺ぁの『職人』だったから、『』もそれなりにある。だから、そこら辺は問題ないぜ?まぁ、その間仕事にならんから、ツレには叱られそうだがな?」


ガッハッハと笑うが、を想像したのか、一筋の冷や汗がドニさんのこめかみ辺りに流れた。

奥様には頭が上がらないのかもしれんなぁー。

ま、流石に人様の家庭の事情には首を突っ込む気は毛頭ないが・・・。

ここら辺が、所謂『職人』さん達の難しい所だ。

ていよく、『空き物件』に『作業場』や『炉』などある筈がない。

そうなると、アイシャさんがした様に『空き物件』を改造するか、新たに建物を建てる必要がある。

その間、所謂『出稼ぎ』をする方法もあるにはあるが、元々この世界アクエラの『工房』は大人数で使う事を想定していないので、逆に作業の邪魔になる事も往々にしてある(『ドワーフ族の国』の『職人』の『工房』はそれなりに広い様子だが、『人間族』の『職人』の『工房』はそうはいかない)。

人手は足りないけど、手伝いに行って、逆に作業効率が落ちるなんて事もありうるのだ。

それに、『工房』は人によったら他の人には入って欲しくない『聖域』であるだろうし、『職人』のこだわりや、機密なんかもある。

元々の『鍛冶屋』も昔から数軒存在してはいるが、『ルダの街』の発展と『冒険者』の需要も合わて考えると人手が足りてないのは明白である。

かと言って『炉』も『工房』も無しでは『鍛冶職人』も仕事にならんし・・・。

僕がなぜドニさんにそんな話を振ったかと言うと、ドニさんとリーゼロッテさんに仕事をお願いしたかったからだ。

僕らの使ってる『武器類』や『防具類』も、かなり年季が入ってきたから、修理メンテナンスや新調を考えていただけに、ドニさん達の存在は渡りに舟だった。

それに、個人的には『ドワーフ族の国』で修行したドニさんの『腕前』に興味があるし、『ドワーフ族』であるリーゼロッテさんの創作した道具は是非とも一つは持っておきたいと言う、『オタク的コレクター魂』があるのは否定しない。

どうしたモノか・・・。

・・・つーか、よく考えてみれば『シュプールウチ』に『工房』あんじゃんっ!

ただ、まぁ、あそこはアイシャさんが改造した『工房』だし、彼女の許可なく僕が勝手に話をする訳にもいくまい。

とりあえず、アイシャさんにお伺いを立ててみよう。

ほら、貴重な『職人』さんを遊ばせとくのは勿体無いじゃん?

けっして、僕のの為に行動するのではないぞ?

アキトウソツカナイ。


「盛り上がってる所悪いけど、アイシャさん、ちょっといい?」

「ん?ちょっとごめんね、リサちゃん。なーに、アキト~?」


ちょいちょいと手招きをすると、アイシャさんがちょこちょこと駆け寄ってきた。

・・・こう言ってはなんだが、しなやかな大型の肉食獣を飼い慣らしている様で、若干気分が良い。

それはともかく。

取り残されたリーゼロッテさんは、若干不満げだが、貴女の為にもなる話だから勘弁してね。


「アイシャさんがした『工房』って、ドニさん達に貸したり出来る?」

「ん?どーゆーコト?」

「実は・・・。」


内緒話みたいにひそひそと顔を近づけて話す僕とアイシャさん。

何だか、からプレッシャーを感じるが、特に危険な『気配』ではないので、あえて無視する。

いちいち気にしてたら、身が持たんからな・・・。


「なるほどねぇ~。私は特にこだわりとかないから、リサちゃん達が良いなら良いよ~!私も勉強になるしね~。」

「ありがと、アイシャさん。」


僕らの話が付くと、リーゼロッテさんが業を煮やした様に割り込んできた。


「二人でこそこそ何の相談?」


むうっと、可愛らしくむくれてみせる。

年齢で言えば、彼女の方が年上であるが、見た目の小柄さも相まって、僕的には子どもがむくれているみたいに見える。


「ああ、すいません。ちょっとドニさんとリーゼロッテさんの事でアイシャさんと相談していたモノで・・・。」

「俺も関係ある話なのか?」


一人蚊帳の外で、若干置いてきぼりだったドニさんも、自分の名を出された事で反応する。


「ええ、と、言っても、そちら次第ではありますが・・・。ドニさん、リーゼロッテさん。僕らの『シュプールウチ』にいらっしゃいませんか?」

「んっ?」「えっ?」


突然の僕の申し出に、二人は困惑する。


「順を追って説明しますね。まず、僕らの使ってる『武器類』や『防具類』が大分年季が入ってきたので僕は修理メンテナンスや新調を考えていました。そんな時、ドニさん達と知り合い、お二人が『鍛冶職人』であると知りました。本場の『ドワーフ族の国』で修行されたドニさんと、『ドワーフ族』であるリーゼロッテさんの作った『作品』に大いに興味のある僕は、お二人には一度お仕事をお願いしたく、先程ドニさんに状況をお聞きしました。」

「「・・・。」」


ふむふむと、二人は真剣な表情で僕の話を聞いている。

『仕事』の話だと察して表情が変わるのは、『職人』さんの好感の持てる所だ。


「しかし、『ルダの街』に赴かれるのは初めてであり、知人や友人もいないので、『工房』を一から調達しなければならないとか。まぁ、『ルダの街』のを考えれば、ドニさん達の様な人達は珍しくないので、それは良いのですが、そうなると数ヶ月は『お仕事』になりませんよね?そこで、ふと『シュプールウチ』に『工房』がある事を思い出したのです。と、言っても、主に使用しているのはアイシャさんですので、彼女の都合を聞いていました。アイシャさんは二つ返事で使用許可をくれましたよ。」


アイシャさんは、二人に向かって頷いてみせた。


「そんな訳で、ご自分達の『工房』が完成するまで、『シュプールウチ』にいらっしゃいませんか、と提案した次第です。もちろん、そちらの都合もあるでしょうから、ご家族でよくご相談してみて下さい。」

「なるほどな・・・。」

「どうしますか、ドニさん師匠?」

「お言葉に甘えたらどうだい、アンタ。」


そこに、どうやら話が聞こえたらしいシモーヌさんがそう言った。


「お前・・・。」

「『ルダの街』に向かってんのは遊びに行く訳じゃないんだ。アキトくんと知り合わなかったら、確かに数ヶ月は仕事にならないだろうしそれは仕方なかっただろうけど、こうして知り合いになってこんな提案までしてくれたんだ。このお話は受けといた方が良いだろ?それに、『鍛冶仕事』をとったら酒好きしか残らないアンタを、数ヶ月間面倒みるのはあたしゃゴメンだよ。私は、アンタの『職人』としての姿に惚れたんだからね・・・。」

「お前な・・・。」


途中からバツの悪い表情を浮かべてポリポリと頭を掻くドニさん。

まぁ、最終的にはだったので、僕の方が照れ臭くなってしまったが。


「はぁ、アキト。何から何まで本当にすまない。そして、ありがとう。しばらく俺とリサ嬢ちゃん二人は世話になるよ。よろしく頼む。」

「・・・、よ、よろしくお願いします!」


かしこまってお礼を言うドニさん。

少し遅れて、リーゼロッテさんもそれに倣った。


「いえ、こちらからお願いしてる事ですから。こちらこそ、よろしくお願いいたします。・・・それで、シモーヌさん、アランくん、エレオノールちゃんもよろしければ『シュプールウチ』にご滞在下さい。まぁ、そちらの都合がよろしければ、ですが・・・。」

「・・・そこまで厚意に甘える訳にもいくまい。それに家族全員となると五人になるぞ?」

「大丈夫だよ、ドニさん。『シュプールウチ』は広いからね~。百人くらいなら、余裕で寝泊まり出来るんじゃないかな?」

「まぁ、そういう事です。流石に百人は言い過ぎ(僕や『ホブゴブリン』達だけでは面倒みきれない)ですが、ドニさん一家を受け入れる事は出来ますのでご安心下さい。『シュプールウチ』は『魔獣の森』の浅い場所とは言え危険な所にありますが、『領域干渉『結界』』もありますので、お子さん二人が外で遊ぶ事も出来ます。『教育』が必要でしたら、僕を始め、皆で色々教える事も出来ますしね。」


僕が説明すると、ドニさんとシモーヌさんはポカーンッとした顔をしていた。

何か不味かったかな?


「改めて、凄い子と知り合いになったモンだな・・・。」

「そうだね・・・。けど、乗りかかった船だし、子どもらに懐いているし、思い切って行ってみようかね?私も出来るだけの事はするから、アンタは『仕事』で恩を返しな。」

「それが良いか・・・。」


今度は、ドニさんとシモーヌさんがひそひそ話をしていた。

ん、どうやら話が纏まった様だ。


「改めて、世話になるよ。よろしく頼む、アキト。」

「はい、こちらこそ。」


僕とドニさんは握手を交わした。

こうして、ドニさん一家とリーゼロッテさんが『シュプールウチ』に来る事になったのだったーーー。


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