タンポポ博士は植物と喋れる?

川野マグロ(マグローK)

タンポポ博士!

「この花は桜!」

「そうだね。その通りだね。ちなみに桜は……」

「君! こんなところで子どもたちにってタンポポ君じゃないか」

「あ、どうも」

 公園でウンチクを披露していると大抵これである。

 親でも無い者が子どもたちに何か語り聞かせるだけで注意を受ける。これは果たして正しい正義のあり方なのか。疑問に思うところではあるが口調からもわかるように、

「今日は何かね?」

「今日は桜についてです」

「あんまり、長くはならないようにな」

「はい」

「タンポポ博士〜続きは?」

「今から話すよ」

 町内の人々、警察とは今となっては良い友だと勝手に思っている。

 別に子どもたちに無償で植物についての学習機会を与えようとかそんな大層な志があってやっているのでは決して無い。

 そんなものがあれば最初から皆優しく接してくれたのではないかと考える事もあるがそれは仕方の無いことだ。

 始まりが始まりだから。



 僕がこんな植物大好きな人間になった事には訳がある。

 訳無く好きなものができる人もこの世には居るだろうが僕はその部類では無かったのだ。

「オウ!」

「オウ! 今日は何?」

「まあ、付いて来いよ」

 きっかけは確実に小学校時代の友だちだろう。

 当時の僕は植物が特別に好きなものでは無かった。

 兎にも角にもある程度の流行に遅れないようにするだけで残りはダラダラとしていたように思う。

 何故体力があるのにもっと行動しなかったのかという答はきっと何も知らなかったからだろう。知ら無いともっと知ろうとはなかなか思わないように思う。

 今教えている少年少女も教えるほ程にネットで調べた。図鑑を読んだ。と内容を語ってくれて嬉しい限りである。

「うわぁ」

「どうだ。すげぇだろ」

 だからこそ友だちに連れられて訪れた近くの森は好奇心くすぐる世界へのちょっとした扉を開くきっかけとなったのだ。

 虫嫌いも植物のおかげか克服できた。

 森の中、その中の嫌な部分ばかり見ていた自分をぶん殴りたくなる気持ちをどうにか鎮めるのに当時は大変だったのを覚えている。

 あの時は友だちに腕を押さえつけてもらったっけ。

「植物は野菜で十分なんて事はないだろう?」

「ああ! すげぇよ! 僕ってこんなことも知らなかったんだ!」

「そうだ! 世界って広いんだぜ!」

 友だちが進んでいると思い悔しさからガンガン植物を調べた。

 初めての感情の昂りはきっとここだろうと思っている。



「オイ。タンポポ博士」

 声の聞こえた方向を見るも誰の姿も無い。

 なんだ、気のせいかと歩き出そうとすると、

「下だ。下だ」

 という言葉につられて下を見るもあるのは地面ばかり。

「俺だ本物のタンポポだ」

「何?」

 とうとう本当におかしくなってしまったのか頭を冷やすために早く帰って寝てしまおうと思い視線を上げて歩き出した。

「オイ! ビビリ! マヌケ! そんなだから通報されるんだよ!」

 さすがにカッチーンとくるもどこを見ようと影も形も目に見えない。

 見えない相手には感情もぶつけられず先程見た地面へと再び視線を戻す。

「そうだよ。俺だよとうとう話す気になったか」

 どうやら本当におかしくなってしまったらしい。

 自称タンポポが安心したように見えた。

「何ですか?」

「俺を吹け」

 やはりこれは幻想である。

 回れ右をしてもう何も聞かないと決意を固めて歩き出す。

「俺の声ってお前にだけ聞こえてる訳じゃ無いよ〜」

 その自称タンポポの言葉にすかさず戻る。

 タンポポにタンポポの罵倒をされては困ったものだ。

 自称タンポポとはいえタンポポがタンポポをぞんざいに扱えば偽物扱い必死だろう。

 そこまで考えてから、

「吹けばいいんだな」

 と口にした。

 今にでも帰ってしまいたい気持ちを抑えてできる限り穏やかに声を出す。

「おう」

「いいのか?」

「いい」

 フーと吹くとタンポポの綿毛が白煙が空気の中へと見えなくなるように風に流され新たな生命の源は見えなくなった。

 という訳にはいかなかった。

 カタカタというのがせいぜいで風がどれだけ吹こうが綿毛は飛ばないだろう。

 だってコイツ風車だし。

「ありがとよ」

「じゃ」

 用は済んだと風車置く、

「オイ! ゴミを置くな!」

 それは近所のおじさんだった。

「いや、これ、僕のじゃ」

「全く人の土地にごみとは何たることか」

「そもそもここにあったもので」

「ええい! じゃあ通報じゃ!」

「それはそれだけは勘弁してください」

「持ち帰れば許そう」

「本当ですか?」

「本当だとも」

 そうしてまんまと風車を持ち帰ることとなってしまった。

 おじさんが最後に風車にウインクしたように見えたのはきっと気のせいだろう。



「タンポポ博士〜何持ってるの?」

「これは風車だよ」

 いつも話を聞いてくれる少年は目を輝かせて言った。

「それちょうだい!」

「お、いいよ」

「ありがとう」

「こっちこそ、じゃあな」

「うん」

 なんとも残酷なことをしたような気になるが仕方が無い。彼が欲しいと言ったのだ。僕はそれを叶えたまで。



「これ、返すよ」

 少年はいつものような元気が無かった。

「良いの? それよりどうした大丈夫か?」

「うん。大丈夫だよ。それじゃ」

「おう。お前いったい何したんだ?」

「テヘ!」

「テヘ! じゃねぇ!」

 家が騒がしくなった。

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