第31話 『盗賊団』との遭遇戦 2



◇◆◇



主様あるじさまっ!やはり、『仮面』をご使用下さいっ!」

「そうだよアキトっ!あまり顔を見られない方が何かと都合が良いでしょっ!?」

「ま、まぁ、それはそうなんだけどさ~。『仮面』すると視界が悪くなるしさ~。」

主様あるじさまの『お力』なら、その程度問題ないですよねっ?」

「そうだよっ!別に強い人と対峙した場合は外しても良いんだしさっ!」

「うっ・・・。」


『ダガの街』郊外のランツァー一家の元・アジトにして、現在も『盗賊部門』が拠点にしている地点ポイントに移動しながら、僕はティーネとアイシャさんとそう押し問答をしていた。

・・・確かに理屈は分かる。

この世界アクエラの『情報』の精度が、噂話とせいぜい『似顔絵』程度とは言え、顔が割れているのはあまり良い状況ではない。

自分達がそれなりの実力者で、潜入・隠密行動時にも誰にも知られない様細心の注意を払っているが、それに驕る事なく対策を講じるのも良い事だ。

それ故に、『仕事』中に『仮面』を装着する事はギリギリ許容範囲内だが、二人は『街中』などでも装着する様迫って来た。

(つーか、最近になって急に『仮面』の話が出てきたな。)

アイシャさんやティーネ達は『他種族』であり、ここが『他種族』とあまり良好な関係ではないロマリア王国であるから、常にフード付きマントで顔を隠しているのは理解出来るのだが、僕は『人間族』ですよ・・・?(一応)

後、個人的に『仮面』はちょっと恥ずかしい。

肉体年齢は10歳の少年なので、まぁまだ、ギリギリセーフだろうが、中身は40オーバーのおっさんなので、『ヒーローごっこ』に興じている様な気分になってしまうのだ。

僕の中の『厨二病』の部分は、「意外とカッコよくね?」と囁いてはいるが、それを全面的に肯定出来るほど僕はもう純粋ではない。

嗚呼っ、痛々しい周囲の目が、僕の心をチクチクと攻撃する///。(被害妄想)


「じ、じゃあ、やっぱり僕もフード付きマントにした方が・・・。」

「(顔が出るかもしれないから)ダメですっ!」

「(顔が出るかもしれないから)却下っ!」

「な、なぜだーっ!?」


折衷案として、僕も皆と同じくフード付きマントで身を包めばと提案したら、すげなく否定された。

そんな僕の様子に、ハンスとユストゥスは止めを刺した。


「諦めて下さい、主様あるじさま・・・。」

「大人しく『仮面』被っときな、あるじさんよ・・・。」

「ううっ、仕方ないか・・・。」


ポンと、二人の手が僕の肩に置かれる。

同情の様な、哀れみの様な表情を浮かべる二人の様子に、僕に味方がいない事を悟った。


「そうですよっ、それが良いですよっ、ねっ、アイシャ殿っ!」

「うんうんっ!」


僕がしぶしぶ了承すると、途端に上機嫌になるティーネとアイシャさん。

何がそんなに嬉しいのだろうか?



なぜアイシャとティーネが頑なにアキトに『仮面』を着けさせたがっているのかは、前述の『理屈』もあるのだが、『本音』はただの『独占欲』と『嫉妬心』からである。

アイシャは、これでもアキトの『婚約者候補』として『シュプール』に派遣されて来た経緯があり、彼女自身もアキトに好意を抱いている。

ティーネは、アキトを『あるじ』と戴き、仕え支える事を使命とした『従者』として派遣されたが、彼女もアキトに(彼女の中では)身分違いの好意を抱いている。

アキトは、『英雄の因子』の能力『神格化カリスマ』と、その神秘的な容姿、『ステイタス』由来の身体能力が『雰囲気オーラ』となって、ただでさえ色んな人達を惹き付けてしまうと言うのに、彼は成長するごとに、さらにその容姿に磨きがかかってきてしまっている。

有り体に言えば、『イケメン』に成長しているのだ(アキト自身は、彼の美意識がズレている訳ではないが、この世界アクエラには『地球時代』ほど『鏡』を見る機会がないのであまり自覚していない)。

今はまだ良いが、後二、三年もすれば女性達が群がって来てしまうだろうと予測した二人は、(今の内からアキトに慣れさせる為)『仮面』を(利用して普段からその容姿を『封印』)する事を提案(画策?)したのだった。

この世界アクエラでの婚姻関係は、『一夫一婦制』が基本だが、『一夫多妻制』も珍しくないし、実例は少ないが『一妻多夫制』も存在する。

男性諸君なら、一度は夢想する『一夫多妻制』、所謂『ハーレム』だが、これを可能にするには、現実的は話、『高い経済力』が絶対条件である。

それが無いのなら、悪い事は言わないので、でガマンしておいた方が賢明だろう。

ただ、アキトの場合は、本人は『元・日本人』の社会通念上『一夫一婦制』が普通と考えているが、彼の預かり知らぬ所で異性を惹き付けてしまう。

しかも彼は、今現在この世界アクエラでもトップクラスの『強さ』を持ち、アルメリア直伝の『知識』により、大金を稼ぐ方法はいくらでもある。

10歳の少年にして、事実上アルメリア、アイシャ、ティーネ達、元・奴隷だった『エルフ族』達を養っていた実績もあるのだ。

彼がになれば、恋のライバルは無数に増えていく事だろう。

アイシャとティーネは、すでにお互いの気持ちを知っているので、納得の上で結託しているが、その数が増える事はまた別の話だ。

数が増えれば、単純な話、自分に構ってくれる時間も少なくなってしまうからである。

「恋のライバルは少ない方が良い。」

これが、アイシャとティーネが出した結論であった。



「『仮面』自体は、恐ろしく芸術的だな。どこかの秘宝みたいだ。」

「へっへ~、良いでしょ~。私の力作なんだよ~!」

「おおっ、やはり『鬼人族』の『金属加工技術』は素晴らしいですねっ!」

「確かにこれは美しいな。」

「意外、と言うのは失礼だが、アイシャ殿の美的センスは中々のモンだよなぁ~。」


アイシャさんに手渡されたのは、顔の前面を覆うタイプの『仮面』であった。

これに紐を通して、結んで固定する様だ。

パッと見だと分からないが、呼吸を阻害しない様に小さな呼吸口まで着いていて、芸が細かい。

クロとヤミが、『白狼』達と合流してから、二匹が使っていた『小屋』が空いたままだった。

そこを『工房』に改造し、最近アイシャさんが籠っているなぁと思っていたが、『仮面こんなモン』作っとったんかいっ!

いや、某ヒーローモノみたいなのを想像していたので、大分マシなんですがね?

流石は、『ドワーフ族』とは別ベクトルで『金属加工技術』に長ける『鬼人族』である。

ただ、『鬼人族』は、自分達が使わないからか、『武器類』などは作らない。

この『仮面』の様な『装飾品』や『日用品』がおもだそうだ。

そういえば、僕らの使用している『武器類』も、大分年季が入ってきたなぁ~。

・・・現実逃避気味にそんな事を考えていたが、アイシャさんとティーネのワクワクした表情には逆らえず、意を決して『仮面』を装着した。

・・・意外と、違和感はないな。

視界も良好だし、呼吸も楽に行える。

アイシャさんの『腕』は、中々のモノの様だ。


「うんっ、良いよっ、アキトっ!似合ってるっ!」

「そうですねっ!とても凛々しくていらっしゃいますよっ、主様あるじさまっ!」

「・・・そ、そうっ?」


アイシャさんとティーネの感想に、若干気分を良くする僕。

そこっ、チョロいとか言わない様にっ!


「いえ、本当に良くお似合いですよ、主様あるじさま。」

「ああっ、ハンスの言う通りだ。結構カッコいいんじゃねぇかな?」


中身は『男子中学生』みたいなモノだが、見た目は『超美形』のハンスとユストゥスにまでそう言われると、僕も満更でも無い気分になってくる。


「うんっ、これなら問題なく動けそうだし、それじゃあ、元・アジトに向かうとするかっ!」


若干テンションの上がった僕は、そう言って移動を再開したのだった。

後ろで、アイシャさんとティーネが「計画通り・・・!」的な笑みを浮かべていた(一部誇張あり)のには、気が付かなかったが。



◇◆◇



「んっ?何だか騒がしいな・・・。複数の人々の『気配』も感じるし・・・。」

「・・・ランツァー一家の奴らが、隊商キャラバンでも襲ってるんじゃないっすかね?」

「ありうる話だな・・・。」


元・アジトに向かう途中で、人々が争う様な喧騒が微かに聞こえてきたので、僕はそう呟く。

それにユストゥスがそう意見を述べ、ハンスも同調した。

移動速度を早め、僕らはその『現場』へと急行してみる事にした。

少し離れた小高い丘からその『現場』を見てみると、隊商キャラバンを左右から襲撃する部隊が目に入った。

数自体は倍以上あったが、相当優秀な『護衛』がついているのか、隊商キャラバンの人達はかなり健闘している。


「大変っ!急いで助けてあげようよっ!」

「・・・ちょっと待って、アイシャさん。その意見には賛成だけど、向こう側にも『別動隊』らしき集団が見えるよ。」


隊商キャラバンを左右から襲撃している部隊とは別に、隊商キャラバンの進行方向方面に潜伏している部隊が微かに見える。

魔法テレスコープ』で確認してみたが、武装もバラバラ、人相もあまりよろしく無い。

ついでに、こんな場所に潜んでいる以上、マトモな集団ではないだろう。

数は、五十人ほどの規模だろうか?

これぐらいなら、僕ら五人で数分もすれば片付けられるだろう。


「こっちは、まだしばらくは大丈夫そうだし、向こう側から先に片付けよう。どうせランツァー一家は潰すつもりなんだし、元・アジトに着く前に少しでも戦力を減らしておければ、後々楽だからね。」

「分かったっ!」

主様あるじさまのお心のままに。」

「はっ!」

「了解っす!」


う~ん、僕らも大分『戦場』慣れしたモノだな。

方針が決まれば行動も早い。

丘から『別動隊』までの距離は軽く見積もっても四、五キロあったが、今の僕らなら数分と掛からない。

僕らの中で、スピードで若干劣るアイシャさんに合わせてそれなのだ。

僕やティーネ達がスピードで本気を出したら、一分と掛からないだろう。


「一応確認しておきますが、貴方達はランツァー一家の方達ですか?」

「だ、誰だっ!」


急に現れた(彼らにとっては)僕らに、盗賊と思わしき面々は驚きの表情を浮かべている。


「違うのなら、今の内に否定しておいた方が賢明だぞ?」

「まぁ、どっちにしても叩きのめすけどな。こんな所に隠れ潜んでいる以上、ロクな連中じゃねーだろーし。」

「ああっ!?舐めてんのかテメーらぁっ!」

「テメーらこそ怪しい格好しやがってっ!」

「おいおいっ、その人数で俺らランツァー一家とやろうってのかいっ?」

「ヒャハハハッ、こいつら、命知らずのバカなんだぜっ!ちょうど暇してたんだ、ちっと遊んでやろうぜっ!?」


ハンスとユストゥスが軽く挑発すると、彼らは挑発に乗ってしまった。

うむ、言質もとれた事だし、素早く片付けてしまおう。

つーか、(おそらくだが)『作戦行動中』に好き勝手に動くなよなぁ。

イレギュラーが発生したから、その排除をするのは理にかなっているが、ノリは完全に不良のそれだ。

しかも、相手の『力量』を全く理解出来てないのもマイナスポイントである。

『伏兵』として潜んでいる(丸分かりだったが)以上、(彼らなりに)周囲の警戒はしていた筈だが、それに一切気付かれずに接触した僕らを脅威だと認識出来ていない。

この人達、おそらく初級冒険者クラスの集まりなんだろうなぁ。

確かにそれでも『数は力』だが、僕らはレベル400越え、しかも、全員達人マスタークラスの『使い手』だぞ?

この世界アクエラには確かに『レベル制』が存在し、『レベル』の差は大きなアドバンテージとなるが、絶対でも無い。

『貴族』の常套手段である『パワーレベリング』の例にある様に、『高レベル者』でも、必ずしも『強い』訳ではないからだ。

それ故に、『低レベル者』達が徒党を組み、『高レベル者』を打倒すると言う例も、当然存在する。

しかし、『上級冒険者』と呼ばれる者達は、例外なく何らかの武術・武器術の達人マスタークラスの『腕前』を持つ。

そうでないと

それでも『数の力』は大きいので油断は出来ないが、僕らにはそれすら埋めて余りある『力(『魔法』に『精霊魔法』に『魔闘気』など)』もあるのだ。

まぁ、もっとも、


「そんじゃあいっくよっ~!」

主様あるじさまの障害となるモノは排除しますっ!御覚悟っ!」

「「「「うぎゃあぁぁぁぁ~!!!!!」」」」」


それすら必要ないほどこの人達の『レベル』は低いけど。

お~お~、良く飛ぶなぁ。

アイシャさんに吹き飛ばされ、ティーネに瞬殺され、ハンスとユストゥスにボコられる。

・・・もう、これ僕必要なくね?

皆が何やら張り切っているので、僕は近寄る者達だけ撃退しておいた。

・・・戦闘と呼ぶには、あまりにも一方的な展開で、数分後にはこの部隊は壊滅しました。

どうもお疲れ様でした。

死屍累々になった光景を眺めて、アイシャさんは不満気に呟く。


「やっぱ、この人達も弱かったねぇ~。」


止めて、この人達のライフはもうゼロよっ!?

まぁ、実際には死んでないけどね(かろうじてだが)。


「まぁ、なかなかこの『レベル』になると互角に渡り合える人の方が少ないだろうからね~。さっ、こっちは片付いたし、隊商キャラバンの人達を助けに向かおっか。」

「うんっ!」

「はっ!」

「了解っ!」

「うっす!」



『別動隊』を片付けている数分の間にこちらの状況は目まぐるししく変わっていた。

襲撃部隊の連中は、所謂『火攻め』に転じていたのだ。


「大変っ!アキト達は先に行ってっ!」

「了解っ!」


隊商キャラバンが健闘している事に苛立ち、襲撃部隊が『火矢』を放とうとしていたのが見えた僕らは、アイシャさんを残してスピードを上げた。

『火攻め』に混乱した隊商キャラバンの人達の一部が『陣形』を崩し、その間を襲撃部隊の一部がすり抜ける。

ちょっとマズイかな?

と思ったのだが、


「うるさいなぁっ!子どもたちが怯えてるでしょーがっ!」

「んっ?」


女の子の声が聞こえたと思ったら、隊商キャラバンの馬車に取り付こうとした襲撃部隊の一部の連中が吹き飛ばされた。

お~お~、良く飛ぶなぁ。

アイシャさんで見慣れている僕らはともかく、他の人達は隊商キャラバン、襲撃部隊関係なく一瞬その衝撃映像に動きを止めてしまっていた。

これはチャ~ンス。

見た限り、隊商キャラバンの人達は武装を統一している様で、襲撃部隊の者達と見分けが付きやすくて助かる。

さりげなく僕らは武力介入しつつ紛れ込み、襲撃部隊の『指揮官』らしき者の姿を探す。

正規の軍隊でも、『指揮官』は他と違った派手な武装をしている事が多い。

こう言った『犯罪組織』の場合は尚更である。

彼らは、ある意味面子や見栄に生きているからなぁ。

ああ、いたいた。

無駄に派手な服装の男だ。

つーか、それあんまり戦闘に向かないだろう?


「お、おいっ!別動隊に伝令を出せっ!『待ち伏せ』を中止して、こっちに向かわせるんだっ!」

「は、はいっ!」

「それには及びませんよ。別動隊の皆さんには。数日間は、まともには動けないんじゃないですかね?」

「ダッ、誰だぁっ!?」


『指揮官』らしき者は、すでに冷静さを微塵も感じさせない状態だ。

これなら、僕らが介入する事も無かったかな?


「名乗るほどの者ではありませんよ。それに名乗る必要もありませんしね。貴方達は、今日を持ってこの世界アクエラの歴史からランツァー一家の名と共に消える運命なのですから。」

「く、くそがぁぁぁっ!どいつもこいつも舐めやがってぇぇぇ~!!」


相当フラストレーションが溜まっていたのだろうか?

少し本当の事を言ったら、『指揮官』らしき者は激昂し、滅茶苦茶な動きで僕に迫って来た。


主様あるじさまに近寄るな、下郎げろうっ!」

「ひぶぅっ!」


まぁ、ティーネに瞬殺されましたがね?


「ひ、ひぃ!」


部下らしき者が小さな悲鳴を上げ逃げ出した。

まぁ、次の瞬間には倒れていたんですけどね。

いやぁ、心強い仲間を持ったモノだなぁ。(遠い目)

遠くではアイシャさんによる派手なパフォーマンスが見えるし、一見地味だがハンスとユストゥスも良い仕事をしている。

こちらはほぼ片付いたんじゃなかろうか?


「こっちが片付いたら、反対側もお願いねっ!僕は、隊商キャラバンの馬車にいる人達の所に向かうから。」

「はっ!」

「ち、ちょっと待ってくれっ!アンタらは一体何者だいっ!?」

「んっ?」


不意に引き留められて、その声の主を見る。

かなり実用的でありながら高級そうな装備品で身を固め、自然で隙の無い立ち姿。

おそらく『高レベル』の『冒険者』だろう男性の問いに答えた。


「貴方は隊商キャラバンの『護衛』をされている『冒険者』の方でしょうか?僕らは、怪しい・・・、その、訳あって怪しい格好はしていますが、少なくとも『敵』ではありません。こちらの事情により、勝手ながら『助太刀』させて貰いました。そちらに、『指揮官』らしき男もノビてますので、処遇はそちらにお任せします。」

「そ、そうかい。分かった。正直アンタらとはやり合いたくなかったから、『敵』じゃないならいいんだ。『指揮官』の処遇も任せておいてくれっ!」


ふむ、やはりこの男性、かなり『出来る』な。

少なくとも、相手の『力量』を見抜く『経験則眼力』があり、柔軟な『判断力』もある様だ。

『戦場』、と言うかこの世界アクエラでは一瞬の状況判断が生死を分ける事が往々にしてある。

それ故に、その時々で選択肢は『単純シンプル』にする癖を着けておいた方が良い場面もある。

今回の場合、彼が想定した選択肢は、この怪しい集団僕らは『敵』か『敵ではないか』だ。

そして、彼は瞬時に『敵ではない』と判断したのだ。

まぁ、『味方』とは流石に思わないだろうけど。

隊商キャラバンが健闘出来たのもこの男性とその仲間達の尽力があってこそだろう。

さぞ『名』のある『冒険者』パーティーに違いない。


「ティーネは、この方に協力して差し上げて。僕は、先ほど言った通り、馬車にいるだろう『非戦闘員』の方に向かうからね。」

「畏まりました。」

「そう言う訳ですので、すいませんが一旦失礼させて頂きます。状況が落ち着きましたら、またご挨拶させて頂きます。」

「あ、ああ。」


本当は、少しばかり彼とは話をしてみたかったが、戦闘はまだ終わっていない。

流れは完全に終息に向かっているが、襲撃部隊は正規の軍隊では無い。

逃走するのならまだ良いが、戦況を全く理解せずに無意味な抵抗をする事も予測される。

馬車の方にも、防衛戦力はいるだろうが、微かに『勘』の様なモノがするので、僕はそれに従いそちらに向かうのだった。


「あ~、御協力頂けると言う事だが・・・。」

「とりあえず、襲撃部隊を無力化してしまいましょう。私の仲間も武力介入しておりますので、我らも参りましょうか?」

「了解した。」



◇◆◇



「ち、ちくしょうっ!どうなってんやがんだっ!!」


ランツァー一家の構成員の一人で、『盗賊部門』所属の男が喚き散らした。

この男は、『盗賊』になってからそれなりに長い。

昔から理由もなく自分は『デカイ男』になれると信じ込んでいて、しかしその為にしてきた訳でもない。

一旦は『冒険者』となったまで良いが、その苛酷さに早々に根を上げ、他の『冒険者』に『寄生』したりして、方々でトラブルを起こした。

そうなると、当然『冒険者』達のネットワークからは弾き出されてしまう為、自分を認めない『社会』を呪いながらアテもなくさまよっている所をランツァー一家に拾われたのだった。

『盗賊部門』に所属し、こき使われる日々だったが、襲撃した『商人』などをなぶり殺しにしたり、隠れていた女を犯したり、そうやって所謂チンケなプライドを今まで保って来た。

組織集団の力』を自分の『力』と錯覚し、やっぱり自分は『デカイ男』なのだと思い込む。

その内に、幹部や次期首領になるのも時間の問題だな、などとではそうなっていたある意味男だった。

今回だって、、『商人』などをなぶり殺しにし、女を犯し、楽に大金を手に入れる『デカイ男』に相応しい『仕事』に勤しもうとしていたのだ。

しかし、蓋を開けて見れば、この隊商キャラバンの連中は手強かった。

襲撃部隊の頭目の男を心の中で「あの『無能』めっ!」と罵り、そのでなんとか今まで生き残っていた。

頭目が『火攻め』に転じ、流れが変わると、「遅ぇよ、ノロマがっ!」と心の中で罵りながら、『陣形』を突破して、ようやくいつも通りの『仕事』が出来るとほくそ笑んでいた。

彼の方こそ、まさに『無能』だったが、足はそれなりに速かった。

だが、トップレベルと言う訳でもなく、先に行く『仲間』達を罵りながら、中途半端な位置にいた。

だからこそ、彼は助かった。

突如として現れたに吹き飛ばされた『仲間』達を見て、驚愕と同時に「俺より先に行くからだ、ざまーみろっ!」と心の中で呟く。

自分なら、少女の攻撃をかわせると自信を持ち、しかし慎重な自分『小物』な彼は、相手の出方の窺っていた。

心の中で「役立たずのオメーらが『囮』になれば、俺があの生意気な小娘をれんだろうーがっ!」と罵りながら、時は経過していた。

そして、ふと喧騒が少なくなったと感じ、辺りを確認してみる。

気が付けば、


「ち、ちくしょうっ!どうなってやがんだっ!」


周りの『仲間』達も似た様に狼狽し、冷静さを失っていた。

逃げるにしたって、馬車の近くに位置する場所にいるのだ。

先ほどまでと違い、今現在は『敵』に包囲されている状況である。

しかし、大人しく『投降』する、と言う『選択肢』は彼にはない。

自分はこんな所で終わる男では無いと、今だに信じているからである。


「おい、みんなっ、一斉にかかればアイツをれるぞっ!」


が助かる為には、これしかない。

そう判断し、『仲間』達を煽り、少女に殺到する様に促す。

『人質』さえ取れれば、まだチャンスはある。

周囲の『仲間』達も冷静さを失っている状況だ。

『扇動』され、『先に動かれる』と、遅れまいと『流れ』に乗ってしまう。

そうやって、男は、少女の攻撃を『仲間』達に押し付け、近くにいた幼女を『人質』とする事に成功した。


「しまっ!」

「は、アハハハッ!やったぞっ!やっぱり俺は天才だなぁっ!」


『仲間』達は少女に吹き飛ばされたが、自分には関係ない。


「おらぁっ、動くんじゃねーぞっ!動けばコイツが死んじまうぞぉっ!」

「くっ!」

「やめとくれっ!」

「エレオノールっ!」

「くそぉっ!娘を離しやがれっ!」


男は、『人質』の幼女、エレオノールに刃物を突き付ける。

エレオノールは、それに恐怖の表情を浮かべた。


「いやぁっ、助けてっ、パパッ、ママッ、お兄ちゃんっ、リサお姉ちゃんっ!」


金切り声を上げて助けを求めるエレオノール。

その様子に、リーゼロッテもドニもシモーヌもアランも、悔しげに男を睨むが、動く事はかなわなかった。

実は近くには『デクストラ』の野伏レンジャー・イドリックの姿もあったのだが、『矢』が底を尽きていたのが災いし、男を瞬時に迎撃出来なかった。

イドリックの『名誉』の為に明言しておくが、彼の『腕前』ならば『矢』のストックさえ有れば、男がエレオノールに近寄る間もなく間違いなく瞬殺していただろう。

幾多の『悪運』を味方に着けていた男だったが、それがである事には気が付いていなかった。

ほくそ笑み、これ見よがしに怯えるエレオノールを前に突き出し、ジリジリと逃走を図ろうとする。

が、ふいに『重さ』がなくなり違和感を感じた。


「えっ・・・?」

「幼女を怖がらせてんじゃねーよ、このクズ野郎がっ!」


懐には、いつの間にか『仮面』をした怪しい人影が立っていて、男の腕からエレオノールを救出していた。


「だ、だr」


セリフを言う暇もなく、男は顔面が変形する程したたかに殴られる。


「成敗っ!」


男を数十メートル吹き飛ばし、『仮面』をしていたノリも手伝ってか、『決めポーズ』と『決め台詞』を吐いた謎の人影。

何を隠そう彼こそが、我らがアキト・ストレリチアその人であった(某ヒーローモノナレーション風)。


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