第25話 クロとヤミの『国盗り物語』 3



「ワォーン、ワウワウッ(では改めて、これより『魔獣の森』の新たな『ボス』の『座』を懸けて、各『リーダー』とクロ、ヤミには競いあって貰う。)」


ジンは、ノルド、ズュード、ヴェスト、オスト、メディオ、クロ、ヤミ、そして、昏睡状態から復帰した取り巻きの『白狼』達にそう宣言した。


「ワォーン、ワウワウッ(各『リーダー』はすでに理解していると思うが、クロとヤミの為にも、確認の意味も含めて改めて説明しておこう。)」


ジンは、周囲を見渡すと、一呼吸置いて説明を始めた。


「ワォーン、ワウワウッ(まずは、戦う者を1匹ずつ決め、両雄で勝敗を決する。勝者が、また他の勝者と対戦し、最後まで勝ち残った者が、ワシとの対戦となる。その勝者が、新たな『白狼』達の『ボス』となるのだ。)」

「ワンッ、ワンワンッ(つまり、『トーナメント』バトルで優勝した者が、ジンさんに挑む権利を与えられるって事だね?)」

「ガウッ、ガウガウッ(さらに、ジンさんに勝ったら、新しい『ボス』になるって事だねっ!)」

「ワォーン、ワウワウッ(うむ。理解が早くて助かるぞ。その通りだ。)」

「ワンッ、ワンワンッ(けど、そこの雄達と僕らを合わせると、7匹いるから、1匹余っちゃうね・・・。)」

「ガウッ、ガウガウッ(まぁ、僕らが加わる前から、5匹で1匹余るから、その1匹は『シード枠』なんじゃない?)」

「ワォーン、ワウワウッ(うむ。その通り。まぁ、若干不公平ではあるが、『運』も実力の内と言うしな。)」

「ワンッ、ワンワンッ(なるほどね~。了解~。)」

「ガウッ、ガウガウッ(僕も、理解したよ。それで、対戦カードはどうやって決めるの?)」

「ワォーン、ワウワウッ(それは、だ。『祖霊』の遺産、『選定の像』を使う。)」


ジンが指し示した『祖霊』の眠る大樹の根の辺りに、一目では分からないが、自然と上手く調和した『石像』があった。

『白狼』を模した『石像』で、明らかに人工物なのに、何故かクロもヤミも、今の今まで気が付かなかった。


「ワォーン、ワウワウッ(何故かは分からぬが、この『選定の像』に名乗ると、『像』が対戦カードを組んでくれるのだ。)』

「ワンッ、ワンワンッ(ふ~ん。不思議な『石像』だね~。何らかの『力』を感じるよ。)」

「ガウッ、ガウガウッ(そうだね~。けど、ジンさんに言われるまで、全く気が付かなかったなぁ・・・。アルメリア様やアキトくんなら、何か分かるかもしれないけど・・・。)」

「ワォーン、ワウワウッ(それは勘弁して貰いたいモノだな。たとえ彼の方達であっても、『祖霊』の許可なく『聖地』に侵入されたのなら、迎撃せねばならん。勝てるかどうかはともかく、な。)」

「ワンッ、ワンワンッ(大丈夫だよ~。アキトくんは約束は守るからね。)」

「ガウッ、ガウガウッ(アルメリア様も、基本的に『シュプール』から動かないしね~。)」

「ワンッ、ワンワンッ(おいっ!もう説明は済んだだろっ!さっさと始めよーやっ!」


クロとヤミの話が脱線しかけた所で、焦れたノルドが口を挟んだ。


「ワォーン、ワウワウッ(そうだったな。では、皆。『像』に向かって名乗りを上げるが良い。)」


ジンがそう促すと、ノルド達は次々に名乗りを上げた。


「ワンッ、ワンワンッ(北の『グループ』の『リーダー』、ノルドだっ!)」

「ワウッ、ワウワウッ(南の『グループ』の『リーダー』、ズュード。)」

「ガウッ、ガウガウッ(西の『グループ』の『リーダー』、ヴェスト。)」

「ワォーン、ガウガウッ(東の『グループ』の『リーダー』、オスト。)」

「ワォーン、ワンワンッ(中央の『グループ』の『リーダー』、メディオですっ!)」

「ワンッ、ワンワンッ(アキトくんの弟分、クロっ!)」

「ガウッ、ガウガウッ(同じく、アキトくんの弟分、ヤミっ!)」

「ワォーン、ワウワウッ(以上7匹の雄達が、『選定の儀』に挑どむっ!)」


すると、『選定の像』が反応を示した。


〈『魔獣種』・『白狼』の声紋を感知。固有名と思わしき単語を感知。これより、ランダムで組み合わせを開始します。・・・。・・・。終了しました。これより、提案を開始します。〉

【ワォーン、ワォーン(対戦カードを・提案・します。やり直す・場合は・もう一度・最初から・手順・を・繰り返して・下さい。)】


ざわつく『白狼』達を尻目に、『選定の像』は、機械的な『声』で、対戦カードを提案した。

それによると、


一回戦 ヴェストVSヤミ

二回戦 オストVSメディオ

三回戦 ノルドVSクロ

シード枠 ズュード


であった。


「ワォーン、ワウワウッ(『選定の像』が、対戦カードを示したっ!異論のある者はいるかっ!?)」

「「「「「「「・・・。」」」」」」」

「ワォーン、ワウワウッ(ならば、早速始めよう。ヴェストとヤミは前へ。他の者達は、下がってくれっ!)」


ジンに促され、ヴェストとヤミは『選定の像』の前に移動する。

その後、他の者達が下がると、50m四方ほどのぼやけたフィールドが展開された。


「ガウッ、ガウガウッ(なんだか、アルメリア様の『領域干渉』や、アキトくんの『結界術』みたいだなぁ。)」

「ガウッ、ガウガウッ(何やら不可思議だが、身体に異常はないな・・・。特に問題なさそうだ。)」

「ワォーン、ワウワウッ(そのフィールドは決着が着くまで解けない様になっている。勝敗は単純明快。相手を倒すか、降参させるかだっ!場合によっては、敗者は死んでしまう事もあるが、勝負の上での事なので、勝者にはペナルティはない。今さらリタイアする者もいないとは思うが、棄権する者は、今の内に申し出てくれっ!)」

「「「「「「「・・・。」」」」」」」

「ワォーン、ワウワウッ(棄権する者はおらんなっ?他に何か質問はっ?)」

「ガウッ、ガウガウッ(だいじょ~ぶ。)」

「ガウッ、ガウガウッ(問題ありません。)」

「ワォーン、ワウワウッ(ならば始めようっ!ヴェストVSヤミ。始めっ!)」


少し距離を置いて対峙していた2匹の雄達は、ジンの合図を皮切りに、戦闘を開始したのだった。



◇◆◇



「どうやら、『祖霊』ってのは、中々に秘密のありそうな存在の様だね・・・。」


僕は、『失われし神器ロストテクノロジー』と思わしき『石像』を確認しながら、そう独り言を呟いた。

まぁ、気にはなるが、ジンさんとの約束もあるし、とりあえずは放置だな。

『白狼』達の『聖地』にあるのなら、よほどの事がない限り、悪しき者が悪用する事態にはならないだろう。

それよりも、今はヤミの対戦を見守ろう。


「うんっ?何か言った、アキト~っ?」

「いや、なんでもないよっ?」

「そうっ?ところで、今闘ってるのって、ヤミちゃんだよねっ?」

「そうだよ。アイシャさんも、2匹を見分けられる様になったんだね。まぁ、クロとヤミは双子だし、『魔獣』だから、中々『人間種』には見分けがつかないかもしれないけど・・・。」

「まぁ、何となく、だけどね?それに、『気配』も若干違うみたいだし・・・。」


へぇ、アイシャさんは、着実に『魔闘気』を自分のモノにしつつある様だ。

『魔闘気』は、身体能力強化に加え、さらにその『副次的効果』として、『魔素感知』にも長ける様になる。

この世界アクエラの生物は、『魔素』に何らかの影響を受けているので、『魔素感知』と『気配感知』を組み合わせると、より具体的な情報、相手のおおよその強さだったり、『個体』を認識しやすくなるのだ(まぁ、『慣れ』は必要だが)。

相手の力量を測れる者は、当然生存能力に優れるので、とても重宝するスキルと言える。


「向こうの『白狼』も、中々良い動きをするな。」

「そうだな。『白狼』達の『瞬発力バネ』と『持久力』は、目を見張るモノがあるよな。」

「それでも、クロ殿とヤミ殿に比べれば、『力』の差は歴然だが果たして・・・。」


ユストゥス達は、あいかわらず呑気に観戦モードである。

さて、向こうの様子はどうだろう?



◇◆◇



「ガウッ、ガウガウッ(くっ、全然捉えられんっ!)」

「ガウッ、ガウガウッ(中々だけど、まだまだ動きに無駄が多いねっ!)」


ヴェストは焦りを感じていた。

ヴェストは、先程の『白狼』達とクロ、ヤミの立ち合いを見てから、2匹の力量をおぼろげながらに理解していた。

おそらく、自分達より数段上の手練れだろう、と。

それゆえに、初手から自分自身が持つ最高で最速の攻撃手段を叩き込む事で、活路を見出だそうとしたのだが、それすらいなされてしまったのだ。

当然ながら、ヴェスト達他の『白狼』には、『格闘技術』など理解出来る筈もない。

野生で培った強さと勘だけで、今の所何とか食らい付いてる状況だ。

『人間種』とはまた違った、一瞬、一瞬で立ち位置が目まぐるしく変わる、『魔獣』ならではのハイスピードバトルの様相を呈していた。


「ガウッ、ガウガウッ(さて、後も控えているし、僕も本気で行くよっ!)」


ヤミがそう言うと、グッと腰を落とした。

来るっ!

警戒心をMAXまで上げたヴェストだったが、それでも為す術が無かった。

瞬発力バネ』と特殊な『歩法』を組み合わせた、虚実を含んだヤミの『格闘技術』に対応出来なかったのだ。

意識を手放す瞬間、ヴェストは確かに2のを見たのだったー。


「ワォーン、ワウワウッ(そこまでっ!勝者、ヤミっ!)」


ヴェストが気絶すると同時に、フィールドが解除された。

どういう仕組みかは分からないが、勝敗が決するとフィールドが解かれる仕様になっている様だ。

ジンが宣言すると、『白狼』達は大きくどよめいた。


「ワンッ、ワンワンッ(・・・。へ、へっ、だらしねぇな、ヴェストの奴っ!簡単にやられちまいやがってっ!)」

「ワウッ、ワウワウッ(・・・強がりはよせ、ノルド。本当は、分かっているのだろう?)」

「ワォーン、ガウガウッ(逆に、理解出来ていなかったら、『リーダー』にまでは登り詰められんだろうからな・・・。)」

「ワォーン、ワンワンッ(そうですね・・・。彼らの『強さ』は、我々を凌駕しています。文字通り、でしょうね。)」

「ワンッ、ワンワンッ(ちっ!分かってるよっ!んなこたぁっ!けど、素直に負けを認めるワケにもいかねーだろーがよっ!)」


その中で、ノルド達各『リーダー』は、クロとヤミの『強さ』が自分達を越えている事を理解していた。

しかし、だからと言って、ノルドの言う通り、今さら後には引けないのだ。

『臆病』である事は、『魔獣』に取っては悪い事ではない。

ただの殺し合いであるなら、全滅を回避するべく、全力で逃げる事も必要だろう。

だが、今回は『ボス』の『座』を懸けた『力比べ』である。

その状況で、すごすごと身を引くのは、『グループ』を率いる者達としては、出来ない相談であった。


「ワォーン、ワウワウッ(次っ!オストVSメディオっ! 両者は前へ。)」


気絶したヴェストを、取り巻きの『白狼』達が移動させると、ジンはそう声を掛けた。


「ワォーン、ガウガウッ(しかし、ノルドの発言も一理ある。)」

「ワォーン、ワンワンッ(そう、ですね。せめて、『我ら白狼』の『力』も示しておかなければ・・・。)」


オストとメディオは、『黒狼クロとヤミ』を見やり、そう呟いた。


「ワォーン、ガウガウッ(と言う訳で、手加減は一切出来んぞ、メディオっ!)」

「ワォーン、ワンワンッ(それはこちらも同じ事っ!)」


長らく忘れかけていた『挑戦者』としての心持ちを、オストとメディオは思い出していた。

気合十分に両者は対峙した。


「ワォーン、ワウワウッ(では、オストVSメディオ、始めっ!)」


ジンの合図と共に、両者は戦闘を開始した。



◇◆◇



「こうやって、改めて一般的な『白狼』同士の戦いを見ると、クロ先輩とヤミ先輩の力量は、やっぱ異常だよなぁ~。」

「まぁ、そうだな。・・・今、戦っている2匹も、『白狼』達の中では強者の部類なんだろうけど・・・。」

「そもそも、『訓練校』をトップクラスで卒業している私達に匹敵するクロ殿とヤミ殿がおかしいのだ。ジン殿もかなりのモノだろうが、それでもお二方よりは劣るだろう。」

「だよなぁ~。『魔獣』って、こんなに強くなるのかって、初めて戦り合った時は思ったモンだよ。」


観戦モードでたべっているユストゥス達は、そんな議論を繰り広げていた。


「クロとヤミに関しては、正直やり過ぎたとは思っているけどね?考えなしに、色々と教えたのは(主に)僕だし・・・。逆に、『白狼』としての『常識』は『人間種』である僕には教えようが無かったけど・・・。」


そんな中、僕はの様にユストゥス達に弁明していた。


「けど、『モンスター』や『魔獣』って『エルフ族』の認識としては、そこまでの脅威じゃないのかな?」

「いえ、そんな事はありません。『モンスター』は単独行動も多いのでまた違いますが、『魔獣』は複数で行動する事が主なので、我らでも単独で遭遇すると危険ですね。ただ、我らも単独で行動する事もそうはないので、本当の意味で手に終えない『種』は『最強種』たる『竜種』のみだと思っていたのですが・・・。クロ殿とヤミ殿の存在が、我らの常識を打ち砕きましたが。」


それに、ティーネが応えた。

追従する様に、アイシャさんも補足をする。


「『鬼人族』の認識も似たようなモノだよ?『モンスター』も『魔獣』も確かに脅威だけど、しっかり修業して準備をしていれば、手に終えない事態にはならないからね~。私も『山の神』とその眷族『竜種』以外だと、クロちゃんとヤミちゃんの強さには驚いたなぁ~。」

「なるほど・・・。やはりクロとヤミが特殊なんだね~。」


それに納得していると、対戦は山場を向かえていた。


「あ~、そろそろケッチャクがつきそーだよー。」


イーナの声に、僕はボーッと眺めていた景色のピントを合わせた。

『白狼』の見分けはつかないが、『気配』で年若い方メディオが優勢だと分かる。

先程のヤミ戦ほどの派手さはないが、正確に的確にダメージを蓄積していく戦いであった。

泥くさいが、本来はこちらが普通なのだろう。

お互いに、そこまでボロボロではないが、それでも毛皮が汚れていたり、出血も多少ある様だな。

おっ、遂に年上の方オストが力尽きた様だ。

ジンさんが、遠吠えをしたので、決着がついた様だな。

次あたりに、クロが出るのだろうか?



◇◆◇



「ワンッ、ワンワンッ(あの2匹もやるね~。鍛えれば、もっと強くなるんじゃない?)」

「ガウッ、ガウガウッ(そうだね~。特に勝った方の雄は、かなりの線まで行くんじゃないかな?まだ年若そうだし・・・。)」

「ワンッ、ワンワンッ(年若そうと言えば、次の僕の相手も、僕らよりちょっと上くらいじゃない?)」

「ガウッ?ガウガウッ(多分ね。一番経験が浅そうだからね~。その分、『伸び代』はありそうだけど・・・。)」

「ワォーン、ワウワウッ(次っ!ノルドVSクロっ!両者は前へ。)」

「ワンッ、ワンワンッ(おっ、お呼びが掛かったね。それじゃ、行ってきま~すっ!)」

「ガウッ、ガウガウッ(あんまり油断すんなよ~!?)」

「ワンッ、ワンワンッ(だいじょ~ぶっ!その事は散々アキトくんに言われているしね~。)」


力尽き、気絶したオストを取り巻きが移動させ、少なくないダメージを受けたメディオも、それでも自らの足で退場し、ジンが次の2匹に声を掛けた。

クロは悠々とフィールド内に移動し、ノルドは威勢良く、クロにを切りながら入場した。

それが、自分を大きく見せようとするである事を看破しているクロに取っては、少しだけ微笑ましくもあったが。

クロとヤミの会話にもあったが、油断や慢心は『戦闘』や『狩り』に置いては、大きな足枷になる事がある。

その事は、アキトから散々教え込まれたのだった。

かくいうアキトも、精神年齢的には40近いにも関わらず、レルフに会うまでは、若干の増長が見られたのだ。

まぁ、ある意味この世界アクエラ『最高』の指導者に英才教育を施され、『魔獣の森』の生活サバイバルにも慣れ、気付いたら自分より強者がアルメリアのみになったのだから無理からぬ事であるが・・・。

しかし、レルフと言う、この世界アクエラ最高峰の『S級冒険者』と出会い、短い期間だが指導を受け、まだ見ぬ強者がいる事を改めて理解した。

と、同時に、いつの間にか、オッサンの自分でさえ『天狗』になっていた事を恥ずかしく思ったのだった。

『地球』の日本と言う、比較的平和で争いとは無縁の『前世』から、弱肉強食の生存競争が普通のこの世界アクエラにやって来て、身を守る為に『戦闘技術』や『魔法技術(こちらは興味の方が勝っていたが)』を学び、慎重にレベルを上げて来たアキトでさえ、『慣れる』となるのだ。

この世界アクエラに生まれ、強くなっていった者は、さらにその傾向が強い。

それ故、若手の『冒険者』達は、若者特有の『世間知らず』を発揮させて、痛い目を見る。

ベテラン先輩『冒険者』に『洗礼』を受けるだけならまだマシな方で、中には無茶な行動の結果、『生命』と言う高い授業料を支払った者達も数多くいる。

自らを律する事が、生存能力を高めると再認識したアキトは、クロとヤミにもその事を散々諭したのだった。

もっとも、クロとヤミは確かにマイペースだが、身近にアルメリアとアキトと言う自分達より格上の存在がいた事により、そう言った事にはならなかったのだが。


「ワォーン、ワウワウッ(では、ノルドVSクロ、始めっ!)」

「ワンッ、ワンワンッ(始めから全力で行くぜっ!)」


逆に、ノルドは先程までは、所謂雄だった。

しかし、クロとヤミの存在が、で彼のこれまでの価値観を壊した。

あいかわらず、口調は荒々しいし、態度もアレだが、その瞳にはもはや慢心は微塵も感じられなかった。

宣言通り、ノルドは奥の手を使った。

『魔素感知』が出来る者は、ノルドに『魔素』が集まっていくのを感じただろうし、勘の良い者も、空気感が変わった事に気付いただろう。

まるで一回りノルドが大きくなった様な感じさえする。

そして、間髪入れず『瞬発力バネ』を使い、最速の爪でクロを強襲した。

その速度は、さながら疾風の如く速さだったーーー。


「ワンッ、ワンワンッ(おおっ!凄いよっ!『覇気』を使えるんだねっ!)」

「ワンッ、ワンワンッ(ちっ、防ぎやがったかっ!?)」


口調とは裏腹に、ノルドはそうなる予感がしていた。

普通の『白狼』なら、大抵は今のノルドの一撃は『避ける』べきたぐいのモノだ。

耐久力と防御力を考慮しても、致命的な一撃になりかねないからだ。

それゆえ、回避した瞬間に追撃を加え、相手の体勢が整わない内に瞬殺、という流れにしたかったのだ。

しかし、クロは、『格闘技術』由来の体捌きで、致命的な一撃の衝撃を大地に逃しながらガードすると言う離れ業で、完璧に防御して見せた。

そうなると、追撃を加える事が叶わず、しかも相手の警戒感を高めてしまう結果になる。

まさに、一撃必殺だが、外すと大ピンチの奥の手だった。


「ワンッ、ワンワンッ(けど、『覇気』の運用はまだ不慣れみたいだねっ!今の一撃は良かったけど、もうガス欠みたいだね?)」

「ワンッ、ワンワンッ(悪かったなっ!まだ完全に使いこなせてねぇんだよっ!けど、不完全でも使わなきゃ、オメーらとは戦り合えないだろーがっ!)」

「ワンッ、ワンワンッ(へぇっ、君良い『戦闘勘カン』してるねっ!僕、気に入っちゃったなぁ。じゃあ、僕の『覇気』も見せてあげるねっ!君なら、もっと強くなれるよっ!また今度やろ~ねっ!)」


クロの勝利宣言とも取れる発言に、しかし、ノルドは何も返す事は無かった。

自分とは違い、滑らかで洗練された『覇気』発動を見て、その『力』を強く目に焼き付ける事に必死だったからだ。


「ワンッ、ワンワンッ(『覇気』は爆発的に身体能力を向上させるけど、それを常に全身に使うのは効率が悪いんだっ!だから移動の時は、足に集中させて・・・。)」


レクチャーを始めたクロは、そう言うと文字通り


「ワンッ(な、消えっ!!)」

「ワンッ、ワンワンッ(で、攻撃の瞬間だけ、武器牙や爪に集中させると、戦闘中常に発動していられる状態になるよっ!分かったっ?)」


背後から、ノルドはクロの言葉を受け、自分の敗北を悟った。


「ワンッ、ワンワンッ(あぁ、アンタらがメチャクチャ強ぇ事は、な・・・。)」


クロの意識を刈り取る『肉球パンチ』をモロに受け、ノルドはなぜか清々しい気持ちで、意識を手離したのだった。


「ワォーン、ワウワウッ(それまでっ!勝者、クロっ!)」


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