第28話 少年の予言

そして、最後に来たのはもちろん氷の国の皇帝親子だった。


「ええ、お久しぶりです。此度は呼んで頂き、光栄です。恥ずかしながら、今回は我が愚息を連れてまいりました。先ほどまでの皆様のご子息に比べれば、至らぬ点が多いのですがきっと姫も気に入りますよ。一番年も近いですし」


「ユーリ・ワシレフスキー・リオートです。よろしくお願いいたします」


 本当に美少年だ・・・。それにしてもまだ近くに他の二か国いるんだから、挑発しないでくださいね。


「スノウリリイ・フォン・アクアノーツです」


 同じく彼女も挨拶を返す。どちらも初めて会う相手じゃないけれど、安定の氷のプリンセスだ。すると、皇帝は王様やルカと普通に政治的な話を始めた。自分の息子は紹介するだけで放置である。いいのかな?さっきまでの二国はもうしつこいぐらいに婚約者候補のプレゼンをしていたのに。えっ、何そんなに勝利を確信している感じ?


 すると、静かに待っていたユーリが父親の服を引っ張った。


「父上、僕もう飽きてしまいました。外で遊んでいてもいいですか?」


「おや・・・、いいでしょうか。アルト殿」


「構わないよ、式典も終わっているし。パーティーでもないから、子どもには退屈だろう」


 王様の言葉を聞いてにっこり微笑んで、スノウリリイの手を取って駆け出した。


「わぁい、それじゃあ行きましょうお姉さま」


「あ、おい!」


 振り返ると、やられたという顔の王様。してやったり顔の皇帝。なるほど、そう言う作戦か・・・。




 庭に出ると、やっとユーリはスノウリリイの手を離した。


「手荒な真似をしてしまい、申し訳ありません」


「悪いこと考えるね。どっちが考えたの?」


「恥ずかしながら僕が」


 ふふんと自慢げに彼は鼻を鳴らした。スノウリリイは、警戒しているのか彼から距離を取った。


「おや、何故離れるんですかお姉さま」


「あなたたち親子は信用できません。私は部屋に帰ります」


「そんなこと言わないでください。私はただ貴女とお話ししたいだけなのです」


 小首をかしげて、上目遣いでスノウリリイを見ている。可愛い・・・、でもこの子腹黒だからな。スノウリリイがパーティーに参加しないから横入りで無理やり時間を作ったんだ。星の国に先を越されないように。


「わかりました。あなたのお父上が迎えに来るまでは一緒にいましょう」


 呆れた顔をしつつも、スノウリリイは了承した。しかし、彼が気に入った答えではないらしく不満げな顔をした。


「あの、そのしゃべり方止めてくれませんか」


「?」


「もっと神獣様に話すみたいにして欲しいです」


「・・・余り王女らしい話し方ではないので、嫌な気分になるかもしれませんよ」


「いいえ、なりません。今のような堅苦しい話し方の方が嫌です」


 きっぱりと言い切るユーリ。スノウリリイは少し思案した顔をしたが納得したのか彼の願いを受け入れた。


「わかった・・・。後悔してもしらないよ。君もそれなら普通に話してもいいよ」


「ああ、この喋り方は素です。僕が作ったのは先ほどの国王陛下の前でのあれぐらいですよ」


「何となく気付いてた」


 ため息をつくと、スノウリリイは近くのメイドに指示してた。どうやら小規模のお茶会をするようだ。




「ありがとうございます。お姉さま」


「うん。私もさっきはああ言ったけれど少しは話したい気持ちがあるから」


 お、そうなんだ。今日の彼女はこれでもいつもより積極的なんだよな。建国祭というイベントもあって、王女としての責任をより強く感じているのかもしれない。


「それは嬉しいです。お姉さまはもう星の国のどちらかに決めてしまったのかと心配でしたから」


「だから、こんなことを?別にあなたともお父様は時間を取ると思うけれど」


「父は心配性ですから。前回の訪問で確約できなかったのを気にしているのでしょう」


 何より僕があなたとお話ししたいのは本当ですからとこちらに微笑みかけた。


「でも一体ユーリ君は何をスノウと話したかったの?」


「そうでした。忘れていました、神獣様ありがとうございます。僕がお姉さまに聞きたかったのは―――もう一人の神の愛し子、アーサー・エルドレッド・フラム殿下についてです」




 アーサーの名前を聞いて思わずスノウリリイは固まってしまった。私もびっくりしている。彼の口からまさかその名前が出るとは。


「聞きたいって一体何を?」


 スノウリリイの返しにユーリは怪訝な表情を浮かべた。


「初めから何も知らないとは言わないのですね」


「え。うん、まあ・・・」


 雲行きが怪しくなったのを感じた。一体何を聞きたいんだ、彼は。


「スノウリリイは同じ愛し子としての質問かなって思ったんじゃないかな。ね、スノウリリイ」


「うん、そう」


 咄嗟の誤魔化しは彼には通じなかったようで、疑う表情は更に厳しいものに変わる。


「いえ、僕が聞きたかったのはそう言うことではなくて・・・。単刀直入に聞きましょう。お姉さま、アーサー皇子に会ったことがあるのではありませんか?」


 スノウリリイはすっと無表情に変わった。


「いいえ、ないわ」


「・・・そうですか」


 そう言ったきり、黙り込んだ。スノウリリイは様子を窺っている。アーサーと会ったことを知る者は本当に少ない。スノウリリイ、私、ルカ、そしてアーサー本人しか知らないことだ。そして、この国にアーサーがいたことは誰にも話してはいけないし、知られてもいけないことだ。どうして彼がまるでスノウリリイとアーサーが出会っている前提で話してくるの?


「きっと僕のことを信用していませんよね。なら、僕の秘密を一つお教えしましょう。それを聞いたら、きっとお姉さまも本当のことを話してくれると思いますから」


「そんなのわからないと思うけれど」


 ふっと微笑み、ユーリは顔に自信をにじませた。どことなく今日見て来た中で一番彼の父親に似ていると思った。


「いいえ、頭のいいあなたならばきっと納得します。僕は―――これから起きる未来のことを知っています」




「なんですって?」


 スノウリリイが思わず聞き返す。私は彼女より動揺していると思う。未来というのはそういう事?『ゲーム』の世界の結末。スノウリリイが必ず十七歳で亡くなるという未来。


 それを彼女に話されたら困る。彼女はその未来を知るには余りに幼過ぎる。いや、それを私は止めに来たのだからそもそも知る必要なんてない。私が口を開くのより先にスノウリリイが怒鳴った。


「ふざけないで。私が城から出たことのないような人間だからって騙されると思っているの?」


 彼女にしては珍しい大きな声だった。私とは違うことで彼女は気になったようだ。彼が本当に未来を知っているというなら、可能性は二択である。私と同じゲームを知る転生者か、特殊な魔力持ちの中でも時間関連の能力を持っているか。どちらかといえば、前者の方の可能性が高いだろう。それほどまで時間系能力は少ない。


「いいえ、何も嘘はついていません。僕だって結構必死なんですよ」 


 生死がかかっていますからと、軽い調子で返した。


「そうですね・・・信じてもらうのは難しいですよね・・・。あっ、未来を言い当てればいいですね。それでは一つ。明日、星の国から国王陛下が倒れたと連絡が来ます。これがもし当たったら、もう一度僕と話をしてくれませんか?」


 スノウリリイは呆れた顔で腕を組んだ。


「あり得ない。星の国の国王様ほど健康な方はいないじゃない」


「ええ、しかし急に倒れられます」


「・・・わかったわ。そこまで言うならばあなたともう一度話をしましょう」


「ありがとうございます」


 にっこりと笑うユーリ。勝利を確信しているようだ。私としては彼が転生者かどうかが一番気になるんだけど。その前に質問を彼にした。


「でも、どうしてアーサー皇子のことを?」


「ああ」


 私の質問に少し困った顔をしたが、彼はちゃんと回答してくれた。


「僕が三十年後、アーサー皇子に殺されるからです」

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